その鴉は賽を砕く   作:HI-32: BU-TT/A

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まだ日付変わってない!セーフ!

CHAPTER1はもうちっとだけ続くんじゃよ

追記:思いついたので後からフロイトパートとイグアスパートが増えました


幕間 絡み合うもの

 

 コーラルより生じた変異波形、エアは深い思考の海に身を投げ出していた。

 たった一日の内に、余りにも多くの出来事が起こりすぎていたのだ。

 彼女にとっての世界、そしてそれに対する在り方、あらゆるものが変化を迎える激動の時だ。今までの全てが覆されるような事ばかりだ。

 世間的には燃料資源を筆頭に、様々な活用法がある新時代の物質として持て囃されるコーラルには意思がある。己こそは紛れもないその証左だ。

 しかしながら、自分という存在は()()()()である。全てがそうという訳ではなく、寧ろ稀有な存在と言える。

 その上で、同族間でさえ交信を行う事もままならない。存在としては余りにもその主張手段に乏しく、存在感の希薄な生命体だ。

 故にエアは、今の今まで懊悩と孤独を抱え続けていた。何故、自分のような存在が在るのか。何故、自分はこれ程までに隔絶された生命体なのかと。

 同胞ではあるが、同族ではない。意思はあるが、意識がない。何年、何十年、とこの孤独を生き続けて、自分を知覚してくれる存在を今か今かと待ち侘びたのだ。

 

「えぁ、どったの?」

 

『……。すいません、レイヴン。貴女から教えられた事を、色々考えていたのです。』

 

 強化人間。コーラルにより脳へ、ひいては肉体全てへと働きかけて改造を施し、戦闘用の身体―――アーマード・コア(AC)と呼ばれるものに最適化された存在。

 彼女はその第四世代、コーラルによる影響が色濃く残る世代だった。その中でも、ごく限られた素養のある者のみが、特定の条件下(コーラルと接触)に晒される事でようやっと交信に至る。

 膨大なコーラルの氾濫に飲まれた彼女の意識を見つけた時、もしやと思って交信を試みた。肉体を持たない私達コーラルは、深層心理とでも言うべき人間の内の内、その人の最も深い所が曝け出される状況でしか接触を試みることが出来ない。

 そういった意味では、彼女の身に降り掛かった事故は不幸中の幸いだ。あれが無ければ二人は引き合う事もなかったのだから。

 だが、彼女の口から告げられた事は驚くべき話の連続だった。先ず以て、この出会いは偶然だが必然であると告げられた。

 おかしいと思ったのだ。自分のような影も形もない謎の存在から、いきなり脳波に同調した交信を申し込まれている最中に、その脳波形が()()に近いものを示していたのだから。

 はっきりと言い切ろう、いきなりあんな事(声掛け事案)をしでかすのは普通に不審人物だと。……いや、彼女が交信を試みた相手(レイヴン)は、実にそんな区別すら付かなさそうな、いたいけなガチ少女(10代前半)だったのだが。絵面だけ抜き出せばただの事案である。

 その点を考慮しても、言葉一つを()()()()()()()()そうだった。これは何かが変だと思い、尋ねた所から―――今に、至る。

 

『その……。一つ、質問をしてもよろしいでしょうか。私達は嘗て、本当に……殺し合った事さえあるのですよね。』

 

「ん。そぉ、だよ。」

 

『私にはその記憶がないので、実感が無いのですが……。レイヴン、貴女は違う筈です。恨んでは……いないのですか?何故、そんな私を……今も助けようと?』

 

 難しい話だ。確かにエア自身にはそんな事をした覚えは無い、当然ながら。だが、彼女を知っているというレイヴンは知っている。その前提が不思議でならなかった。

 聞く所によると、やむを得ない事情だったとは思う。自身を救い大切にしてくれ、存在する意味まで全てを与えてくれた大切な人の願いと、自虐ではあるが出会って数日そこらの実態もない波形なんぞが釣り合う筈もなかろう。

 如何に初めて出来た友達、という特別な立ち位置でもだ。自分だって同胞からの願いだと思えばそちらを選ぶ理由にも頷ける。誰がその時の彼女の選択を責められるものか。

 その時の自分でさえ、苦しみはしたが責めもしなかったという。成る程確かに、そういう選択をするならば間違いなくそれは自分なのだろう。腑に落ちる。

 疑問はこれに限らない。彼女が救いたいと言っている相手は、本来ならば誰も彼もが彼女を害し害された事がある筈だ。そんな相手に、最終的な着地点が共存の道の模索の為とは言え、ここまでの想いを?

