スゲーッ爽やかな気分だぜ、書きたかった与太話パートを書いた時の正月元旦の朝のよーによォ~~~~~!
所謂日常パートってやつ。
※注意書きにあった人を選びそうなキャラ付けが大爆発します、そういうのが苦手な人はこの話だけ見なかったことにしてください。※
お風呂回が含まれます。
これでCHAPTER1はいよいよ最終回です。
「621、今日は休みにするぞ。」
「ぅえ?……やす、み。」
突然ウォルターから告げられた、やる事なし宣言。現在あれこれとやるべき事、想定される事態、そういったものについて考えている矢先の出来事だ。
いや、よく考えずとも当然の話だった。内面的には一切問題はないものの、表向きはつい昨日に致死量に等しいコーラル被爆をしでかした重病人、というか根本的に要介護なのだ。
容態そのものは安定しているが、普通に考えて予断を許さない状況下。そりゃ休みにもなるかと思い直す。
……いや、困った。どうしよう、そう言われると何するべきか分からないのだが。
「……やすみ。」
反芻するように口にして、考える。人生を買い戻した自分ならまだしも、
とりあえず、だ。現状整理として、味覚ほぼなし。何なら消化器関連が脆弱なので生命維持用の、食事と呼ぶには今ひとつ微妙なものや点滴ぐらいしか接種不可能。食事を楽しむという路線は消滅。
触覚、微妙。流石にこう、積み木でどうこうという内面はしていない。確かに私はまだまだ子供なのだが、そこまで子供じゃないやい。全部
絵を描く……とか、そういう技量はない。というか、手がぷるぷるしてマトモに線が引けないし、今更人の手で絵を描くというのは嗜みとかそういう範疇だ。悲しいことに、私の絵心は
散歩、行ける所が少なすぎる。現状はどの組織にも身を寄せておらず、気軽に遊びに行くような真似は出来ない。というか、そもそも点滴台を支えにしつつ、更に誰かに支えられながらよたよたふらふらと歩き回るのもおっかないし、あまりよろしくない。リハビリするのは悪くないだろうが……それ全然楽しくない、ボツ。
成る程困ったな、全然やれる事がないぞ。
「うぉるたぁ……なにも、おもいつかない……。」
「何……?……そう、か。なら医療用装置で休眠状態に入れ……いや、それは酷だな……。」
自分の返答に対して、困ったような顔をしながら悩みだすウォルター。確かに重病人である私を治療するつもりなら、緊急用の医療装置に入れられて休眠状態で放置するのが一番である。しかしながら、昨今はずっと働き詰めである為か、真面目に休養を取らせるべきと考え込んでいる様子。
自分としては、別に働きっぱなしでも一切構わないというか、寧ろ目的の為には休んでいるより働きたいぐらいなのだが……。まあ、そこで休ませようと慮るのがウォルターのいい所だ、好き。
『そういえばレイヴン、貴女宛のメッセージが何やら大量に溜まっているようなのですが……。』
言われて思い出した、
私の知る彼でも、此処まで酷くはなかった筈なのだが。一体どうしてこうなった。しかも丁寧にお詫びのメールまで送付されてくるのだからたまったものではない。しかもテンプレで。フロイトからの鬼メールは毎回創意工夫のある誘い文句なせいで、淡々とした定型文しかないペイターからのお詫び通知が実にシュールだ。
いや、笑い事ではない。これだけ大量に送りつけられると、他のメッセージが確認しにくいのだ。なので迷惑メッセージ送りにした。
『……。波形から察するに、あまり好ましくな―――……。』
内容を確認でもしたのか、エアが絶句した。そうなるよね、うん。
『様子のおかしい人です。』
うん、わかる。
……いや、ちょっと待てよ。そうだ、そうだそうだ丁度いいじゃあないか、あるじゃあないか、
「ね、うぉる、たー。おねがい……して、いーい?」
首を僅かに傾けながら、上目遣いにウォルターへと尋ねる。あまりにもあんまりな要求以外を突っぱねられないと分かってはいるが、ちゃんと聞くのは大事だ。
