進撃の赤い巨人   作:ヤン・デ・レェ

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貴種

 

 

 

 

ウォールマリア失陥による食糧問題に直面した壁内人類は、彼らの存亡を賭けた『口減らし』以前に、より効果的かつ長期的に見れば公の利益に繋がるであろう選択肢を採った。発案者は我らがヨシフ・ヴェトー書記長閣下である。

 

 

 

 

 

その日、旧王城地下壕では深刻な議論が重ねられていた。

 

「如何に、人口を維持しつつも、飢えさせず、かといって怠けさせずに活かすのか。それが問題だ」

 

ヨシフの言葉に、壁内人類の最高頭脳たちは素直に肯定の意を示した。そして彼らは同時に期待した。我らがコーバの最善にして最高の選択を!

 

ヨシフはその美しい顔貌に小さく微笑みを浮かべると、右わきで直立不動の姿勢で侍るケニーに一つ、耳打ちした。

 

ケニーの退出後、間もなく入れ替わる形で一組の男女が現れた。ヨシフは立ち上がり、腕を広げて歓迎するように着席を勧めた。

 

「ようこそ、そしてごきげんよう。同志ロッド・レイス、そして同志フリーダ・レイス…元王家の御方々よ」

 

そう、この場に呼ばれていたのは二人の元王族、壁内の真の王家の当主たちだった。

 

ヨシフからの言葉に、ロッド・レイスは恐々として、対してフリーダ・レイスは熱視線をヨシフに向けた。

 

口を開いたのはフリーダだった。

 

「壁内人類の存亡がかかった重要な会議の場に、書記長閣下自らの御文でお招きいただき、恐悦至極にございます」

 

「閣下の所望されている最終的解決に関して、私共は…この王家の自滅的、反革命的呪縛から解放していただいた御恩に報いるべく全面的な協力を、僭越ながら始祖ユミル様の名に誓いましょう」

 

フリーダは一息にそう言い切ると、しずしずとヨシフの下へ向かい、彼の手の甲へ敬愛と忠誠のキスを落とした。

 

ヨシフはややぎこちない笑みで、しかし満足気に頷くと、次にこう続けた。

 

「諸君、我々が抱えた難題は一つその解決の糸口が見えてきたぞ」

 

「ここに、壁内人類の最大土地所有者である同志フリーダが、その厚意から、我々ミットラス中央ソヴィエト政府に、その財産の殆どを寄付し、同じ志を共にする革命戦士としてこの艱難辛苦へと立ち向かう覚悟を示してくれた」

 

「我々は是より、五年間の計画を打ち立てる」

 

「我々はこれまで手付かずだった王家の所領の隅々までを、黄金の穂が撓り波打つ大穀倉地へと生まれ変わらせ、また人類の栄養状態を改善するための大規模酪農地帯へと生まれ変わらせるのだ」

 

「同志フリーダ、私からも個人的にお礼を言わせてくれ、ありがとう。そして、君の御父君にも感謝を」

 

ヨシフは軽くロッド・レイスに向けて会釈し、それからフリーダの額に触れる程度の親愛のキスを贈った。

 

両者の反応は劇的であり、ロッドは恐縮し、怯えるように顔を隠すように俯いた。

 

対してフリーダは燃えるように頬を真っ赤に染めて、こう叫んだ。

 

「全ては同志コーバの為、そして人民の為に当然のことです!!」

 

「素晴らしい心がけだ」とヨシフはクシャリと笑い、フリーダをますます熱くさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

壁内の真の王家であるレイス家の存在は、壁内人類の最高指導機関を自負するミットラス共産党政府にとって、福音にも、また目の上のたん瘤にも成り得る存在だった。

 

真の王家からの承認があればこそ、正統なる政府と名乗ることが許されるのだから。

 

しかし、共産党政府を名乗る以上、依然として圧倒的大土地所有者である、特権階級に属するレイス家をそのままの状態で招聘、推戴することは出来なかった。

 

結果、この問題を解決したのは我らが同志コーバであった。

 

この時点で偽王家は一般市民として溶け込んで生活を営んでいたが、一方で真の王家であるレイス一族は軟禁状態にあった。

 

