冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~   作:オジロワシ

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第伍拾参話 ハイ・プロフィットターゲット

「ウルゥア”ア”ァァァァァァァァ!!!!」

 

 ヒュドラの放ったブレスが黒い鎖に引き裂かれ、掻き消える。離散した絶対零度の風の刃は黒い炎に焼き喰われ消滅。

 

 消えることの無い黒炎が周囲に飛び散り、冷気を払う。

 

「ッ?! 絶滅の炎?! いや、それより......ルカ軍曹、ひとまず離脱しましょう!!」

「ウルルゥゥゥ......ルウゥア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!」

 

 瞳までを黒く染めるルカにネヴィルの言葉は届かず。腹を空かせた野獣の如く猛り狂い、雄叫びを上げ、目の前の敵に鎖を叩き付ける。

 

"ぐっ、貴様......我が主の恩寵を受けていながら......!!"

 

 燃え盛る鎖の一撃を受けたゼロツーの首に火が燃え移り、切り裂かれた傷口から濃い紫色のいかにもな血が漏れ出てくる。だが、滴ろうとした血は黒炎に焼かれ蒸発。されども、傷口が焼けて塞がることはない。

 

 炎は次第にゼロツーの首を蝕むように広がっていき、頭部が呑まれ、身体へと移り始める。

 

"面倒な......"

 

 ゼロワンがゼロツーの首根っこに噛み付き、ゼロツーの首を胴体から切り離してルカに投げ付ける。

 

"土産だ!! 等しく踊り焼かれて死ね!!"

「まったく、ほんとに躊躇いが無いっ!!」

 

 ネヴィルは即座に黒鉄の刀身を生やし、ルカとヒュドラの間に立ってゼロツーの首を叩き落とす。

 

 だが、燃えていたゼロツーの首に触れた刀身に炎が移り、ゼロツー同様に炎が刀身を蝕み始める。

 

「ッ?! まさか燃え移るとは......想定外ですね」

 

 刃を一度捨て、痛みを忍んで二本目を生やす。

 

 そうこうしている間にゼロツーの首が再生、復活。間髪入れずに怒りの籠ったブレスをルカに叩き付ける。

 

「二度目は......喰らわないっ!!」

 

 ルカは鎖を横薙ぎに振り、分離、発破。爆圧でブレスを掻き消し、黒煙に紛れてネヴィルと共に距離を取る。

 

 ネヴィルは正気に戻った様子のルカを見てほっと息を付く。しかし、ルカの様子というと、呼吸は乱れており危うさが残る。

 

「正気には戻ったようですが......やれそうですか?」

「ふー......やれます。どうにかしようと自棄になってましたが、もう大丈夫です」

「......あの黒い炎をどこで手に入れたのか、今は問いません。ですが、あれは非常に危険なものです。私がカバーしますので、なるべくあの炎は使わないようにお願い致します」

「分かりました」

 

 いまのところ精神感応は鳴りを潜めているようだが、二度もあれを使われては叶わない。

 

 であれば、相手が手札を出し渋っている──あるいはクールタイムのうちに何かしら打撃を加えておきたいところだ。

 

「ど、どこを狙いますか?」

「首を狙っても再生されるだけです。であれば──」

"我らを前にして話し合いとはいい度胸だな!!"

 

 首が霜焼けするほどに冷気を溜め込んだゼロツーが会話の腰を折る。ルカ達がヒュドラに意識を向けると共に、暴発するようにブレスが放たれる。

 

「あ、まずいかも......」

「あれは流せない......ルカ軍曹、失礼します!!」

「おぇあ?!」

 

 ネヴィルはルカを抱きかかえ、片足を自身の頭上高くに振り上げる。

 

「ふんっ!!」

 

 ブレスが触れる直前。ルカ達は氷塊の下に消えた。

 

「────?!?!」

「──。────」

 

 真下は海である。爆発音のようなブレスの音も、水の中ではくぐもってほぼ耳に届かない。

 

 ネヴィルは慌てて呼吸をしようとしているルカを宥め、海中から氷の大地を見上げる。見ればブレスによって折角ぶち抜いた破孔は既に塞がっており、同じ場所から楽に浮上できそうにはなかった。

 

 ルカもネヴィルも、水中では満足に動けない。それに、海中の四方八方から殺気の塊が向かってきているのを感じる。恐らくは異生物群(グレートワン)がこちらの存在を察知して向かっているのだろう。あまり海中には留まれない。

 

 そうなればやることは一つだ。ヒュドラのどこを狙うかは会話の流れでルカもネヴィルも理解している。

 

 ルカはネヴィルの手を引いて、ヒュドラの真下へと移動。互いにアイコンタクトを取り、せーので刀身を、鎖を振り上げる。

 

"ッ?!"

 

 二人で揃えた不完全な一撃は氷塊を砕き、装甲の薄い腹部を貫き。鎖でヒュドラの体内を爆破し経路を開く。

 

 毒の血を浴びぬよう、内部組織を焼き払って止血させながら甲羅を貫通。

 

 飛び出した勢いそのままに鎖を発破させ、遥か上空へと逃げる。

 

"貴様......よくも!!"