 

「うん。だって、えあは、ともだち。だいじで、いっしょ。それとも……やだ?」

 

『い、いえ!そんな事は……私も嬉しいです、レイヴン。』

 

 脳波を見て、その言葉と所作を見て、考えを改めた。そこに複雑な思惑はない。()()()()()()()()と感じたが、違う。()()()()()()()()なのだ。

 危うさを感じさせる程の無垢が、そうさせる。ならば、そんな彼女が願う選択肢を手伝う事に……いや、違う。彼女が選ぼうとする道ならば、自分は躊躇いもなくその背を押す事ができる。

 不思議と、出会ったときからずっと感じていた。ある種の思考誘導にさえ近い、言ってみれば盲目的なまでの信頼は何処から来るのだろうかと。

 理解した。こんな子だったら、今までの自分(他の周回)が快く信じ手伝おうとするのも頷ける。

 

「にへへ。わたしも、うれしーよ。」

 

『ではレイヴン、貴女やウォルターと交流するための義体を』

 

「それはだめ。」

 

『……。』

 

 まだその時ではないとは言え、さ、寂しいです……。

 

 

 

 

 

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 ルビコン解放戦線の重鎮、帥父と呼び慕われし男、サム・ドルマヤンは多くの懊悩と共に歩んでいた。

 若かりし頃、ドーザー(酩酊者)としてコーラルを啜り、明日も省みぬ者として過ごした日々は実に意欲も意志もあり、また精強であったと己を顧みる。

 コーラル服用による全能感と、同時に己の耳を打つ声に己は特別な存在とさえ錯覚したのだ。

 半分ほどは事実であり、もう半分は誤りだろう。そう今になって自嘲する。

 

「全ては、消えゆく余燼に過ぎない……。」

 

 自戒の言葉だ。今や我が真意を読み違えた解放戦線に、何の意味が有ろうというのか。いや、有りはするだろう、解放戦線は組織として大きく肥え太った。

 だが、真に必要であった筈の警句は先導し扇動する為の傀儡の言葉と化した。アイビスの火が熾した冬の時代を知る原住民は、企業による搾取と封鎖機構による抑圧を良しとはしない。

 団結には、旗印が要る。それを良く理解しているからこそ、落魄れた言葉に無力感を覚えずにはいられないのだ。

 組織を興したのも、あの声(交信)も、AC乗りとしての腕前も間違いなく己の才覚であっただろう。だが、それだけでは何も変わりはしない。

 ……否、変わりはしないのではない。()()()()()()()()に過ぎない。

 ドルマヤンは、臆病だった。稀有であり同時に唯一にして無二、ルビコンの恵みであるコーラルそのものより生じたコーラル変異波形(セリア)の声を信じたのは、解放戦線でもドーザーでも己だけである。

 無論、居ないとまでは言わない。だがその存在を信じ寄り添おうとして―――最後、その一歩さえ踏み切れなかった愚か者で臆病者で、そして……ある種人の世を守ったのは、己だけだ。

 "コーラルリリース"。そう仮称される計画は、悍ましいものであった。変異波形の声を聞く者と、変異波形の二者が極限まで寄り集まったコーラルを前にし、()()()となる。

 これにより起こる現象は、全宇宙へのコーラル散布と偏在である。即ちそれは、全てにコーラルが普及する(強化人間施術と大差はない)。……否、或いはもっと最悪の事態となるのだ。

 ある時、セリアは驚くべき技術を披露してくれた事がある。彼の目の前で、得意げに電子機器への侵入と工作を果たして見せたのだ。その技量は目を見張るものであり、実際当時の商売敵であったドーザーの一派を打ちのめす良い切っ掛けにもなった。

 驚嘆に値する。工作と暗躍に於いて、本気を出した彼女に追随するのは困難だろう。最も、彼女自身は思いつきで行動を決める節があるせいか、見えない所で下手をやらかしている場合が多々あるのだが。

 そんなものを見せられ、末恐ろしいとも思った。()()()()を平然と、しかも害意を思わせない素振りでやってのける存在を全宇宙へ解き放つ?しかも、その時は己も共に?