この処置に政府内部からの異存は生まれなかったが、当人たちからは静かなる反発が頻出していた。

 

完全な政権交代を実現するべく、コーバは当時のレイス家の代表として巨人の力を先代から受け継いだばかりのフリーダに眼をつけたのだ。

 

コーバはフリーダを招き、一対一での対話と称して、その身に負った呪縛からの解放を交換条件に、所有するほとんどの土地を政府並びに人民に寄付することを誓わせた。

 

結果は見ての通りであった。

 

フリーダはこれまで背負ってきた重圧と責任、免れぬと諦観の内に沈んでいた自死の鎖をいとも容易く砕いてしまったコーバに、心酔し、崇敬するに至った。

 

「嗚呼、貴方こそが真の壁内の王に相応しい。同志コーバ、私は貴方の為ならば何でも致します!文字通り、なんであっても!」

 

フリーダは直感的に、己を包んでいた陰鬱な呪縛からの解放を体感した瞬間にそう叫んだのだ。

 

そして、革命後間もない旧王城のバルコニーから人民に向けて、全てを告白した。

 

「我々レイス家は真の王家としてこれまで、数えきれないほどの同志を闇に葬り、或いはその自由を奪ってきました。しかし、今日この日を以て、忌々しい初代壁内人類王の系譜は途絶え、引き換えに、自由と豊かさの共有を標榜する、真の指導者へとその権能を譲渡します」

 

「革命万歳!偉大なる我らがコーバ万歳!」

 

「同志コーバに忠誠を!革命と同志への忠誠こそ誉れ!」

 

「さぁ、皆さん共に新しい世界を、新しい時代を生き抜こうではありませんか!!」

 

初代王から連綿と続いてきた呪縛から解放され、その悪しき寿命からさえも解放されたフリーダに敵はいなかった。

 

新生した貴種の朗々たる演説により、集められた人民は熱狂した。

 

各新聞社は第一の壁が破壊されたという大事件を他所に、王家から共産党政府への伝説的な無血移行を大見出しにして、号外をばら撒いた。

 

記録的なこの日を記念して、同志コーバの発案で、十月七日は国民の祝日となった。

 

奇しくも、十月七日は彼らの革命が成った日と同じ日付であった。

 

 

 

 

 

 

 

旧訓練兵団練兵場で、その日行われていたのは、親衛隊幼年部第一期生の卒業式典であった。

 

幼年部に入営した子供たちの保護者が見守る中、総長を務めるミカサ・アッカーマンの声で、第一期卒業生の名前が順に呼ばれていった。

 

「親衛隊幼年部首席!ヒストリア・レイス、一歩前へ!」

 

「はいッ!」

 

ミカサの声に呼応して、まだ幼い少女が一歩前へと進み出た。

 

彼女の名はヒストリア・レイス。ロッド・レイスの妾腹の子であったが、母の元を離れて国営の養育施設を経て、幼年部に志願した身であった。

 

「ヒストリア・レイス!貴官は幼年部第一期生にして、抜群の才覚を有することを認めると共に、コーバに代わり私ミカサ・アッカーマンが、この場でコーバより首席にのみ許される幼年部卒親衛隊隊員特別徽章を授けます!」

 

倍率数千倍を勝ち抜いた珠玉の中から、更にふるいに掛けられた最精鋭の中の一粒。革命以来、子供大人問わず憧れの的となっている親衛隊への最寄りのルートが幼年部卒業であった。しかし、言うまでもなくその道は狭く、その更に頂点に立つには並々ならぬ努力と、鋼の忠誠心、そして燃える情熱が必要とされた。

 

母諸共に、ロッド・レイスの魔の手から救い出されたヒストリア・レイスにとって、コーバ自身に彼女を救ったというその認識はなかったとしても、コーバの存在は神に等しかった。

 

故に、革命戦士として今度は壁外との苦闘を強いられるであろうコーバの一助となるべく、ヒストリアが母親との二人暮らしを始めて間もなく、幼年部への入営を決意したことは、ある観点から見れば必然のことであった。

 

