コニー・スプリンガー少年にとって、親衛隊幼年部第四期卒業に際して、自身の実力だけで手に入れた特別徽章の重みは、これまでになく誇らしいものだった。
親衛隊発足から早数年。同志コーバが協会長を務める『親衛隊互助協会』が発足して約三年になる850年年始のことである。
親衛隊で優秀な成績を修めれば、足の悪い母にも十分すぎる程の年金が受給されるとあれば、誇れる自分になる為にと挑んだ甲斐があったとコニー少年は三年間を振り返っていた。
そして卒業と同時に、親衛隊幼年部で優秀な成績を残したコニーにも、遂に凱旋の時が訪れたのだ。
◇
上官…キース・シャーディス国防軍予備役中将の取り計らいで、また同志コーバから優先配給が命じられたことにより、卒業生たちの故郷までの旅路には最速の馬車が用意されていた。
コニーとサシャは同じ南区の、それぞれ離れた村出身であったため、途中の駅舎まで暫く同じ道筋を辿ることとなった。
人で込み合う停留所で、コニーとサシャは一際目立つ立派な軍装…フェルトグラウ色の詰襟軍服…に大きな背嚢を背負って、互いとの少々速い別れを惜しみ合っていた。
「じゃあな!サシャ!また今度!次会う時はシーナ内地だな!第二師団の師団本部の場所、頭に入れておけよな!」
小柄なコニー少年も、三年間の訓練で鍛えられて精悍な顔つきになっているような…気がした。
「そういうコニーこそ、天才なんですからちゃんと時間通りに帰って来てくださいよ?」
同じくサシャも、故郷ダウパー村に錦を飾る準備を整えつつ、コニーがヘマを踏まないようにと言い含めた。
「任しとけって!お前も食い倒れには気を付けろよ!」
「それは保証できませんね…でも、同志コーバに誓って期日までには師団本部に向かいますよ!」
「それじゃあ、俺はこっちの馬車だから」
「えぇ、私も南区なので途中までは一緒です」
「あ、そうだったっけ?」
「今更ですか!?三年間も一緒だったのに!そうですよ!」
「ま、まぁ兎に角だな…お互いに故郷に帰るのは三年ぶりって訳で…故郷で俺を馬鹿にした連中を後悔させてやるぜ!」
「私も、食い意地張ってるだけとは言わせませんよ!この胸の徽章が眼に入らんがや!」
二人はその直ぐあとで、故郷へと向かう馬車に乗り込んだ。特別馬車の内装は黒一色と地味に統一されていたが、改良されたサスペンションとクッション材のお陰で、快適な旅を二人に提供した。
ウォールシーナ内地発の特別馬車を、サシャがウォールローゼ南区北西部で降りてからは、コニーは一人興奮を隠せぬ様子で馬車に揺られていた。
旅程三日ほどで、コニーは無事に故郷ラガコ村へと凱旋を果たした。
◇
ウォールローゼ南区のラガコ村は、今や旧ウォールマリアの難民を受け入れて小規模な町ほどの規模に発展していた。
たったの三年間。しかし、長い三年間だった。
コニーはすっかり都会色に染め替えられた故郷を、眩しい様な寂しい様な気持ちで一通り眺めてから、三年間、変わらぬ住所から月に一度は手紙を受け取ってきたことに想いを馳せつつ、母と妹サニーと弟マーティンの待つ生家へと足を運んだ。
「おかえりなさい、コニー!」
「ただいま……って、アレ!?お袋が立ってる!?」
コニーを出迎えたのは、元気な妹でも弟でもなく、足の悪かった母親だった。
少しの支障もない様子で、駆け寄って来る母親を、今にも崩れ落ちやしないかと戦々恐々として、コニーは抱き留めた。
「あれ、お袋って足悪くなかったっけ?俺の記憶違いかな?」
コニーは眼をシパシパさせると、母親を抱きしめながらそう言った。
コニーの母はといえば、息子が立派になって帰ってきたことが感無量らしく、涙を浮かべてその坊主頭に頬擦りを繰り返した。
「あ!お帰りなさい!コニーお兄ちゃん!」
「兄貴帰ってきたんだ!お帰り!三年間もお疲れ様!」
