その鴉は賽を砕く   作:HI-32: BU-TT/A

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投稿時期が近いので折角だから季節のネタを拾っちゃおう作戦
CHAPTER終了時恒例の与太話・日常パートだ

本編より長くなったCHAPTER2、これにて終了!
いよいよ中央氷原に到達し、物語はターニングポイント、そして大きな山場を幾つも迎える事となります。
相変わらずリアルが忙しくて不定期気味になりますが、それでもよろしければお付き合いください。
評価・感想・誤字報告はいつも励みになっております、ご友人達。ここまで楽しく書き続けられているのもご友人達のお陰です、これからも精進致します。


DLC2 ドーザー共とチャティと621のハロウィン&海越え・再

 

「あんだァ?お前がボスの客人―――うぉっちっせえ……ガキじゃねえかよ。ホントにこんなんがAC乗りなのかよォ~?」

 

「あぅ……ほっぺ、つつかないで……。」

 

 プニプニと、不躾な指先で頬をつつかれる。既に酩酊状態で、やや呂律の回らない男、彼は"インビンシブル(無敵の)"・ラミーだ。

 現在私は療養と、"海越え"の手段を別口で用意するというカーラの準備完了待ちを兼ねたグリッド居住区画の散策をしていた。

 その途中に会って、ほっぺたをぷにぷにされている。柔らかさには自信があるけれど、そんなにつつかれると困る。

 

「ラミー、ビジターは身体が弱い。あまり乱暴に扱わない方がいい。それと、AC乗りとしての腕前はお前を遥かに凌駕している。俺も太刀打ち出来そうにない。」

 

 キュラキュラ、とキャタピラ音を立てながら動くのは"チャティ(お喋りな)"・スティック。彼は私のお目付け役として、同時に足代わりとしてカーラから預けられている。

 当人のACを模した子供のような背丈の可愛らしいボディは、どうやら普段の生活アシスタント用ボディとのことだ。私はそのボディに運ばれ、生命維持の為の点滴を付けながら一緒にあちこちを回っていた。

 ついでに言うと―――

 

「とりっく、おぁ、とりぃと……おかし、ちょぉだい。」

 

 二人揃って、魔女っぽい感じの帽子を被ったり、それとなく仮装していた。そう、今日はハロウィン……という文化があった日らしい。

 思い思いの仮装をした子供が、お菓子をねだってイタズラを迫る。そんな文化。偶然にも、今日はその当日だった。こうなった経緯なのだが……

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 上層区画がスッラの手によって爆破された直後、帰還してとりあえずRaDで海越えの手段を改めて構築するついでに、顔合わせをしたいとの申し出があった。

 そんな私は、普段通りの輸送用ヘリのハンガー……ではなくグリッド086のハンガーに機体を格納し、カーラの住まう区画まで案内され今に至る。

 

「よく来てくれたね、ビジター!……正直半分ぐらい疑っちゃいたんだが、本当にこんなちみっこいお嬢ちゃんだとはね、私としちゃびっくりだが……改めて名乗ろうか。私がRaDの頭目、"シンダー(灰かぶりの)"・カーラだ。」

 

「RaDの"チャティ"・スティックだ。ボスの話し相手兼、システム担当という事になっている。」

 

『私はルビコニアンのエアです。』

 

 あのその、エア、それ天丼です。私以外に聞こえません。

 

『……。ちょ、ちょっとぐらいいいじゃないですか、レイヴン。練習です、練習……人と接するための練習なんです。』

 

 そっか。……まあ、エアならいいよ、うん。ゆるす。

 

「あぃ、ろくにぃ、いち……です。うぉるたーの、りょーけん。」

 

「……あんた滅茶苦茶呂律回ってないね。その身体を見りゃ大体察しは付くが……流石の私でも同情しちまいそうだ。あんだけウォルターが怒ってたのも頷けるね、こりゃあ……こんな娘に冷たくされたら確かに響くか。

 

 察しの良いカーラは、いつだって私と対面した時に境遇を理解してしまう。無論それだけで矛を収めるような意志薄弱ではなく、それでも尚己の選択を貫かんとする女傑だ。

 だからといって、血も涙も無い極悪人ではない。一人の女性でもあり、ある意味で子を持つ親でもあり、血の通った人間だ。だからこそ、私を見てこうも狼狽える。

 理解出来なくはない。忌憚なき意見を言うと、私は健常とは程遠く、見るからに壊れ物といった所だ。身体は細く貧相で肌は白く、そこかしこに包帯が巻かれ、首元に声帯補助デバイスを埋め込まれ、傷だらけで……。

