原作:艦隊これくしょん
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素人作品なので甘い箇所は目をつむってくれると幸いです。
山城は素直になれない
芳野提督 温厚。優秀だが優しすぎるが故になかなか昇進の声がかからない。
山城 扶桑型戦艦二番艦。不器用で本心があまり相手に伝わらない。一応カッコカリ済み。
~EP0~
XX時XX分
「―――――きて!!」
「――しろ起きて!!!」
頭が痛い。
誰かの声が聞こえる
分からない、誰かが呼んで・・・。
最上「扶桑!右舷、敵増援艦隊!このままじゃ耐えられない!」
扶桑「時雨、満潮!山城を曳航して撤退を!他の艦は対空射撃を厳に!私が殿を務めます!」
硝煙の匂いがする。
赤化して淀んだ海。
私は何をしているんだろう。
朝雲「っ!この数・・・キリがないわ!ラインを下げましょう扶桑!」
そう呼びかけた朝雲の視界の端に不穏な物体が映る。
朝雲「扶桑っ!!!直上!!!!」
扶桑「っ!!!!」
回避行動をとる隙すらなく、けたたましい爆音が鳴り響いた。
私の意識は完全にここで途絶えた。
そう、ここで。
~EP1~
山城「不幸だわ。」
誰もいない部屋でそう吐き捨てるように私は口にした。
この身体になってもその役目を全うすることができないなんて。
ひかえめなノックの音が部屋に響き渡る。
山城「どうぞ、入っていいわよ。」
どうせまた駆逐艦たちね。
うるさいのはあまり気分ではないのだけれど。
そう山城はすこし溜息を吐いた。
芳野提督「失礼するよ。お見舞いなんだけど、いま大丈夫かな?」
山城「いま大丈夫も何も、この状態じゃ何もできないわよ。」
ベッドに横になりながら、予想外の来客に思わずぶっきらぼうな返事をしてしまう。
山城「何か用?」
まただ。
芳野提督「艦隊の出撃もなく暇だったからね。様子を見に来たくて。」
嘘だ。
出撃の結果は目が覚めてから聞いた。
あんな惨敗をしてその後のライン維持や後始末で暇なわけがない。
山城「そ。やることもないしね、あなたの話相手くらいにはなってあげるわ。」
芳野提督「そりゃうれしいね。」
いつも通りといわんばかりに軽く笑いながら彼はそう言った。
目の下に大きなクマがある。
白い軍服にもシワがついている。
あれからほとんど寝ずに執務をこなしていたんだろう。
少しの静寂があった。
山城「ねえ。」
芳野提督「ん?」
首をかしげた横顔でこちらを見てきた。
山城「姉さまは?」
ふり絞って出た言葉だった。
旗艦の私が大破してからその任は姉さまに移行して艦隊指揮をとっていたらしい。
そして艦隊を、私を逃がすために自ら殿を務めて大きな損傷を負ったと。
提督は目を泳がせながら少し考えている。
わかりやすい。
山城「はっきり言ってよ、そこまで状態が悪いの?もう姉さまの隣で戦えないの?」
芳野提督「それなんだけど・・・。」
歯切れが悪い。
イライラする。
いっそ私のせいだと言ってくれたほうがまだ楽になる。
山城「もういいわ!戦闘議事をみせてちょうだい!あなたが言えないのなら・・・!」
勢い良く起き上がりながら大声をだした。
正直どうにかなりそうだった、いやなっているのかもしれない。
大切な姉さまを私のせいでなんて、そう考えただけでゾッとする。
でも知りたかった。
せめてあなたの口から。
芳野提督「落ち着いて山城、それなら―」
あわてる提督をよそに再びノックの音がした。
「入るわよ、山城?」
え?
どういうこと、この声・・・。
カチャりとドアを開けたそこには扶桑姉さまが立っていた。
頭が真っ白になった。
だって、姉さまは・・・。
扶桑「あら、先にいらしていたんですね提督。」
本物だ、偽物じゃない。
なんで?
山城「姉さま、どうして?私より大けがだったんじゃ・・・。」
姉さまと提督が顔を見つめ合わせてポカンとしている。
少しして姉さまがクスクスと笑いながら話し始めた。
扶桑「実はね、カタパルトが盾になってくれて一大事を免れることができたの。
しばらく瑞雲は使えないけれどもね?」
身体から急に力が抜けてボフンとベッドに横たわった。
よかった。本当によかった。
私のせいでなんてことになっていなくて。
扶桑「だからね山城?あなたのほうがよっぽど重症だったのよ?提督なんて気が気じゃなくて大淀に怒られたりして。」
芳野提督「ちょっ!それは!」
そうクスクス笑う姉さまをみて本当に安堵したと同時に、さっきまでの先走った言動が恥ずかしくなってきて顔が熱い。
山城「も、もう今日は疲れたから二人ともかえってちょうだい!」
窓の方向に顔をそっぽ向けながらそう言った。
扶桑「ふふふ、そうね。病み上がりだもの長居してはいけないわね。」
きっと姉さまはわかっているんだろう口調でそう言った。
芳野提督「そうだね、山城も元気そうで安心したし僕もそろそろお暇するよ。」
最後まで二人の顔を見ることができずに、二人は部屋を後にした。
吹いた風で白いカーテンがめくれ上がり、外では空は青く木々は何事もなかったかのように揺れている。
そしてそれとは対照に私はさっきとは違う意味で頬が赤くなっていた。
山城「そう、提督が。」
~間章~
何故か空は晴れ渡っていた。
雲一つない青空。
哨戒任務もなく非番だった私は何を思ったのか、庭で提督をお茶に誘っていた。
扶桑姉さまではなくあの提督を。
芳野提督「山城からお誘いなんて珍しいね。こうやって二人でゆっくりするのはまだ扶桑がウチに来る前とかだったかな?」
山城「ただの気まぐれよ、あなたは普段から休もうとしないんだもの秘書官なりの気遣いよ。」
どっちも本心だ。
たまには提督と一緒にとも思ったし、根を詰めすぎとも思っていた。
芳野提督「だとしても嬉しいよ、山城といる時間は僕も心が安らぐからね。」
山城「なっ!」
この男はすぐ歯の浮くようなセリフを口にする。
きっと他の娘にも同じようなことを言っているんだろう。
私は何か落ち着かず目の前の菓子に手を伸ばす。
山城「あら、コレおいしいわね。」
芳野提督「そのお菓子はこの前伊良子さんが持ってきてくれたんだけど、山城が好きそうなものだったからとっておいたんだ。」
山城「そう。」
確かに私の好みの味だった。
私が甘いものが好きだなんて言ったとこあったかしら。
そんなことを思いながら首をかしげていると、庭に白い花が咲いてることに気が付いた。
山城「ねえ、この庭に花なんて植えていたかしら?」
芳野提督「ああ、ようやく咲いてくれたんだね。」