「何だ、621。何かやりたい事があるのか?」
────────────
「ようこそお越し下さいました。この度は我がヴェスパー部隊第一隊長の非常識極まりない、呆れる程の誘致のメッセージに応じて頂き、誠にありがとうございます。直接の対面はこれで初めてなので、改めて。アーキバスグループ傭兵起用担当、ペイターと申します。」
ナチュラルボーン失礼な発言を早々にかましながら、此方に挨拶をしてきたのはペイターだった。見た目は仕事のできる青年といった所なのだが、この顔からストレートな物言いが連発されると結構シュールだ。
「いやぁ、ペイター君がいきなり失敬。同じくアーキバスグループのヴェスパー部隊、
『レイヴン、二人の情報照会が完了しました。どうやら嘘偽りはないようです。』
その隣に立つのは、朗らかな印象を抱かせる男性、ホーキンス。この人は紛れもない人格者だし、大胆不敵でとても優しかったのをよく覚えている。何というか、
今回はウォルターに頼み込んで、ヴェスパー部隊の駐屯地まで遊びに行かせて貰っている。理由は主に
ナインボールという、全く前例のない脅威が今後も襲いかかってくる危険がある。初回は辛くも勝利を収める事が出来たものの、あまりにも生きた心地がしなかった。ならばどうするべきかは一つ。もっと強くなればいい。
だが、問題は手段だ。強くなるには勿論、弱い相手と戦っても仕方がない。しかしながら、人の介在しない仮想戦闘であるアリーナで戦うのは実践と違って明確にパターンがある。
となれば見知らぬ強者と戦えるかもしれないNESTに籠もるのも悪くないかと思えば、これも違う。あれには
玉石混交、その中でも特上の強者と戦える機会は間違いなくある。だが、延々と付き合ってくれる事は稀で、そこに辿り着く確証もなく、案外この手段は非効率なのだ。気分転換には良いのだが、今は兎に角早く強くなる必要があった。
そこで白羽の矢が立ったのが、
「こちらこそ、知己を得て光栄だ。既に存じ上げているかもしれないが、ハンドラー・ウォルターと……ほら、前に出て挨拶するといい。」
ウォルターの半歩後ろで点滴台を支えにしながら、そっと支えられて隠れていた所を前に差し出される。隠れっぱなしなのは失礼ではある。
ゆっくり、転んだりつんのめったりしないようにしながらウォルターの横に並び、二人を見る。
「ぁい。……レイ……ぶ、う゛……。ろくにぃいち、です。」
『私はルビコニアンのエアです。』
……全然発声できなかった。発声補助の機械は、飽く迄も私が発しようとする声帯の補助をするものであって、完全には置換しない。これは将来的に人生を買い戻した時の差異を減らすための作りで、言葉を出すのは私自身の呂律に大きく影響されるのだ。ぐ、ぐぬぬ。
それとエア、あなた当然のように自己紹介してるけど私以外に聞こえないんだから、何やってんの。エア用の交流端末と義体の用意はまだまだ先って言ってるじゃん。
『……。何となく貴女の考えている事が分かる気がしますが、い、いいじゃないですか。今からその日に備えて練習という事にさせてください。』
私、練習に強制的に付き合わされるんですけど。拒否権ないんですけど。……い、いーけどさ、エアなら。んもー。
「……。強化人間C4-621、独立傭兵としての名前はレイヴンだ。この子の名前はどちらを呼んでもいい、呼びやすい方で呼んであげてくれ。」
手振りで私を二人に紹介し、自己紹介が出来た事を褒めるように頭を撫でてくれる。しわしわの手だけれど、この手に触れられる事、撫でられる事は何よりも幸せだ。
思わず頭を此方から擦り付け、目を細める。触覚は薄いのだが、少なくともあなたの手の温もりを感じられる程度には残っているのはこれ以上無い程の幸運と言えよう。