 寧ろマトモな部分を探す方が簡単だろう。本当に、ウォルターはよくこんな私を拾ってくれたと深々と思うし、感謝しかない。

 

「で、よーけん……て、なぁに?」

 

「あんたの海越えを手伝うっていう話がパアになった件についてさ。想定外があったとはいえ、約束を反故にするのは頭目としての矜持が廃るってもんでね……あんたの飼い主にも話は通しておいたから、愛機ごと預からせて貰って、ちょいと考え事さ。悪いようにはしないから安心しな、ちゃんと向こう側に連れてってやる。」

 

 成る程、既にウォルターには話が行っていると。まあ、結果だけ見てみれば口約束ではあるもののRaDの頭目が約束一つ守れなかったという事にはなっている。面目丸潰れだ。

 そうはいかないという事で、ちゃんと最初の約束を守るという事なのだろう。……な、何故だろう、嫌な予感がするんですけど。

 

「ん。かーら、もうへんなこと、しないで、ね。」

 

「……極力そうするよ。流石に前みたいな真似してグリッドがお釈迦になるのは御免だからね、自業自得だがRaDが火の車になっちまったからもう下手なことはしないさ。ついでにウォルターからはあんたの面倒も見―――」

 

 あれ、おかしいな。なんだかみみがキーンとする。あたま、あつい……なんだろ、くらくらするような。

 ぼーっとする……のど、いたい……。

 

「けふっ、かはっ……んぐ、う゛……あ゛ッ……」

 

『れ、レイヴン!?バイタル数値が乱れて……そ、そんな、一体どうすれば……か、カーラ、レイヴンを―――あ、あぁ……わ、私の声が届かない!』

 

「ビジター!?どうしたんだい、あんた口と鼻から血が……ちょっと熱を―――何だいこれは、排熱中のエネルギー兵器みたいじゃないかい!」

 

「ボス、ビジターのバイタルに異常値が出ている。連日の出撃で負荷がかかっているらしい、無理のし過ぎだ。」

 

 ふたりが、えあがなにかしゃべってる……。なんだろう……わかんない……。あたま、いた……―――

 

 

 

 

 

「で、丸ごと二日は寝込んでたって訳だよ。……あんたねえ、唯でさえそんな元からボロボロの身体なのに、ろくすっぽ調整もしないまま何で連日出撃なんてしたんだい?RaDのシマに偶然強化人間の施術師が居なかったら危なかったんだからね?借金してた野郎だから体よくコッテリ絞れて良かったが。

 

 あの後、私は喀血するわ鼻血が垂れるわ熱が出るわで大変な事になっていたらしい。

 ……確かに、最近は連日出撃続きで休憩らしい休憩は最低限だった。調整に関しては、正直よくわかってないので許して欲しい。下手にいじっておかしなことになったら大変だし。

 それに、心当たりが無いでもない。完全同調中に受けたナインボールの一撃が、今も手に震えとして僅かに残留している。

 同調している間の痛みは、ただの幻痛。実際に肉が切れている訳でも骨が折れる事も皮膚が焼けるような事も無いのだが、その一方で()()()()()()()()()()()は感じる。

 肉体とは不思議なもので、実際には味わってない苦痛でも事実として起こったかのように誤認し、反応する。そしてそれは時に大きな破綻として反映される事もある。

 つまり、私は攻撃を受けすぎたのだ。ううむ、油断も慢心もしていないが……ああいう事が連続してしまうと、流石に大変だ。

 

「ぅ゛……で、でも……おしごと、したほうが……うぉるたー、よろこぶかな……って。」

 

 それはそれとして、二日も寝込んだというのはあまり喜ばしい事ではない。二日も丸ごと無駄にしてしまった、あまり時間を悠長に使ってなどいられないというのに。

 

「な訳あるかい、あの甘ったれのウォルターだよ?あんたがこんな事になったと知ったら絶対後悔するに決まってるじゃないか……いいかいビジター、あんたは今日一日出撃禁止だ。」

 

「え゛……。」

 

 なんて?……えっと、なんて?