コニーが自分の記憶を信頼できないでいると、家の奥から妹のサニーと弟のマーティンが走り寄ってきて、母とコニーに抱き着いた。
スプリンガー家勢揃いの中で、コニーは母に直接聞いた。
「な、なぁお袋、三年の間に何があったってんだよ!」
喜色を隠せない様子で、コニーは母を労わるように支えつつ、そう聞いた。
つい先ほどまで嬉しくて、安心して泣いていたコニーの母は、ようやく笑みを零した。それからコニーの頬を優しく抓ると、「全く仕方のない子」と言うように坊主頭を撫でながら、三年間で一番変わったことを話し始めた。
「もう、コニー貴方って子は…手紙にも書いたはずなんだけれど…」
「やっぱり!私は絶対聞くと思ってた!」
「僕もサニーと一緒!」
「え?えぇ!?どういうことぉ!?」
妹のサニーは案の定といった具合に頷いて、弟のマーティンもおかしくって腹を抱えた。コニーはこういう時の自分の勘の鈍さに驚きつつ、微笑ましい表情の母に話を聞いた。
母はコニーの驚いた様子を否定することもなく、最初のきっかけから話し始めた。
「貴方がシーナ内地に行って半年くらい経った頃かしら、中央大学で教鞭を取られてるグリシャ教授からお手紙があったのよ」
「え、あ、なんか記憶が戻って来たかも?そんなこと書いてたっけか」
「もうずっと前だから忘れていてもおかしくないわ…それでね、グリシャ先生の御子息が貴方の同期だったから、息子から聞いて知った私の足を治せるかもしれないから、シーナ内地の中央大学病院にお出で下さいって、招待状を頂いたのよ!」
「え、あ、ふーん…あれ?なんか、俺、エレンに話した記憶あるな…お礼も言った気がする…けど、えぇッ!?てか、お袋いつの間にシーナ内地に来てたんだよ!」
「だから手紙を送ったじゃない!貴方、自分で返事を寄越したことも忘れてるの!?」
コニーはいよいよ、故郷で自分を馬鹿にした連中を見返してやること以前に、自分の根っこの部分が変わっていないことを自覚して苦笑を浮かべた。
「へへ、ま、まあいいじゃんか!それより…要はお袋の足は本当に治ったってことか?手術、したんだろ?金は?大丈夫だったのかよ?」
コニーが聞くと、母は自身の足を摩りながら答えた。
「えぇ…麻酔っていうのかしら、暫くは痛かったんだけど、お薬も頂いて今はすっかり好くなったのよ?お金のことは…貴方のお陰よ、コニー!」
「本当によくなったんだよ!私とマーティンと一緒に、かけっこして遊べるくらいにね!」
「そうそう!」
「俺のお陰?…あぁッ!もしかして、互助会からの補助金ってやつか!」
「そうよ、貴方のお陰で、手術の代金は心配なかったのよ…本当に、有難いことだわコニー…私は貴方の母親でいられることが何より誇らしいわ」
親衛隊互助協会は親衛隊に在籍し、書記長兼総統であるヨシフ・ヴェトーに忠誠を誓う全ての人民とその家族を対象に、高齢者には毎年一定額の年金を、身体的不自由者にはその重症度に応じて手術代又は薬剤の代金を支給することで、その生活の安定と安全を保証していた。
コニーは今更ながら、三年前の自身の選択が間違いのないものだったことを実感し、その選択の末に得られた大きすぎる対価に感動すら覚えていた。
「俺、帰ってきたんだな…へへ、なぁ、生活も大分好いのか?サニーとマーティンも、しっかり飯食えてるのか?」
「えぇ、貴方のお陰でね」
「今は週に一回はお肉が出るんだよ!」
「卵は週に三回も!」
母はコニーの肩を労うように抱いた。サニーとマーティンはお腹いっぱいご飯を食べられていることを示すように、背伸びしてコニーの坊主頭を撫でて見せた。
「そっか、そっか…あぁ、よかった…よかったよ、本当に…」
じゃりじゃりとした感触を妹と弟に堪能されながら、コニーは少し泣きそうだった。
自分が三年間で得られた最大のものは、何だったろう?