血のにじむような苦労の果てに、彼女は幼年部首席卒業という偉業を成し遂げた。この道を真っ直ぐ進めば、自身の胸に付けられたものと同じ、鋼鉄製の鉄十字徽章を身に付ける、ミカサ・アッカーマン幼年部総長のように、何れは実物大のコーバにお目にかかれるはずだ…というのが、直近のヒストリアの願いだった。

 

彼女の願いは、決して生易しいものではなかった。コーバは多忙であり、またその美しさと強さから、数多の者たちから愛を向けられている。其処に男女の別はなく、ヒストリアもお目にかかるには流石に数年は必要だろうというのが、彼女の目算だった。

 

だが、何事にも奇跡と偶然は絡むものである。

 

「首席ヒストリア・レイス!君にお会いしたいと、ある御方がお待ちだ。式典終了後、幼年部総長の執務室へ出頭するように!」

 

ヒストリアは勘が鈍い方ではない。だからこそ、何時ぞや人群れに紛れて遠望した誰かのことを、真正面から見つめる覚悟を建てることで、彼女の脳内は大忙しだった。

 

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれた…まずは首席卒業おめでとう。同志ヒストリア」

 

「恐悦至極に存じます、同志書記長閣下!!」

 

案の定、ヒストリアを待っていたのは憧れのヒト、書記長ヨシフ・ヴェトーだった。

 

憧れのヒトとの対面でも、幸い彼女は何一つヘマを踏むことなく、首席の名にふさわしい胆力で彼の足元に跪いた。まるで王と、王に使える騎士の様に。

 

「よしてくれ、俺たちは同志だろう?それに、首席にまでなった君に書記長閣下と呼ばれるのは居心地が悪いからね、是非、私のことはコーバと呼んでくれ。同志コーバと」

 

「はい!はい!同志コーバ!」

 

「それでいい…さて、折角君を呼んだんだ、本題に入ろう…」

 

ヨシフはヒストリアを執務室内の立派な木のテーブルの真向かいに座らせると、ミカサに指示して部屋の鍵を締めさせた。ヒストリアを逃がさないため、というより、この話を外に漏らさないためであった。

 

「同志ヒストリア、君にはこれから、ミカサの下で幼年部の指導者としてのノウハウを学んでほしい」

 

「指導者として、ですか?」

 

「あぁ、そうだ。同志ミカサ、達っての希望でね。彼女は元より私専属の近衛兵みたいな存在だからね」

 

「はぁ…しかし、同志コーバ!私も同志コーバのお傍に仕えることを熱望してやみません!」

 

「勿論、そのことは理解しているよ。ミカサからの報告でも、君が私に対して思想的にも強く厚意をむけてくれていることは、全て織り込み済みなんだ。そこで、だ。どうだろう?まず五年間、ミカサの代わりに幼年部総長として働き、そのあとで私の直属の親衛隊員に着任するというのは」

 

ヒストリアは徐にミカサに視線を配り、目が合う前に視線を切ると、俯き、それから顔をあげた。

 

強い意志の籠った言葉で、彼女はヨシフに向かって言った。

 

「同志コーバ。私の身も心も、もとより全て貴方に捧げたものです。どうぞ貴方にとって最も都合の良いように導いてください。そのように扱ってくださって構わないのです。私にはその覚悟があるのです」

 

「同志ヒストリア…感謝するよ…君の覚悟を聞けて私も嬉しい…うむ、そうだな…五年は長い。三年間、君はミカサの後を継ぎ、後継者を探しながら幼年部を運営してくれたまえ。そして、三年後、今日と同じ日に、君は私のものになってもらう」

 

「同志コーバのものに!!ですか!」

 

「(少し言い方を間違えたかな?)あ、あぁ。その通りだ」

 

「最早私に迷いなどありません!!母娘ともどもよろしくお願いいたします!同志コーバ万歳!!」

 

「それは何よりだとも。はっはっはっはっは…(乾いた笑い)」

 

こうして、ヒストリア・レイスは第二代親衛隊幼年部総長に着任した。

 

ヒストリアが要職に着任したことに、彼女の母親は心から喜び、今やどこへ行っても見かけるようになった『コーバは君を見守っている』ポスターへと、感謝の祈りを捧げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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