「噛み噛みすぎで言えていませんでしたね。そうやってハンドラーに甘える様は実に子供っぽくて、戦闘での強さに対してあざといぐらいのギャップを感じます。ひょっとして無意識なのでしょうか?……では、私からはレイヴンと。」
うわ出た直球ノンデリ。全部本音なんだろうけど、本音でしか喋れないって大変そう。……あ、あざとくないし、これ素なんだし、どうしようもないし。やんのかこのやろ。
『この男性、失礼な物言いですね。様子のおかしい人です。ひょっとして、強化人間の施術が影響を及ぼしているのでしょうか。』
「こらペイター君、デリカシーが無いぞ。ははは……本当にすまないね、これが彼の素なんだ。お目溢しして頂けると助かるよ、レイヴンちゃん。お詫びに飴いるかい?」
そうなんですよホーキンスさん、この電波に言ってあげてください、彼のこれ素なんだって。というか、フォローで飴を差し出してくれる辺り、やっぱりこの人はいい人だなぁ。食べられないんだけど。
「お気遣い痛み入るが、621は生憎多くの機能が死んでしまっている……味覚もなければ消化器官も弱い。すまないが、不要だ。気持ちだけ有り難く受け取ろう。」
私が事情あって食べられないのだという注釈を入れてから、断りを入れてくれる。買い戻した後なら是非とも食べたいのに、ぐ、ぐぐぐぐぐ……。
我慢だ、我慢。いつか絶対食べてやる。
「おっと……こりゃ悪いことをしてしまったな、すまない。おじさん知らなかったんだ、ごめんね?レイヴンちゃん。」
「ぅい。いーよ、ほぉきんす、おじちゃん。ありがと。」
此方を慮って、立場を顧みる事もなくしっかり頭を下げてくれる。その後ウインクしながらもおどけて見せ、此方を和ませようともする。気配り上手でフォロー上手、なんでこの人ヴェスパーにいるんだろ。
びっくりするぐらい
「ちゃんとお礼も言えるなんて、偉い子だねぇ。……っと、いけないな、ここで長々と話し込んでいてはフロイト君が待ちくたびれてまたスパムメール男になってしまうぞ。ペイター君、二人をシミュレーションルームまで案内してあげなさい。」
「はっ、了解しました第五隊長殿。それでは御二方、後ろに付いてきてください。スパムメール男の第一隊長殿の所までご案内します。」
本当に口が減らないなあペイター君……。
広大なヴェスパーの基地内を案内された先は、シミュレーションルーム。ACを駆る者達が自身の腕前を競う為、性能をエミュレートする為、或いは気晴らしや賭け事のために用いられる。アリーナやNESTもこれを利用しているとか。
この設備の重要な点は、
こんな超性能設備、さぞお高いのだろうと思うが、その通りだ。結構馬鹿にならない
何故折角のシミュレーションなのに、どうせなら持っていない武装まで使えるようになっていないのかと言えば、珍しく各企業が協働開発した際の合意として、自社製品をちゃんと買ってもらう為……だそうだ。何てこすいんだろう、銭ゲバ共め。
とは言え実物のAC同士を持ち込んでかち合わせるような訓練よりは遥かに安くつくので、今に至るまで様々な場所と企業で用いられている傑作、なのだとか。随分と前にものすごい渋々説明してくれたスネイルがそう言っていた。
まあ、普通に考えて訓練のためにACをぶつけ、弾代をバリバリと使い、最悪機体が御釈迦、もっと悪ければ死亡なんて笑える話ではない。武器やフレームの実物テストならまだしも、だ。
無論、一部の酔狂な者達は未だにそういった訓練をしたり、設備を整える金もないような極貧生活者は利用していなかったりするのだが、それは私達とは無縁の話だ。
「待ちかねたぞウォルターの猟犬、さあやろう、今すぐやろう。どういうプレイがいい?オプションは何処まで付ける?お前の好きにしていいぞ、選んでくれ、待ちきれない。」
入室するなり猛烈な勢いで迫ってきては、一方的に自分の要件を淡々と述べて待ちかねているのを隠そうとしない。そうやって、此方に話しかけてきた。そう、
