進撃の赤い巨人   作:ヤン・デ・レェ

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Feuer!!!

 

 

 

 

 

『ウオォォォォォ!?!?』

 

マーレより派遣された、エルディア人戦士隊戦士長であるジーク・イェーガーにとって、今日と言う日は勝利の栄光で飾られるべき日だった。五年間の不気味な沈黙を破った壁内から、突如として繰り出された遠征軍をいち早く察知した彼は、壁内の原始人共を殲滅し、奪われたままだった巨人の力を奪還する足掛かりとする計画だったのだ。

 

壁内の発展度合いは未だ不明だったが、完全に未開とはいかなくとも壁外世界の発展に比べれば惨憺たるものであろうと、ジークは疑わなかった。

 

彼にその思考を強いた遠因に、五年前から使うことが出来なくなってしまった『叫び』の能力について、マーレの軍・政府から翻意の意志ありや?との尋問を受け、懲罰的にパラディ島への派遣が早期に決まったという事実も関係していよう。

 

獣の巨人を恩師トム・クサヴァーから継承したジークにとって、彼の忠誠心と有能性を上層部に示す双璧の一角が崩れたのである。『叫び』という戦略兵器を失った彼にとって、その喪失感は恐怖を煽り、またパラディ島とエルディア人への懐疑を強めさせた。

 

同じ戦士隊に所属する車力の巨人の継承者ピーク・フィンガーと共に計画し、彼女が齎した情報に基づき臨んだ作戦は、シガンシナ区での待ち伏せだった。

 

当初、その作戦は上手く行ったかに見えた。敵の装備は見るからに貧弱であり、やたらと早い騎馬に乗っていること以外に不安要素はなかった。大砲の類などあるはずもなく、ジークはほくそ笑み、得意の投石によって門付近を調査する一団に向けて石礫を雨あられと投射したのだ。

 

抜群の操作性で、かつ奇襲を成功させたことでジークの投石は一瞬にして、門付近の敵兵を一網打尽にした。血肉がはじけ飛ぶ様に、ジークは爽快と達成感を覚えたものだ。

 

第二射、第三射と、周囲に散らばる瓦礫を手当たり次第にした。石礫が地面を叩く轟音が次々に弾着しては鳴り響き、目視できるだけでも十分な被害を与えたとジークは感じていた。

 

ピークには、彼女の任務がある。だが、彼女の任務は必要ないかもしれない…。そう、ジークは思い始めていた。

 

情報源となる捕虜確保の為に、斥候兼伏兵として送り込んだピークとは昨晩もあっている。既に彼女から受け取った情報をもとに、こうして待ち伏せに臨んだわけであるから。

 

だから、ジークは疑わなかったのだ。自分が石礫を打ち込んだのが、機動猟兵のみで構成されたソヴィエト=ミットラント軍の尖兵に過ぎず、彼らのはるか後方から、最新鋭の兵器を携えた装甲・火砲部隊が続々と壁の向こうに集結していたことなど。ジークは想像だにしなかったのである。

 

彼の予想では、巨人の壁で牽制しつつ、じりじりと馬と言う足を奪い、あらかたを殲滅後、捕虜まで獲得するつもりだった。腰に付けたあの不思議な装置も気になることだし…と、ジークは予想以上に実りある結果が待ち受けていることに喜色満面だった。

 

ジークが、彼が違和感に気が付いたのは昼前になってからだ。

 

どうにもおかしい。いつまでたっても敵は攻めてこないどころか、いつの間にか増えてきている気がした。

 

ピークの報告では、気球らしきものもあったと言うが…気球などマーレでは珍しいものでもない。所詮はその程度かと、ジークは高をくくった。

 

そして、日が傾き始める頃に、ようやく事態の異常性に気が付き始めたのである。

 

おかしい、絶対にオカシイ。静かすぎる。余りにも静かすぎる。それに、向こうに一瞬気球らしきものが見えたぞ?どういうことだ?数が違うじゃないか、と。

 

何か想定外のことが起こっているのではないか。それこそ敵兵の数が違うという明らかな情報違いも確認していたことだし、もしかするともっと大きな異常事態が…。

 

ジークの勘は正しかった。だが、正確に把握することもできぬまま、その時は訪れたのである。

 

雷鳴が轟くような轟音と共に、壁の向こうの彼方から黒い塊が物凄い速さで迫ってきたのだ。

 

放物線を描いて、見事に壁を乗り越えたそれは、勢いをそのままに地面めがけて吶喊。石畳を抉り、地面の基礎に食い込んだ瞬間、大爆発を起こした。

 

『えぇ…?』と、ジークの口から困惑が漏れた。だが、一発では終わらない。終わらなかった。

 

次々に、ほぼ一定の間隔をあけて数発ずつ、次には十数発ずつと、徐々に砲門の数を増して、次々に特大の榴弾が撃ち込まれてきたのである。

 

『ウオォォォォォ!?!?』

 

ジークの雄叫びが響いた。気が付けば声を上げていた。最早悲鳴だった。

 