芳野提督「シロツメクサを植えていたんだ、ガーデニングにはあいにく疎いから可憐な花とかは無理だったんだけれどね。」
驚いた。
提督が執務の合間を縫ってそんなことをしていたことにだ。
正直、キレイだと感じた自分もいた。
山城「よく庭でお茶している金剛たちは多少華やかになって喜びそうだわ。」
芳野提督「気づいてもらえると嬉しんだけどねえ。」
そう言いながら提督はティーカップに口をつけた。
こんなに咲いていて気づかない娘がいるわけ無いでしょうに。
きっと駆逐艦達も喜ぶんでしょうね。
私にはこういうのは柄じゃないわ。
~EP2~
今日も食堂は賑わっている。
駆逐艦なんてトレーを持ちながら走り回って・・・。
ああ、言わんこっちゃない。
山城「はあ、早くご飯もらって姉さまと一緒に食べましょ。」
ささっと食堂の妖精に注文を済ませ、姉さまのいる席へと向かう。
今日は金剛四姉妹特性カレーが目玉らしいのだが、何か嫌な予感がしたので無難にいつもの定食にした。
山城「姉さまお待たせしました。」
扶桑「あら、私の分までありがとう山城。」
笑みを浮かべながらご飯の乗ったトレーを受け取る。
私は姉さまのこの表情が好きだ、見れるだけで幸せな気持ちになれるし、姉さまのこの表情が見れるなら私はどんなことだってできる。
私は姉さまが一番大切なのだと自分の左手にはまっているものを見つめながら、私はそう再確認した。
扶桑「そういえば、今日からまた山城が秘書官の日よね?時間大丈夫なの?」
山城「姉さまとの時間のほうが大事だもの、ゆっくりしてから行くわ。」
それを聞いてか、姉さまの頬が膨れる。
そんな顔をする姉さまもかわいい。
扶桑「秘書官の仕事は艦隊指揮にも影響するからしっかりやらなきゃダメよ?」
姉さまにそこまで言われては弱い。
そうこれは姉さまのためであって提督のためではない。
さっと食事を済まし、執務室に向かうことにした。
~〇八〇〇~
いつも通りノックをして提督がいる執務室に入る。
山城「提督、山城です入るわよ?」
扉を開けるとそこには床までびっしりと書類の山が築き上げられていた。
カーテンも締め切ったままでこの人という人はまた睡眠もとらずに艦娘たちの為に仕事していたのだろうか。
思わず溜息がこぼれてしまう、もはや感嘆の意もあるかもしれない。
芳野提督「ああ、おはよう山城。」
かけていた眼鏡を外しながら眠そうに提督はそう答えた。
山城「食事はちゃんととったの?」
カーテンついでに窓を開けながら質問する。
芳野提督「さっき鳳翔さんが軽食をもってきてくれたよ。」
山城「そう、ならいいわ。」
軽い挨拶を済ませ、自分も秘書官の席に座る。
提督の机にあった書類の山を一つもらって目を通していく。
黙々と書類を片づけているが、時々視線を感じる。
ほら、今だってそうだ。
山城「ふう。」
わざとらしく息を吐き、垂れた髪を耳にかけて視線の先を向く。
山城「さっきから何?気になるのだけど。」
チラチラ見ているのがバレていないとでも思い込んでいたのか提督の目がギョッとする。
わかりやすくてたまらない。
そして提督が観念したように話し出す。
芳野提督「えっと、あの時の身体はもう大丈夫なのか気になって・・・。」
あなたって人はずっと私が心配で仕事に手がついてなかったというの?
むしろその一件に関しては旗艦で艦隊を預かっていた私の失態で、私が謝らなければいけないことのはずなのに。
顔を合わせても責める気配もないところが逆に苦しい。
芳野提督「もしまだ本調子じゃなければ明石にメンテナンスの時間あけてもらうよ?」
扶桑姉さまや最上、艦隊の皆を危険にさらした。
次、いつ深海棲艦を叩ける大きなチャンスがくるかもわからない。
私が、私のミスで。
自責の念ばかり沸いてくる。
芳野提督「休憩にして間宮にでも行こうか?」
やめて。
芳野提督「うーん、扶桑と二人で休暇でも取って温泉でも手配しようか?」
山城「やめて!!!」
執務室に声が鳴り響く。
あの提督すら私の迫力にたじろいでいる。
山城「あれは、私のミスなの!身体は元気でも艦隊の皆を危険にさらした、それは変わりようのない事実なの!」
山城「姉さまの隣に立てないと想像しただけで寒気がした、私の指示が一歩間違えてたらあの娘たちが沈んでいたと思うと怖かった!」
山城「艦隊の期待を一身に背負ってあのザマよ、もう私にこの席は・・・見合わないわ。」
まくしたてるように話したせいか息が切れる。
机の上もぐちゃぐちゃになってしまっている。
なんで、こんな・・・みじめなんだろう私。
勝手に涙まで出てくる。
風がカーテンを吹き揺らし、提督がようやく口を開いた。
芳野提督「君は、山城はそんなことを思っていたんだね。」
提督はそう言いながら慈しむような表情で私を見ていた。
なんで。
なんでそんな表情をするの。
芳野提督「気づいているかい?君はさっきから自分ではなく他のみんなの心配をしているんだ。」
芳野提督「君は他の誰よりも優しくそして強い、これはこの鎮守府にいる誰もが知っていて、この僕が最も信頼を寄せている艦娘だよ。」
芳野提督「その山城でダメだったんだ、それじゃあしょうがない。この艦隊練度を見誤った僕の責任だ。」
この人はいつもそうだ、絶対に私たちを責めることはない。
だからこそ甘えてしまっている自分がいる。
このままじゃいけない、私が私、そう戦艦山城であるために。
山城「優しすぎるわあなたは、でもねダメなの。」
そう言いながら左手の薬指にはまったものに手を伸ばす。
芳野提督「山城?」
山城「だから・・・コレ返すわ。」
無理やり作り出した笑顔で机の上に指輪を置き、気まずさを隠すように執務室を後にし、
部屋には呆然とする提督とかすかに付けていた人のぬくもりが残った指輪だけが残った。
~EP3~
~一三〇〇~
山城「敵艦隊発見!砲戦、用意して!」
山城「主砲、よく狙って、てぇぇぇぇ!」
空が張り裂けそうな轟音と共に主砲から砲弾が敵目掛けて飛んでいく。
その戦いぶりは荒こそあるが鬼気迫るものだった。
浦風「山城さんすごい気迫じゃけぇ・・・。」
浜風「私たちも負けてられませんね!」
時雨「・・・。」
~二〇〇〇~
山城「艦隊帰投したわ。」
芳野提督「お疲れ様。今回のMVPは・・・山城か8戦連続だな、すごいじゃないか!」
提督は自分のことのように喜んでいる。
でも足りない。
こんなんじゃまだ。
山城「当然よ、こんなところで立ち止まっていられないもの。」
もっと強くなって姉さまを皆を今度こそ守れるように。
そして提督にも――――。
提督にも?
