冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~   作:オジロワシ

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第陸拾陸話 対峙

 敵戦艦の撃沈という明確な戦績は、ルカに再度の単独打撃任務を課すには十分過ぎるものであった。

 

「戦況が戦況とはいえ、ちょっと人使い荒すぎなんじゃ......」

 

 数的劣勢、包囲下、航空爆撃と砲撃のダブルコンボ。確かに打撃力のある戦力を持て余す暇は無いが、だからといって一人で敵艦隊を破壊してこいというのは中々に酷い指令だ。

 

 ルカは敵艦隊にバレないよう、敵味方の砲爆撃に紛れつつ海面スレスレを跳んでいた。狙うべき優先目標は指示されていないが、戦艦を狙えば間違いは無いだろう。

 

 とはいえ、敵の戦艦も日米艦隊の現代型戦艦によってかなり打撃を受けている様子。質では圧倒的に優勢だ。

 

「あの戦艦は......連装砲だし古いやつかな? いや、でもあっちの戦艦も似たような形だけど三連装だし......どれから狙うべきなんだ?」

 

 ルカに大戦期の軍艦の知識など皆無である。どれが強く、近代的で、優秀な艦艇なのか。それを判断する材料が砲身の数や艦橋のサイズ程度でしかないのだ。

 

 そして、短絡的な感覚に基づけば艦橋が大きければ大きいほど、砲塔当たりの砲身数が多ければ多いほど強力な戦艦であるという結論に至る。現海域に展開している敵の戦艦で最も艦橋が大きく、砲塔当たりの砲身数が多く、最も巨大な戦艦。

 

 即ち最も存在感のある戦艦。ルカにとって、この条件に最も合致するのはたった一隻のみ。大和型戦艦二番艦、亡霊艦隊総旗艦たる武蔵だけであった。

 

 氷を砕き割りながら縦列に進む艦隊の最後尾。荘厳な艦橋と一際大きい砲煙を吹き上げる武蔵の艦首へと着地。大和型と同様の楼閣が如き艦橋を、ルカはジッと睨め上げる。

 

 まずは主砲塔直下にあるであろう弾薬庫を──。

 

「お姉さまの目も腐ったものだよねぇ~。キミみたいな子供を眷属にしちゃうなんてさ~」

「うわっ?! なっ、いつ後ろに?!」

「全く、ほんとに鈍いなぁ~。海中に潜んでたに決まってるじゃん?」

 

 笑みを浮かべるレヴィアタンに呆気に取られ、ルカは一瞬固まってしまう。レヴィアタンはその隙を逃さずにルカの脇腹に蹴りを入れる。

 

「う"ぇ"ッ?!」

「隙だらけ~!! 海で(ふか)の餌になっちゃえ!! 居るか知らないけどね~!!」

「ぅっ、こなくそ!! こんな簡単にやられてたまるかっ......!!」

 

 ルカは即座に体勢を整え、水面に叩き付ける前に鎖を起爆。爆圧でふわりと浮き上がり、二度三度と更に鎖を発破。甲板に向けて鎖を打ち込み、鎖を巻き取る勢いそのままに跳び蹴りを喰らわせようと、ネヴィルに対し踵を鋭く突き付ける。

 

「へーしぶといねぇ~。ならー、これはどお~?」

 

 腕を振り上げ、ルカの直下から海水が打ち上げられる。

 

 数十トンを優に越える質量の塊がルカの身体を空高くへと打ち上げると共に、最初に直撃を受けた脊椎が粉砕骨折。次いで肩間接が脱臼。

 

 海抜百数メートルまで打ち上げられたところで上昇が止まり、ルカの身体は自由落下を開始する。

 

「み、身動きがっ!!」

「水は万能でいいでしょ~? 打撃も出来るし、鋭利なナイフとしても申し分ないっ!!」

 

 全身の骨という骨を叩き割ったルカに対し、レヴィアタンは追撃で極細の水流ジェットを発射。超高圧高密度に圧縮された水のレーザーは、肉と骨で作られた脆い人体をいとも容易く裁断。

 

 狙いは極々狭い一点であるが、その衝撃波の余波により右腕全体が弾き飛ばされてしまう。

 

「ごぁっ......そ、んな......うで、うでがっ?!」

「酷い取り乱し方をしてくれるねぇ~? もしかして、腕を吹き飛ばされたのは初めてかなァ!?」

 

