進撃の赤い巨人   作:ヤン・デ・レェ

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楓流様 誤字報告ありがとうございます。

面白かったら『ypaaaaaaaaaaaa!!!!!』又は『Sieg Heil!!!』を( `・∀・´)ノヨロシクお願いします。


帰路

 

 

 

 

 

三日目も難なく乗り越えたピークとコーバの元に、騎乗した人影がゆっくりと近づいて来たのは四日目の早朝のこと。休みなく走らせてきたのであろう、馬は涎を垂らしていた。泡を吹く寸前のような馬に乗って駆け付けたのは、案の定ミカサだった。続々と彼女に続いて人の波が押し寄せる。明らかに少数精鋭ではなかった。百人を超えた辺りで、コーバは数えるのを止めた。

 

「ヨシフ!!無事でよかったッ!」

 

「ミカサ!大丈夫だ!この通りピンピンしてる」

 

ミカサは颯爽と馬を飛び降りると、ヨシフの胸めがけて飛び込んだ。正面から二度と離さないと、強く抱きしめ合う二人に、ピークは少し気不味そうに声を掛けた。

 

「あ、あの~…コーバ、もしかして、コーバって結構偉い人だったりする…?」

 

今更気付いたのか…という表情のミカサに対して、コーバはきょとんとした表情を、あぁそういえば…と何かを思い出したような顔に変えた。

 

「うん。俺、偉い。多分…」

 

「えぇ…なんだよ、その自信なさげなのは…」

 

「ヨシフ…それで、この人が?」

 

「うん。所謂、中の人だ」

 

ピークからの質問に自信なさげに回答したコーバ。彼とピークの緊張感のないやり取りを他所に、ミカサはピークが巨人化能力者だと理解すると、即座に腰からブレードを抜き放った。

 

…が、コーバの手でそれは止められた。

 

「ヨシフ!危ないわ!」

 

「危ないけど、危なくないんだよ…な?ピーク?」

 

「えぇ…なんて答えればいいのさ…」

 

捕虜の分際でどうもこうもないと思っていたら、自分の処遇を自分で決めろと言われて困惑するピーク。

 

「ピークも腹減ったろ?一応捕虜になっとけ。拷問とかは無いし。飯も腹いっぱい食えるぞ?」

 

「あ、じゃぁ、それで…」

 

空腹にあっさり負けたピークに対して、ミカサは眼を細めたが、ピークへの鋭い視線を遮るようにコーバがミカサの頬に手を当てて微笑んだ。

 

「な?ミカサ、大丈夫だろ?」

 

「…貴方がそれでいいなら…私もそれに従う」

 

「うん。ありがとう…さて、じゃあ今晩はここで野営をして、明日になったら壁内目指して戻ろうか」

 

「あの…」

 

「ん…?なんだ?ピーク」

 

おずおずとコーバに話しかけたのはピークだった。何というか、自分が言うべきことではないのだが…という、哀愁すら感じる佇まいだった。

 

「あのさぁ、私たちのことも、壁内に入れちゃって好いの?」

 

「好い。別に。もう巨人の時代は終わった。君も身をもって理解したんじゃないか?」

 

「……そうだけど」

 

論理が強すぎて、何を言っても勝てる気がしなかったピークだが、それでも思うところが尽きないのが現実なのだろう。

 

乗り気でないピークに、コーバは堂々と、彼女の両肩に手を遣り言った。

 

「それに、少し話してみて君とはうまくやれそうだと思った。なんとなく、だけど…一人でマーレに戻って針の筵よりずっとマシだろ?壁内観光もできるしな」

 

「…もういいや、コーバの仰せのままに」

 

真剣な視線から逃れるように、ピークはコーバの手を弱弱しく払った。

 

「よろしい…ミカサ、早速で悪いけど食事の準備できるか?皆、朝ご飯はまだだろう?」

 