"一度ならず二度までも、貴様に身体を喰われるとはな......この恨み、決して忘れぬぞ"

 

 血塊(けっかい)を吐き出すゼロツーを置いて、ゼロワンとゼロスリーが恨み言を吐いてルカ達を睨み上げる。

 

「あれで死んだりって......」

「少し威力が足りませんでしたね......身体を粉砕できれば良かったのですが......」

 

 巨大な身体のど真ん中に大穴が空いているというのに、ヒュドラの活動が止まる気配はない。それどころか、ゼロツーが首を上げると同時にブレスを放ってくる。

 

 寸でのところで回避できたが、二発目、三発目と間髪入れずに狙撃され、休まる暇がない。

 

「ルカ軍曹、一度降りましょう。このままでは私も自由に動けませんので」

「了解です」

 

 ヒュドラから可能な限り離れた位置に鎖を打ち込み、巻き取って着地。流石のブレスも、距離を離せば見てから回避も容易い。

 

 一向に命中しないのを理解したヒュドラもブレスによる狙撃を中断。互いに次の一手を考え始めていた。

 

「埒があきませんね......ああも再生されては攻撃を続ける意味も薄いでしょうし」

「攻撃し続ければ、いつか死ぬんじゃ......?」

「そう短絡的な代物であれば楽なのですがね......」

「──そういえば、例の艦隊は?」

「艦隊?」

 

 あ、とネヴィルは声を漏らす。目を見開き、口をポカンと開け放す。

 

 そして、自らの脳裏によぎる嫌な想像に更に大きく目を張り、自傷でもしそうな勢いで奥歯を噛み締める。

 

「............どう、やら......嵌められたようですね」

「は、嵌められた?! 何にですか?!」

 

 まさか、とルカがヒュドラに目線を戻す。当のヒュドラは──。

 

 ──満面の笑みでルカ達を見つめていた。

 

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 ルカとネヴィルが地平線に消えてからほどなくして、日米連合艦隊の四方八方の氷原が突如崩壊。下から何かに爆破されたような勢いで、数メートル級の巨大な氷塊が多数空に打ち上げられる。

 

 高野大佐は突然の事態に驚きを隠せず、吹き上がる氷塊を見つめて数秒間フリーズしてしまう。

 

「──なっ?! 何が起きた!!」

『聴音室より報告!! 水中で正体不明の突発音を確認!!』

「潜水艦?! いや、しかしあれは......?!」

 

 数メートルもの厚さの氷の大地を、一撃で吹き飛ばしたのだ。到底ただの魚雷ではないどころか、並大抵の爆弾でもあれほどの威力は出せない。

 

 常軌を逸した破壊力と、異常な隠密性に瞬間的かつ同時多発的。

 

異生物群(グレートワン)ッ!! 総員厳重警戒!! 包囲されているぞ!!」

 

 初動の攻撃により、現在日米艦隊は巨大な氷塊の中で囚われの身となっている。

 

 氷の大地との接続が断たれ、日米艦隊を取り込んだ巨大な氷塊は爆発の衝撃で発生した波に流されつつある。

 

 続いて、生じた氷の谷より無数の自己誘導飛雷(タルユ―)が姿を現す。自己誘導飛雷(タルユ―)は見渡す限りの全ての空を埋め尽くすかの如く群れを成し、垂直に飛翔を開始する。

 

「くっ、迎撃!!」

 

 滝の水を逆さに落としたように飛行機雲を引く自己誘導飛雷(タルユ―)の大群に対し、全艦は雪崩を打って迎撃を始める。

 

 あちらこちらと対空ミサイルが行き交い、デタラメに自己誘導飛雷(タルユ―)を撃ち落とす。されど、撃ち落とされればその分だけ新たな自己誘導飛雷(タルユ―)が谷底より射出される。

 

 落とせば落とすだけ、わんこそばのように次が来る。氷の谷底から、惜しみなく。

 

「キリがないっ......!!」

 

 このままではジリ貧。高野大佐は焦燥する頭を無理やり回転させながら、状況の打開策を練り始めた。

 

「レーダー、ソナーに反応は?!」

「レーダー感なし、ソナーは氷塊らしき影が多すぎて判別できません!!」

「レーダーは頼れないか......だが飛雷母種(アーセナルセタス)が居ることは確実......となれば──」

 

 高野大佐は双眼鏡で発生した谷の位置を観察。目視かつ遠くからであっても、それなりの規模の谷が生じていると認識できる。

 

「............沈んでいる氷塊らしき影の分布から、破壊された一帯の形状と範囲を算出できるか? 海まで貫通している場所のみだ」

「......恐らくは」

「出来るならやってくれ。通信員、第五、第七艦隊の司令官と回線を開いてくれ」

 

 高野大佐は双眼鏡を下ろし、各艦隊司令官と通信を繋ぐ。

 

「こちら遠征艦隊。火急だ、この状況を打開する。貴艦隊にも協力していただきたい」

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