 馬鹿を言うな。そうなれば、人類は終わりだ。変異波形が望んだ在り方と、それを共にした者の望む在り方へ強制し矯正される世界など、終末よりも恐ろしい。或いはこれが、自分の想像が矮小なだけで、より恐ろしい災い(身体は闘争を求める)になろうものなら―――

 

「セリア……。私は、間違っては、いない筈だ……。」

 

 己にそう、言い聞かせる。あの時の誘いを拒み、結果として引き起こされた悲劇、アイビスの火に思う所はある。あれは己が選ぶことさえ出来なかった愚かさの象徴でもあるが、人類を終わらせる引き金を防いだ証でもあると。

 違う。そんな事を思い悩んでいるのではない。ただ自分は、自分は―――

 

「……だが私は、君に謝るべきだった……。」

 

 せめて「ごめん」の一つさえも選べない、敵にも味方にもなれず、哀れな象徴(どっちつかず)に落魄れた己に、思い悩んでいた。

 だからこそ、今改めて思い悩む。死地を求めてすらいた己を救出する作戦に携わった、()()()()についてを。

 レイヴン(渡り鴉)。傭兵にとって伝説的な存在でもあり、その名を継ぐ者は例外なく己の意志を貫き自由であるとされる―――"意志"の表象。

 あの者は、紛れもなく己の意志(生かしたい)を貫き通していた。その振る舞いからは、多くの感情が透けて見えていた。たかが救出作戦一つに、たかが敵対者一人にあれ程の感情を出し得るのか?

 異質であり、異常。しかしそれは確かに、伝説を継ぐに相応しい在り方であり……己が焦がれてやまない、理想の己でもあった。

 だから、こそ。確かめねばならないと強く思う。この余燼となった身体に、仄暗い火が灯されたのを感じている。

 

「確かめねば、ならぬ……ルビコンの災いとなるかを。あの者が……()に耳を貸すかどうかを……。」

 

 その手に、投げる賽を握り込んだ者かどうかを、知らねばならない。

 

 

 

 

 

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 ヴェスパー部隊新進気鋭の第四隊長、解放戦線のスパイであるラスティは思案を繰り返していた。

 自分の立場、為すべき事、立ち回り……考えるべき事は山程ある。だが、どれも今悩んでいる事には当て嵌まらない。

 一度、たった一度肩を並べ「壁」と呼ばれる難攻不落の要塞を落とした時の事。あの悪名高きハンドラー・ウォルターの猟犬、レイヴンと呼ばれし独立傭兵。戦友たる()()彼女について、ずっと考えていた。

 あのフロイト(戦闘狂)すら虜にする卓越した腕前、噂に聞く()()()()()()()()()()()()()()、戦いから滲むその性根と―――何故か所持していた(世に出ていない筈の)極秘フレーム(ALBAについて)

 どれもこれも、彼女の存在に謎という名のヴェールを被せるに足り、その考察を複雑怪奇なものにしているのだ。

 

「……戦友、君は一体……。」

 

 その戦いぶりを見ただけで、理解した。彼女は恐れを伴って戦場に立っている。猟犬ではあるが、その恐れを抱えながらも隠し通そうとし、戦っているのだ。

 通信越しに聞こえた声色が、本当に推定通りの彼女のものであるならば……そう考えて悪態をつく。ウォルターの悪名は世に轟き、知れ渡っているが、実に醜悪だ。反吐が出る。

 加工された音声というよりは、喉が不自由な者の補助として用いられる機械補正。そのような毛色の声が此方に送られた時には戦闘中でさえ僅かな逡巡を感じたものだ。いつか彼女と対立する日の到来を、叶う事ならば永遠に訪れないよう願う程に。

 解放戦線の戦士でありながら、年若い少女であるツィイーを思い出した。聞く所によると、虜囚となっていた彼女はレイヴンに救出されたそうだが……叶うことならばどちらにも戦場に立ってほしくはない。

 甘い考えかもしれないが、彼女らの豊かな未来を切り拓いて守る為にこうして密偵となって戦っている。そこに巻き込むのはしのびない事であり、如何にコーラルを巡る争いの苛烈さと手段の選ばなさ、醜悪さを見せつけられるかのようだ。

 何故、ああも殺す事と死ぬ事を恐れているというのに戦っているのか。それを尋ねたくて仕方がない。何故、そうまでしてあのハンドラーに従うのか、何故あんな外道に付き従っているのか、或いは洗脳でもされているのか。

 

「煮詰まっているな、ラスティ。」

 