「直ぐに。あと、獣の巨人の巨人化能力者は拘束後、壁内に向けて移送しました。移送担当は装甲教導師団が担いましたので、彼らは先んじて壁内に向けて帰還中です」

 

「あっちのほうは、壁内に戻ってからだな…詳しい話は食べながらしよう。少し今後の展望が開けてきたからね」

 

「ジーク戦士長生きてたんだ…」

 

ピークがぼそりと零した言葉に、コーバは思わず苦笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日ぶりに温かい食事にありついたピークとコーバはご機嫌だった。ご機嫌なコーバを見れて、ミカサもご機嫌だった。

 

乾燥肉や乾燥野菜を戻して、香辛料で味付けたごちゃまぜシチューだったが、温かいし味も濃いので、三日間粗食かつ半断食状態だった二人にとっては御馳走だった。

 

水も運んできてくれたので、飲み放題である。工夫しつつ干からびるのを回避していた二人は、感動さえ覚えた。

 

「やはりテクノロジーだな!」

 

「同感…」

 

コーバとピークは明らかに監視と捕虜の関係性ではなかったが、居合わせた面々は何時ものことかと特に驚きもしなかった。

 

焚火を囲んで、物資の入っていた木箱に腰かけてシチューを食す二人の元に、ミカサともう一人の人影が近づいて来た。

 

「ヨシフ、先の決戦で大戦果を挙げた砲兵のサシャ・ブラウスをここに」

 

「おぉ!同志サシャじゃないか!久しぶりだね」

 

現れたのは木の椀をもったミカサとサシャだった。サシャはついさっきまで海で遊んでいたのか、上半身びしょ濡れで、裸足で、足の裾を捲っていた。

 

「さぁ、座って座って」とコーバが促すと、ミカサは平然と、サシャはぎこちなく木の箱の上に腰を下ろした。

 

「お、お久しぶりです!同志コーバ!」

 

「久しぶり、ミカサから聞いてるよ。獣の巨人が展開していた巨人の壁を一網打尽にしたんだって?」

 

「は、はい!」

 

「是非、その話を聞かせて欲しいなと思って、呼んだんだ」

 

「好いんでしょうか?…その…」

 

サシャの視線がピークとコーバを行ったり来たりした。

 

コーバはにっこりと笑って言った。

 

「問題ないよ。寧ろ、折角だから知ってもらった方が好いくらいさ」

 

「でしたら!恐縮ながら、話させていただきます!まず、私たちと敵陣地との距離は直線距離で一キロメートル無いほどでして、なので低く直線に近い弾道で撃つ何時もの手法では、壁に直撃してしまうことになります。ですので、何とか壁を越えて砲弾を届かせるためにも、一番大きい口径の砲と榴弾で、かつ大きな放物線を描いて投射する手法を選びました。当初はコニーも他の皆も、練習でやったことがないから無理だ無理だと五月蠅かったのですが、そこは私が黙らせました。いいから撃てと。結果は…最初こそ外しましたが、高性能火砲本来の長射程を活かした精密砲撃を達成できました!」

 

山なりの弾道を手振りで再現しつつ、サシャは鼻息荒く語った。興奮で少し手が震えていた。

 

コーバはサシャの話をうむうむ頷きながら実に興味深そうに聞いていて、ミカサは耳で聴きながら淡々と口に匙を運んでいた。

 

対してピークは全く違う戦術構想に目が回る思いだった。火砲はマーレにもあるが、使い方は巨人の補助兵器扱いで成熟はおろか、戦術など皆無と言った状態である。海軍にはかろうじて一日の長があろうが、基本は陸戦である。陸戦において火砲が決定打になり得ることは、ジークが一方的に撃滅されたことからも明白であり、それに加えて、向こうには見たこともない馬車よりも頑丈で速い車両が何十両と存在するのだ。

 

このまま技術力の差が順調に開いて行けば、遠くない未来マーレはパラディ島戦略を根本から見直さなければならないのみならず、パラディ島の資源を当てにした戦争計画、覇権構想そのものを根本から見直さなければならないだろう…そのことは、ピークの眼から見ても明らかなコトであった。