 

『……。"え"ではありません、レイヴン。私もとても心配したんですよ……現状の私では貴女を助ける手段がありません、カーラが仮に貴女を害するつもりだった場合、打つ手なしで見ているだけになる所でした。貴女は無茶をしすぎです。』

 

 う゛。……エアまで痛い事を言いなさる、ぐうのねもでません。

 

「こっちの不始末とは言え、どうせ海越えの新たな手段を練るのにもう少し時間がかかるんだよ、悪いけどじっとしてな。ああそれと、許可もあったから治療ついでにあんたの死んでた味覚関連だけは再手術しておいたよ。暇するついでに、食事っていう人らしい楽しみの一つぐらい味わって来るといいさ。」

 

 えっそれは嬉しい。というか、この人暴走さえしてなければ気配り上手だな……お願いなのでいっつもこんな感じでいてください。

 

「ビジター。お前の世話をするよう、ボスに頼まれている。療養期間中は俺が足代わりになろう。生命維持用の点滴も格納した、点滴スタンドは要らない。」

 

「という事で、あんたのお目付け役にはチャティを預けてやるよ。今は丁度"ハロウィン"っていうお祭りのあった時期だ、仮装してグリッドを巡ってたら色々貰えるよ?ほら行きな、ビジター!」

 

 既にそれを見越して用意していたのか、魔女っ娘っぽい帽子を私とチャティに被せてから、ひょいと私を持ち上げてチャティに乗せられる。

 チャティのアシスタントボディも、気持ち仮装風味なかぼちゃカラーだ……元の色とそんな変わってないけど。……というか、私が普段着ている患者衣までそれとなく魔女っ娘な感じの衣装になっている。一体いつの間に着せ替えられていたんだろう……。

 

「案内しよう、ビジター。ハロウィンの合言葉は"トリック・オア・トリート"だそうだ、出会うドーザー達全員に言ってやるといい。」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 ……といった具合に、話は冒頭に戻る。そう、つまり今の私は食事ならば楽しむことが出来るのだ。むふふ、いっぱいおいしいものたべたい。

 

「おいおい、この無敵のラミー様より強えのか?そりゃつまり……お前は最強だなあ!ヘッヘッヘ……なら今の内に媚売るっつうのも手だよな?ちと待っとけ……。」

 

 ごそごそと、矢鱈にポケットの多い作業着から何かを取り出した。なんだか見覚えのある気がするスキットルだ。

 

「ほれ、イタズラされちまうのは困るからなあ。俺様の秘蔵の品を―――」

 

 それを受け取ろうとすると、ひょい、とそのスキットルがチャティに取り上げられた。

 

「ラミー、ビジターはドーザーではなく客人、しかも未成年だ。生のコーラルは早い、せめて何らかの形で濾過したものにしろ。」

 

「別に良いだろぉがよお……俺なんざ子供の時からトリップしてんだぜえ?ったく、しゃーねえなあ……ほれ、こいつで我慢しとけ。RaDに入るってんなら、無論さっきのを飲んで歓迎会だがなぁ?」

 

 代わりに受け渡されたのは、簡素な袋に詰め込まれた、綺麗な赤色のキャンディーだった。

 きらきらしていて綺麗だし、美味しそう。

 

「含有量は依存症を起こすような事は無いな。要件は以上だ、じゃあな。」

 

「んへへ、あぃがと。じゃ、いただきます……んむ。」

 

『……。』

 

 早速一つ摘んで口に入れてみる。……お、おお。あまい、しかもなんかぱちぱちしてる。

 それにあたまがぽやっとして、気持ちがいい。なんだかちょっとふわふわしてきた。

 

『れ、レイヴン……わ、私、その……何だかドキドキします。も、もう一つ食べて貰ってもいいですか?』

 

 ……なんだかエアがちょっと興奮してる?どうしてだろう。まあいっか、美味しいから食べちゃお。

 

「んふ~……いぃよぉ。はむ、ん……あまぁい♡」

 

 舌の上でころころ転がし、飴がぱちぱちぽやぽやと弾ける。ウォルターにあやされたり膝枕されるのとはまた別種の、心地良い感覚だ。

 不思議と次へ、また次へと手が伸びてしまう。美味しいし、やめられないとまらない。

 

『な、なんだか私も様子がおかしくなりそうです……。き、危険かもしれません……。』

 