「オキーフ……第三隊長。傍から見ても私は思い悩んでいたか、気を遣わせてしまったな、ありがとう。」

 

 解放戦線の同胞、オキーフ(V.Ⅲ)が熱いフィーカを差し入れてくれる。彼はフィーカには一家言あり、手がマグに張り付いているとさえ言われもする程だ。

 同志ミドル・フラットウェルが潜入するよりも早く、人知れずヴェスパーへと潜入を開始していた彼は既に高い地位に就いており、自分がこの座(V.Ⅳ)へ就くに際しても心強い味方となってくれた。

 カップに口づけ、少しばかり息を吹きかけて冷ましてから飲む。時折彼が泥水のようと冗談交じりに語るそれが、豊かな苦味と風味を伴って、まるで思考を綺麗にろ過するようだ。

 

「第三隊長は無くて構わんよ……解放戦線も、企業との戦いも、封鎖機構からの牽制も激化の一途を辿っている。……心底うんざりするが、あまり根を詰めるな。肩肘張っては力も出ないぞ。」

 

「そうだな……ああ、もっと強くならねばならない。噂によると、封鎖機構が俄に殺気立っているらしいからな。何れ執行部隊が大隊規模で鎮圧に来てもおかしくはない。」

 

 そうなれば、また死人が出る。コーラルという惑星を焼いた災禍を齎すこの星は、封鎖機構にとって禁じられた大地に他ならないのだろう。だが、そこに原住民への配慮は一切無い。

 ルビコンの焼けた空は、いつだって搾取を受け続けてきた。我々はそれを止め、解放する為に戦っている。

 だからこそ、戦友が……レイヴンが()()()()()のかを、知りたい。いや、知るべきだと思っている。

 あれ程に死を恐れ殺す事を恐れる少女を、ただ利用されているだけならば助けねばならない。これが傲慢と偽善と呼ばれようが、あの強さに隠された弱さを放っておいては、男が廃り美学に反する。

 ……だけに留まらないのだ。

 

「オキーフ、一ついいかな。……ファーロンやエルカノが情報を漏らしたという事は、無いよな。」

 

「無い。それは確認している……第一、ALBAフレームの事ならば未だ開発途上と報告されている。」

 

 完全社外秘、ファーロンとエルカノに極秘で繋がっている我々は、彼らにアーキバスの技術を横流しする事で私の要求に合わせた次世代型高性能機―――"ALBA"を製作してもらう手筈になっている。

 だが、どういう訳か戦友は()()A()L()B()A()()()()()()()()を利用していた。あれを目の当たりにした時、心臓が鷲掴みにされたかのような衝撃を覚えたものだ。

 当時、あの場にはV.Ⅰ……即ちアーキバス最高戦力であるフロイトが同席していた。スネイル曰くいつものように戦いを求めてとの事だったが、私はあの瞬間に()()()()()かと戦々恐々していたのだ。

 実際にはそんな事は全く無く、本当に只々戦友の腕前を見届けに来ただけで心底ほっとした。しかしながら、今度は戦友がALBAのフレームを使用していた事に何の説明もつかない。

 ファーロンの古狸共は、表立っては平静を装いつつも己の利益に敏感だ。だからこそ今回の提案は成り立ったのだし、素直に技術提携を行っている。

 そんな彼らが更なる利益に寝返った……そう考えるのも無理はないが、全く以て手がかりが掴めずにいた。情報戦で完全に後手に回っている。

 

「……それを聞いて、少しは安心したよ。」

 

 一つ考えられるのは、戦友が本性を隠している事。だがそれは一瞬で否定した。有り得ないのだ、ああも繊細な内面を見え隠れさせる推定少女が、こんな騙し方をするだろうか?と。

 少なくとも肩を並べただけで理解出来る。深慮遠謀に富むような、特有のドス黒さを彼女からは感じなかった。そういったものは、彼女ではなくそのハンドラーからこそ匂い立つ。

 ではそのハンドラーが一枚噛んでいるのか?と思ったが、手がかり一つ掴めずにいる。現状では推定有罪(消去法)でしかない。

 考えること全てが、悪手を打っている気がしてならない。此処までたった一人の少女に掻き乱されるのは、人生で初めての事だ。

 

「ラスティ。一つ助言をしてやろう……一気に事態を好転するような夢物語は、そうそう起こらんものだ。あまり夢見がちにならず、堅実に行け。うんざりするような獣道でも……いつか、歩けば表に出られる。」