『……。レイヴン、これが本当にヴェスパー部隊のエース……なのですか?私は何だか混乱してきました……。』
落ち着いてほしい、これが彼の素だ。混乱する気持ちも分かる、分かるけど慣れてほしい、慣れるしかないので。
「こらフロイト君、その物言いはちょっと語弊がありすぎるぞ!それと君が話しかけているのはレイヴンちゃんのハンドラーで、君が待ち望んでいるのはこっち!こっちがレイヴンちゃんだぞ!」
「……。お初にお目にかかる。
人格者二人がフロイトを静止し、諫める。ああうん、わかる。初対面の時もまさか私がレイヴンだと思わなかったせいで、こういう誤解があったなー、うん。
六文銭曰く、こういうのは"天丼"と言うらしい。あの甘くておいしいどんぶりだ。……あー、空かない筈のおなかが空いた気がする。たべたい……。
「言葉尻だけ狩ると、まるで風俗嬢を待ちかねている気持ち悪いオジサンのような物言いですね、ここが法治国家であれば事案で現行犯逮捕ですよ第一隊長殿。戦い以外に何も考える事が無さそうで、羨ましい限りです。」
「ペイター君、いつもの事だけれど君は本当にズバズバ言うね……いいかい、絶対にスネイル閣下の前で言っちゃだめだぞ?あの人すぐ怒るからね?」
「はっ、了解です第五隊長殿。可能な限り口に封をしておきます。」
「……そうか。成る程、そういう受け取り方もあるのか。悪いなウォルターの猟犬、戦場での立ち振舞から老練な傭兵かと思ったが……まさかこんな子供がああも苛烈な戦いを見せるとは。お前、凄いな。」
訂正を受けて此方に向けてくる視線は、決して奇異の視線ではない。私のような子供が精強なAC乗りである事に対する、尊敬と尊重、そして強い関心と歓心。また、隠しきれない
彼はいつだって、変わらずにこうだ。戦う相手を見た目や境遇で区別せず、ただ強さに対する純然たる畏敬を以て接するのみ。
『れ、レイヴン……わた、私は……この人の事が全くわかりません……。一体何なのでしょうか……。』
うん、そうなる気持ちは分かる。分かるよ、慣れようね。
「ん……いーよ、ぜんぜん。ふろいと、そーゆーひと、しってる。……じゃ、
「望む所だ。あの戦場で見せたロックスミスとは違う事を、お前に見せたくて仕方がなかったんだ。」
「621、ヴェスパーのエースにお前の価値を示してやれ。」
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人の口に戸は立てられない、とは日本という国に伝わる諺でも有名なものだ。この言葉が示す所は、秘密だろうが何だろうが、噂となったものは爆発的に広がってゆくという事実。
フロイトが今現在、
そんな彼が今日、驚くほどに意気揚々とシミュレーションルームで待ち人に焦がれているという事で噂になっている。
戦う事以外に興味を微塵も持たない、スネイルに胃痛の種を執拗にばら撒く、ずっこけコンビのあのフロイトが……と。噂にならない筈もないのだ。
既に蔓延した話には、可笑しな尾ひれまで付随している。やれ"あの第一隊長が恋をした"だの、やれ"第一隊長がデートする"だのの頭に花が咲いたようなものにすら発展する始末。
聞いた時は、思わずオキーフから差し入れられたフィーカを吹き出してしまった。だが、私自身は
あれは
「鬼が出るか蛇が出るか……日本の諺はウィットに富んだものが多いな、果たしてどちらだ……?」
既に話を聞きつけた野次馬共で賑わっているシミュレーションルームへと足を運び、中へと入ってゆく。
そこに広がっていたのは―――
「おや、ラスティ君も来たのかい。いらっしゃい、今すごい事になっているよぉ。君も賭けていくかい?はいこれ
此方に気付いた
実力と相性の知れ渡っている隊員同士の賭けというのは、かなりタイトであり、良く言えば膠着した、悪く言えば煮詰まっていて面白みのない状態だ。特にその実力の程が知れている第一隊長、フロイトが相手だと賭けとして成立しない。