「ビジター、あまりすぐに食べ過ぎるな。すぐ無くなって悲しくなるのはお前だけだ。」

 

 そんな制止の一言が、雷でも落ちたかのようなショックを私に与えた。し、しまった……食べたら減る、それは当然の事だ。

 ラミーがくれたのは飴だったが、必ずしもみんなこういうものをくれるとは限らない、どうしよう……。な、なくなったらかなしい。

 

「はっ……そ、そぉかも……が、か゛ま゛ん゛す゛る゛ぅ゛……。」

 

 衝撃の事実に思わずなきそう、つらい。でもおいしい……。

 そんな私をよそに、キャタピラが音を立てて前進し、また新しいドーザーとすれ違いかけ、停止する。

 

「ん~、とりっくぅ、おあ~……とりぃとぉ。おかし、ちょーらぁい~♪」

 

「何だあ?チャティのボディに幼女が乗っかってやがるぜ!ひょっとしてこないだやらかしたボスが資金繰りに誘拐ビジネスでも始めたのかァ?ハッハッハ!」

 

「な訳ねえだろ、コイツあれだぜ、アレだ……ボスのボンヤリしたプーの……。」

 

「それ言うならアレだろアレ、アレだ……ビジターだぜビジター!んで仮装っつー事はハロウィンかあ?しょうがねえなあ……ほれ、やるよチビッコ!」

 

 そうして三人組のドーザーから渡されたのは、ガムとチョコに、干し肉だった。

 ほ、ほしにく……食べ切れるだろうか。ちょっと噛み切れるかあやしいかも……。とりあえず、チョコから手を付けていく。

 実にありふれた板チョコだ。寧ろそのありふれた味が落ち着くし、あまくておいしい。

 

「パリポリ……んふぅ~、えへへぇ、おいしぃ。おじちゃんたち、あぃがと。」

 

「ビジター、あまり食べかすを落とさないでくれ。機体がチョコレート臭くなる。」

 

 

 

『レイヴン、今度はあっちに行ってみませんか?生体反応が多いようなので、沢山お菓子を貰えそうです。』

 

 合理的なのはいいけど、なんだかその発言はちょっとズレてる気がするよ……エア。

 でもいっぱいお菓子たべたいから向かっちゃう、ごーごーチャティ、いけいけチャティ。

 がたごとと揺れる道をチャティが進み、その上で貰ったばかりのお菓子を食べる。む、むむむ……ほ、干し肉がやっぱり噛み切れない……。

 噛むとおにくの味が滲み出て美味しいのだが、全然噛み切れない。困った、でもおいしい。

 

「移動用カタパルトに乗る。ビジター、舌を噛まないよう気をつけろ。」

 

 鉄と鉄が擦れ、或いは多少の年季から来る歪な駆動音が響いてグリッドを登る。ACで移動している時はあんまり気にならないけど、本当にすごく広い。

 移動が大変だからという理由で、時折小型のMTに乗ってあっちこっちへ行き来する人も見られるのが頷ける。そして、そんな人達からも沢山のお菓子を貰っていた。

 今やチャティのお菓子用バッグが半分ほど埋まっており、果たして私の小さな胃で食べ切れるか怪しい所だ。でもいっぱいたべられる、うれしい。

 

「楽しんでいるか。」

 

「んぅ?……んへぇ、もちろん。まじょっこ、かわいーって、いっぱいほめられちゃった。おかしも、たくさーん。」

 

 沢山のドーザーがいたが、その誰もがチャティを見ると私に優しくしてくれた。まあ、ボスの客人相手に狼藉を働くような愚か者はいないという事だろう。居たらちょっと、私だけではこまる。

 広大なグリッドをあっちにこっちにと行ったり来たりして、普段訪れない場所には人々が暮らす様がそこかしこに見受けられる。七輪を囲んで焼きワームを作るドーザー達や、飲んで騒いでのどんちゃん騒ぎをしているドーザー、はたまた喧嘩や賭け事をしている者。

 生きている……そう、生きている。私の知っている所にも、私の知らない、手の届かない所まで人が沢山生きている。

 それらを全て焼き払うのも、否応無しに戦いの坩堝へと落とし込むのも、私はもうたくさんだ。ずっとこんな、ぽやぽやでふわふわした感じに生きていけたら、きっとそれが一番なんだ。