なにかしら?
モヤモヤしていると時雨が話しかけてきた。
時雨「山城。」
その目は私の左手を見ていた。
正確にはその薬指を。
山城「返したのよ。」
すぐに意図をくみ取り返事をする。
そんなに気になる?
戦力増強の一環でしかないアレが。
時雨「どうして?」
山城「あの時は私しか戦艦がいなかったけれど、今は正規空母や超弩級戦艦の人達に渡したほうが戦力のためだからよ。」
自分で言っていて何故か少し心が痛かった。
でも本当にそう思っていた。
じゃあどうして?
時雨「そっか、でも今の山城は危なっかしくて見ていられないよ、あんな無茶苦茶な戦い方。」
無茶苦茶?
そんなの――――。
もう、二度とあんなことにならないために・・・!
私にはこうやってがむしゃらに戦って強くなることしかできないの!
じゃないと―――また皆を。
芳野提督「じゃあ各自入渠して今日は休むように~。」
遠くで提督が解散の一言を言っていた。
時雨「僕は提督が戦力のためだけに山城にカッコカリの指輪を上げたわけじゃないとおもうけどなあ。」
時雨「そのまま気づかなくてもいいよ、僕が提督の隣もらっちゃうから。」
じゃあねと言い時雨はその場を去った。
もうわからない。
数多の敵艦を沈めても、MVPをいくらとっても私の心は晴れない。
気づけば雨が降っていた。
兵器の癖に人の心を与えられるなんて神様はなんてめんどくさいことをしてくれたの。
山城「不幸だわ―――。」
私は髪から滴る雨を一滴一滴見つめながらその場に立ち尽くしていた。
~間章~
突然だった。
この日、提督が私にケッコンカッコカリの指輪をくれたのだ。
心なしか提督の足が震えている。
ここには戦艦も空母も私しかいないから戦力増強には私が適任なのだろう。
山城「あ、ありがとう。でも、私の心は常に扶桑姉さまと共にあるの...ごめんなさい。」
それを聞いた提督が身体から力が抜けたように椅子に座り込む。
明らかに落ち込んでいる。
山城「で、でも、もらわないとは言ってないわよ。戦力増強の一環だものね。」
提督の顔が晴れたように見えた。
わかりやすい。
ふふ、ちょっとかわいいかもしれないわね。
任せて頂戴、この期待に必ず応えてみせるわ。
~一五〇〇~
最上「あれ?山城じゃん提督によばれてたの?」
廊下を歩いていると最上に呼び止められた。
彼女もここに古くからいる艦娘の一人だ。
これから瑞雲の整備にでも行くのだろうか。
山城「そんなところね」
最上「ふーん、あっ!それ!」
さすがの最上でも気づいたようだ。
遅かれ早かれ皆に知れ渡ることではあるとはいえなにかこそばゆい。
山城「さっきもらったのよ、これでより一層姉さまや皆の力になれるわ。」
何故か最上はポカンとしている。
何か間違ったことを言っただろうか?
最上「え?それだけ?」
山城「それだけね。」
それ以上のことがあるだろうか?
指揮する提督と戦う艦娘、戦力増強に戦艦はぴったり簡単なことよ。
最上「でも提督やるなあ、今日を選ぶなんてね。」
最上がボソッと口にした。
山城「え?」
最上「なんでもない、でもね山城。僕は兵器としてじゃない自分の生き方も考えたほうがいいと思うな。」
そう言い残し最上は手を振って去って行った。
兵器じゃない生き方?
私たちは艦娘で戦うために生まれてきたのに?
