眠たくなるほどの穏やかな青色の空の下、ここはキヴォトスから少し離れたリゾート地でヤシの木を
ヤシの木が十本近く指状にひろがり、北側につきだしている枝のように伸びている通りの奥に広壮な一つの屋敷があった。
ゲートがあり、常に警備ロボットが巡回されていたが、今日は以前よりもずっと警備員の数が多い。
その屋敷の
カイザーコーポレーション傘下の会社──ナイトカンパニーという名前をしたこの子会社はリゾート開発とリゾート運営を経営しており、カイザーの子会社らしく儲かれば何でもする精神で人工島が建設される前は綺麗な海岸だったのが建設されてからはその面影すら無くなるほど変化していた。
そしてこの人工島は観光地・別荘地として開発され、観光施設建設が進めば数年以内にキヴォトス一のリゾート地になるとして宣伝されているほど有名な場所であった。
先日一部の別荘地が完成し、ナイトカンパニーの新社長"フリッツ"は3日前にここで人工島のリゾートでいち早く休暇を過ごしていた。
フリッツは至って普通のロボットの姿をしているがフリッツは重度のヘビースモーカーでよく葉巻を銀のシガレットケースに入れており、会社でも我が物顔てでよく吸う姿がよく見られる。
もし他に言う事があるとするならばフリッツは他と比べ野心が強くあることだ。
フリッツは、5日ほど前の午後11時に"前社長"の死を電話で知らされた。
死因はどうやらカイザー系列の会社との会合が終了後、車で会社に戻ろうとする途中にミレニアム自治区でカイザーインダストリー製のドローンに爆弾を取り付けた改造ドローンが車に突っ込み爆破し、前社長はその爆発で即死したと連絡が入った。
しかしフリッツにとってはそんな事どうでもよかった。
その後の対応は恐ろしく速かった。
直ぐ様幹部達を招集し既に用意してあったプランを実行し瞬く間に社長の座へと着いた。まるで
前社長死亡から、僅か6時間後の出来事であった。
フリッツは御昼の食事を一人で食べながら、これからの会社について考えていて、前社長が死んだことなど頭になかった。
ドローンの事も考えていた。
カイザー製ドローンはナイトカンパニーから横領した金で買って改造されおり、既にデータを改ざんしてはいるとは言えど、もし横領がバレて更にはその金で前社長を殺害したと分かってしまえば一巻の終わりだ。
更にミレニアムについても問題であった
キヴォトス3大勢力の一角のゲヘナほど物騒ではなく、トリニティほど厳格でもないミレニアムは極めて平和で強いて言うならエンジニア部の部屋が吹き飛んだりする位でこのような爆発事件は珍しかった。
爆発があったのが学園の近くでも、キヴォトスではこの程度の爆発は日常茶飯時だと思われるかもしれない。
強いて言うならセミナーの生徒が確認のため見回りに来る程度だろう。
しかし爆殺された人物がカイザー傘下の会社の社長だと知ったセミナーは、この1件を受けてミレニアム側はセミナーを中心とした捜査体制を敷いており、更にはセミナー直属の組織C&Cや非公認部活ハッカー集団ヴェリタスをも巻き込んだ一大事であった。
しかしミレニアムの総力も持ってしても犯人は特定されておらず捜査を進めてはいるものの周囲の防犯カメラが
しかしフリッツはこの状況をほくそ笑んでいた。
それもそのはず、前社長を爆殺した実行犯は
彼女とは前社長を爆殺するよりも何件かフリッツから仕事を受けておりその関係はよくも悪くもビジネスパートナーという関係であった。
そして今フリッツは、後で後悔するより念を入れたほうがいいと考えて、フリッツは決断した。
前社長を殺した実行犯を綺麗さっぱりと消すと、そう判断した
フリッツが紅茶を飲み、青く広がる水面を見やったとき、秘書が入ってきた。
「社長、ミレニアムの例の『実行犯』から電話が、それと小包が届いています。」
長い時間、と言っても数週間ではあるが両者は協力してきたので、彼女はフリッツの携帯電話の番号を知っていた。
だが、なぜか自宅の固定電話にかけてきた。
説教でも食らうのだろうかと、フリッツは思った。今回の行動について質問攻めされるかもしれない。あるいは、今回の1件で更に報酬をよこせと脅したりするかもしれない。
フリッツは秘書から小包を受け取る。中身はまだ開けていないから分からないが少し重い物体であるのは分かった。
