異世界で起きる様々な事件や事象を、記者視点でお届けします。

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ドワーフ特集

ドワーフは主に鉱床のある山岳地帯に住まう種族である。生まれ落ちたその時から、彼らは赤ん坊サイズの槌を贈られる。

 

年を重ねて一人前になる頃には、自前の槌に持ち替えるのだ。

 

ドワーフたちの寿命は人間種と比較して長く、妖精やエルフのような長寿種族よりは短い。大抵は百二十歳で一人前の大人として認められるのだ。

 

そんなドワーフたちだが、見た目は先祖が選んだ鉱床の違いによって千差万別である。石炭の鉱床を軸にして暮らすドワーフたちはみな日焼けどころではない肌の黒さであるし、鉄鉱石に金や銀の鉱床を軸にして暮らすドワーフたちは、ドワーフ以外がドワーフに抱く通りの外見をしている。日に焼けて、ひげを蓄えた、嗄れ声のずんぐりむっくりで筋骨隆々そのままである。

 

一方、特殊な冶金学を修了しなければ触れることさえ許されない、オリハルコンやミスリルの鉱床を故郷に持つドワーフたちは、他のドワーフたちに比べて背がすらりと高く、髭も薄く、手指も節くれだってはいない。寧ろ繊細な、時計職人の指のようである。

 

ドワーフの種族間の違いの次に述べたいのは、彼らの社会についてである。専ら職人が総人口の八割を占める彼らにも、彼らなりの信仰や法に基づく社会が形成されている。

 

まず第一に、各氏族から選出された最も人望に厚く経験豊かな老ドワーフのみで構成された氏族会議があり、その次に、若いドワーフ衆も参加しての種族会議が開かれる。氏族会議が金の氏族や銀の氏族と言った氏族同士の利害を擦り合わせ、妥協点を見出し合うための内向きの会議であるのに対して、種族会議は外向きの、特に外交事に関する会議である。

 

ともかく敵対種族に対して宣戦を布告するべきか否かを決めるのが種族会議である、と。これだけ覚えておけば問題ないだろう。

 

また社会性は作品の善し悪しで決められる一種の実力主義社会であり、氏族間を跨ぐ婚姻などに当たっては傑作と呼ぶべき品を互いに贈り合うことが慣習となっている。

 

傑作を作れるか否か、はそのまま収入に直結するため、腕のいいドワーフほど富裕であり、言っては何だが腕の悪いドワーフほど貧乏になる傾向がある。

 

富貴か否かを見分ける方法は家兼工房を見れば一目瞭然である。

 

富貴なドワーフほど鉱床の近くに、大理石や貴石をふんだんに使った家を建てるのに対して、貧乏なドワーフほど鉱床から遠くで貧弱な材料…具体的には日干し煉瓦などで家を建てるからである。これらの違いは彼らの外見にも表れていて、貧乏なものほど色白で線が細くなるため、鍛冶の腕の善し悪しを、顧客が職人の顔色を見て判断することも珍しいことではない。

 

ドワーフたちの社会に王は滅多に表れない。というのも、各氏族の我が強く、彼らを結束させられるカリスマや度量の持ち主は滅多に表れないからである。

 

対外戦争や、防衛戦争の時を除けば、ドワーフたちは彼らの住まう山脈や鉱床と同じように、適度に離れつつも、大陸の極々一部に偏在して暮らしている。

 

乱雑極まる順序で大変申し訳ないが、次に彼らの言語と、彼らがなぜあれほどに酒を飲むのかについて記す。

 

まず彼らの言語だが。専ら、だみ声、嗄れ声で発生される為、彼らからしても明文化するのに長い年月を要したことは想像に難くなく、また事実その通りである。

 

今から遡ること三百年前に、語学に秀でたドワーフの学者(この時点で大いに珍しい)である金の氏族出身のブルガール・ゴルドーン博士によって体系化されるまで、ドワーフとの文通は夢のまた夢であった。

 

しかし、結局のところ方言が無数に…それこそ鉱床の数だけ存在するのであるからして、言文一致など不可能だというのが、ブルガール博士(存命中で御年三百四十八歳)の出した結論である。

 

この文章を読んでいる君も、もしかしなくともドワーフとの文通を夢見る一人かもしれない。だが、敢えてその叶わぬ望みを叶えるために、この場を借りて、ブルガール博士直伝の「これさえ覚えればドワーフとの会話が成立する」という単語を三つお教えしよう。

 

一つ目は「ゾゥレ」=「わたし」。

 

二つ目は「グェブレ」=「貴方」。

 

三つめは「ガヴール!」=「乾杯!」。

 

この三つさえ口から出てくれば、読者諸君も必ずやドワーフと仲良くできることだろう。

 

さて、今話した三つの単語に関連して、もう一つ、ドワーフに纏わる「どうして?」を解説しようと思う。

 

どうして彼らはあれ程までに酒好きなのか…諸君は考えたことはあるだろうか?