だが、今この状況というのは―――
「
「見ていれば分かるよ、特に
「や、やめっ!助け……ど、独立傭兵!これ以上勝たないで―――おああぁーーーっ!!??」
観覧用のモニターに目をやれば、今正に戦友の愛機、暗く淀んだ鉄紺の機体がフロイトのロックスミスを粉砕した所が映し出されていた。
その場面にある者は感嘆を、ある者は絶叫を、ある者は畏怖を、ある者は歓声を上げた。そして私は、息を呑んだ。
一段と、圧を増している。何かを背負った者でなければ出せない圧がそこにはあった。
「これで8戦8勝、見事に負け越していますね、第一隊長殿。エースの座が泣いて詫びる惨状です。」
「言ってやるなペイター……寧ろフロイトは楽しそうにしている、それに回を重ねる事に食らいつくようになっているじゃないか。フィーカでも飲みながら称賛してやれ、我々では足元にも及ばないだろう。」
何とも見事な大観戦となっており、誰もが二人の戦いに目を奪われている。納得だ、こんな戦いが見られる機会など、他に無いだろう。
私自身、次に始まる戦いに視線を釘付けにされている。何方がどう動いて、何をしでかすのか。今からどのような機体を組み上げ、どう切り結ぶというのかを。
「ホーキンス、私は勿論戦友に賭ける。これでいいか。」
そして思わず、手持ちの
「おっ、珍しいね……ラスティ君がこんな俗っぽい賭け事に参加するのは。しかも全額かい?大きく出たねぇ~。ま、私も賭けちゃうんだが。」
「こ、今度こそ!今度こそフロイト第一隊長殿が勝利する筈だ!わ、私は会計責任者……こ、これ以上負けてしまうと……ひぃぃっ!」
そう言って、戦闘開始までに各々が、思い思いの相手に賭けてゆく。掛け金は見る見るうちに膨れ上がり、再び戦闘が開始される。
賭けの倍率はどんどん戦友に比重が置かれるものの、ここはヴェスパーの本拠地。フロイトの勝利を疑わない派閥もまた多くいるので賭けはしっかりと成立している。
「そんなに負けているなら賭けるのを止めては如何ですか、スウィンバーン。私は参加しませんよ、この戦いを純粋に糧とします。」
一方、つんと澄ました顔で壁に寄りかかっている
賭けに溺れるよりはよっぽど健全でいい、というか彼女らしい厳格な姿勢だ。事実、二人の戦いは正に頂点同士の勝負であり、得られるものも多いだろう。
あの時の戦いは、重厚な作りとはいえ量産兵器を相手取って、しかも3対1の状況下だった。真の実力など伺いようもないのだが、改めて理解させられる。
「……遠いな、君の背は。」
何と遥か高みへと飛翔しているのだろうか。私があのように高く舞えるならば、ルビコンの焼けた空に希望の夜明けを齎す事は叶うだろうか。
そう思わずにはいられない、果てしのない強さだ。
フロイトはよくやっている、あの手この手、あらゆる武器と手段を以て戦友の攻め手と守りを掻い潜らんとしているが、それ以上の精度で先の先と後の先を取られ続けている。
そんな錯覚さえも覚える。理由のない強さでは、こうはいかない。
『まだだ、ロックスミス!ここからもっと、面白くしてやる……!』
しかし、フロイトも伊達にV.Ⅰを背負ってはいない。ようやっと戦友の動きに適応してきたのか、その計算を上回る動きをやってのけた。
懐に潜り込み、お得意の
『なっ―――
その更に一手先を行くのが戦友。恐らく
「おああぁーーーっ!!??」
『もう終わりか……やはり、面白い……!』
そんな負け方をして再びスウィンバーンが絶叫。一方フロイトは声色から察するに、貪欲なまでにこの戦いを楽しんでいた。
「……。621はヴェスパーの賭博対象ではないのだがな。」
そんな我々をよそに、見慣れない老境の男性が重々しく呟いていた。
────────────