フリッツはナプキンをテーブルにほうり出して、窓ぎわのデスクへ行き、受話器を取った。
フリッツは電話に向かっていった。
「
「元気いっぱいだ。いや、最高だよ」
いつも冷静なアキが軽口をたたいたので、フリッツは驚いた。笑みが浮かんだ。
なにか知っていると思ったのは間違いで本当に知らないのだろう。そうでなかったら、よっぽど演技が上手いのだ。
ナイトカンパニーの新社長はいった。
「よかった。この前の爆発の件は済まなかったね、実行したのは君とは言え、ミレニアムの自治区で事件を起こしてしまった。今、なにかお役に立てる事はありますか?」
アキは返事を返す
「あぁ、それなら約束の報酬を貰おうか。できれば少し色を付け貰えると助かるよ。」
そうアキから言われ一瞬渋りかけたがどうせ後から消すのだから問題無いと携帯を開き、自身の口座から約束された金額とフリッツからのボーナス代として彼女の指定された口座へと送金した。
「口座を確認してくれアキ、数分後にはいい感じに潤っているだろう。ところでこの小包は一体何だね?」
「おや?まだ開けていなかったのかい?なら、開けて確かめてみてくれ」
そう言われて小包を開けて見ると中身はベルが2つついた両打ちツインベルが特長のアナログ表示のよくあるの目覚まし時計であった。
「……目覚まし時計?」
「そうだ。その時計はミレニアム製でセミナーの中ではとても評判が良くてな、例え熟睡したとしてもみんなすぐ
「気遣い大変感謝する。さっそく使わせて貰うよ。」
そう言われフリッツは携帯の時間を見ながら目覚まし時計の設定をし、彼女に言われた通りタイマーを1分にセットし、タイマーを始める。
「アキこれから私も仕事が入ってくる、これからもお互い協力者として宜しく頼むよ。
────セミナーの
フリッツからすればこの電話が終わった後彼女と話すのはなく、これが最後の会話になるだろうと思っていた。
それでは、と電話を切ろうとしたフリッツの対し、アキが口を開けた。
この時タイマーは30秒を切っていた。
「あと、最後に1つだけいいかい?」
「何だねアキ?」
そう言うと電話に沈黙が流れ、アキはしばく返事をしなかった。
その間もタイマーは進み、残り15秒であった。
「アキ?どうかしたか?」
ようやくアキが言った。
「おっと、失礼。フリッツ、君にお願いがある。」
「なんだい?」
既に時計の針は『11』の針を通過していた。
「こうしてくれると助かる……フリッツ……身動きせず、じっと立っていてくれ」
そして針が一周する。
すると大きく鳴り響くツインベルが一瞬にして炎色の光る閃光に変化した時、フリッツは確かにその閃光を見た。
それとアキの奇妙な頼みを瞬時に考えて合わせていたら、フリッツは出来る限り遠くの物陰に身を投げたにちがいない。
だが、考えなかった。なにもいわなかった。筋肉ひとつ動かさなかった。
そして彼女は1つだけ嘘を付いていた。
それはアキはその時計はミレニアム製と言ったが正確にはアキ特製の秘密兵器である。
一般的に生徒が使う手榴弾の炸薬量の5倍もする爆弾
通称『目覚まし型爆弾』を使ったからであった。
これを使うと、その範囲にいる人物は目覚ましで起きる代わりに眠りにつくという代物であった。
爆弾が炸裂するまで、フリッツはじっと立っていた。
炸裂後フリッツは爆発の衝撃で窓ガラスを突き破り、屋敷のガーデンに吹き飛ばされ、ぐったりと体が落ちた。
そんなフリッツが最後に見た光景は爆発で屋敷に黒煙が立ち込める姿と、それをなかったかのようにする透き通るような青い、青い空が広がっていた。
フリッツがナイトカンパニーの新社長であったのは、僅か6時間強であった。
逆探知されないと分かっていたが、どのみちその携帯電話はいらなくなった。
まだ午後1時をまわったばかりで、それと今朝の雨のせいで、今日はまだ発電所の人通りは少なかったが、トレーニング部部長のスミレやその他数人がジョギングや、ウォーキングをやっているほんの数人に続いて彼女は歩道を歩き、大小様々な水たまりをまたいで、ミレニアム・スタディーエリアの中心ミレニアムタワーの横断歩道に出た。
セミナーとの会議の時間には間に合わないが、フリッツを爆殺できるように目覚まし型爆弾の爆発までの時間を稼げることができてよかったと思った。
ここまでは極めて順調な1日だと、心の中でつぶやいた。
しかしその数秒後、制服の中で電話が鳴った。