 ルカは自身の身体が欠損するとは思っていなかった。ありとあらゆる砲爆撃と酸弾を受けても千切れることなく即座に傷が修復される。そのような状況に慣れ切っていた。

 

 故にルカの受けた衝撃は大きく、再生を始める右腕を呆然と見つめるのみで、有効な反撃を取ろうともしない。

 

「追撃ぃ、一発目~!!」

 

 追撃に向け再度腕を振るおうとするレヴィアタンに対し、ルカは咄嗟に鎖を投擲。鎖は鞭の如くしなり、瞬時にレヴィアタンの足元へと着弾する。

 

 甲板に深く食い込んだのを確認したルカはそのまま鎖を巻き取り、急速にレヴィアタンとの距離を詰める。

 

「やるじゃ~ん? 多少は戦えるってことかなぁ?」

 

 嘲るような笑みを浮かべ、レヴィアタンは余裕綽々とした態度で待ち受ける。

 

「っ舐めるなよ!!」

 

 ルカが激昂するのを傍目に、ふとレヴィアタンの目が警戒するかのように細まり、笑みが消える。

 

 次は眉間に皺を寄せたかと思えば、パッと邪な笑みを浮かべている。

 

「そうだ!! プレゼントをあげる!!」

「は?! なにをッ──」

 

 甲板を軽く踵で叩いて周囲の海水を引き寄せると、ジェット水流でルカに急接近。勢いのままに構えられたレヴィアタンの膝が腹を殴り、ルカの身体がくの字に曲がる。

 

「──っう、クソッ!!」

「おっと、そうはさせないよ~」

 

 レヴィアタンは鎖を爆破させて離脱を図るルカの首を掴み、切り離された鎖を水流ジェットで弾き飛ばす。遠方で黒炎を上げたのを確認し、水の柱の上へと着地。

 

 一瞬辺りに目を配り、幾つも立ち昇る水柱の上を飛んで渡っていく。

 

「このっ、離せ!! 何がしたいんだよ!!」

「それはお楽しみ~。サプライズ~だからねぇ?」

 

 ルカは足を振り回し、離脱しようと鎖を千切ってはレヴィアタンの水流ジェットで弾き飛ばされ。レヴィアタンの腕に爪を立てて抵抗しても、傷一つ付かない。

 

「ん~? やっぱり分からないなぁ~......なんでお姉さまはこんなのを眷属に......っと、そろそろかなぁ~?」

 

 レヴィアタンが空を見上げると同時に、ヒュルルと風を切り裂く音が聞こえてくる。

 

「まさか!? ふざけるな!! 離せ、離せェっ!!」

「ざんね~ん。時間切れ」

 

 意図を理解し、抵抗を一層強めたルカに対しレヴィアタンは嘲笑を送り、風切り音の鳴る空中へとルカを放り投げた。ルカは咄嗟に鎖で全身を覆うと同時に日米艦隊から放たれた戦艦の徹甲榴弾が直撃。

 

 異常なまでに強固な鎖と肉体が不幸にも徹甲榴弾の信管を作動させ、空中で大爆発。地下要塞をも一撃で破壊する高性能爆薬の炸裂をゼロ距離で喰らったルカは、統制を失いバラバラに千切れた鎖と共に海面に墜落。

 

 幸か不幸か、頑丈な身体は徹甲榴弾の爆発程度ではバラバラにはならなかったようで、四肢は問題なく付いていた。

 

 しかし、ルカは正に身体の中身まで丸焼き状態であり、砕け散った砲弾の破片が全身を切り裂き所々臓物が漏れ出ている有り様だ。

 

 脳みそまで茹で上がっているというのに、思考はハッキリとしている。とはいえ目も視神経の奥までしっかりと焼かれ、光を感じ取ることすら出来ない。耳も同じく、何も聞こえず何も感じない。

 

 痛みも無ければ、不快感も無い。全身の感覚が焼け焦げ、麻痺してしまった。

 

 再生にはどれくらい掛かるだろうか。

 

 その間、戦況はどれだけ動くだろうか。

 

 レヴィアタンが油断せず、止めを刺しに来たら終わりだ。

 

 ルカは暗い海中へと沈みながら、ただただ待つことしか出来なかった。

 

 

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