冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~   作:オジロワシ

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第肆話 想定外進撃

 ──西暦二〇〇二年九月一日、午後八時──

 

 ザポリージャ近郊に位置するレーダーサイトがドニエプル川以西より湧き出る無数の輝点(ブリップ)を捉えた。

 

「なっ?! 嘘だろ!? いま夜だぞ!!」

 

 退屈そうに本を読み耽っていた監視員は血相を変えてレーダー画面を睨む。延々と湧き出てくる輝点(ブリップ)に現実を受け入れられず、レーダー本体の異常や機器の故障を疑ってあれやこれやと目を通しても何ら異常は見られない。

 

「あ゛あ゛ぁぁーくっそ!! 夜くらいゆっくりさせてくれよ!!」

 

 無理やり現実を受け入れる。そうしてとにかくどこかに知らせなければ、という焦燥感に駆られてオープン回線で無線を垂れ流す。

 

「こちら第六レーダーサイト、ドニエプル線より進出する敵部隊を確認!! 応答願う!!」

 

 数秒して通信を拾ったザポリージャ要塞から応答が成される。

 

『......こちらザポリージャ要塞、機器の故障ではないか。送れ』

「確認してる!! 機器の故障じゃない! ほんとに来てんだ!!」

 

 無線交話法も無しの滅茶苦茶な連絡にザポリージャ要塞の通信員は少し呆れてしまう。しかし、これだけ切羽詰まった声音で言われれば信じざる負えない。

 

『了解した。これよりザポリージャ要塞及び他前進作戦基地(F.O.B)へ通達する。敵部隊の動向を注視し、変化があれば送れ。終わり』

 

 無線交信が終わると同時に監視員はつい舌打ちする。

 

「聞いてた話と違うじゃねぇか......あの怪物共、夜は動けないって話だっただろうが......」

 

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 ──同日同刻、ザポリージャ要塞──

 

 数多の高射砲、重砲に加えて一個戦車旅団が直々に防備を固めるドニエプル線の要衝ザポリージャ要塞。常日頃夜になれば戦車兵たちの愉快な喧騒が聞こえてくるこの基地も、今夜ばかりは猛る怒号に包まれていた。

 

「総員第一種戦闘配置!! もたもたすんな!! 砲兵隊はもう撃ち始めてるぞ!!」

 

 臨戦態勢の号令に従い最前線で眠っていた鉄獅子達がディーゼルエンジンの唸りと共に起き上がる。一様に列を構え、掘り込んだ戦車壕に身を潜めて敵を待ち受ける。T-72の赤外線サーチライトが暗視装置越しに夜間を淡く照らしていく。

 

 小隊から上がる戦闘準備完了の報告を受け、中隊長は無線機を手に取る。

 

 呼び出し符号はウラル01。第一戦車大隊長殿だ。

 

「ウラル01、こちらアンナ01。送れ」

『アンナ01、こちらウラル01。送れ』

「アンナ01、中隊各車戦闘準備完了。送れ」

『ウラル01了解。敵部隊は進路そのまま、以前進攻中。会敵予想時刻は二〇三〇。敵部隊を視認次第知らせ。終わり』

 

 ウラル01の報告をそのまま隷下の小隊へと伝達、無線を置くと同時に腕時計に視線を落とす。現在時刻は二〇二〇。告げられた会敵予想時刻まで残り十分程度。

 

「にしても夜間に戦闘とはな......」

 

 開戦初期からの数少ない生き残りである中隊長でさえ、夜間の戦闘は初めてであった。訓練ならば経験はあるが、実戦は異生物群(グレート・ワン)の夜間に活動できないという特性のせいで経験したことがない。ゆえに今回のような夜間戦闘はイレギュラーもいいところである。

 

「今度からは夜間戦闘の訓練も教育プログラムに入れないとな」

 

 そんなことを呟いていると、地平線からオーロラ色の煌めきが沸き起こる。遅れて二〇三ミリ重砲と一六インチ列車砲の榴爆弾が続々と着弾。煌めきの波に穴を開けるように大群を消し飛ばしていく。

 

「来やがったか......」

 

 大地を震わせ血肉諸共土砂を巻き上げる地獄の砲火を受けてなお、化け物共は空いた穴を埋めて目に映る情景を埋め尽くしていく。空でさえも、いつの間にか異形の鳥に包まれ完全な暗闇が訪れる。

 

 この光景ばかりはいくら目にしても慣れることが無い。

 

 息を呑み、震える手で無線を掴む。

 