窓から隙間風が吹き、思わず身震いをしてしまう。
寒くなってきたわ、そういえばもう十一月なのね。
~EP4~
山城「扶桑型戦艦二番艦山城、入ります!」
どうしてこんな固い挨拶をしているかというと、今日は海軍会議で秘書官として提督付きで重鎮達に囲まれているからだ。
本当なら姉さまと二人でお茶していたかったわ。
でも、私が見ていないとこの人はダメだからしょうがないわね。
司令長官「今日の議題だが―――」
難しい話をしているがどうやらブルネイ沖で最近海域が赤化する現象が頻発しているらしい。
前回の大型作戦の失敗が頭をよぎる。
頭にこびりついて離れない。
芳野提督「山城?大丈夫かい?」
様子がおかしいのを悟られたのか、小さな声で提督が聞いてくる。
山城「え、ええ。心配ないわ。」
正直、あまり大丈夫ではない。
頭から血の気が引いていくのが分かる。
しっかりしないと、私がしっかり―――
~一八〇〇~
見知らぬベッドで目が覚める。
山城「ここは?」
確か、提督と会議にでていて・・・。
ふと横をみるとベッドの脇の椅子に提督が座りながら寝ていた。
起こそうとして自分の手が提督に握られていることに気が付いた。
顔が急に熱くなる。
と、とりあえず提督を起こさないと。
山城「て、提督。提督、起きてください。」
提督の肩を揺らしながら声をかける。
芳野提督「ん。ああ、寝てしまっていたんだね。急に倒れたけど身体はどうだい山城?」
座りながら寝てしまうくらい根詰めて働いているのに開口一番にでてくるのは私の心配なのね。
少し嬉しくもあった、でもなんでなのかは分からない。
芳野提督「まだすこし顔が赤いね、熱があるのかもしれない。」
そう言って提督は顔を少し近づけてきた。
山城「だ、大丈夫ですから!」
とっさに提督を押しのけてしまった。
心臓がうるさい、こんなこと出撃の時でもなったことがない。
咄嗟に枕に顔をうずめてしまう。
芳野提督「そうかい?山城が大丈夫ならいいんだけれど。」
きっと、倒れた私を休憩室まで運んできてくれてずっとそばにいてくれたんだろう。
大事な会議だったのにこんなときでも提督は優しい。
それなのに私は何も返せていない。
戦いでも失敗して、秘書官としてもそう。
山城「私、ダメね。」
街のベルが鳴り響く。
その音にかき消してもらうかのように背を向けながらすすり泣いた。
自分が情けない。
どうして何をしても上手くいかないんだろう私。
提督は私が落ち着くまで優しく背中を撫でてくれていた。
~EP5~
今日は早く目が覚めたので一人で堤防まで散歩に来ていた。
普段はしないのだけれど、朝のそよ風も意外と気持ちいいものね。
芳野提督「山城?」
予想だにしない人の声が聞こえた。
山城「あ、あなたも散歩しにきたの?」
芳野提督「毎朝この海岸線を歩いているよ、この水平線の彼方で君たちはいつも戦っているんだなあと思いながらね。」
山城「そ、そう。」
昨日、あのことがあってからか恥ずかしくて提督を直視できない。
気まずい静寂が流れた頃、総員起こしの号令が鎮守府に鳴り響いた。
このタイミングにほっとした自分がいた。
山城「総員起こしね、私たちもそろそろ戻りましょ。」
私は提督から逃げるようにその場を後にした。
~一六三〇~
今、私は入渠ドックで天井を仰ぎ見ている。
どうして?
それは出撃中に提督のことが頭にチラついて被弾なんてしたから。
本当に艦隊旗艦として情けない、どうしていつもこうなのかしら私。
山城「はあ、不幸だわ。」
その時、横から溜息が聞こえた。
加賀「あなたその口癖やめたらどうなの。」
加賀「その程度で不幸だなんて、こっちまで不幸が移ってきそうだわ。」
ムッとした。
私の心の内なんて何も知らずにそんなこと言われたくない。
山城「一航戦だからってそこまで言われる筋合いないわよ。」
加賀「皆を引っ張って行く艦隊旗艦が聞いてあきれるわ。」
山城「なんですって!」
我慢できなかった。
こうなれば売り言葉に買い言葉だ。
一航戦かなんだか知らないけど、こっちだって―――。
赤城「二人ともそのくらいにしましょう、加賀さんも言いすぎですよ?」
割って入ってきたのは同じ一航戦の赤城だった。
赤城は少し微笑むと私の隣に入ってきた。
赤城「加賀さんはね、あなたは不幸じゃないって言いたいのですよ山城?」
山城「どういうことよ?」
本当に言っている意味が分からなかった。
私は史実でも今も不幸艦として言い広められている。
その私が不幸じゃない?
思慮を巡らせていると、諭すように赤城が話し出した。
赤城「あなたが自分よりも艦隊の皆を重んじていることはこの鎮守府の誰もが知っています。そのために血が滲むような努力をしていることも。」
赤城「あなたは皆さんに愛されていますよ、もちろん提督にも。ねえ、加賀さん?」
加賀「そうね。」
加賀はそっぽを向いていたが、耳が赤くなっているのがここから見てもわかる。
思いもよらない言葉に頭が真っ白になった。
私が皆に認められている?
加賀「因果応報って言葉、あなたにぴったりかもしれないわね。」
さすがの私もこの二人にここまで言われてはと、先ほどの言葉を受け止めていた。
皆に――ね。その中にはあなたもいるかしら。
!?
え、いま私―――姉さまじゃなく...。
~間章~
提督との出会いは極々普通のものだった。
あれは梅雨の真っ最中でその日も例外なくしとしとと雨が降っていた。
ドッグで目を開いた私を待っていたのは大本営付きの大淀、何故か満足げな明石、そして新しいおもちゃを与えられた様な眼をしていた提督。
山城「扶桑型戦艦姉妹、妹のほう、山城です。」
着任の挨拶をしたが提督は明石が持っているバインダーの中の私の戦力値に夢中だった。
そりゃ私たちは兵器だものそっちに目が行くのは普通なことだけれど、少しくらい私を見てくれてもいいんじゃないかしら。
山城「はあ、不幸だわ。」
思わず口にだしてしまった。
それに反応して提督がこちらを見た。
そしてゆっくりと口をひらいた。
芳野提督「僕にとってはとても幸運なことだよ。君が不幸だっていうなら足して五分だね。」
何を言っているんだろうこの人は。
不思議な人。
ちょっとおもしろいじゃない、乗ってあげるわその話。
山城「ふふ、この戦艦山城がその足し算の結果を見届けてあげるわ。」
芳野提督「改めて、ここの鎮守府を任されている芳野大尉です。これからよろしく山城。」
これが私たちの邂逅だった。
それからは目まぐるしい毎日が続いた。
建造や海域哨戒で仲間を増やしたり、資材を二人で四苦八苦しながらやり繰りしたり。
小さい鎮守府だったものだから、食事も自分たちで作って。
たまに間宮さんや伊良子さんを呼んで甘いものを用意してくれたこともあったわ。
ほどなくして扶桑姉さまも着任したわね、これには二人で大はしゃぎよ。
そういえば提督は誰かが大破するたびに血相を変えて見に行っていたわね、もはやこれは日常ね。
山城「あれから五年も経ったのね、随分遠いとこまで来た気がするわ。」
今日は海風が肌寒い。
その分、景色は水平線まで透き通って見えた。
この景色、いつかあなたにも見せてあげたいわ。
山城「ねえ、あの時の答え。あなたはどう思う?」
山城「私は―――――。」
強い風が辺りを吹きさらした。
時雨「山城、艦隊配置についたよ。」
了解と一言伝え、大きく息を吸う。
見ていなさい提督。
山城「これより第一遊撃部隊第三部隊はスリガオ海峡へ突入し、敵輸送船団及び敵主力艦隊を撃滅する!艦隊旗艦山城抜錨する!艦隊前へ!」
~EP6~
山城「ねえ、明石。私なんか弾薬庫のあたりがおかしいかも。」
明石「はい?」
突然の発言に明石も呆然としている、そりゃそうだ出撃すらしていないのだから。
でも本当におかしいのだ。
時はさかのぼり―――
あら、提督だわ。
山城「提督――。」
saratoga「admiral?偶然ね、これからサラとランチでもどうかしら?」
!?