 

「ボスはお前とつるんでいると、悩むことも多いが楽しそうだ。」

 

「そぉ?そっか。ん、へへ、えへへ……。」

 

 私の存在がオーバーシアーにとって、相応の障害になっているのは分かる。そうなるように立ち回っているし、そうなってくれないとまともに計画が立ち行かない。

 カーラにとっては目の上の瘤か何かだろうが、そんな現状すら楽しんでしまう豪胆さはやはり、彼女の心の強さだ。

 羨ましい。私にそんな揺るぎない強さがあれば、こんなに悩む事も、こんなに藻掻く事も、誰も彼も好きになって諦めきれないなんて事も無かったのだろうか。

 

「ビジター、お前は子供だ。悩むよりは、笑っているといい。……ボスならきっとそう言う。」

 

「ん。……そんな、わたしのひょうじょぉ、くらかった?」

 

「ああ。お前は子供離れしている。ACに乗っていない時ぐらいは、子供らしくしていても良い。まだまだお菓子を集めるぞ、ビジター。」

 

 すっぱりと言われてしまった。()()()、外と内での差異は気付かぬ内に表情に滲む事もある。私そのものが再手術をしている訳ではないので、そこまで積み重なった感情に対して表情は豊かじゃない、筈なのだが。

 微細な表情変化を察するぐらい、チャティは察しが良いらしい。いや、あのカーラのアシスタントなのだから、そうもなるか。

 子供らしさ……考えたこともない。子供らしさとは何だろう、やはり親に甘える事なのだろうか。だが、本当の意味での親なんて、最早顔も知らないし故も知らない。他人にすら等しい。

 私が(621)になる前は、からっぽだ。果たしてそれを"在る"と言えるのだろうか。正しい親と子とは?甘える以外に何がある?どう接する?

 結局、私には全然わからなかった。そんなことより甘いものたべたい。

 

「ん、それじゃぁ、ご~ご~!」

 

 

 

「とりっくぅ、おあ~?とりぃとぉ♪おかしちょーだーい!じゃないと、いたずらしちゃうかも。」

 

「君は取り立て屋!……ではなく、カーラさんの客人か。つまり君を饗せば、私のカーラさんからの信用は拡大する……ならば、君には私が先日借りた素晴らしい融資の賜物をあげよう!」

 

 この後も、ノーザークからやたらめったら高そうなチョコレートを貰っ―――

 

「クラァっこの借金王!てめえ俺の秘蔵のチョコ何処にやったんだあ!?誕生日に食うつもりで星外から態々取り寄せた給料半月分だぞわかってんのか!」

 

「何処にって、君から無断で借りただけじゃないか。何故返す必要がある?それに今はもう彼女のものだ。私に返済義務はない!」

 

「ンだとお!?じゃあそいつを返して―――」

 

「ふぇ……た、たべちゃ……だめ、なのぉ……?うぅ、グスッ……」

 

「……。ぐぐぐぐギギギギゴゴごごご!こんな娘っ子にチャティが付いてるっつう事はボスのオキニの証拠じゃねえか……しかもこんないたいけなガキから取り上げるとか……お、俺はそこまで鬼に、なれねえ……!持ってけバカヤロー!借金王のバカヤロー!!うおおおーーーん!!」

 

「ふふふ……こうして私の信用は、拡大していくのだ!」

 

『様子のおかしい人達です。』

 

 ちょっとひと悶着ありはしたけど、とってもおいしそうなチョコレートを貰ったり。

 

 

 

「なあビジター、さっきのもう一回やってくれねえか?」

 

「ん~?いぃよぉ♪とりっくぅ・あんどぉ……とりぃとぉ♡おかしちょぉだい。じゃないと……いたずら、しちゃうぞぉ?がおがお。」

 

 何個かまた綺麗な赤色のお菓子を貰ったので食べて、ぼんやりぽやぽやで気持ちよくなって、ちょっとのりのりで前口上を言ってみたり。

 

「かーっ可愛(めんこ)い!それじゃオジサンお菓子持ってないからイタズラして貰おうかグヘヘグヘ」

 

「悪いが、お前のような相手への悪戯はボスから俺がするように頼まれている。残念だったな、俺からのトリックだ。」

 

「ちょっ、お前その腕の武器はアババババババババババ!!!」

 