「ウラル01、こちらアンナ01。敵部隊を視認した。送れ」

『ウラル01了解。敵部隊の規模は分かるか。送れ』

「ウラル01、敵部隊の規模は大型種が目算二〇以上。主力部隊と認む。送れ」

『ウラル01了解。既に[グレイプニール]へと救援要請を送っている。到着予想時刻は二〇五〇、それまで持ち堪えてくれ。送れ』

「アンナ01了解。精々足掻いて見せます。送れ」

『アンナ01、ウラル01。武運を祈る。終わり』

 

 ノイズを吐き無線機が沈黙する。

 

「......無茶を言ってくれる」

 

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 爆発したようなけたたましいブザーが館内に響き渡る。食事を終え、自室の掃除をしていたルカは驚いてその場に立ち尽くしていた。

 

「......何をしてるんだ」

「へっ? あ、イヴァンナ中尉! このブザーって......」

「あぁ、予想通り。出撃命令だ」

 

 ブリーフィングがあると言われ、イヴァンナと共に本館へと向かう。

 

「お、遅れました! パヴロフ・ルカ二等兵です!!」

「イヴァンナ・スヴェンソン中尉です」

 

 背筋を伸ばして敬礼をするルカにサーリヤは緩慢に振り向く。

 

「大丈夫。取り敢えず、座ってていいよ」

「あ、はい、失礼します......」

 

 綺麗に並べられたまま埃を被っているパイプ椅子を引いて腰掛ける。イヴァンナも隣に腰を据え、腕を組む。

 

 一拍置いてサーリヤは隅に設置された無線機を手に取り、スピーカーの電源を入れる。

 

「こっちは準備完了」

『......了解。スピーカーは入ってるな?』

「入ってる。説明を」

『言われなくても分かってるよ』

 

 説明と聞いてルカは居住まいを正す。

 

『さて、ひとまずパヴロフ・ルカ二等兵はいるか? 聞こえていたら返事をしてくれ』

 

 ルカはする必要も無いのに勢いよく立ち上がり敬礼し、声を張り上げる。

 

「はっ! パヴロフ・ルカ二等兵です!!」

『いい返事だ。私はモスクワ軍管区司令部(M.O.B.H.Q)STAG(スタッグ)戦略オペレーターのセルゲイ・クズネツォフだ。よろしく頼む』

「よろしくお願いします!」

『あー、まぁそう気張らなくても大丈夫だ。落ち着いてくれ』

「......分かりました」

 

 そう言われてルカはゆっくりと腰を下ろす。

 

『それではブリーフィングを始める。まずはルカ二等兵、君の扱いについてだ。まず前提として君の所属する第一遊撃隊[グレイプニール]という()()は存在しない』

「......え??」

『驚くのも無理はないだろう。しかし、分隊にも満たない極少人数を部隊として運用するには特別な措置が必要でな』

「特別な措置、ですか......」

 

 あまり良い印象を受けない言葉にルカは息を呑む。

 

『そうだ。そして、その措置によりルカ二等兵。君は以後戦術兵器として扱われることになる』

「せ、戦術兵器?!」

『混乱するだろうが、そういうものとして受け入れてくれ。なお、戦術兵器として扱うことにはなるが軍規違反などは厳しく罰せられる。人権についても戦術兵器扱いだからといって停止などはされないから安心してくれ』

「え、あっ、分かりました......」

『なに、別に今まで通り過ごしていればいいだけの話だ。いわゆる書類上の扱いってやつだな』

 

 急に大量の情報が入り込んできてルカの頭は真っ白になってしまう。

 

『それではルカ二等兵。これより君は特殊戦術兵器群(STAG)[第一遊撃隊グレイプニール]二番機として登録される。コールサインは[ボールド・イーグル]だ。分かったら復唱!!』

「ぼ、ボールド・イーグル!!」

 

 ルカは理解が追い付かないながらも反射で声を張り上げる。

 

『よし、それでは前置きも済んだところで本題に入ろう。ジャガーノート、念のため地図を出してくれ』

「了解」

 

 そう言われてサーリヤはサンクト・ペテルブルクからクリミアまでが収められた地図を取り出す。

 

「アルバトフ大尉??」

「ん? あぁ」

 

 疑問符を浮かべた表情のルカにサーリヤは説明をしてやる。

 

「ジャガーノートは私のコールサイン」

『今は構わんが、作戦行動中はコールサインで呼ぶように心掛けてくれ。ちなみに私のコールサインは[リベレーター]だ』

 

 とセルゲイは補足する。

 

「地図、敷いたよ」

『うむ。それでは現在の戦況を報告する』

 

