冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~   作:オジロワシ

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第陸拾伍話 コモロ諸島沖海戦

「クッソ!! あの野郎器用に避けやがる!!」

 

 ジェットエンジンとレシプロエンジンの轟音が入り乱れる最中、そう吐き捨てるのはネームレス01。先の奇襲を受け、流れるままにドッグファイトへと発展したのは良い。YF-35の得意レンジだ。

 

 だが、三〇機で追い立てても敵機はほぼ無被弾。煙の一つも上がらない。機関銃弾のシャワーを浴びせかけても、まるで弾が避けているかの如く当たらない。

 

 数を活かして死角から強襲しても最小限の機動、最小限の消費エネルギーで華麗に避けられる。いくら英霊を模ったものと言えど限度があるだろう。

 

『マザー01よりネームレス01。そちらの状況はどうだ? 送れ』

「ネームレス01よりマザー01。こっちは手詰まりだ。敵機の練度が異常に高い。送れ」

『マザー01了解......そのまま敵機を引き付けておいてくれ。送れ』

「ネームレス01了解......何かあったのか? 送れ」

『マザー01よりネームレス01。現在、我が艦隊は例の亡霊艦隊と交戦中だ。送れ』

 

 予想はしていた。だが、ネームレス01は確かに焦燥感を感じ、冷や汗を流してしまう。

 

 もし、空母が全て撃沈されてしまったら。そう思わずにはいられないのだ。YF-35の垂直離着陸機能を以てすれば、現代型戦艦の後部甲板に着艦は出来るだろう。だが、四〇機もの戦闘機を収容するようには出来ていない。

 

 折角の最新鋭戦闘機は海中投棄か爆破処理され、パイロット達は最悪懲罰房に詰め込まれてしまう。軍人としてやらねばならぬなら従うが、お荷物扱いだけはごめんだ。

 

「......ネームレス01、了解。出来る限り早く決着を付ける。終わり」

 

 居心地の良いマイホームを守る為にも、さっさとこのドッペル共を片付けなければ。

 

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 ── 一一月二二日、二一時四四分 ──

 

 日米艦隊と亡霊艦隊が交戦を開始して約一時間。日米艦隊は敵艦隊の包囲下で熾烈な砲爆撃を受けていた。

 

 敵戦艦の砲撃で氷床は木っ端微塵に粉砕。ルカの鎖を起爆させた甲斐もあり、ある程度は身動きが取れるようになっている。しかし、海上に浮いたままの氷塊が邪魔をして各艦の機動は大きく制限されている。

 

 ノロノロと航行する戦艦に狙いを定め、爆撃機の編隊が対空弾幕の中へと急降下。けたたましいジェリコのラッパが鳴り響く。

 

「大和より二時方向、敵機急降下!!」

 

 イージスシステム、FCSは敵機の動きを逃すことなく集中砲火。銃身加熱と弾切れを克服したCIWSが一瞬で敵機をボロ雑巾に変える。

 

「撃墜確認!! 次、五時方向より敵機多数!!」

 

 間髪入れずに四方八方から敵の戦闘機と攻撃機が襲撃を仕掛けてくる。巨大でノロマな戦艦に狙いを定め、ロケット弾ポッドを抱えた戦闘機が無謀な突撃を繰り返している。

 

 CIWSと速射砲からなる対空砲群は敵機来襲時より途切れなく撃ち続け、敵機を正確無比に撃墜していった。だが、このような無茶な戦いが出来るのも全てはネヴィルただ一人のおかげだ。

 

 総勢五〇隻にもなる艦艇の全てが大和の装甲とリンク、各砲銃座はネヴィルの加護の下で文字通り無限に射撃が可能である。

 

「......ネヴィル君、大丈夫かね?」

「大丈夫、と言えば嘘になりますが......今は私の能力が必要不可欠でしょう。無理だから少し休むなどと。そんな弱音を言っていられる時間ではありません」

「そうは言うが......いや、確かに......そうだな......ネヴィル君の能力が無ければ我が艦隊の迎撃能力は即座に飽和する。すまない、頼ってばかりだな」

「いえ......私の役目ですので。存分に私の能力を活かしてください」

 

 そう言うネヴィルの額には、冷や汗が一筋垂れている。ネヴィル自身の負荷がどのようなものか、どの程度のものかは知りえない。しかし、一個艦隊十数隻程度が最も最適だと言っていたことから、五〇隻以上のこの大艦隊ではいつもの一〇倍以上の負荷。

 

 ネヴィルもまた、艦隊とは別の敵と戦っているのだろう。

 

 前例の無い状況下での海戦ではあるが、勝敗を決定づける利はこちらにある。大戦期の艦艇が主軸である亡霊艦隊が、この闇夜の中で砲弾を命中させることは難しい。一〇〇発撃って一発命中すれば御の字といったところだろう。

 

 だが、現代型戦艦はそうはいかない。高精度の電算機に、火器管制システムと最適化された砲身設計に弾道を安定化させる弾頭設計により、有効射程距離における命中率は三〇パーセントを誇る。

 

 加えて機関出力増加に伴う更なる重装甲化、より効果的かつ軽量な装甲材質、効率化された装填機構及びダメージコントロール。

 

 鋼板同士を繋ぎ合わせる溶接技術一つ取っても大戦期の艦艇と現代型戦艦とでは段違いだ。

 