「RaDが一般用に卸す予定の対野生動物用スタンガンだ、これは出力のサンプルデータとして活用する。」

 

『様子のおかしい人でした。』

 

 だいぶへんな人を、チャティが撃退してくれたり―――

 

 

 

 

 

「ビジター、今日は楽しめたか。」

 

「んふ~♪きょうはぁ~、たくしゃんたのひめたのれふ……ンクッ。おいしぃものぉ、いっぱぁ~い♡」

 

 ふわふわぱやぱやで、はっぴーな気分。いーっぱいお菓子貰っちゃった。

 貰いすぎて、食べきれないぐらい。明日も食べて、明後日も食べられるかな。

 

『私が、レイヴンの体の中を……ふ、不思議な気分です……。』

 

 エアは途中からずーっとこんな感じだし、へんなの。でもなんだか声色はしあわせそー?じゃーだいじょーぶかぁ。

 

「就寝にはこの部屋を使え。」

 

「ぅぁあ~いぃ……おや、しゅみぃ……。」

 

 案内されたお部屋のベッドに、直行でどーん。むむ、なかなかふわふわ。

 これは、けっこう気持ちよくねむれそう……。

 たのしかったなぁ……今日。ずっと、ほんとにずっと……こんな毎日なら、いいのに……。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「チャティ、ビジターはどうだった?」

 

 二人だけの室内に、静かな機械の駆動音と声だけが響く。来賓のビジターが寝静まった後に、私とチャティは落ち合うように決めていた。

 私は今一つ、ビジターを見定めきれなかったのだ。理外の実力を持ち、理解不能な資産を保有し、首輪を付けたままでいる理由の全く無いあの娘がどんな人となりをしているのかを。

 顔合わせした時、同情はあった。強化人間として見るには、あまりにもあんまりな惨状。最低限度よりは少しマシ程度の身体機能を残して、子供らしさとは掛け離れた見窄らしさに思わず顔を覆いたくもなった。

 そして尚更に、"こんな子供がああも強いのか"と、理解を拒んだ。技研の秘匿機体であるHAL826のフレームを何故か保持しているという事も相まって、何もかもが浮いていた。

 私はビジターの事を、知る必要があった。ウォルターでは決めきれない判断もする、オーバーシアーの重鎮の一人として。

 

「ただの子供のようだった。それだけだ。」

 

「……やっぱりそうかい。主人を選べる犬はいないが……犬を選ぶ主人でもないというのが、本当に罪な男だよ、あいつは。」

 

 結論は、こう。あの子は()()()()()()だ。

 搾取されるばかりだったであろう人生は、その身体に刻まれたものから察するに余りある。理不尽を押し付けられ続けた存在であり、今の私達に理解の及ばない理不尽な不安要素と成り得る異分子(イレギュラー)

 その一方で、性根は子供そのもの。善意に喜び、愛嬌もあり、子供らしさを教えれば何事もない子供として歩めるような……本当ならば、大人が真っ先に庇護するべき存在で、戦場にいてはいけない者。

 彼女が何よりも"暴"の化身であるというのが、尚更に理解を拒む。ただ、その一方で聞き分けは良いし、ウォルターにも殆ど従順。

 仮に此方に引き込めるならば、最早恐れるものは封鎖機構の戦力と正面衝突するような真似をしでかす位だ。そうならないよう、戦況を見計らって引っ繰り返せばいいだけ。これはそう難しくもない。

 ……こういう存在は、思考からある程度外して考えるか、都合良く動いてくれるように祈るしかない。そうでなければ、蹂躙されるのみ。そして私達に抗うだけの実力は、無い。

 ウォルターとしても、偶然の拾い物だろう。あいつは選り好みをするような男じゃあないし、捨て犬捨て猫を見捨ててはいられない。

 何とも、本当に何とも不幸だ。あいつの目的を考えれば、あいつに懐けば懐く程に、最後はビジターが不幸になる。

 

「ボス、VOBの調整は完了している。後はビジターの機体に外付けするだけだ。」

 

「あの娘の面倒見ながら手伝わせて悪いね、よくやったよチャティ。……全く、世の中ってのは本当にどうしようもない事ばかりだ。」

 