 サーリヤはどこからか先に板の付いた棒を取り出す。巨大な地図上にはモスクワの近くに星マークが描かれていて、補足のためか本拠基地と追記されている。

 

『本日午後八時頃、ウクライナ保護国の第六レーダーサイトがドニエプル線より進出する敵部隊を捕捉した。敵部隊はザポリージャ要塞に対し攻撃を仕掛けており、現在第四戦車師団が防衛に当たっている』

 

 巨大な地図上に青い駒が一つ、ザポリージャに設置される。そして、その駒と接する程の位置に赤い駒が三つ。劣勢であることは明らかだ。

 

『敵部隊の規模は報告をそのまま読み上げれば大型種が目算二○以上だが、どうせまだ増えるだろう。規模はあまり意識しなくていい。とにかく、第一遊撃隊は現地へ急行、到着次第敵部隊を殲滅しろ。報告は不要だ』

「了解」

 

 淡々と答えるサーリヤと違い、ルカには一つ気になることがあった。

 

「あの、一つよろしいでしょうか?」

『なんだ?』

「ザポリージャまではどのようにして移動するのでしょうか?」

 

 先程の地図に描かれていた通りであれば、モスクワからザポリージャまでは直線距離でも八○○キロはある。電車は論外として、空輸でも通常の輸送機では時間が掛かり過ぎる。戦闘機なら多少は速く着くだろうが、二人の輸送に戦闘機を飛ばすというのも中々に手間が掛かる。

 

『あぁ、言っていなかったな』

 

 一呼吸置いて嫌な笑みでも浮かべていそうな声音でセルゲイは言う。

 

『走るんだよ』

 

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「ウ゛ッ......オ゛ェ゛......」

 

 ものの二十分でザポリージャ要塞に到着したルカは感じたことの無い気持ち悪さを覚えて電柱に寄り掛かっていた。

 

「大丈夫?」

「だいじょう......ぶではないです......」

 

 走ると言われて無理ですと駄々をこねたルカはサーリヤに担がれて強制連行された。実際は走るというより走り跳びといった感じで、助走をつけたら大きく飛び上がり着地と同時に再度飛び上がる。そんなジェットコースター染みた挙動に加えて速度はそこらの戦闘機に引けを取らないレベル。

 

 気絶しないのが不思議である。

 

「......取り敢えず私は先に向かうから、眷属も大丈夫になったら来て」

「り、了解......」

 

 そう告げてサーリヤは眷属をその場に置いて野戦指揮所へと向かう。

 

「通るよ」

 

 入口の歩哨は何も言わず顔パスで通してくれる。黒髪ロングの軍服を着込んだ少女など早々居るものではない。一々官姓名の確認やらの手間が掛からないのは幼い体の利点でもある。

 

「ジャガーノート、現着した」

 

 サーリヤはこの指揮所の指揮官であろう中佐に声を掛ける。

 

「足枷を付けた鴉のパーソナルマーク......君がジャガーノートか」

「はい」

 

 あまり歓迎してはいない声音だ。

 

「......よく来てくれた。早速だが──」

 

 突如、中佐の声を遮って猛烈な爆風と揺れが野戦指揮所を襲った。

 

 揺れは数十秒続き、大気を震わす轟音は反響して延々と響き渡る。

 

「これは......航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)か」

 

 揺れが収まるのを待っていると、若い伝令兵が慌てた様子で走ってきて叫ぶように言う。

 

「報告します!! 先程の航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の自爆攻撃により、遅滞戦闘に当たっていた戦車中隊[アンナ]が消滅!! これにより戦線中央部に間隙が発生! 現在戦車中隊[ボリス]、[ヴァシーリ]が対処していますが、包囲の危険性があるとして撤退許可を求めています!!」

 

 中佐は暫し沈思して回答を出す。

 

「......分かった。撤退を許可する。合わせて遅滞戦闘中の全部隊に通達。遅滞戦闘の目的は達した。戦闘行動中の各部隊は第二防衛線まで後退、機動防御に移行せよ」

「了解!!」

 

 伝令兵が走り去るのを見送り、中佐はサーリヤに向き直る。

 

「そういうわけで、後は頼んだ。一応、高射砲部隊による対空支援は継続するが、先程のような撃ち漏らしもある。だが、あんたなら問題ないだろ」

「問題ない」

 

 踵を返しつつサーリヤは応える。そうして野戦指揮所を後に戦闘準備を整えていると、持ち直したのか眷属が追い付いてきた。

 

「アルバトフ大尉......??」

「なに?」

「いえ、その......それは一体......」

 

 眷属から見れば、今のサーリヤは中々に異質な姿をしていた。

 