つい先ほど、自分がやったのとは比べ物にならない量と質の大爆撃が、ジーク目の前の巨人の壁に次々に炸裂した。着弾と同時に炸裂すれば、巨人の体が容易く吹き飛び、うなじごと消滅するか、回復に時間のかかる損傷を負った。

 

次々に陥落していく巨人の姿に、流石のジークも理解せざるをえなかった。自分の慢心と、明らかな敵戦力の読み違いに。見れば明らかなジークの射程外から、放物線を描いて砲弾が投射されているのが分かった。しかも高性能火薬が詰められているのか、爆発の勢いが恐ろしい。通りも家屋も軒並み更地にする勢いである。どうして自分に当たっていないのか不思議なくらい、砲撃の精度も高かった。

 

じり貧だ。気が付けばそこに陥っていた。だが、絶望する人間ジークとは裏腹に、軍人ジークの脳内では如何にこの情報を持ち帰るのかが課題となっていた。そのためにもこの場を脱しなければ。

 

ジークが逃走の為に、じりじりと門に後退していくのを、機を見計らったようにシガンシナ区とウォールマリア内地を繋ぐ、破壊された門の向こうから勢いよく車両が突っ込んできた。

 

馬車ですらないことにあっけに取られていたのも束の間、ハリネズミのような外見のそれは、ジークの前方数百メートルの地点で止まった。

 

ジークが思わず物珍しさから、その車に気を取られたのが運の尽きだった。

 

ズババババババッ!!!と、ガスの爆発する音と共に、細長い…巨人の体からすれば小さな細長い槍が無数に射出された。

 

咄嗟にうなじと体をその長い手足で庇ったジークだったが、彼の受難は終わらない。むしろここからだった。文字通りロケットの勢いでジークの体に突き立った槍…雷槍こと対巨人用貫徹弾…は、彼の両手両足、そして顔面に深々と身を沈めると、遅延雷管のお陰で、じっくりと時間を空けて…被弾したジークに希望と言う名の油断を与え、その瞬間に炸裂した。小さな太陽が無数に全身に突き立つような熱と共に、これまでになく強力な破壊がジークの全身に浴びせられた。

 

ついさっきまで無傷だったジークは、その巨体を丸焦げにされた上に、巨人体の両手両足を吹き飛ばされ、顔面は脆くも崩れ去っていた。激しい脳震盪と、全身に焼け付く痛みによってジークは意識を取り戻した。

 

両手両足の無い状態で、うなじをさらけ出した状態のジークにもはや成す術などなく。アンカーが射出され、人体が空を駆る音が近づいてきていた。

 

カチューシャを真正面から食らったことで、ジークは完全に戦闘能力を失い、間もなく意識を消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジークがカチューシャに焼かれた頃、仮設陣地内では歓声が沸き起こっていた。

 

「凄い威力だ!最早巨人は我々の敵ではない!!」

 

「火砲も凄いぞ!!あの巨人どもが雑草の様になぎ倒される様を見たか!!」

 

新兵器投入によって、見方によってはあっけなく終わった決戦。しかし、その圧倒的勝利に人類の敗北の連続を見届けてきた将兵たちは沸きに沸いた。

 

肩を組んで歌いだす者たちも現れた中で、いつの間にか孤立した場所で戦況を見守っていたコーバの姿があった。

 

険しい表情のまま、彼は何かを待っているようだった。

 

興奮に沸き立つ壁の向こう、つまりは安全圏で、突如として歓声に悲鳴が混じった。

 

次第に小さくなる歓声に比例して、悲鳴が大きくなっていく。近づいてくる。誰もがそう思った。手に銃を持つ兵士たちも、突然の事態に動揺が隠せない状況下で、コーバはズンズンと前へ前へ、悲鳴の渦中へと足を進めて言った。

 

「危ない!」

 

仮設指揮所のテントからほど近い所で、随行していたミカサの目の前でコーバの姿が突然消えた。

 

「ヨシフ!!」

 

ミカサがはっとしたように視線を上に向けると、馬面で四つん這いの巨人がヨシフを口にくわえていた。

 

ミカサのアンカーが撃ち込まれるより早く、くぐもった声でヨシフが叫んだ。

 

「心配するな!!!すぐ戻る!!」

 

途端に動かなくなる体。ミカサが焦燥を顔に張り付けたままなのを申し訳なさそうに見つめたまま、ヨシフの姿は完全に巨人の口の中に隠れてしまった。

 

「うわぁああああ!?一人喰われたぞおおお!!」

 

悲鳴が大きくなった。兵士たちが集中砲火を浴びせるが、個人携帯火器では歯が立たなかった。

 

ヨシフを口に入れた巨人は、素早く身を翻すと、カエルの様に跳び刎ねながら、脱兎のごとく遁走した。背中が遠ざかっていくのを、黙って見つめる事しか出来なかった。

 

「気でも狂ったのか!?」

 

突然現れた巨人に呑み込まれて、一名が行方不明になったと、ジークを拘束して戻ってから告げられたリヴァイは、ミカサから事の顛末を聞かされて珍しく声を荒げた。

 

だが、ミカサはただ一言。

 

「ヨシフには考えがある」とだけ呟いて、自身は消沈を隠す素振りも見せずに指揮所に引き籠った。

 

 

 

 

 




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