あんなに密着して...!
イラ...。
芳野提督「そうだね、アメリカ艦の皆も呼んでお昼をとろうか。」
saratoga「sounds good!そうしましょう!」
あんなに鼻の舌伸ばして...。
それにあの時だって―――。
外にいるのは...提督?
それと、島風?
!?
ベンチでキキキ、キスしてる!?
あんな人の目の付くところで何してるのよ!
芳野提督「ほら、これで目に入ったゴミがとれた。」
島風「提督ありがとー!じゃあ島風とかけっこしよー!」
芳野提督「ははは、ごめんね島風。これから大事な打ち合わせなんだ、まだ今度しようね?」
何よ、欧米のナイスバディや露出の多い娘が好みだって言うの?
なんなのよ!
イライラ...。
山城「ってことがあったのよ。今はもちろん何ともないわ。」
明石は目をパチクリさせながらこちらを見ている。
まるでそんなことなんてある?とでも言いたげだ。
山城「何よ、思うことがあるならはっきり言いなさいよ。」
明石「あのホントに分からないんですか?ソレ。」
分からないも何も知ってたらわざわざ聞きに来ない。
頬杖を付きながら思案する。
特に何も思い当たる節はない。
モヤモヤしながら髪をクルクルしていると明石が口を開いた。
明石「はあ、それは嫉妬ってやつですよ。」
山城「嫉妬...?」
明石「要するに、山城さんは提督が他の娘と仲良くしているのが気に食わないんです。」
明石「提督を自分のものにしたいっていう独占欲とも言い換えれますかね?」
は?
私が提督を...?
一番大切なのは姉さまで、それでそれで...。
提督は...ほっとけなくて一緒にいると安心していつも優しくて...。
えっ?えっ??
あの人のことを考えるだけで顔が熱い、ドキドキする。
明石「これ以上は言うまでもなさそうですね、じゃあ私は装備改修があるのでさっさと工廠から出てってくださいね~。」
どうしても落ち着かず砂浜まで歩いてきてしまった。
風に当たりたいという気持ちもあった。
今日も眼前に広がる海は大きかった、いつも出ているはずの海もなんだか違うものに見える。
山城「こんな感情...兵器の私にはもてあますわ、こんなんじゃまるで..人じゃないの。」
自然と姉さま譲りの赤い目から涙が滴る。
この涙がどの感情のせいかすら私には分からない。
空を見上げると空母達が演習で飛ばしているであろう流星が飛んでいた。
山城「この私の苦悩もあの流星と一緒に飛んで行ってしまえばいいのに。」
私の心とは対照に澄んだ海のさざ波の音が響く中、燃ゆる陽が墜ちていく様をジッとながめていた。
~EP7~
芳野提督「山城これより秘書官の任を解く。代わりとして練習巡洋艦鹿島を秘書官として任命する。」
なんの前触れもなかった。
ただ突然秘書官を解任された。
もうこの日の朝礼の内容は何も頭に入ってこなかった。
扶桑「このところ忙しくしていたもの少しゆっくりしたら?」
山城「姉さま...。」
そうね、ウジウジしていたって何も始まらないわ。
しばらく出撃予定もないし随分と暇ね。
うーん、そうだわ。
山城「姉さま!街へでましょう!」
扶桑「え?街に?」
そうして半ば強引に姉さまを連れ出して街へ繰り出した。
普段はほとんど鎮守府からでないからなかなか新鮮ね。
それにしても私服の姉さまも素敵だわ。
扶桑「山城、あそこのお店に入らない?」
姉さまが商店街のお店を指さしている
物珍しさに釣られて入ると、そこはパンケーキ屋さんだった。
鎮守府ではまず食べることのできない品々ばかりで心が躍る。
山城「どれもおいしそうだわ、どれにしようかしら!」
扶桑「違うのを選んで半分こにする?」
願ってもいない提案が飛んできて、喜んでお互い別々の品を注文した。
なんでもない話をしていると段々になったふわふわのパンケーキが運ばれてきた。
我慢できず早速それを口に運ぶとはちみつや生クリームの幸せな甘さが口いっぱいに広がった。
山城「すごくおいしいわ、提督にも食べさせてあげたいわね。」
!?
自然と口に出てしまった。
恥ずかしいが本心だった。
姉さまはニコニコしながらこちらを見ている。
山城「何よ。」
真っ赤な顔で俯きながら姉さまの返事を待った。
扶桑「なんでもないのよ?ただ、嬉しいのよ山城の成長が。」
山城「成長?変なねえさま、艦娘は成長なんでしないわよ?」
扶桑「ふふふ、そうね。そうだったわ。」
姉さまもたまには不思議なことを言うのね。
でも久しぶりの二人の時間はとても楽しいし幸せだ。
その後も色々なところをを回った。
ガラス細工体験では途中で割れてしまったり、キレイなアクセサリーを見ていたら急に壊れて弁償したりといつも通りの不幸を楽しんでいた。
こんな私たちでも私たちなりに小さな幸せは存在するのだ。
山城「ほら、姉さま早く来て!街が一望できるわ!」
扶桑「そうね。鎮守府なんてあんな小さいわね。」
高台にいる二人に時折強い風が吹き抜けていく。
なびく髪には夕日が照らされて二人の髪は見たことないくらい朱色に輝いていた。
扶桑「山城、秘書官をなんで外されたかわかる?」
山城「私が―――頼りないからかしら。」
扶桑「違うわ、提督はあなたに休暇をくれたのよ。」
山城「じゃあ休暇申請でいいじゃない、なんでわざわざこんな。」
そうだ、それだったら休暇申請をだせば今の時期なら通るはずだ。
なのに手間をかけてまで秘書官を変える意味は何?