 九尾の狐が如く生え揃う六本の黒い尻尾に、手首から生えてレーザー光線の網のように辺りを漂う一対の鎖。尻尾もよく見てみれば全てが鎖で出来ていて、ジャラジャラと音を鳴らしながらうねっているのが分かる。

 

 その異様を眺めたまま突っ立っている眷属にサーリヤは手を差し出す。

 

「......ん」

「???」

「手、握って」

「え? なぜ手を?」

「いいから」

「は、はぁ......」

 

 一瞬躊躇いながらも眷属は差し出された手を握る。

 

 そして、手を握った途端眷属にもサーリヤと同様の鎖が勢い良く生え揃う。

 

 両手首と腰から骨肉を抉り、盛大に血を吹き上げながら。

 

「────────ッ??!?!」

 

 眷属は声にならない悲鳴を上げてその場に頽れる。無理もないだろう。骨肉を削り血を噴き上げて、その都度治り鮮烈に感覚受容器を刺激する。新鮮な痛みの洪水を初見で耐えるというのは不可能な話だ。

 

「っ......こ......れは......」

「大丈夫?」

 

 冷徹な声色で投げかけられる言葉に眷属は大きくかぶりを振る。腕に力が入らないのか、支えていた手がガクリと崩れて土下座のような姿勢でうずくまる。

 

 鎖達はそんな宿主のことなどつゆ知らず元気に伸びていく。それぞれに意思があるかのように鎖の群れが眷属を取り囲みうねり漂う。

 

「......先に行くからね」

 

 そう言い残してサーリヤは一足先に戦場へと赴く。

 

 高射砲が猛り狂う対空砲陣地を越え、曲がりくねり連なる塹壕の頭上を飛び越えて。遅滞戦闘を行っていた勇猛果敢なる鉄の猟犬より畏怖と敬遠の眼差しを受けて。幾重の想いと期待を背負いサーリヤは最前線に降り立つ。

 

「多いなぁ」

 

 見れば地上を隙無く覆い尽くすオーロラ色の大群。オレンジ色と緑色の混ざった強酸性の体液が水晶に乱反射して織り成す、先行掃討種(クリューエル)の不気味な煌めき。

 

「めんどくさい......」

 

 ボソッと呟いて地に顎を付けそうなほど伏せる。猫などが狙いを定め、今まさに飛び掛からんとするのに似た低姿勢。人間の体の都合上腰は浮いてしまうが、見てくれは獰猛な野生の肉食獣だ。

 

 両手首の鎖は後ろへと伸びて並び、六尾の()()が敵を見据える。そして、大地を割るほどの威力で蹴り上げて飛び上がり、大群の只中に身を投じる。

 

 隙無く降り注ぐ榴弾に紛れて、一際強烈な激震が走った。

 

 サーリヤの身体そのものを用いた質量爆弾による一撃だ。

 

「それなりに飛ばせたかな」

 

 更地と化して湯気立つ真っ暗な戦場。そこにパンっという破裂音と共に光が落ちてくる。

 

「閃光弾......」

 

 目を細めて頭上を見上げると、巨大なシルエットが浮かび上がる。

 

 蛹のような胴体にカニのような三対の歩脚。胴体から吊るされたハチの如き腹と過剰なまでに巨大な毒針。立派に生えそろった鋭い背ビレ。

 

「流石に重装甲殻種(ファントム)までは無理か」

 

 サーリヤは敵に取り囲まれる前に跳躍し、鎖を重装甲殻種(ファントム)の外殻に撃ち込む。

 

「捕った」

 

 タイミングを見計らい、飛び蹴りの姿勢のまま高速で鎖を巻き取る。亜音速の蹴りが命中すると同時に鎖を引き抜いて倒れ行く巨体から離れていく。

 

 数十メートルの巨体が地面に伏し、幾ばくかの先行掃討種(クリューエル)が不幸にも下敷きになる。そして今度は隣の重装甲殻種(ファントム)に一六インチ列車砲の榴爆弾が直撃。

 

 あまりの衝撃に重装甲殻種(ファントム)はバランスを崩し、真後ろに倒れ込む。

 

「いい腕してる」

 

 さて、と地面を見下ろせば三又に裂けた大口がいくつも構え、サーリヤを待ちわびている。

 

 長くしなる首。頭部は無く、あるのは三又に裂けた大口のみ。二対の腕と一対の逆関節脚。二又の尻尾。機動力に特化した中型種、浸透襲撃種(ガルマディア)

 