そう考えた時、コニーには今、目の前で花開いた家族の笑顔であると迷いなく答えることだろう。
「なぁ、お袋、今日の夕飯は何かな?俺、実はずっとお袋の手料理を食べたくってさ…向こうだと、しょっちゅう肉がでるんだけど、でも、やっぱりお袋の手料理が食いたくなってきてさ…」
「もうずっと、毎日のように待っていたわ。貴方が帰って来てくれたことが、私にとっては何よりの勲章ね」
「へへ、凄いだろ?なんて言ったって俺、天才だからさ!」
コニーの声は震えていたが、同様に母の声も震えていた。
変わりゆく世界の波に流されながらも、変わらない家族の温もりに触れられた今この瞬間の為に、自分は親衛隊に入ったのかもしれない…と、コニーは漠然とそう思った。
◇
コニーが家族との再会で、そのジャリ頭を撫でりこ撫でりこされている頃、彼の相方であり戦友であるサシャ・ブラウスもまた、故郷に見事な錦を飾っていた。
村は随分と大きくなっていたが、中でも一番に立派な屋敷が、サシャの改築された新しい実家だった。
伝統を尊重しつつも、新しい時代の波に乗る事が出来た…父アルトゥルの手腕の賜物であり、また何よりも、彼女が愛してやまない同志コーバの推進する産業・農業改革と、その一端を担う牧場経営の集産化のお陰だった。
ダウパー村随一の富裕な一族に発展を遂げたブラウス家では、サシャの凱旋を受けて、これまでにない豪勢なパーティーが催された。村中を巻き込んでの凱旋パーティーには、コーバが最初に着手し、以来大きな成功をおさめ続けている『にわとり大増産』命令によって齎された動物由来の食材が存分に振舞われた。これでもかと鶏肉と卵と、それから一昔前まで希少価値が頗る高かった砂糖を大量に使った、料理の数々が大きなテーブルを埋め尽くし、立食パーティーの場を大いに盛り立てた。
「あぁ、幸せぇぇ…美味しい物ばっかりだや…ふふ、ふふふ…どうしよう、私でも食べきれないかも!」
「食べ切れると言われたら言われたで困りそうだが…先ずは健康そうで何より。お帰りなさい、サシャ!」
サシャは父のアルトゥルからの歓迎に満面の笑みを零した。
丸々と鳥を揚げた豪快な唐揚げの足の部分を、両手に剣の様に持って頬張って、サシャは幸せそうだった。
「もごごっご!!もがが!(み、水を!?)」
「もうこの子ったら…はい、どうぞ!砂糖を加えて、果汁を搾った炭酸水だけど…どうかしら?」
「んぐんぐんぐ…ぷは~ッ!美味しい!?なんですかこれはッ!?」
余りにも口に頬張る余り、案の定喉を詰まらせたサシャ。彼女の慌てように、母のリサは待っていたかのように、冷やしておいたガラス製の水瓶から注いだ飲み物を手渡した。
手渡されるや、この世の全ての美食を吸い込む勢いでジョッキになみなみと注がれた、清涼で甘い飲料を飲み干したサシャは、お代わりを求めて母に詰め寄る勢いだった。
「あぁ、本当に、帰って来てよかったぁ~!」
「はははッ!この子は、もう全く変わっとらんね!」
「でも、貴女のお陰で生活はすっかり上向きだし…今飲んだ物だって、サシャの名前を新聞で見かけるようになってから手に入るようになったものなのよ?」
「えぇッ!?私、新聞に載ってたんですか!?」
「あら、知らなかったの?…まぁ、私たちも、同志コーバから頂いたお手紙をきっかけで知ったのだけれど…」
母のリサが『同志コーバ』の言葉を発するや否や、サシャは文字通り目の色を変えた。
「お母さん!!その話、詳しく!!」
サシャは母の肩を掴んで真剣な眼差し…ついさっき迄、食い倒れ一歩手前だったとは思えない鋭利さ…で、同志コーバと自分の名前が新聞に載ったこととの間に、どんな関係性があるのか問い質した。
◇
母リサと父アルトゥルの話をまとめれば、こうである。
ある日突然一通の手紙が届けられ、開いてみれば差出人は同志コーバから、内容は「娘さんが新聞に載りますから。是非とも褒めてやって下さい。あの子は本当に頑張っていますよ」と言うものだった。
同封されていた令状により、親衛隊互助協会を飛び越えて、同志コーバの個人的厚意によって、半永久的にシーナ内地から娘の活躍が載せられた新聞が毎週届く様になったのだという。