長らく対戦を繰り返し、最終的に戦友とフロイトの勝敗は9:1で圧倒的に戦友が勝っており、大盛りあがりを聞きつけて喝を入れに来たスネイルに、負けが込んで大変になったスウィンバーンごと大半の隊員が引き払う事となった。
後半からのフロイトの追い上げは凄まじく、何度もギリギリまで食らいつくようになっているのを見て幾度となく歓声が上がり、何度も賭けた者達の胃を揺らし、健闘を称えて喝采と共に幕を閉じたのだ。実際、私であれば
ここに残っているのは、案内役を務めていたというペイター、その補佐のホーキンス、対戦相手のフロイト、悪名高きハンドラー、戦友、そしてこの私だけだ。
「……まさか戦友が、このような……可憐な少女だったとはな。君を尊敬するよ。」
私はその正体を、絶対に一目見るべきだと思って居残っていた。幸いにも本日の業務はとっくに片付けており、ガヤとして参加した連中と違ってスネイルからお叱りを受ける事はなかった。
それと同時に、最悪の想像が現実として突きつけられている事に膝が崩れ落ちそうだった。機械補助があるとは言え、その声色から少女だろうと思ってはいたが―――まさか、まさか。
施術成功とは言い難いような、悲惨な状態の、言ってしまえば処分品ものの旧世代型強化人間だとは思ってもみなかった。そして、最悪な事にその齢は10代前後だという。
恐ろしく、悍ましい。この小さな身にそれ程の強さを背負わなければならなかった背景と、それを振るうべき背景を持ち合わせている事。戦友の……いや、彼女の抱える内に秘められた感情と、それを踏みにじって強制するハンドラーの外道っぷりに打ち震える思いだ。
同時に一つ、強く疑問に思う事実が私に突きつけられていた。
「ううん。わたし、らすちぃーの、せんゆー。だから、いままでどーりで、いーよ。」
この少女は、私に対して一定以上の親愛を向けているのだ。自惚れでもない、冗談でもない。このラスティが女性からの感情を読み違えるような失態は決してない、そう自負している。
自負しているからこそ、不可解だ。ただ一度肩を並べただけの戦友に、果たしてこれだけの親愛を抱くのか?私が抱く感情の理由以上に、何が彼女をそうさせるというのか?
理解を拒む事態の連続に、私はただ現実逃避をするかのようにして、憎き
「そう、か……。君がそう望むのならば、私も……今まで通り君に接するとしよう、戦友。これからもよろしく頼む。」
表面上は体裁を保ちつつ、心穏やかではいられない。いられるものか、いられてたまるか。
こんな弱々しく儚い少女が、ルビコンのように未来奪われ搾取された少女が、何故戦場に立たねばならない?何故これだけの強さを求めねばならなかったのだ?
ぐつぐつと煮え滾るような怒りが、やり切れない現実への義憤が底冷えする程に湧き上がってくる。この世界は、狂っていると。
しかし、不意に私の袖口が小さな手にきゅっと引かれた。
「……らすてぃー、わたしのうぉるたーは、わるいこと、してない。わたし、うぉるたーのこと……だいすき。だから、そんなめ……むけちゃ、やだ。」
はっと我に返り、思わず己の頬に手が触れた。自分は、それ程までに分かりやすい感情を向けていたのか?
何より、だ。この純真無垢な少女が、自分からハンドラーを庇ったと?
馬鹿な。まさか、ここまで根深く洗脳を
「せんのーも、されて、ない。……いじわる、しないで……。」
思考の先を潰すような言葉と、彼女の目尻に溜まった涙に心が穿たれる。
……そんな、ことが。あって……いい、のか……。わ、私は……誤解を?は、ハンドラーは……外道、ではない?この、少女は……。
「……ラスティと言ったか。うちの621をあまり虐めないでやってくれ、こいつはお前の事を、特段慕っているようだ……。俺を悪く思うのは幾らでも構わんが、あまり621に意地悪をされれば……俺にも考えがある。」
まるで父親のような事を、言ってのけられた……。この、声色には……た、確かに、娘へと向けるような……本物の情が、滲んで……?