セミナーの制服を上着と下のスカートはそのままにタキシード風に改造した制服*1のポケットへ手をのばして、スマホを出した。だが、それを見たとき、ポケットで鳴っているのは別の電話だと気づいた。
アキは歩度をゆるめて、横断歩道の真ん中で立ち止まった。クラクションを鳴らされて、また歩き出した。
ポケットとから個人用として使っているもう1つのスマホを取り出す。
フルスクリーンの画面に「
「どこをほっつき回っているんですか!アキ先輩!もう会議始まっちゃいますよ!?」
開口一番に出てきた言葉はユウカお怒りの言葉だった。
今まで固くなっていた表情が自然と柔らかくなる。
「すまないユウカさっき大事な用事を済ませた所でね、すぐ行くとリオに伝えておいてくれないか?」
電話先でも聞こえる程の大きなため息が聞こえる。
「分かりましたアキ先輩、まったくアキ先輩もセミナーの一員としてふさわしい行動をしてくださいね。」
さっきまでの怒りは何処へ行ったのか、凛とした声でユウカはそう告げ、携帯の電話を切った。
ふと、アキは今日の会議の内容についてふと考える。
確か今回の会議ではミレニアム自治区での被害総額の報告にミレニアム予算審議会*2の調整、そして
「爆発事件の調査結果、か」
アキはこの瞬間、ここまで極めて順調な1日が崩れ落ちる音が聴こえた。
前からこの事件の犯人はミレニアムの生徒ではないかと噂されており、事実セミナーはその線で調査していた。
例え周囲の防犯カメラを切ったとしてもミレニアムには『全知』がいる。彼女が犯人探しに協力しているとは聞いていないが、こっちが下手に動くと逆効果になってしまうかもしれない。
このままではアキが犯人であることがバレてしまうのも時間の問題であった。
だから今、ここでその憂いを断つことにした
アキはその場で仕事用に使っているスマホを起動する。
フリッツから貰った報酬が入ってある口座にアクセスした。
その口座には今回の仕事以外の報酬も入ってあり、その額は今回の仕事の件と合わせてば少なくとも8桁はあるだろうか。
そこから個人用のスマホを開く。ロックを解除し、ホーム画面が移りだす。
そして画面を3回タップし、最後に長押しでタップすると画面には出てこなかった隠しアプリが出現した。
仕事用として使っていたその口座とは別に隠しアプリを利用した隠し口座があったのだ。
隠しアプリを開く。そこには過去すべての仕事内容、依頼してきた人物、各企業の表に出てはいけないような重要なファイルなどもこの隠しアプリに保管されていた。
そしてそのファイルを2、3度見て目に焼き付けたのち、ファイルを消去した。
そして隠し口座にある金を個人用のスマホを通し別の口座に振り込み、数十秒後、振込み先にある口座にはおよそ数千万円もの金額が入ってある。
この金はアキが趣味とロマンで秘密兵器達を作るのにかかる費用であった。
アキの趣味は『秘密兵器を作ること』だ
秘密兵器を作るのにはアキは全身全霊をかけてでも制作し作った物を自ら使用し、さらなる改善点を見つけ改造していく、その為ならばブラックマーケットに行って違法な改造パーツを買い漁ったりと、危険な橋を何度も渡ってきたのだ。
この熱意は秘密兵器を作る事だけに注がれている。
ファイルを消去し、しばしスマートフォンの画面を眺めたのち、本体の電源ボタンを7回連続で押す。 通常であればこの操作は大音量での防犯ブザーや緊急通報を行う為のものだが画面には「消去プログラム 「実行」の短いメッセージが表示される。 APNプロファイルに組み込まれた証拠隠滅用の自爆プログラムであり、バッテリーを暴走させて電子回路やメモリ チップを復元不可能なレベルの過電圧で焼き切る。 本体が加熱していくものの、 1分が経過する頃には画面は暗転したままとなった。 アキが他の携帯で実証した結果塩水に数週間漬けたのと同じ状態になる事が既に知ってるので一応確認に何度か電源ボタンを押しても反応は無かった。
数秒後、また歩きはじめた。
そして彼女は、歩道の端へ行って、くるぶし程の深さの水が流れ込んでくる
それがあっという間に水に流れ込まれて見えなくなり、アキのナイトカンパニーでの活動の証拠は消え失せた。
立ち上がると、アキはミレニアムタワーの会議室に向けて、規則正しい足どりで歩き始めた。
独りきりで、雨が上がった青空の下を
多分続きません