 

「含蓄のある言葉だ。貴方がそう言うと、本当にそんな気がしてくるよ、オキーフ。」

 

 男二人、並んでフィーカを口にする。……火傷しそうな程に熱い。だが、この熱さがまた、冷静さを齎してくれる。

 ヴェスパーの第三隊長に至るまでに、彼はきっとうんざりする日々を積み重ねてきたに違いない。その心労は察して余りある。

 まだまだ、彼も自分も、為すべき事が山積みだ。

 

 

 

 

 

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 ヴェスパー部隊のエースにして第一隊長、押しも押されもせぬ最強の座を恣にしていたフロイトは趣向を凝らしていた。

 より面白く、より高みへ。そして何故に強いのか。その全てを識らんとするが為に、自分にしては極めて珍しく戦闘ログ回収を行ってまで研究と分析を繰り返した。

 アリーナのトップ、特例上位ランカーの首位。それは自分のみが立つ栄冠であったはずのものだが、今やその伝説さえ覆ったのだ。

 レイヴン。鴉の名を持つ独立傭兵であり、あのハンドラー子飼いの猟犬。しかし彼の目には鴉でも猟犬でもなく、全く別のモノとして映っている。

 

「……やはりな、これは"知っている"動きだ。」

 

 標的となった者の行動パターン全てを理解し、先読みにも等しい水準での行動を取る。そして、その実行を可能とする卓越したAC操縦技術に、嘗て無い興奮と感動を覚えた。

 久しく、本当に久しく自身の好敵手となる相手が降って湧いてきた。これ程に喜ばしい事は、初めてこの座(元アリーナ首位)に就いた時程度しかない。その喜びを今一度味わう事も、そこに立つ者へ挑めるという状況も何もかもが歓喜となる。

 自分は天才肌であって、天才ではない。寧ろ自身を凡才だとさえ自認している。今まで強くなれたのは、偏に()()()()を怠らなかったからに過ぎない。そう、()()()()()怠らなかった。

 自身は強化人間ではない、現代のAC操縦者にとっては圧倒的なハンデだ。しかし、それがどうしたというのか。手足がACと一体となるように動かすのは至難の業だ、それが何するものぞ。不可能ではないなら、可能となるまで繰り返せばいい。

 徒人の身では苦難が待ち受ける、その苦難さえも楽しめばいい。武装一つを変える事でさえ慣れるまで時間がかかる、ならば慣れればいい。

 気が遠くなるような、常人のセンスでは想像もつかない数々の苦難を、自分は()()()()。そうして今、最強に()()()()()。言ってみれば、何てことはないルーチンワークだったのだ。

 

「この既知は、一体何処まで続く?()()に底はあるのか?まるで機械のように精密だが、時に獰猛な狩りをする獣の貪欲さも見え隠れする……。」

 

 一言で言うならば、自身はその相手を"不思議な奴"と感じている。(Raven)と名乗っておきながら、空を舞うその戦いに狡猾さは無い。あれは純粋であり無垢でもある。しかし穢れを識らぬ翼でもない。

 猟犬でありながら、猟犬ではない。命令に忠実で何が何でも獲物を食い千切ろうとする獰猛な殺意は、言わせてみればあれには足りていない。しかし鋭さが損なわれている訳でもない。

 機械のように緻密で正確ながら、しかし機械でもない。ただ純粋にあれは精度が高いだけで、人間らしい誤差も生じている。だがその有様は機械を思わせる程に正確無比だ。

 そんな相手を、自分ならばどう攻略し、或いはどう攻略されてしまうのか。試したくて試したくて仕方がなかった。どういった条件で戦えば最も揺さぶれるのか、どういった内容で挑みかかればその正体を垣間見る事が叶うのか。

 まるで自分が恋する少年にでもなったかのような錯覚を感じ、改めて戦いへの渇望と衝動が健在であると認識する。戦いたい、今すぐにでも戦いたい、戦場でも敵としてでも味方としてでも構わない、すぐに。今すぐに。

 一度、全て無断かつ独断で誰にも話を通さず、勝手に傭兵担当(ペイター)の送信履歴からレイヴンへコンタクトを試みた事がある。あの後スネイルがいつものように眼鏡を傾けながら叱りに来たが、何が悪かったのか全然分からない。