以来、ブラウス家は新聞を高い送料を払ってシーナ内地から取り寄せる必要もなくなり、家計的にも大助かりだという。
嬉しそうに、本当に嬉しそうにサシャの活躍を語る両親を前に、サシャはいよいよ、感動と感激と歓喜とで眼が回る思いだった。
「こだなこと…本当にあって好いんだべか…同志コーバ…私は貴方に…」
『私は貴方から受け取るばかりで、何も返せていない』と、サシャは正直にそう思った。
食欲は失せてしまった。食べることと同じくらいに、否、それ以上に重大なことがサシャの中で生まれていたのだ。新たな優先順位の絶対的な頂点に、同志コーバの名前が君臨していた。
あの日、初めて同志コーバと出会い、夕飯を共にした日を思い出すたびに、サシャの胸は熱くなった。火砲術の、実にニッチな知識の披露会と化した夕飯時、どんぶり勘定の弾道計算で、しかし、誰よりも命中率の高い自分を心の底から褒め、讃えてくれた同志コーバの言葉、その一つ一つが今やサシャを奮い立たせた。
『同志サシャ、君は才能の塊だ。次に会う時は、その時は是非とも君にプレゼントしたいものがあるんだ』
『同志サシャ、もしも叶うなら、一度君の生まれ育った故郷に行ってみたいね…もし、その機会があったらば、その時は一緒に狩をしよう』
『同志サシャ、今度君から手紙を貰った時、その時こそ私から君に会いに行こう。君の父君と母君には改めて感謝を伝えたいのだよ。この世に、君を産み落とし、こうして私の下へと送り出してくれたことを。心の底からね!』
サシャは同志コーバと交わした言葉を、一言一句忘れなかった。否、忘れられよう筈もなかった。
それらの一つ一つの言葉に勇気づけられて、サシャは再びペンを執り、シーナ内地の国会議事堂地下壕…総統執務室…へ向けて手紙を認めた。
手紙を書きながら、一言一言言葉を、その莫大な熱量を文字に変換しながら、サシャは自然と涙を流していた。
「同志コーバ、是非、私の家へいらっしゃって下さい。貴方に、私の手で勝ち得た獲物を御馳走したいのです。私の同志コーバ、深愛なる我が書記長、親愛なる我が総統…」
サシャは言葉を零しながら、徹夜で考えに考え抜いた手紙を投函した。初めてファンレターを書いた時と同じように。ほんの少しの恐怖と、それ以上の感激を携えて。
◇
「同志サシャ、そして同志アルトゥルと同志リサ、こうしてお招きいただいたことを心より感謝します。それから…これは、同志サシャに向けての、私からの個人的な贈り物なんだが…受け取って貰えると嬉しいよ」
◇
果たして、同志コーバはサシャの村に訪れた。付近で最も大きい都市ではなく、ダウパー村のサシャの生家に…最低限の近衛だけを伴い、訪れたのである。
四頭立ての漆黒の巨大な馬車から、先導するようにリヴァイ・アッカーマン親衛隊上級指導者とミカサ・アッカーマン親衛隊上級指導者が降り立ち、その人の、同志コーバの手を取りサシャたちの前に、彼は姿を現したのである。
そして、上記の殺し文句を優しくなめらかな絹のように甘い声で囁くと、子供の背丈ほどある…細長い上質な革張りの箱を、サシャ・ブラウス個人に宛てて、手渡したのである。
「同志コーバ…これは…」
「気にしないで、さぁ、ここで開けてごらん」
「あぁ、そんな…これは、銃ですか?」
「あぁ、私とお揃いの、狙撃銃さ…君には、是非とも私専属の
磨き抜かれた技術の粋を結集して、完成した歩兵用の最新式の小銃が、サシャ・ブラウスの手に渡った。彼女が銃を、それはもう、貴石を扱うような仕草で胸に抱くのを見守りながら、同志コーバは、サシャの手に渡った物と全く同じ…サシャの銃には銃床に彼女の名前が彫られていたが…銃をミカサから受けとった。そしてその場でコートを脱ぎ、狩猟用の、機動猟兵の一兵士たちが着る物と全く同じ格好になって、サシャを猟へと誘ったのだ。
「同志コーバ!我が総統!喜んで!喜んで!是非、是非ご一緒に!今日こそは、私の手で獲った獲物を貴方に、ご賞味頂きたい!」
「こちらこそ、喜んで!さぁ、日が暮れる前に出てしまおう…リヴァイ、ミカサ、君たちはここで待っていて欲しい」