 

ここにきて、ピークはコーバが自分に打ち明けた諸々の情報が、現実性を帯びていくのを理解せざるを得なかった。

 

エルディア人に残酷な境遇を押し付けてきた世界が、その概念そのものが崩れていく音がした。目から鱗とはこのことだ。

 

もしかしたら、もしかするかもしれない…。

 

ピークは、密かに淡い希望を抱いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミカサの馬に彼女の後ろから抱き着く形で乗ったコーバと、サシャの後ろから抱き着く形で乗ったピークは、馬に揺られながら浜辺を後にした。

 

昨日は海の存在にはしゃいでいた兵士たちも、今日はどこかしんみりとした雰囲気だった。

 

いずれまた、遠くない未来に戻って来るはずだから、今は暫しの別れである。

 

何時か、ここにも港が開かれて、無数の船が行き交う光景が見れるのだろうか…。

 

レべリオ自治区の喧騒から離れてもうどれだけ経つのか、とピークは柄にもなく郷愁の念を募らせた。

 

行きの騒々しさとは打って変わって、壁内迄の道のりはどこまでもゆっくりだった。

 

カッポカッポと馬蹄が鳴るのに耳を澄ませて、手つかずの壁外世界から、放棄され朽ち果てたウォールマリア内地を抜けて、十数日ほどかけてトロスト区に帰還した。

 

帰還するや否や、新聞社に囲まれて取材を受けては足が止まり、歓迎の贈り物を受け取っては足が止まり、帰ってきた兵士の家族が押し寄せては足が止まった。

 

「あぁ、彼らは戦争に行っていたのか…」

 

サシャの後ろで、ピークはぼんやりとそんなことを呟いた。

 

戦っていたのは自分たち巨人とだ。もっと言えばマーレとの戦いだったのだ。

 

壁内の喧騒が次第に自分から遠のいていくような気がした。気分が悪くなって、このまま倒れてしまいそう。

 

後方支援を担う兵士として、敵を殺す仕事が与えられることは殆どなかった。だがゼロではない。経験もある。

 

だが、現実に敵の本拠地に招かれて、実際に生きて生活している所を見るのと、戦場で出合い頭に已むに已まれず殺した相手に同情するのとではワケが違った。

 

そういう意味では、こうして馬に乗せられて敵国の戦勝ムードのド真ん中を引き回されるのは、一種の刑罰なのかもしれない。

 

戦争から帰ってきた時、心休まらないことの方が多かった。戦争に行きたいわけじゃないのに、戦場から帰ってこられない感覚に、兵士は悩むのだ。

 

ピークは人に比べたら、そういう感覚は希薄な方だろう。だが、自分も同じ人間だったようだと、ピークは安堵もしていた。

 

同情なのか、懺悔なのか…およそ、人間の道理に反することにも加担してきたはずだ。マーレの命令に従って、敵からも味方からも罵られ、嘲られて。捕まれば死は免れない。よくて生体実験の道具になるだけだろう。

 

よくよく考えなくとも、エルディア人の境遇は悲惨だった。戦場に出て、命がけで戦う自分はもっと悲惨だろう。

 

被らなくても好い罪を抱えて、生きながらえなければならない。寿命は人の半分ほども許されず、最後は喰い殺される。

 

最期まで、マーレの道具か…。

 

これまでの贖罪には、ならないだろう。だのに、その道しか選べなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な壁の門を抜けて、ウォールローゼ内地に到着した壁外行動軍は、いよいよ本格的に解散した。

 

コーバと各師団長の訓示が終えるや、各部隊は自分たちの根拠地に向けて帰路に就いた。

 

残ったのはコーバの親衛隊の中でも、選ばれた者たちだけであった。彼らの行き先は、一足先にリヴァイたちがジークを連れて行ったであろうハンジの御膝元、巨人研究所だ。

 

 

 

 

 




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