進撃の赤い巨人   作:ヤン・デ・レェ

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845

その日は日も照って好い天気だった。俺は朝からミカサやリヴァイたち、親衛隊と同じ卓を囲んで朝食のサンドイッチにかぶりついていた。片手間で食べられて、尚且つ旨いという事を気に入っていた。これでワインでもあれば最高なんだが、就業前から口にするのは憚られた。

 

代わりに、温かいミルクをミカサが用意してくれた。円やかな甘みは、恐らく砂糖を入れて煮詰めてくれたのだろう。朝から手の込んだ飲み物をいただけて、俺はご機嫌だった。

 

朝食後、俺たちはハンジ・ゾエを中心とした旧調査兵団の多くが在籍する巨人研究所へと足を運んでいた。外出用の灰色の革の立派なコートを着て、俺以外は黒革のコートを揃って着ていた。

 

「おやおや!書記長閣下じゃないですか!」

 

眼の下に隈を作り、連日連夜の激務を思わせる高いテンションのまま、ハンジは俺にとびかかるように抱き着いてきた。

 

「コーバに近すぎます。離れてください同志ゾエ所長…」

 

ミカサがそう言って、ハンジを俺から引き離した。

 

「とにかーく!同志コーバならいつでも大歓迎さ!」

 

巨人研究所を作ると言っただけで、彼女の中での俺の株は世界一らしい。彼女が面と向かって言ってきたから間違いないはずだ。

 

「ところで、今日は何用で?」

 

「圧縮ガスを利用した長距離砲の開発に君も巨人の専門家として参加して欲しい。」

 

「同志エルヴィンが開発中の、でしょうか?同志コーバ」

 

「あぁ、それであってる」

 

「しかし…実際にサンプルでも見つからない限り、それこそ資源の浪費になりかねません」

 

「調査兵団はその規模こそ縮小したが、君の麾下においてあるはずだ。一部は親衛隊に入ったようだが」

 

「科学技術アカデミーとの連携は承知しました、ところで予算についてなんですが…」

 

俺たちが次年度の巨人研究所の予算について話し始めた、丁度その時だった。

 

ウゥーーーーーン!!と、非常事態を知らせるサイレンが鳴り響いたのだ。

 

状況を俺が理解するより早く、ミカサが叫んだ。

 

「同志コーバを安全なところへ!!」

 

ハンジも血相を変えた。

 

「ミカサの言うとおりだ。先ずは避難した方が好い!地下壕に行こう!あそこなら党本部からも近い!」

 

ハンジとミカサの声で、事態は動き出した。具体的な命令を受けるまでもなく、親衛隊は俺を両脇から挟み、前後にも人員を配置すると、疾風の如き素早さで地下壕へと駆け足で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

845年某日。突如として現れた仮称超大型巨人並びに、仮称鎧の巨人の手によって、シガンシナ区およびウォールマリアは破られた。

 

第一の壁の失陥と同時に、夥しい数の巨人が壁内に侵入した。壁内に侵入した巨人は無差別に人を襲い、語るも悍ましき殺戮を繰り広げた。

 

ミットラス中央ソヴィエト政府は即日、ウォールマリアからの難民を壁内に収容する試みに打って出たが、その多くが家と職を失った状態であり、国家からの配給のみが彼らの頼みの綱となっていた。

 

書記長ヨシフ・ヴェトーはこの危機に瀕した状況を前にして、非常事態宣言を発令、安全が確保されるまで、自身は地下壕から壁内全土の指導に当たることを発表した。また、新たに創設された人民会議では、旧調査兵団を含むミットラス赤軍及び公安警察は、この非常事態下にその全権を書記長に委任することが決議され、満場一致で通過した。

 

この人民会議は、内地で一定以上の納税を行った市民を対象とする局所的な寡頭制会議であると同時に、壁内の有識者が集まる諮問委員会を兼ねていた。

 

人民会議の第一回目のお題は、如何にしてウォールマリアからの難民を飢えさせず、かつ有力な人的資源として活用する方法を模索することであった。

 

 

 

 

 

 

ミットラス旧王城地下壕にて、ウォールマリア失陥から48時間後のことである。

 

「…以上で、私が知る壁外のことは、全てお話しした次第です…」

 