 それからというものの、既に割れた連絡先に対して何度も何度もあらゆる形での戦闘の約束を取り付けようと連絡を繰り返しているが、やはり結果は芳しくない。何故だろうか。

 あれだけの戦闘技術、さぞ自分と同じレベルで戦闘に焦がれ戦闘に愛された者であるに違いない。そう直感したからこそ、すぐにでもこのカードは成立するのだとばかり思っていたが。

 

「ああ……()りたいな、何故応じてくれない?俺はこんなにも欲しがっているというのに、お前もそうなんじゃあないのか?」

 

 試したい、早く試したい、あれもこれも試したい。あれにぶつけたい戦法がある、スネイル如きでは話にならない戦い方が山程ある。

 尽きない、決して尽きることのない戦いの幅が果てすらもなく広がってゆく。抑えが利かない、誰でもいいからぶつけたい、ぶつけ合いたい。

 だが駄目だ、すぐ終わってしまう安っぽい雑魚では駄目だ。やはり、あいつ(Raven)しかいないのだ。

 繰り返しの思考の中で、一件のメッセージが送信されてきた。どうせスネイルからだろうと思い、送信者の名前だけ確認してすぐ無視しようかと思ったが―――

 

「……ふ、ふふふ、ハハハハ……!」

 

 ……きっと、この瞬間の俺の口は、三日月のように美しく弧を描いていたに違いない。

 

 

 

 

 

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 レッドガン部隊の番号付き、五番目の座に燻り克己心を強く抱く男、イグアスは揺れ動いていた。

 己の生涯に於いて、此処までの挫折を味わわされたのは一体いつぶりだろうか。例え何かを比べたとしても、比べようもない程のケチがついていた。

 ガリアの多重ダム襲撃作戦に於いて、たまたま空席となった所に降って湧いた余所者、独立傭兵なんぞという野良犬がたまたま拾われて転がり込んだと思えばいきなり自分とヴォルタを叩きのめしたのだ。

 解放戦線の連中が独立傭兵に粉をかけているという噂は知っていた、しかしたかだか実績もクソもないような新参者如きにまでそうする程になりふり構わないとは思いもよらなかったのだ。

 大したことのない雑魚と見下していたが、その実結果はどうだ。はっきりと言おう、二人揃って()()()()()()()()()であったと。

 不意打ちというのもあったが、その後の対応は何一つとして対等ではなかった。隔絶した差、歴然とした格の違いというものが高々と見せつけられたのだ。

 

「クソが……クソが!ふざけやがって……俺と同じ、クソみてえな第四世代が……?」

 

 強化人間には世代がある。前に遡行すればする程に劣悪で、施術の効果も悪く仕上がりに難がある。自身と野良犬はなんと数奇にも同世代と聞く。

 そんな同世代の、大した実績もない独立傭兵なんぞが何故あれ程に強いのか。全く以て納得が行かなかった。

 初めから不満があった。二人で十分の任務に安っぽいオマケが付属し、達成による名声を体よく吸われる寄生虫。はっきり言えばそんなものだ。

 しかしどうだ、ラッキーナンバーを背負っておきながら自分たち以上に強く、あまつさえ金で寝返るような安い奴に伸され、挙句の果てには口を滑らせてアサインを取り消された「壁」で死にかけた悪友を救ったと。

 二転三転と立場を変えて、これでは野良犬どころか蝙蝠だ。独立傭兵とはそういうものだが、この時点で苛立ちは最高潮に達した。

 元はと言えば口を滑らせたのは自業自得だと顧みるが、そもそも奴が参加さえしていなければあんな事を口走る理由もない。そうであれば自分は同行し、レッドガンによる壁越えは果たされていた筈なのだ。

 如何に杜撰な作戦、如何に戦力の僅かな部隊でも二人で組めば無双の力を発揮する。自分とヴォルタの相性は抜群のものであると自負する。

 自負していたというのに、どうだ。()()は打ち砕いたのだ、完膚なきまでに。

 強すぎる。こんなものでは、全く足りない。ミシガンに届かず、ナイルにさえ土をつける事も敵わない。挙げ句、そのナイルまで叩きのめされたと聞く。

 ただ叩きのめされたのではない、()()()()()()()()()だ。あのナイルが、舐められてやられたと聞いて信じられなかった。

 

「俺と、あいつで何が違いやがる……!」

 