……私の、見る目が鈍っていた、曇っていた……。
「……す、すま、ない。私とした、ことが……取り返しがつかない失礼を……。お、御二方に、何と詫びれば……。」
頭が割られるようだ。痛い、痛い、こんなにも痛い。心が、信じていた筈の……いや、盲信していた偽りの事実に、何もかも砕かれる。
だったら、だから……君は、こんなにも強いのか……。届きそうにない、訳だ……。
「グス……ん、……も、いじわる……しちゃだめだから。……ヒック。」
「第四隊長殿が賓客に対して不躾な視線を向けた挙げ句、いたいけな少女を泣かせるに至るとは。紳士的な男性としてヴェスパー内部でも高い支持を集めるあなたがこのような失態を晒したと知れ渡った時の女性陣の反応が気になる所ですね。」
「は~~~っ。あのねペイター君……そういうのはね?もうちょっとこう、空気を読んで言うべきじゃあないんだよ?なんかこう……今言っちゃあ駄目でしょうが……。ほ、本当に申し訳ないねうちのペイター君が、二人にはどうお詫びをすればいいか……。君、ヴェスパーに入隊したかったら、いつでも言ってくれていいからね。ペイター君よりよっぽど高待遇で迎え入れると私が約束しよう。」
「……いいんだ。621が許すならば、俺は追及したりはしない。そう堅くならないでくれ。今日は……得難い体験だった。」
……今日ばっかりは、ペイターの空気を微塵も読まずにぶち壊す無神経な発言に感謝を述べたい。この発言がなければ平静は取り戻せなかっただろう。
そして強かな勧誘をかましているホーキンスに、思わず突っ込みの一つでも入れたくなってしまった。この御仁は抜け目がないな。
「ん……たのしかった。おじちゃん、ぺいたくん、らすてぃ、またね。」
そう言って、短く手を振り、二人は基地から立ち去っていった。
「……いやぁ、本当に凄かったね、あの二人。冗談じゃなくて、うちに来てくれないかなぁ。」
「無理でしょう、第五隊長殿。あのスパムメール連打男とそこの少女を泣かせる悪い狼が居るヴェスパーなんて、仮に私が彼女の立場であれば願い下げです。」
「ははは……手厳しいなペイター、返す言葉もないとはこの事か。」
────────────
621たっての願いで、今日という一日をヴェスパーのお膝元であるルビコン3のアーキバス支部へ訪れ、第一隊長と延々対戦を繰り返す日々がようやく終わった。
二人共、何処にそんなアイデアと体力と気力があるのかも分からないほどに熱中していたが、これが621にとって良い刺激になれば……そう思いながら、泡だった頭に優しく手櫛を通してゆく。
「痒い所はないか、621。」
バイタルが安定しているという事で、今日は621を風呂に入れてやるという約束になっていた。一人で入る事が困難な621は、俺の手で世話をしてやる必要がある。
こうして触れていると、余りにもか細く弱々しく、薄く小さく可憐な身体をしている。握れば折れる、触れれば傷つける。そんな危険さえも想像せずにはいられない。
実際、廃棄寸前ではあったものの外見はそれなりに整っている621は……最悪の想像になるが、
嫌な思考を払拭しながら、優しく優しく、丁寧に頭や身体を洗ってやる。
「んぅ~……ふにゃぁ~……きもちぃ、うぉるたぁ、もっと……。」
心底リラックスした猫撫で声で、洗う手を受け入れてくれる。最初は力加減を誤りそうになり、物凄く慌てたのも懐かしい話だ。
こうして触れ合っていると、まるで親と娘のような間柄になっている錯覚さえも覚える。無論、俺のような畜生がそのような立場であっていい筈もないが。
立ち去り際に、ラスティと呼ばれた男から向けられた底なしの憎悪と敵意は、ご尤もだ。俺のような腐れ外道は、とっとと地獄に堕ちるべき。そう言わんばかりの視線だった。
返す言葉もない、言い返す必要もない。今こうして、621に優しくしているのも……せめて、せめてこれぐらいは叶えられなければ、何一つ顔向け出来ない。