長時間立ちっぱなしのまま、自身の半生を赤裸々に語ったグリシャは、紅潮した頬とは真反対の青ざめた、貧血になったかのような表情で自分の席に着いた。

 

「恐れていたことが起きてしまった…だが、やるべきことは明白だ」

 

疲労困憊のグリシャ同様に、壁の外に世界があり、そこには自分たちを悪魔だと呼んで虐げる大国が存在し、その上侵略戦争を今まさに仕掛けてきている。そんな事実、そんな莫大な現実に打ちのめされて、その場に集められた壁内人類最高峰の頭脳たちですら、多くは瞠目し、或いは沈黙したまま、口を空しく開閉させた。

 

しかし、彼らを率いる男は一味違った。コーバは言った。

 

「諸君よく聞き給え、我々が成すべきことは単純明快だ。まず第一にウォールマリア内に入った巨人を駆逐すること。第二に壁の穴を塞ぐこと、第三にグリシャの言う、海岸線にまで国土を拡大することである。」

 

コーバは腕を振り上げて語った。

 

「好いか!諸君!我々は今や生存権の縮小に悩まされている場合ではないのだ!むしろ逆だ!我々の生存圏を拡大する絶好の機会なのだ!正義は我らにあり!侵略者共を一人残らずたたき出すのだ!」

 

コーバの演説により、一人、また一人と息を吹き返した。

 

「そうだ!コーバの言うとおりだ!」

 

「同志コーバ万歳!」

 

「我々は改めて、書記長閣下に忠誠を誓います!」

 

文言は人それぞれ違ったが、この瞬間、コーバの下で壁内人類の指導部は一つになった。

 

「諸君!手始めに巨人を殲滅するための、最新兵器の開発を急ぐとしよう!」

 

コーバは目配せして、エルヴィンとハンジに、例のモノの設計図を持ってこさせた。

 

「さぁ、エルヴィン、ハンジ、説明してくれたまえ」

 

コーバが言うとエルヴィンが口火を切った。

 

「同志グリシャの証言から察するに、我々の文明が技術力において上回っている点は非常に少ないことは事実だ。だが、一方で突出している点も確かに存在する」

 

エルヴィンが設計図を広げると、数人の技師を引き連れたハンジが、手元の紙束…設計資料に目を通しながら説明した。

 

「その突出している部分が、立体機動装置や超硬質ブレードに代表される、冶金技術と、ガス圧縮・放出の技術なんだ」

 

ハンジは設計図の各所を指差しながら、細身の重砲にも見えるソレに関して説明した。

 

「そこで、超硬質ブレードに使われる軟鉄と鋼鉄を更に高純度でミックスして、粘り強い鋼を作るんです。そして、その鋼を利用してこの中長距離用の野戦砲を量産し、正面から巨人のうなじを吹き飛ばしちゃおう!って作戦です」

 

ハンジが満足げに汗を拭う仕草をすると、今度はエルヴィンがずいっと前に出て、入れ替わりに話し始めた。

 

「この兵器の肝要な点に関する補足ですが、火薬に加えて我が国独自のガス圧縮技術を活用しており、また、立体機動装置に使われているガスシリンダーとの互換性を持たせることを想定しており、いざとなれば、どちらへも転用可能です。もしも敵に鹵獲される様な事が起きた場合には、そもそも我々の有するガスと同水準の技術力を要するため、敵性利用は現時点では杞憂となる事でしょう」

 

「馬に引かせられる程度に軽量かつ強力な重砲…これこそが新生した壁内人類の、我々の対巨人兵器の第一号です」

 

エルヴィンはそう締めくくった。

 

エルヴィンとハンジが興奮冷めやらぬ調子で熱弁を振るったことで、地下壕の指導部は息を吹き返した。

 

 

 

 

 

 

活発な議論が重ねられ、ウォールマリアからの避難民の処遇に関しては、一旦、ウォールローゼ・シーナ内に仮住居を提供するとともに、食料の配給制度導入によって、生活水準の水平化を目標に掲げることとなった。

 

しかし、現実としてウォールローゼ・シーナ内地にもともと住んでいた者からの反感を買うことは目に見えており、ミットラス中央ソヴィエトは成立後早くも、喫緊の課題解決が求められた。

 

 

 

 




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