提督と過ごすあの時間、嫌いじゃなかったのに。
扶桑「あなた、提督が休めといっても隙あらばずっと演習場に籠りっきりだったじゃない。」
山城「うっ。」
扶桑「これは提督なりのあなたへの優しさなのよ。帰っても提督を責めないで上げてね山城。」
扶桑「それと。」
扶桑「山城ももう自分の気持ちに気が付いているんでしょう?」
何も言えなかった。
この景色だってあの人と一緒に見たいとも思ってしまった。
以前、時雨が提督の隣はもらうと言っていた。
あの時は何も感じなかったが今は胸がチクチクする。
渡したくない。
でも。
山城「私は兵器だから、戦うための兵器だから。」
感情を押し込みながら私はそう言った。
扶桑姉さまが悲しそうな顔を向けているのが分かる。
これが哀れみなのか同情なのかは読めなかった。
扶桑「そうね、そうかもしれないわね。でもね山城、私たちにはあの頃と違って目がある口がある耳があるそして心があるの。これだけは忘れないで頂戴。」
扶桑姉さまの言葉が深く胸に突き刺さった。
私はなんて中途半端なんだろう。
こんな自分に嫌気すら感じる、軍艦の時の方がまだましとまで思える。
私は何?
~間章~
僕は当時、仕事の重圧で押しつぶされそうだった。
艦隊指揮一つ間違えれば簡単に艦娘が暗い海へと沈んでしまう。
そう考えただけで怖くて眠れなかった。
あんな僕より見た目が若い娘たちが命がけで戦っている、僕は指令室で見ているだけ。
そんなときに彼女は現れた。
この鎮守府にとって初の戦艦だ。
ある日、僕は執務室でポロっと弱音を吐いたんだ。
深海棲艦にラインを下げられ、いっぱいいっぱいになっていた時だ。
もう無理だ。こんな不幸を僕にどうすれと。ってね。
そしたら彼女は何て言ったと思う?
山城「何言ってるのよ、私より不幸な人がいるわけないじゃない。だからこれくらいなんとかなるわ。」
こんな時に自分の方が不幸だなんて言うんだ。
おかしいだろう?
でも彼女の手は震えていた。
周りの娘達が不安がらないように気丈に振舞っていたんだ。
山城「何ぼさっとしているの、こんなとこで終わらないでしょ?あの足し算の結果がココなの?」
そうだ。
彼女の言葉が僕を突き動かし始めた。
芳野提督「総員戦闘態勢!目標は戦艦棲姫を中枢とした敵水上打撃部隊群!旗艦山城を中心とした連合艦隊でこれを必ず撃滅し制海権を奪還せよ!」
全員「了解!」
山城「やればできるじゃないの。」
芳野提督「君のおかげだよ。」
彼女は少し照れたように視線をそらした。
僕は彼女の手を握ってこう言った。
芳野提督「誰一人欠けることなく帰ってくることを信じている。暴れておいで山城。」
山城「あたりまえよ、任せなさい。」
今となっては懐かしい話だけど、あの時は本当にあの言葉に救われたんだ。
結果、作戦は友軍艦隊の到着もあって成功したけど、山城は駆逐艦の娘をかばって大破で帰ってきたね。
私より先に他の娘を優先してドッグに入れようとして、本当に優しい艦娘なんだなと痛感したよ。
思えば僕はあの時から彼女を目で追うようになっていたのかもしれない。
大淀「失礼します、司令長官そろそろ作戦会議のお時間です。あ、お邪魔でしたか?」
芳野提督「いや、少し昔を思い老けていただけ。すぐに行くよ。」
ようやくここまで来た。
だが、まだまだこれからだ。
この熾烈な戦いにおいて今日からが重要なものとなる。
芳野提督「これよりMI作戦を実行する!空母機動連合艦隊を編成し、これをもって真珠湾における空母棲姫並びに重巡棲姫を始めとした姫級多数の敵主力大型艦隊を撃滅せよ!」
~EP8~
季節はすっかり秋模様だ。
青々と茂っていた葉も、今や見る影もなく地面に落ちている。
枯れ葉を吹き飛ばすように一台の車が正門前に止まった。
芳野提督「今日は遠いところご足労頂いてありがとうございます。狭い鎮守府ですがゆっくりしていってください。」
呉提督「とんでもないよ、視察とはいったものの君のところは艦娘達にとっていい環境を作っているから私には休暇みたいなものだよ。」
芳野提督「恐縮です。立ち話もなんですからこちらへどうぞ。」
私は二人の挨拶を提督の横で眺めていた。
どうやら今日は上官の視察のようだ。
ふと、呉提督の横の女性と目が合い、会釈する。
秘書官かしら?綺麗な方ね、ええと、確か大井さんかしら。
呉提督「大井、こちらは芳野の秘書官の山城だ。私たちはメンドーな仕事の話をしてくるから二人で女子トークにでも華を咲かせてくるといい。」
そう言って二人は鎮守府の奥へ姿を消した。
大井「あの、大井です初めまして。」
山城「こちらこそ初めまして山城です、私たちも中へいきましょう。」
客間でお茶を用意してお互い腰を下す。
あ、大井さんの左手。
思わず目線が吸われてしまった。
大井「カッコカリ、気になります?」
図星でたじろぐ。
むしろ私の場合、なんて話したらいいかわからない。
山城「えと、その。」
大井は首をかしげている。
山城「私、実はもらってたんです。その、カッコカリの指輪。でも、後から返してしまって。」
大井「返した?嬉しくなかったんですか?」