「流すぞ、目を瞑れ。」
「あぶぶぶぶ……。ぅぇ~……せっけんあじ……。」
色素の抜けた綺麗な髪を軽く絞ってやり、優しく抱えて湯船に共に入る。一人で入るよりも、何故か621は俺の身体に背を預けるのが好きだと言い張り、一緒じゃないと嫌だと言って憚らない。
「ふへぇ~……えへへぇ~……うぉる、たー。あったかい、ね。」
「……ああ。」
心底落ち着いてる事が、その声と表情からも伝わってくる。こんな愚かな男の、何処に安心してくれるというのだ。お前を地獄に連れ添う、悪魔のような男だというのに。
だが、だが―――仮に、もしも仮にだが……。
俺が、お前と本当に……全てを終わらせて、一緒に生きていく事が叶うならば……。
親子のように、お前の事を愛してやりたいと……やはり心底、願っているのも事実だ……。
それだけは……偽りのない、真実なのだ―――
621
ナインボー相手に危機感を覚えたため、休日を利用して都合よくアホほどスパムメールを送り付けてくるフロイトを体よく利用してスパーリングを敢行。
結果としてものすごい勢いで経験を重ね、621の進化は加速する……止まらない!
なお、ラスティがごすに対してガチの敵意殺意悪意を向けていたため思わずガチ泣きしかけた。
ごす
いたいけな幼女を誑し込む罪な男。何もしなくても勝手に曇って何もしなくても勝手に悪評が独り歩きし……あれ、ラスティからは悪評じゃなく、なっている……!?
エア
私はもうよくわかりません……。
ふぅ……。
スネイル
勝手に模擬対戦を成立させた挙げ句、部隊の大多数が二人の賭けに没頭したので怒りのあまりメガネが割れた。
無茶苦茶に負けた会計責任者を再教育センターに叩き込んでやろうか検討中。
フィーカマン
泥水のようなフィーカを飲みながらご機嫌な観戦をしていた、途中からレイヴン優勢とみてプライドもへったくれも無く賭けの対象を変えたのでボロ勝ち。この後解放戦線に仕送りする。
実は作者お気に入りの男その1
あの現状無敗でくそ強い621を泣かせた誉ある狼男。女を見る目が確かなのでハンドラーが外道ではないと理解し、戦友の事をしっかり目撃しバッキバキのベッキベキに曇り中。
なお賭けはボロ勝ちした、この後解放戦線に仕送りする。
ホーキンス
ど聖人、気のいいおじさん。621からの評価もほとんど最高レベル。強かに勧誘を差し込んだり餌付けしたり、それなりの打算混じりで行動している抜け目ない人。当然ながら賭けは大勝している。
実は作者お気に入りの男その2
メーテルリンク
ど真面目ちゃん。二人の戦いから学ぶことは多かった。スネイル閣下にどやされた時の目つきがちょっとアヤシイ。
スウィンバーン
待っ、た、助け……おああぁーーーっ!!??
ぺい太くん
シリアスブレイカー、空気を読むという言葉が辞書にない男。或いはあるのにも関わらず見なかったことにしている男。
仮想戦闘システム
いや流石に実機持ち込んで万一にも命のやり取りが起こったらやばいっしょ、という事でアリーナやNESTに理屈をつける用に急遽考えた戦闘システム。◯ンダムの戦◯の絆みたいなのをイメージしてください。
企業連中がAC同士の快適な戦闘……というのを口実に、製品テストやらマーケティングをするために珍しく一致団結して開発した背景がある。1クレ10COAM。なお費用は全てスネイル宛で請求された。
これでいよいよもって長かったCHAPTER1が終了、CHAPTER2に続きます!
なんか……どんどん一話あたり……長くなってない……?
ここまで小説をザクザクと執筆できているのは、自分が書きたかったからというのもありますが、ひとえに楽しみにしてくださっている皆様、評価やお気に入り、優しい誤字修正を頂いているおかげです。
これからも精進してゆきますので、どうかちびっこ621共々見守って頂ければ幸いです。