「主砲、一番から三番用意。徹甲榴弾、対艦撃ち方。うちーかーた始め!!」

 

 初弾の弾着結果から、修正された諸元に従い第二斉射。数十メートルにもなる爆炎を吐いて現代仕様の徹甲榴弾が撃ち出される。

 

 装薬の高性能化や砲身そのものの材質の見直しにより、初速は旧式の四六サンチ砲弾の秒速七八〇メートルを上回る秒速八四〇メートル。弾着は四五秒前後。

 

 大和型と同等の装甲を持つ戦艦を想定して設計された四六サンチ砲弾だ。命中すれば、大戦期の戦艦の装甲など容易に貫徹可能。炸薬も高性能化しており、一撃轟沈も十分あり得るだろう。

 

「......弾着確認。夾叉!! 続けて諸元再入力、第三斉射用意!!」

「二射目で夾叉か......ツキはこちらにあるようだね。さて、次で当たるか......」

 

 対空砲火が豪雨の如く荒れ狂う中、大和以下現代型戦艦らは冷静に弾着を確認。電算機から吐き出された修正指示に従い諸元を再入力。装填を終えた砲身が再び顔を上げ、最終修正が成される。

 

「主砲一番から三番、うちーかーた始め!!」

 

 続けて第三斉射。敵艦へと徹甲榴弾が降り注ぎ、敵艦に大和の四六サンチ徹甲榴弾が命中。砲弾は敵戦艦の防郭を貫徹。船底付近にまで浸透した榴弾が炸裂し、高性能爆薬が機関部と船底を破壊する。

 

 内側から破壊された船底外殻は雷撃されたかの如き大穴が空き、僅かながらに海水が侵入。戦艦の浮力を少しづつ奪っていく。

 

「弾着確認。至近六、命中一、遠弾二」

 

 命中弾が出ても諸元の修正は続く。電算機は多数の情報から次々と諸元の修正指示を出し続け、その修正指示に従い主砲はFCSと連動して駆動する。

 

 現状、亡霊艦隊側の命中弾は無し。対して日米の戦艦は既に合わせて四発の命中弾を出している。一発は敵戦艦の主砲塔付近の甲板装甲を貫徹。弾薬庫直撃により一撃で轟沈した。

 

「今のは......モンタナか。一撃で轟沈とは、流石の炸薬量だな」

「一六インチとはいえ、改修前は対地打撃特化型の局地制圧型戦艦ですからね。現代型戦艦相手では貫徹力不足ですが、大戦期の戦艦であれば問題は無いでしょう」

 

 轟沈の他、各現代型戦艦の砲弾を喰らった亡霊艦隊の戦艦も主砲塔から炎と黒煙を吹く艦。艦艇の片舷に大穴が空いている艦など、損傷具合は様々だ。

 

 しかし、大戦期の戦艦と言えど十数隻も集まればラッキーパンチも起こり得る。

 

 米戦艦リバティの対空砲群に敵戦艦の主砲が命中。運の悪いことに速射砲を破壊した砲弾が構造上装甲の無い自動装填機構内へと潜り込み、速射砲用の弾薬庫を守る防郭を貫通。

 

 弾薬庫で三六サンチ砲弾が炸裂したことで米戦艦リバティの対空砲群が大爆発。艦橋と煙突付近に集中配置させられた対空砲群が壊滅したことで、対空弾幕に一時的な空白地帯が発生した。

 

「リバティに敵弾命中!! 爆発と火災を確認......対空砲群、沈黙しています!!」

「まずい!! カバーしろ!!」

 

 リバティの対空砲群が吹き飛んだことで発生した空白地帯を見逃さず、急降下爆撃機が殺到。ジェリコのラッパが鳴り響き、ユンカースの編隊が降下を開始。

 

 ロケット弾を満載した敵戦闘機もこれに続き、リバティの艦橋に向けてロケット弾を斉射。艦橋が爆炎に包まれ黒煙が立ち上がる。

 

 大和が対空砲群の一部をリバティのカバーに回すも、戦闘機はロケット弾ポッドを投下してそそくさと離脱。ユンカースの撃墜には成功するが、一機が爆弾を投下、徹甲爆弾が大きく口を広げたリバティ舷側の破孔へと侵入し、機関部で爆発。

 

 煙突から黒煙が吐き出され、リバティの機関出力が大幅に低下する。

 

「クソ、間に合わなかったか......」

「リバティより入電。我、機関部ニ甚大ナ損傷。航行可能ナレドモ、艦隊ニ追従困難ト認ム、と」

「航行出来るなら曳航出来る......沈没してなければ御の字だな」

 

 しかし、戦況は逼迫している。敵戦艦はともかくとして、航空機が厄介だ。ラッキーパンチ一発で対空弾幕に穴が空いてしまう。

 

「ルカ軍曹は上手くやってくれるだろうか......」

 

 以前のソコトラ島沖海戦と同じように、ルカには敵戦艦への移乗攻撃を命じてある。ルカの打撃力は敵航空隊の迎撃だけで持て余すには勿体ない。であれば、運用方法は限られる。

 

 可能であれば、敵旗艦の撃沈を。既に一隻撃沈した実績のあるルカに対し、高野大佐は期待を寄せられずにはいられなかった。

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