 実に、笑えない事ばかりだ。コーラルを巡る戦争も、あの時の大禍で燃え残ったという現実も、もう一度焼き払わないといけないという現状も、何もかも。

 山程の犠牲が出た、山程の犠牲を出した。狂人共のケツ拭いを、どうしてか私達がやらなくちゃあいけない。私達がやらなくちゃあ、誰も罪の清算は出来ない。

 コーラルが絡むと、死人が増える。強化人間という存在そのものが山程の死体の上に成り立って、尚も死体を積み重ねている。

 誰かがこの罪深いモノに、積み重なった全てにケリを付けないといけなかった。ただ、それだけだ。

 

「……どう転んでも、せめてビジターが笑えるようにしたいもんだね。敵になるなら、悪党(ピカレスク)らしく派手に散って……味方になるなら、後の世に後腐れ無く送り出そうか。」

 

「ボス、格好付けている所悪いが、以前"未来の話をすると鬼が笑う"と言ったのはあんただ。このままでは笑うのはビジターではなく、鬼になる。」

 

「ぷっ……は、あはははは!ちょっとそのツッコミは無いんじゃあないかいチャティ?……ああもう、優秀な記憶媒体しちゃってさあ、過去の私が派手な墓穴掘ってんじゃないかい。やってくれたねぇ……。」

 

 世の中は、まともな奴から死んでいく。だから、体だけでも遊んで見せる。

 仮にビジターが敵になるならば、笑って、笑わせて死のう。味方になるならば、あいつが笑って遊べるようにしてやろう。

 そこに私やウォルターがいなかったとしても―――いや、或いはせめて、ウォルターだけでもそこに居させてやれるなら。

 罪人の遺児だなんて、そんな十字架をずっとあいつだけが必死に背負ってるのは笑えない。それぐらいは―――それぐらいは代わりに背負ってやったって、バチは当たらないだろうさ。

 

「さて、それじゃ最終調整に入ろうかね。何はともあれ、ビジターが海を越えてくれないと始まりやしないんだからね。」

 

「ボス、フィーカを淹れておいた。作業が終わったらちゃんと寝てくれ。」

 

「はいはい、チャティは実に優秀な子供ですことね。……ふ、ふふ……。」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「始めるよ、ビジター。あんたのACに取り付けた改良型ヴァンガード(V)オーバード(O)ブースト(B)……そいつを使えば衛星砲にだって捕まえられずにアーレア海を越えていける筈だ。操作方法は教えた通りだが、分かってるね?」

 

「んぃ。だいじょーぶ、だよ。」

 

 翌日、グリッドの中層部に急遽建設されたカタパルトに準備万端の状態で置かれていたR.I.P./Rに乗り込み、いざ海越えのリベンジの時だ。

 カーラ曰く"秘策がある"とのことだが、正直私は不安で一杯だった。気がついたら私の愛機になんだかよくわからない上に矢鱈とデカい上に無骨なブースターが何基もくっついていたから。

 ……これ見たことある!ノーザークが使って訳の分からない速度でカッ飛んでいって怪我したっていうやつじゃん!?

 えっ大丈夫なんですか本当に。私死なない?その、私身体すごい雑魚だよ?ノーザークって一般的成人男性だけどその半分以下にも劣るひょろひょろぷにぷにやわらかぼでーですよ私!?

 大丈夫って言ったのを今すぐに撤回したい。

 

「……一応言っとくけど、この前の借金馬鹿みたいな事にはならないよ、安心しな。ちゃんと専用の保護機構を取り付けてある、特注のね。だから安心して行ってきな、ビジター!」

 

「ビジター、改善点を説明しよう。特務無人機体バルテウスから得られた大出力のパルスアーマー機構を転用し、空気抵抗を低減するよう展開可能にした。ノーザークのように風圧で駄目になる事は計算上起こらない。速度も試作型の倍以上出るようになった。」

 

『レイヴン、覚悟を決めましょう……アーレア海を越える手段が他に無いのは事実です、カーラを信じるしかありません。……ところで、何故かそちらのブースターのジェネレーターから同胞の声が聞こえる気がするのですが。』

 

 にげだしたい。

 

「VOB射出専用カタパルト、ロック解除。スチームシリンダー接続、ブースター点火準備開始―――射出する。」

 

 チャティの機械的な音声と共に、勢いよくカタパルトから斜め前方、アーレア海に向けて射出され、ブースターに点火。

 ただACを操縦しているだけでは、平時以上の速度が出るABを特化したブースターで行っただけでは出ないような、とんでもない速度で飛行する。

 ほんの一瞬だけレーザーポインターに捕捉されたが、衛星砲からの狙撃は一切間に合っていなかった。掠りすらもしていない。

 そしてそんな異常速度に晒されている私だが―――

 

「……あれ、ぜんぜんへいき。てか、ちょっと……。」

 

 た、たのしいかもしれない。しかも、カーゴランチャーよりずっと負荷が少ない。

 燃料もなんだか全然長持ちするし、これ……不安だったけどちゃんと海越えられそう!

