その鴉は賽を砕く   作:HI-32: BU-TT/A

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移設型砲台破壊

 

「不特定多数に向けたばらまき依頼だ、肩慣らしには悪くない。」

 

 この依頼はまず、借り物で売れてすらもいない自分の名を喧伝するための足がかり兼、肩慣らしだ。

 売れてもいない……というと少々語弊がある。繰り返しの際にアリーナのランクを引き継ぐのだが、その順位は当然S。Sなのだが、それでも名は売れていない。

 何故Sランクの名がこうも雑用めいた依頼しか回されていないのだろうか、とさえ思うが、考えすぎて頭が痛くなりそうだったので、いつからか私は気にしない事にした。

 多分、失効しかけのライセンスだから誰も仕事を回さなくなった……程度しかそれっぽい理由が思いつかない。

 

【メインシステム 戦闘モード起動】

 

 とっくに喪失した五感が、鋼鉄の体躯を通して蘇り、馴染む。強化人間故の、文字通りに己の手足の延長線上まで至るこの感覚が私は嫌いではなかった。

 不自由な肉体の代わりに、痛みと熱を感じずに自由に動かせるこの機械を駆る。最初はぎこちなかったそれも、今や完全に思うまま。

 実情は、思うままに動かせなければ死ぬような環境に身を窶していたというのが正しいのだが……それでも、ちゃんと意味を与えてくれたご主人(ウォルター)には感謝している。

 そうでなければ、今の私は何一つとして存在してはいやしない。あなたを助ける為の実力すら、得られていない。

 

 「いく、ね。R.I.P./R。」

 

 R.I.P./R(リップル)、或いはR.I.P./R(Rest In Peace Raven)の名を冠する自身の機体。その所以は、いつかの自分が猟犬である己を棄て逃避した時、自嘲と皮肉を込めて名付けたものがそのまま今も続いている。

 今回の武装はどれもこれも、目的の結末(大切な人を生かす)には関わらない。関わらないからこそ、少し気の毒かもとは思いつつ、全て殺傷目的のもので固めていた。

 効率的に、尚且つ実力を喧伝し、迅速な名声の獲得と、ウォルターの信頼を勝ち取るためのプロセス。これから先の仕事の数々と、自分のしなければならない事に比べれば遥かに肩の力を抜ける戦い。

 だからこそ、神経質にならずに、それでいて気を抜きすぎないように己を試し、馴染ませる。自分ではないが、確かに自分自身から受け継いだ全てを己と摺り合わせる為の第一歩だ。

 

「ミッション開始だ、ルビコン解放戦線の移設型砲台を全て破壊しろ。」

 

 速度重視の逆関節機体が地を蹴って跳ね、その推力を得て急加速する。大地を蹴ったという感覚が、やはり悪くない。今回もきちんと馴染んでいるし、経験はこの身に記憶と共に染み付いた。

 だからこそ、この先で行うのは―――

 

「企業の傭兵が来たぞ!」

 

「もう情報が漏れたのか!?耳聡い奴らめ……!」

 

 先の先を制する蹂躙。通信が聞こえた瞬間には放たれたVE-66LRA(レーザーライフル)がMTを焼き払い、行きがけの駄賃で放たれたVvc-70VPM(垂直プラズマミサイル)が汎用兵器を余さず叩き落とす。

 気が遠くなるような回数を重ねた末、初手のこれは定番化した。これには過度なSランク周回(効率化)も大いに影響しているのだが。

 この仕事は、この武装構築でどの相手もちょうど一発だ。両手両肩、極端に効率化を求めた武装で早急に砲台までブースターを吹かし、まずは最も手近な砲台へと。

 

「見えたな。あれが目標の」

 

 その言葉を口にする間には、既に一つ二つと破壊した後に次の場所へ。

 

「621、まだ砲台が残って……」

 

「だいじょーぶ。」

 

 残り一つと周囲の機体を、ソナーと共に放たれたミサイルが舐め取るように破壊した。

 垂直に放たれるそれは、着弾までやや時間がかかる。代わりに攻撃範囲の広さと数、威力に優れ、普段遣いに極めて適している。

 

「ね。」

 

「……やるな。ここは片付いた。次の地点に向かえ、621。」

 

 見事な手際に一瞬ウォルターが舌を巻くのを感じた。ちょっとうれしい。

 無論、既に次の場所には全速力でブースターを吹かしている。最も敵の手厚い場所に向かいながら、オマケでレーダーに引っ掛かった敵機を殲滅する。

 

「来たな、企業の狗……ぐおっ!?」

 

「どういう事だ、ただの独立傭兵がここまでやるのか!?」

 

「レッドガンでもヴェスパー部隊でもない相手が……奴ら、当たりを引いたのか!」

 

 ……人の事を、そういうくじ引きみたいに言わないでほしい。初週の自分がはずれくじみたいに思えてくるから。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

「目標砲台の全基破壊を確認した。621、仕事は終わりだ……帰投しろ。」

 

 終わってみれば、呆気ない。当然と言えば当然なのだが、傷一つ付かないまま有効射程に入った敵全てを撃墜し、一瞬で仕事を終えたのだから。

 落ち着きのある低い声の裏に、驚きと期待が込められているのを感じる。あなたにそうして思われているのは、とても嬉しいし、重要な事だ。

 これから自分の目的のために、そしてあなたを生かすために……少しの無茶や独断を許容してもらう必要がある。だから、そのための信用の獲得は欠かせない。

 今はまだ、落ち着いていられるだろう。束の間の休息を今は噛み締めておこう。

 

 そう考えながら、初依頼を無事に終えた。

 

 





621
 無茶苦茶周回してトロコンしてるタイプの621。
 五感のほとんどは死んでいるか補助がないと機能しないし、喉は潰れていて機械音声補助で発声している。可能な限り元の声に近いよう調整している、ボ◯スロイド的な。
 そこそこ感情豊かだが、これは内面のみである。幾度となく繰り返した周回のうち、何度かは人生を買い直した事もあり、その名残が少しばかりそうさせているに過ぎない。実際の621ボディは内面の感情表現に表情とか色々ついて行ってない。基本的に無表情寄り。
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