 

この謎に挑んだのが、今から百年前の人間族の偉人ミシェル・アンブロソーン伯爵である。

 

無類の酒好きで知られた伯爵は、旅行先でも蟒蛇の勢いで酒を平らげていたのだが、その場で偶然出くわしたドワーフにあっけなく敗北してしまう。これがきっかけで、伯爵はドワーフの酒にまつわる様々な研究を通じて著名になっていくのだが…この話は一旦置いておく。

 

結論から言って、ドワーフたちがあれ程までに酒を好むのは、彼らの生活用水が致命的に汚染されているからだ。

 

ドワーフは鍛冶の民だ。鍛冶を行う以上、大量の水と木材を必要とする。その為植樹などにも彼らは熱心なのだが、圧倒的に母数が足りていないのが有史以来の現状である。

 

結果、ドワーフたちは自らの生活用水まで鍛冶につぎ込むようになり、また鉱山から流れ出す特有の毒素に汚染された水を飲むことは、すぐには死なずとも、年々蓄積し、最期には惨たらしい病魔でドワーフの命を奪うことになるのだ。

 

そこで、遥か昔、何時かのドワーフが思いついたのが、水の代わりに酒を飲むというものだった。

 

当初は怠け者の印象や腕が鈍るからと普及には時間がかかった。だが、今や酒を飲めないドワーフはドワーフに非ず、という始末である。

 

ドワーフが酒好きな理由、お判りいただけただろうか?初めこそ好き好んで、と言うよりはやむを得ずしての飲酒だったが、今や習慣化し、文化として根付いてしまったのだ。

 

最後に、彼らが最も愛してやまない酒の種類である、火酒にまつわる話をしようと思う。

 

火酒…文字通り、火を点ければ燃える酒である。或いは、火を噴くほどの旨さ、辛さであることから竜酒とも呼ばれて特別珍重されている。

 

さてこの火酒のなかでも、ことさらに特別な竜酒だが、その度数は驚く勿れ70ナーゲルである!!

 

70ナーゲル!?

 

筆者も驚きの度数の高さである。

 

比較対象としてエールは上等なものでも10ナーゲル、葡萄酒は秘蔵のもので30ナーゲルが限度である。

 

そして、火酒の平均が50ナーゲルであることからも、竜の名にふさわしく、如何に異常な度数であるかが理解できたことだろう。

 

珍重され、滅多にお目にかかれない竜酒…飲んでみたい方がいらっしゃれば、百年に一度開催されるドワーフの大祭に行くのをお勧めする。

 

山岳信仰が厚いドワーフたちが、自慢の…文字通り百年寝かせた…酒を神に捧げるために集う祭りである。彼らは大祭とか祭りとか呼んでいるが、ここでは便宜上、開催地であるレ・ガヴール山脈の名前からとって、その名もガヴール大祭(乾杯祭り)と呼ばせていただこう。

 

短命の人間種の読者諸君は、酒豪を自負するなら殊更に、人生に二度来るか分からない機会を逃さないように、このガヴール大祭への参加を強くお勧めする。ただし、酔い覚ましの薬草を道中で200グレンは用意するのが賢明だろう。酔いすぎて死ぬなんて事故が毎年多発していることも忘れずに、である。

 

ドワーフですら目を回す竜酒の味を知る人がいれば、是非ともご教授願いたい。筆者は下戸故、とても口にはできないので。

 

さて、最後に明日から使える豆知識を一つご紹介して締めとさせていただく。

 

ドワーフたちが多用する、度数の表現「ナーゲル」。このナーゲルの語源は、同じ名前を持つ虫から来ていることを殆どの方はご存知でないのではなかろうか?

 

特に人間種や精霊種には縁遠いだろう。

 

というのも、もっとも古くから酒の度数を図る方法として、百から二百匹で群棲するナーゲルワームという、ミミズに似た小さな細長い虫の巣穴に酒の雫を一滴垂らし、巣穴から這い出てきたナーゲルワームの数で決めるというやり方が存在する。

 

現代では魔法及び魔導技術が発展したおかげで、わざわざ虫の巣穴に酒の雫を垂らす必要は無くなったが、それでもドワーフ達は現代でも古来と同様の手順で、ナーゲルワームの数を酒の度数として信頼を置き、またその度数で競い合っているらしい。

 

魔導技術で蒸留を行った量産品と、数多のナーゲルワームの犠牲の上に成り立つドワーフの傑作。そのどちらが人々の心を虜にしてきたかは、その神秘性から鑑みても後者であることは言うまでもない。

 

もしも君の友達にドワーフが居たらば、是非ともナーゲルワームについて語らせてみると好い、鍛冶と酒に関して言えば、彼らはエルフよりもおしゃべりになるだろうから。

 

 

 

 

 

 


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