 眺めているうちに、サーリヤの身体は自由落下を始める。このまま落ちて行けば、浸透襲撃種(ガルマディア)に荒々しく食い散らかされてしまうだろう。

 

 だが、やはり頭が悪い。こんなにも密集して、動きもせず距離も取らず獲物を待ちわびるなど格好の的でしかない。

 

 サーリヤは姿勢を変え、頭から真っ逆さまに落ちる形になる。自ら飛び込まんとしている獲物に興奮したのか、浸透襲撃種(ガルマディア)共は互いに押しのけ合い、我先にと仲間を踏み台に登り詰めてくる。

 

 そんな文字通りの脳無しに、六尾の砲口がサソリの尾のように反り、標的を捉えた。

 

「斉射」

 

 号令と共に黒鉄の弾丸が放たれる。甲高い金属質な炸裂音が反響し、六角状の鋭い鎖の弾丸が折り重なる浸透襲撃種(ガルマディア)を一直線に貫く。超高速の弾丸に引きずられた筋組織が弾性の高い皮膚をも諸共に引き千切り、三枚おろしのようにズタズタに切り裂かれる。

 

 弾丸はそのままの勢いで地面に突き刺さり、コンマ数秒置いて炸裂。爆轟に浸透襲撃種(ガルマディア)はバラバラの肉塊と化し四方八方に飛散する。後には何も見えない程に黒い黒煙が漂い、焼けた血肉が地面にこびり付いている。

 

 サーリヤは再び姿勢を変えて五点接地で着地。

 

 焼けたゴムの不快な臭いが鼻を衝く。

 

 休む間もなくサーリヤを仕留めようとザポリージャ全域の異生物群(グレート・ワン)が集まってくる。あらゆる方向から先行掃討種(クリューエル)の目に痛い煌めきが迫り、それらを踏み潰しながら浸透襲撃種(ガルマディア)が榴弾豪雨吹き荒れる平野を疾走する。

 

 サーリヤは適当な方向を向き、地面を蹴る。一瞬で距離を詰めてくる獲物に、自爆しようとする先行掃討種(クリューエル)を両手に握った鎖でその間もなく薙ぎ払う。水晶体を真っ二つに叩き割られ、先行掃討種(クリューエル)は強酸性の体液を吐き散らして自身の身体諸共溶けていく。

 

 一分もすれば強酸性の水溜りがそこかしこに生まれ、ボーリングマシンのように地面を溶かす。足の踏み場が無くなれば、敵の身体そのものを足場にして空中を翔けるように飛び移っていく。至る所で撃ち漏らした先行掃討種(クリューエル)が自爆し、横殴りの酸弾が吹き荒れる。

 

 その酸弾を避け切れず身体中に襲い掛かり、服を、表皮を、骨肉を溶かしていく。露出した骨肉と神経が空気に触れて悲鳴を上げようと、サーリヤは留まることなく狩りを続ける。張り付けたような無表情のまま、ただ黙々と狩りを続ける。

 

 一直線に突撃してくる浸透襲撃種(ガルマディア)を蹴り倒して足場にして。手首の鎖をバラして一気呵成に撃ち込み、噴火の如き爆炎で焼き払う。

 

 もはや砲兵隊や列車砲も霞むほどの爆轟と激震が響き渡る。

 

 閃光が沸き、次の瞬間には黒煙と共にさっきまで大地を埋め尽くしていた大群が消え去っていく。軍服は無数の酸弾により穴ぼこで、服としての機能を有していない。軍服だった布切れをはためかせ、英雄ではなくさながら死神だ。

 

「......流石に時間が掛かる」

 

 重装甲殻種(ファントム)を蹴り倒し、その上で身体は束の間の休息を貪る。その間も鎖は個々に意思があるかのように蠢き、敵を薙ぎ、黒鉄の砲火を浴びせかける。

 

 一見すれば邪神の如き偉容。冷徹な瞳に人にあるべき情は宿ることなく、不気味の谷をどうにか越えた機械人形のような危うさを、不気味さを醸し出している。

 

 固定砲台が如く立ち尽くすサーリヤを好機と見たか、航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)が数匹群れを離れて降下を始めるも、サーリヤが反応するまでも無く一〇〇ミリ高射砲の時限信管榴弾が炸裂。

 

 呆気なく肉片と化して千切れ飛ぶ。

 

 完全な暗闇の中、オーロラ色の飛沫が舞う月光すら届かぬ戦場で。

 

 神々への反逆を選んだ者ものとして、邪神は己が力を存分に振るう。

 

 ()の名は反逆者(エルダー・ゴッド)。神に逆らい、挑んだ者達だ。

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