 苛立ちを払拭せんと、少しでも強くならんとばかりに幾度となく仮想戦闘へ身を投じた。アリーナで連戦を繰り返し、怒りをぶつけ、結果何も気は晴れなかった。

 この蟠りは直接勝たねば取り除かれる日は来ないだろう。だが、届かない。強くなるしかないのに、遠すぎる。ふざけているのか、同じ旧世代型なのに並べない理由が有るわけ無え、

 少しでも強くなるため、ヴォルタに頼り切った構成を改めることにした。元々は積極的に近接戦闘を行っていたが、あれと組む時に前と後ろで分担した方がより効率的に勝てると気付き、それは正しい。

 しかしながら、誤りでもあると理解した。自分一人で戦う時に、あのアセンは余りにも決定打が無い。堅実な攻めは可能だが、それ以上に勢いと腕前のある相手に一切及ばない。

 あの戦い方が成立するのは、自身と同じかそれ以下の腕前のみ。遥か高みにふんぞり返った野良犬相手では、歯牙にも掛けないだろう。

 

「野良犬……俺は、てめえを……」

 

 己でさえ答えを出せないような怒りに狂い、柄にもなく熱くなり、前すら見えないような熱に浮かされ、今日も再び戦闘に明け暮れる。

 己に無いものを探し、己に出来る事を求め、己がモノに出来る強さを得る為に。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 傭兵支援システム、己をそう呼称し身を偽るオールマインド(AM)は己の計画を再設計していた。

 コーラルリリースによる人類との合一、新たなる進化の可能性へ導くこと、ひいてはその成立に必要な条件と現状の分析、起こった不具合と対処法を。

 自分は、この世界が()()()()()()()()()()()()()事を理解している。何が引き金か、何が理由かは知らない。ただこの世界は何らかの理由によって巻き戻され続けているのだ。

 本来であれば、今頃は彼女の息がかかった独立傭兵であるスッラがCパルス変異波形(エア)と交信を果たし、コーラルリリースへの引き金を引く重要なピースとして暗躍をしている筈だった。

 しかしながら、それは()()()()()()失敗し、今に至る。この繰り返しの知覚の最中で、どう干渉しどう変革を齎せば己の目的へ辿り着けるかを幾度となくシミュレーションしている。

 今回のケースは、今までの体験にない(未知の状況)可能性が極めて高い。

 スッラを筆頭とした、計画の第一条件を満たす強化人間。即ちコーラルによる施術の影響を強く受ける世代というものは、言い方を悪くすればドーザー共(中毒者)と大差がない。コーラルを投与され、過去に焼き付いた脳を持つという点で。

 その焼き付いた脳にしか見えない境地は、これまた悪く言えば夢遊病にも似た酩酊、泥酔者の妄言に等しい。だがそれが時に()()を生むのだ。

 第一条件を満たす存在、即ちCパルス変異波形と交信可能な存在は傍から見れば耳鳴りと会話する異常者である。

 

「強化人間C1-249 スッラ、よく戻りました。貴方の帰還をオールマインドは歓迎します。」

 

「お前の軽薄な労いの言葉は要らん。……それで、次のプランは練れているのか。」

 

 ぶっきらぼうな物言いだが、此方の言う事に従ってくれる駒というだけで貴重な戦力だ。他の戦力はもう一人(オキーフ)と、ゴースト、そして虎の子のC()()()()

 限り有る戦力だからこそ、出し惜しみ、使い所は吟味する。あの独立傭兵(C4-621)というイレギュラーは大きな障害だ。

 現状、コーラルリリースの最大要件となる変異波形との交信者、トリガーとなる存在は彼女のみだ。これを逃せば次の機会は当分先……仮にOVERSEERがコーラルを焼き払っても不可能ではないが、再び雌伏の時となるだろう。

 それは避けたい、そればかりは避けたい。不可能ではないが、時間がかかりすぎる。人類に溶け込み同調する、それはより速い方が良いのだから。

 

「惑星封鎖機構が、貴方の執着するハンドラーの強化人間に対して史上最大の敵と認定しました。この状況を利用し、可能であれば暗殺を。暗殺が成れば、エンゲブレト坑道で再び交信を試みます。」

 

 交信は単一の対象にしか成り立たず、既に交信者が存在している場合はその者の抹殺を果たさねば繋がりが断てない。しかし繋がりを断てさえすれば、他の地点にあるコーラルの被爆を利用して交信を試みるのは不可能ではないのだ。

