冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~   作:オジロワシ

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第肆拾弐話 迫る嵐

 ──ソコトラ島沖三七〇キロ、一〇月一四日 一八時〇〇分──

 

『コチラ大和、艦隊ヨリ二時方向ニ潜望鏡ヲ視認。距離一二〇〇』

「よし!! 次で......確か七隻目!!」

 

 ルカは重油と体液で赤黒く染まった海面を蹴り上げ、早速次の潜水艦を仕留めに向かう。

 

 何度か潜水艦を間近で撃沈して分かったのだが、どうやらガワは軍艦でも中身は異生物群(グレートワン)と同じらしい。軍艦としての外殻を貫けば、そこから血が噴き出す。

 

 何より、爆沈した時には鉄片と肉片が混じった水柱が上がる。

 

「そろそろ暗くなってきちゃったな......灯りでもあればいいんだけど......」

 

 大和らの探照灯で照らしてでもくれれば楽ではあるのだが、それはそれでリスキーだ。幸い、暗黒の夜でも直ぐにこの身体は慣れてくれる。

 

 最初だけの辛抱だ。

 

「うーん......暗くて見えづらい......あれか?」

 

 黒い海原で鈍色の輝きを放つ何かを見つけ、当たりを付けて鎖弾を撃ち込む。

 

 鎖弾は水しぶきと共に海中へと吸い込まれ、ゴンッという鈍い貫徹音が響く。

 

「よし、当たり!! もう一発!!」

 

 命中を確認し、もう一発、二発。少し着弾点をズラすように撃ち込む。

 

 数秒の後、ボコンっと何かが凹むような音が響き、大きく水柱を上げて潜水艦が爆沈。見慣れた赤っぽい飛沫と鉄片が宙を舞い踊る。

 

 八隻目を撃沈している間に、既に辺りは暗闇に包まれていた。志願して潜望鏡深度の潜水艦狩りを開始してからどれほど経ったのかは分からないが、そろそろ遠くで上がる水柱も減ってきた。

 

 数分近場で待機していたが、潜望鏡発見の発光信号は来ていない。そろそろ一度戻ろうかと思った矢先、新たな発光信号が送られる。

 

『コチラ大和。敵航空隊ヲ探知シタ。至急帰投サレタシ』

 

 ルカは指示に従い、一度大和へと帰投。艦橋へと上がる。

 

「また航空隊ですか?」

「あぁ。だけど今度は規模がデカい。雲でレーダー波が若干遮られてはいるが、それでも二〇〇機前後の大編隊だ」

「それは......回避は......」

「無理だろうね。既に距離八〇〇〇、高度四〇〇〇まで接近している。この雲で敵もこちらを見つけるのには難儀するだろうけれど、見つかるのは時間の問題だ」

 

 艦橋に重い空気がのしかかる。そして、暫しの静寂。

 

 ルカはふと、嫌に静かなことに違和感を覚えた。

 

「ところで、潜水艦はどうなったんですか?」

「さっきから鳴りを潜めてるよ。より深い深度に潜ったか、完全に機関を止めたか。どっちにせよ反応が突然消えて、まだ探知出来ていない」

「航空機の攻撃に合わせて不意打ちっていうのは......あり得るんですか?」

「あり得る。航空攻撃の騒音に合わされると、対処も難しくなるからね」

 

 誰もが息を呑んで曇天を見つめる中、遂に敵機が空を覆う天蓋より姿を現した。

 

 遥か彼方の空に、雲を突き抜け飛び出た敵編隊。その総数は軽く一〇〇は越えていそうなほどだ。

 

「遂に来たな......!! 全艦対空戦闘、弾幕を張れ!!」

 

 全艦の速射砲が一斉射撃を開始。対空ミサイルも惜しみなく発射され、光弾とミサイルの噴煙に炎が暗い海原を彩っていく。

 

『敵機、更に増加!! 概算総数二〇〇!!』

「多すぎるッ!! 全艦反転、現海域から離脱せよ!! 少なくとも潜水艦は振り切るぞ!!」

 

 艦隊は対空射撃を続行しつつ、大きく弧を描いて海域よりの離脱を試みる。

 

 近代化改修を施された大和の最大速力は三〇ノット。潜水艦であれば容易に振り切れる。仮に敵艦隊と接敵したとして、軽巡以下の艦艇であればミサイルと火力集中で対処可能。

 

 戦艦級を備えた主力艦隊であるならば、足の差で逃げ切れる。

 

「......なんだ?」

 

 突如、艦隊の周囲の海面がざわめき始めた。艦隊の周囲から取り囲むように波が大きく、渦を成すように回り始めている。

 

「渦潮か? だがなぜこんな急に......」

 

 副砲とミサイルの発射音を掻き消すかの如く、巨大な波が大和の船体に打ち付ける。打ち付ける波は次第に勢いと強さを増し、船体からミシミシと不穏な音が響いていく。

 

 悠長に艦隊を取り囲む渦潮を眺めていると、ガコンッと鈍い音が鳴り響き、金属の軋む音が一層強くなる。

 

「──っ、なんだ今の音は?!」

「クソっ、なんだこれ?! 舵が?!」

「どうした!! 何が起きている?!」

 

 船の舵を操作する操舵手が、深刻な面持ちで振り返る。

 

「か、舵が効きません......」

「なに? 貸してくれ」

 

 と艦長が操舵を試みるも、舵輪はまるで動かず言うことを聞かない。

 

「まさか渦潮に──」

 

 艦長が言い終えるよりも速く、大和の船体が今起きている事態を明確に示していた。

 

 大和の船体が傾いたのである。もちろん、被弾などしていないにも関わらず。

 

「くっ......これはまさか!!」

「......大和、及び全艦。渦潮に巻き込まれ、操舵不能。速力一〇~一七ノットで安定せず......身動きが取れませんっ!!」

 

 <<>>

 

「よし、これで逃げられないねぇ」

 

 武蔵の艦橋。艦長席に腰を掛け、悠々とその少女は全艦の指揮を執っていた。

 

"潜水戦隊(ウルフパック)より報告。敵艦隊は網に掛かった、とのことです"

「よ~しよしよしよし。これなら航空機だけで潰せそうだねぇ~」

"......それは──"

「文句あんの?」

 

 少女は前方を見据えたまま目を眇め、声のトーンを落とす。

 

「いっとくけど、君達を復活させたのは私なんだよ? 分かってる?」

"......承知しています"

「じゃあ指示に従ってよ。君達の中身用意するの、大変だったんだからさァ?」

"............"

「返事は??」

"了解。指示に従います"

「よろしい~」

 

 少女は表情を元に戻し、おどけた撫で声を発する。

 

「はぁ、にしてもやっぱ武蔵ちゃんレベルの大物だと反抗的になるんだ。チャームも万能じゃないんだねぇ」

 

 瞼の中の目玉をグリっと回すと、淫紋の刻まれたピンク色の瞳へと切り替わる。

 

「淫魔に神は居ない。まぁしょうがないっちゃないか。悪魔だしぃ~......でももっと上位の種も狙えたかな~」

 

 目ん玉をグリグリと指で弄りながら、少女はポツポツと独り言を呟いていく。

 

「ま、時間なかったし。大丈夫だよね。ね、武蔵?」

"......そうですね、大丈夫だと思います"

「にへへ! そうだよね~。だって私は──」

 

 目玉を元に戻し、ニヤリと口角を上げる。

 

「最強の海獣、レヴィアタンだもの」

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