山城「嬉しかったですよ、これでもっと姉さまや皆を守ることができるって思って。」
大井「それだけですか?」
山城「その時は。」
大井は少し考え込むような所作をし紅茶を口にした。
私は何故かばつが悪くて少し俯いて返事が来る時を待っていた。
大井「その口ぶりだと今は他にもらったら嬉しい理由がありそうですね。あなたのとこの提督は他にカッコカリをしている方はいらっしゃるんですか?」
山城「誰にも渡してないと思います。」
誰かがもらってると一瞬想像して胸がキュッと苦しくなった。
これが俗にいう恋バナというのもなのだろうか。
聞いていた話よりつらいかもしれない。
大井「少し私の話をしましょうか。」
大井「私はもらった時にはすでにあの人のことが好きだったので、選んでもらえた時は戦力のことなんて吹き飛んじゃうくらいもう嬉しかったです。」
大井「めんどくさがりで私が面倒を見ないと身の回りすら危ういけど、いざという時に頼りになるあの背中が好きなんです。なんていうか安心するというか。」
山城「あの大井さんは、自分が兵器なのに人みたいな感情を抱いて怖くなかったんですか?戦うために生まれてきた私たちが自分が自分じゃなくなって、存在価値が無くなってしますような感覚が。」
純粋な問いだった。
純粋が故に私をしばりつける枷。
答えを聞くのがもはや怖い。
そんな心配をよそに大井は口を開いた。
大井「難しいことは分からないですけど、人の姿で生まれてきて人と同じ心を持っている以上、喜怒哀楽があって誰かに好意を持つって普通のことだと思いませんか?」
大井「もちろん軍艦の頃の魂は私たちの根幹にありますけど、私は提督や仲間を思い浮かべるだけで戦場でも力がみなぎってくるんです。だから悪いことだけではないですよ?」
ストンと胸の中で何かがはまる音がした。
確かに戦場でいつも思い浮かべるのは仲間の皆やあの人の笑顔だった。
なんだそんなことでいいんだ。
私の心を縛り付けていた鎖が外れて世界が色鮮やかに変わって見えた。
山城「なーんだ私、自分で物事を難しくし過ぎていたようです。」
大井「ふふふ、山城さんってばコロコロと表情がかわっておかしいですね。」
釣られるように私も笑いだしてしまった。
こんなに心から笑っているのはいつ以来だろうか。
それくらい今は全身が軽やかだ。
兵器だからとか人の姿だからとかじゃなくそれら全部ひっくるめて私だ。
そう私は私なんだ。
~EP9~
カリカリとペンが進む音と時計の秒針の音だけが聞こえる。
いつもと変わらない執務室の光景だ。
変わらないはずなのだが...。
山城(チラ...。)
ボンッ!
顔が熱い。
提督の顔をまともに見ることができないのだ。
自分の気持ちに気が付いてからずっとこの調子で困ってしまう。
山城(チラ...よく見ると提督って鼻筋が高くて、それでいて優しそうな目元をしているわね。)
執務中の時だけかけている眼鏡も普段とは違う雰囲気。
なんかかっこいいかも...。
そんな風に呆けていると、提督が伸びをしながら話しかけてきた。
芳野提督「ふう、山城。ちょっと休憩にしようか?」
山城「ひゃっ!」
芳野提督「ひゃ?」
山城「休憩よね!?そ、そうね、そろそろ休憩にしましょう。」
カアァァァァ。
変な声を出してしまった。
恥ずかしい。
芳野提督「たまには僕がコーヒーを淹れるよ、確か山城は砂糖二個だったね?」
山城「え、ええ。」
私のお砂糖の数覚えていてくれたのね。
些細な事だけれど、私のことを知っていてくれることが嬉しい。
コーヒーを淹れる提督の手、ごつごつしてて大きい。
芳野提督「はいどうぞ。山城みたく上手に淹れられているか分からないけども。」
山城「大丈夫よ、上手く淹れられているわ。」
あなたが私のために淹れてくれたものがまずいわけないじゃない。
こういう何気ない時間が幸せと感じるなんて以前の私なら想像もつかなかったでしょうね。
それにしても提督しゃべらないわね?
そういえばここ、二人きりなのね。
...。
あれ、こういう時何を話していたんだっけ。
意識した途端にドキドキしてきて何も頭に思い浮かばない。
芳野提督「山城?どうしたの、気分でも優れないのかい?」
山城「え?いや、そうわけじゃ...。」
あなたを見てたらドキドキしてなんて言えるわけない。
芳野提督「もしよかったら仮眠室で少し横になってくるといいよ。」
体調が悪いわけじゃない。
でも気遣いが嬉しい。
ふと提督と目が合ってしまう。
私を心配する優しい黒い瞳がこちらを見ている。
急に心臓が跳ね上がる。
山城「そ、そうね。少しだけ使わせてもらうわ。」
その場にいることが耐えきれなくて逃げるように執務室に隣接された仮眠室へ入った。
ドアを閉めるなりその場にへたり込んでしまった。
前まではこんなことなかったのに。
なんなのよもう。
山城「心臓の音、聞こえていなかったかしら。」
そうボソッと吐き捨てて、ベッドにもぐりこんだ。
ここ、いつもあの人が使っているのよね。
提督の匂いがするわね。
なんだか不思議と落ち着く。
全身を提督に包まれているような...。
きっと夢を見ていた。
ここは?