 

「改良型を使うのはこれが初めてだが……不運なあんたの、幸運を祈るよ。」

 

 そんな通信を最後に、あっという間に通信圏外。気がつけば海上を猛スピードで突っ走っていた。

 

『レイヴン……貴女には見えているのですね、このルビコンを対流する同胞達の声が。……何ならそちらのブースターからも……?

 

 コーラルの奔流が織りなす煌めきを眺めながら、余裕を持って、優雅に進む。正直言って進む以外にやる事が無いので単調極まりないのだが、コンテナの中より遥かに環境が良い。これなら感情を取り戻していても乗っていいかも。

 思えば、こうしてアーレア海の風景を見る事などあっただろうか。いや、無い。

 とても新鮮な体験だ。機体もある程度左右に動かせるし、そもそも機体主導で海を越えているというシチュエーションそのものがちょっと楽しい。

 海。噂によると、昔は河童が居たと語るドーザーがいたが、果たして本当に居るのだろうか。何ならこの手の話題だと空には天狗がいて、飛びすぎたACを攫って行ったり、ぬりかべが引け腰の傭兵をお仕置きしたりだとか……。

 与太話なんだろうけれど、面白い人たちだ。確かに殆どの人は酔っ払いで馬鹿をやっているだけなのだろうが、楽しい馬鹿だった。

 

『……この海を越えて、氷原に辿り着けばまた新たな戦いが始まります。コーラルを巡る戦いを仲裁し、貴女の助けたい人たちを生かし……真の共存を果たす為の、折り返し地点です。一緒に頑張りましょう、レイヴン。』

 

「ん……たよりに、してるよ、えあ。」

 

 

 

『ところで私の活動用義体は』

 

「それは、まだだめ。」

 

『ま、まだなん……ですか。残念……です、レイヴン……。

 

 





621
 ぷにぷにやわらかくぞざこボディのロリ、ついに食事を楽しめるようになる。
 普通に暮らしている分にはマジでただのかわいい子供。感情は未だ薄目だが、コーラルをキメると積み重なった周回の自分たちとの境界がコーラル酔いで滅茶苦茶曖昧になるのでかなり感情豊かになる。

エア
 621がコーラルを接種すると興奮して様子がおかしくなる。そのコ並感をやめろ。

カーラ
 ある意味では子を持つ親であり、強い意志はあれど人の子には変わりない女傑。
 どうせなら、せめて子どもたちが気兼ねなく笑える世の中にしたい。そんな人。

チャティ
 ビジター、歯磨き中に歯磨き粉を食べようとするのはやめておけ。それと、俺のボディが若干チョコレート臭くなった。要件はそれだけだ、じゃあな。

ラミー
 典型的かつ模範的ドーザー。手持ちの食べ物は全部コーラル入り。

ノーザーク
 他人のものを無断で借りるし返さない男、シンプルにカス。

VOB
 バルテウスからぶっこ抜かれた強力なパルスアーマー展開機構を転用し、本来のプライマルアーマーの代わりに空気抵抗を低減するように展開。
 結果として4のそれと遜色ない代物になったオーパーツ。ただし制作にバルテウスやSOLに使われるような大出力パルスアーマー機構が必要なのでコストが尋常じゃない、というか制作が普通に鹵獲前提。実質のワンオフ品。
 なんならジェネレーターは連装コーラルジェネレーターによって本来よりも遥かに長持ちするため、4のそれよりもかなり性能が良くなっている。代わりにパルスアーマー展開機構が潰れると機体ごと風圧に晒されて即死の危険があるという別方面の欠陥は抱えている。
 ……俺の何もかもぶっこ抜かれたテウス、まるで羅生門テウス。
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