サシャが、本能的に銃を操り、説明を聞くまでもなく弾丸を装填している横で、同じように胸元で交差する弾帯から引き抜いた弾丸を銃に込めながら、同志コーバは同志リヴァイと同志ミカサに向けて、そう懇願した。
懇願…だが、それは実質的に命令だった。ほぼ24時間、常に、共に在ることが当たり前になっていた同志リヴァイと同志ミカサにとって、その命令には本来承服しかねるほどの苦痛が伴った。
だが、二人に同志コーバからの命令を拒む…抗命権…など、その概念すら存在しなかった。
「…くれぐれも気を付けて行ってくるんだな、コーバ」
「同志リヴァイに同意です…どうか、怪我にだけはお気をつけて、私のヨシフ」
同志リヴァイと同志ミカサは、そう言って渋々、同志コーバと同志サシャが二人きりになることを認めた。
「ありがとう、二人とも。さぁ、夜になる前には帰って来るから、それまでは此処で、頼んだよ?同志サシャ、狩場に案内してくれるかね?」
「はい!今すぐにでもご案内します!」
同志コーバと二人きりになるということは、壁内であれ、壁外であれ…如何なる場合であれ、どんな名誉に服する以上に希少な体験である。その点に疑いなどない。
であればこそ、サシャの興奮と高揚は如何ほどであっただろうか。
二人きりになるということは…承認であり、信頼であり、尊敬であり…とにかく、深い深い親愛…取りも直さずそこに愛がなければ、体験し得ないことなのだと…そのようにサシャは理解していた。
◇
弾丸は心臓を正確無比に貫き、骨と骨の間を縫って、軟組織を貫通した。肉には破片一つ不純物を遺すことなく、サシャの弾丸は獲物を屠った。
「思った通りだ…サシャ、君には天性の勘がある!才能がある!素晴らしい!素晴らしいよサシャ!」
その日、サシャ・ブラウスは鹿を一頭仕留めた。同志コーバの為にと、生まれて初めて触れた銃で、自身に出来得る限りの精度を求めて放った一発の弾丸により、その命を奪った獲物だった。
鹿の死体を軽々担いで見せたサシャ。早く、捌いて肉に替えなければ、とサシャは帰り路を早歩きで帰った。
家に帰ると、サシャは新鮮な鹿肉を、母のリサに託して…美味しい手料理へと変えて貰い、同志コーバに振舞った。
「同志サシャ、美味しいよ。とても…どれもこれも、君のお陰だ…やはり、俺の眼に狂いはなかった。君には狙撃の才能がある…狙撃師団を編成するためにも、君には私専属の
鹿肉に舌鼓を打ちながら、同志コーバはサシャの手を取り、頭を下げた。同志コーバの手の温もりに感動しながら、サシャはわなわなと、パニックと感動で震えながら答えた。
「勿論!勿論です!貴方の為なら…私に出来ることなら何でも成し遂げて見せます!今日、鹿を仕留めたように!私は私の神に懸けて誓います!貴方の敵を撃つと!ありとあらゆる障害を全て、弾丸の餌食にして見せると!貴方のことを、どんな脅威からも守り通すと!貴方に、貴方に全てを捧げて尽くすと!私の書記長!我が総統!同志コーバ!」
サシャは泣いていた。少数民族として、土着の狩猟民族として、誰に言われるでもなく鍛えられた自分の能力が、今や自身の生きる世界の頂点から必要とされているという事実を理解すると共に、涙を流さずにはいられなかった。
同志コーバから個人的に認められる…それはそれ以上に存在し得ない手法だった。究極の自己承認欲求を満たす方法に違いなかった。
だが、単なる個人的な都合を越えて…サシャは同志コーバを、ヨシフ・ヴェトーと言う一人の人間の為に、生まれて初めてこの身の全てを…心臓を捧げたいと断言できたのだ。
サシャの熱意を、彼女の家族は素直に認め、応援するより他なかった。そこには純粋な、指導者への信頼と忠誠心があると共に、娘の成長と情熱を後押しする気持ちも含まれた。
競合相手が増えたことに、リヴァイとミカサが小さく舌打ちしたことを、同志コーバを除いて知る者はいない。
面白かったら『ypaaaaaaaaaaaa!!!!!』又は『Sieg Heil!!!』を( `・∀・´)ノヨロシクお願いします。