何もない一面の青。
山城「姉さま?提督?誰かいないの?」
返事はない。
無の空間をひたすら歩き続ける。
どのくらい進んだのか、どのくらいの時が経ったのか、進んでいる方向すら分からない。
ふと、目の前に渦潮があることに気が付いた。
一度入ったら飲み込まれて二度と出てこれなさそうな雰囲気を感じる。
山城「これは...。」
海峡夜棲姫「ココハ、トオレナイ。」
突然の声に驚く。
声の主を探すと、渦潮の中心に人影が見える。
山城「あなたは誰。」
海峡夜棲姫「ワタシハ、アナタ。」
異質だった。
でも何故か私と似ているとも思った。
山城「ここはどこなのよ、はやくここから出して頂戴。」
海峡夜棲姫「アナタカラキタノヨ。」
来たくて来たわけじゃない。
でも軍艦としての本能はここが何なのかを理解していた。
海峡夜棲姫「ソレニ、アンナクルシイセカイ、モドラナクタッテイイジャナイ。」
海峡夜棲姫「ココハカンタンヨ、フクシュウニモエルダケ。」
言ってることは単純明快だ、復讐だけ考えればいい。
彼女はニヤリと笑みを浮かべながら手を差し伸べてくる。
さあ。と言わんばかりに。
私に、この軍艦の魂に復讐心がないといえば嘘になる。
以前の私なら楽になりたくて、この手をとっていたかもしれない。
でも今は...。
私はそっと口を開いた。
山城「あなたはまだ好きな人と過ごすことができる幸せを知らないのね。」
海峡夜棲姫「コノタマシイニ、アルノハヒトツダケダ。」
山城「確かにつらいことばかりだわ、でもね。それ以上に楽しいと感じることや嬉しいと感じることの方が多いの。」
山城「私は仲間の皆や姉さま、提督と一緒にいるためならどんな事でもして見せる。」
山城「だからね、私は私の幸せのためにいつの日かあなたも救ってみせるわ。」
少しの静寂が流れた。
海峡夜棲姫「ハハハハハハハハッ!!!!」
海峡夜棲姫「ジャアイツノヒカ、ドチラガタダシイカタメシテミヨウジャナイカ!!!!!」
憎悪を隠そうともしない表情でさぞ愉快そうに笑い、彼女の姿はゆっくりと消えていった。
それと同時に周りが白く輝き、山城の身体を包み込みながら浮いていく。
消えゆく視界の中で山城はポツリとつぶやいた。
―――あなたは可哀そうな私だったのね。―――
~EP10~
微睡みの中から意識が目覚めていく。
私はどれくらい眠っていたんだろうか。
時刻を確かめるために時計の方を向くと、〇一〇〇だった。
随分と休んでしまった、執務室にはまだ明かりがついている。
山城「こんな時間まで一人で仕事しているのね、悪いことをしたわ。」
ベッドから身体を起こしドアノブに手をかけたところで一度深呼吸をする。
よし。
山城「提督?休んでしまってごめんなさい手伝うわ。」
芳野提督「もう体調はいいのかい?」
そう言う提督は窓から外を見ながらお酒を飲んでるようだった。
机の上に視線をやると綺麗に書類がまとまっている。
既に今日の分は終えている様子だ。
山城「ええ、おかげさまで。それ、私にももらえる?」
提督「もちろんいいよ、でも珍しいね山城がお酒を飲みたいだなんて。」
山城「そういう気分なのよ。」
そういう日もあるかとクスクスしながら提督は一つグラスを取り出して注ぎだした。
なんとなく同じものを飲みたい気分だったし、今はお酒の力を借りたい気分でもあった。
グラスをもらい口をつける、ちょっと私にはほろ苦い味だった。
不思議と心地がいい沈黙が続いた。
山城「ねえ。」
先に沈黙を破ったのは私のほうだった。
提督はどうしたのと言わんばかりにキョトンとこちらを覗いている。
山城「提督って私のこと好きよね。」
芳野提督「んっ!!!」
不意な言葉に提督がむせている。
わかりやくてかわいいとも思った。
そんな提督をよそに私は言葉を続けた。
山城「私、知ってて提督の優しさに甘えてたのよ。」
山城「あなたと過ごす内に私の知らない感情がたくさん芽生えたわ。兵器としてじゃない人の心が私にもあったのよ。」
山城「でも艦娘の矜持との葛藤でどうしていいのか分かんなくなっちゃってね。」
山城「皆やあなたと出会って人と兵器、どっちがとかじゃなくどっちも私なんだと気付かされたわ。」
自分でもびっくりするくらい饒舌になっている。
これがお酒のせいなのか、それとも別の何かなのか。
今はもうそんなのどうだって良かった。
提督はだまって私の話に耳を傾けてくれている。
山城「だからもう正直になると決めたわ。」
ふうっと大きく息を吐く。
―――貴方が好きよ。―――
提督の身体がこわばった気がした。
山城「ずっと待たせてしまってごめんなさい。私、あなたの隣にいてもいいかしら...?」
気持ちを伝えるのはスラっと言えたのに、答えを聞くのが怖い、泣いてしまいそう。
提督もカッコカリの指輪をくれた時こんな気持ちだったのかしら。
ここまで言っておいて俯いている私に提督が歩み寄ってきた。
芳野提督「山城。」
身体がびくっとした。
返事を待つこの時が何時間にも感じる。
顔を見れない。
芳野提督「ありがとう、きっとたくさん考えてきたんだね。」
芳野提督「僕はね?君に救われたあの日から、君しかいなかったんだ。」
芳野提督「だから、こんな僕で良ければよろしくお願いしてもいいかな。」
山城「提督...。」
私の頬には自然と涙が伝っていた。
これはきっと嬉しいから。
目の前にいるあなたからもらった感情。
ふと提督と目が合った。
まるで宝物でも見るかのような眼差し。
芳野提督「山城...。」
提督が私の名前を呼んで―――。
その時、私たちの唇が触れ合った。
初めてはちょっぴりお酒の味がした。
身体が熱い。
でも心から好きな人と触れ合えたことが何より幸せだった。
芳野提督「それじゃあ、君に返さないといけないものがあるね。」
そう言って提督は机の引き出しからそれを取り出して私の前に戻ってきた。
一体何を...。
あ...。
提督の手にあったのは私が一度手放したものだった。
山城「いいの...?また、私が貰っても...いいの?」
もう涙が止まらなかった。
私のわがままだったのに。
他の娘に渡すことだってできたのに。
ずっと私を待って...。
芳野提督「いいのも何も最初から君のモノだよ。」
再び私の左手にその指輪が嵌った。
空っぽだった心が満たされていく感覚がした。
私は羞恥心なんてどうでもよくなって提督の胸に抱きついてた。
山城「ありがとう...。もう...絶対手放したりしない...!」
提督は小さく頷くとその大きな手で抱きしめてくれた。
―――提督知ってる?私はあなたに出会えたことが幸運だったと思っているのよ。―――
これはとある鎮守府の一人の不器用な艦娘が人の心を知るお話。
二人が結ばれた十一月三日、この日は季節外れの桜が咲いたとか。
窓の外では水平線の彼方まで続く満点の星空が祝福しているようだった。
~fin~