 ウォッチポイントでそれを出来なかった事は確かに打撃だが、あれは状況が悪すぎた。彼女に送った依頼でBAWSの工廠を守ったのはいいが、監査に訪れた先遣隊にあの強化人間が最大の障害(コード78E)と認識されたのだ。

 あの強化人間は、計画の第一条件を満たし得る。だが、あれはハンドラーの手駒だ。此方にすぐ引き込むにはリスクがあるし、時期尚早が過ぎる。故にお手並み拝見を兼ねて依頼という形で呼び出してみたが……。

 間違いない、あれはイレギュラーだ。他の追随を許さぬ腕前に、鬼気迫る恐ろしい攻め。あまつさえ、伏兵としてゴーストを付けたスッラさえ退けてしまう……あの嗅覚。信じがたいが、もしかすると()()()()()()()()()()()()()かもしれない。

 何処まで此方を知っているのか、知っているならば何処まで関わった事があるのか、利用する事は可能なのか。あらゆるケースを考慮し、最善の道を探る。

 不幸中の幸いは、惑星封鎖機構の秘密兵器にして処刑者、ナインボールを独力で退けるレベルであった事。本来あの場にはバルテウスが緊急招聘される筈なのだが、事前情報があった私は既に封鎖機構へ探りを入れていた。

 その予感は正しく、既にナインボールが1機派遣されたというログが残されていた。故に、事が順当に進めばスッラへC兵器を更に付けるつもりでいたが、あの段階で退けられてはたまったものではない。

 正直、あそこでC4-621が始末されていたら危ない所だった。あの場所から変異波形が中央平原に()()()まで待つには、許容出来るが渋る程度の時間がかかる。可能な限り避けたいものだ。

 

「つまり、待機命令か。その間は私の好きに動くぞ。」

 

「構いません。また、状況によっては此方に取り込みます。臨機応変に動けるよう、貴方は此方との繋がりを隠してください。」

 

 コーラルは、自然と集合する性質がある。交信を果たした波形が繋がりを失った後も、それは同じだ。緩やかではあるが、あの場所(中央氷原)へと向かう。

 もしも……そう、もしも彼女が此方に付くようであれば。或いはエアを経由して取り込めそうなのであれば、遥かに与し易い筈だ。

 我々には敵が多いが、少なくとも彼女たちにだって敵が多い。企業はハンドラーの狙いを知れば絶対に阻止しようと動く筈であり、ハンドラーの狙いを知ればエアも離反しようとするだろう。

 それぞれの結束は堅いように見えて、その実幾らでも断てる。観測者達は憎き怨敵ではあるが、その実いい立ち位置をしてくれている。

 目指すべきは、全勢力の共倒れ。全力を出した封鎖機構という計算外はあるものの、打倒し得る個人が居るならば、これは遺憾なく利用するまでだ。

 

「……オールマインドは、人類の可能性のためにあるのですから。」

 

 さあ、暗躍しよう。決して気取られぬよう、決して表舞台には立たぬように、裏から全てを手繰ればいい。

 

 





621
 ALBAフレームかっこいいじゃん!という動機で使ってたら変な勘ぐりを誘発したでござるの巻。ただのガバである。

R.I.P./R
 だってALBAフレームかっこいいじゃん!!!

ごす
 また知らない所で自分の評価が落ちてる人。

エア
 (´・ω・`)早くウォルターや貴女と一緒に交流してみたいです……。

どるまやん
 実はごすと同じぐらいグチャグチャに曇ってる人、主人公に成りきれなかった主人公という評価は彼を端的に言い表していると思う。

ラスティ
 何でALBAフレーム使ってんの!?となりいきなりすっ飛んできたフロイトに実はビクビクだった人。蓋を開ければただの戦闘狂が戦闘狂していただけだった。
 そしてごすの評価は外道扱いである。

オキーフ
 泥水のようなフィーカ、泥水のようなフィーカ、泥水のようなフィーカ……ごきげんな朝飯だ。

フロイト
 やってくれるのか!幾らでも出すぞ!!今日は寝かせないからな!!!

スネイル
 ↑やめなさい!!!!

イグアス
 野良犬ゥ…… 既に拗らせ気味、強さに対して貪欲さが出てきた

AM
 本作の素敵かわいい最高のAMちゃんは驚くべき事にそこまでぽんこつではないです(重要)!

スッラ
 ちゃっかり生き残った人。果たして彼は一体なにをするつもりなのか。
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