冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~ 作:オジロワシ
冷たく薄暗い中央アジア。
砲爆撃の破壊痕と、僅かに火の燻る枯れ枝ばかりの荒野。そんな中、黒い軍団が灼熱の風にあおられながらも突き進む。
僅かに数センチ。一○センチにも満たぬ身体を、不釣り合いなほど巨大な翅が持ち上げ運んでいく。
飢えに苦しみながらも、黒い軍団は食糧を探し求めて東へ、東へと突き進む。
幾億をも越える軍団は雲の如く形を成し、数十キロを越え始めた頃。宇宙を漂う軍事衛星がその姿を捉えた。
「間違いは無いのか?
晴天の空でも、冬のウラジオストクは肌寒い。節電、節電ばかりで暖房もロクに付けられない執務室。
しかし、それも慣れたもの。セルゲイは外用の分厚い外套を羽織り、火傷するほどのインスタントコーヒーを啜る。
「NORAD、カナダの支部からの情報提供です。信頼出来るかと」
「なるほど。アメリカと言われたら疑ったところだが......まだカナダが生きているか」
「はい。現在、合衆国派の軍人や、脱出してきたアメリカ国民を受け入れ、一部では武力介入も既に行っていると聞きます」
「かなり動きが速いが......形式を無視したところで咎める組織もないか」
第二次アメリカ内戦。字面だけ見れば、人類存亡の危機レベルの大惨事だ。
とはいえ、実情としては最大の勢力はカナダなどからの援助を受ける合衆国派。その他の軍閥、武装組織、反政府組織などはバラバラ過ぎて纏まりがなく、各個撃破されている。
時間こそ掛かるだろうが、このまま順調に進めば合衆国派が勝利し、表向きには元の合衆国が復活するはずだ。
「だがなぁ......これは非常にマズい事態だぞ。ただでさえ世界的な食糧難に陥っているというのに、中央アジアで蝗害が発生するとは」
「現在
「上手く行っていないと?」
「原因は不明ですが、既存の殺虫剤の効果が激減していると報告を受けています」
あの中国が、やけに素直に情報を提供してくれているのには多少驚いた。だが、蝗害という脅威を前にして国家同士の小競り合いには興味を失ってくれたらしい。
「殺虫剤の効果自体、元々蝗害相手では大して期待出来るものでもないわけだが......他に変化は無いのか?」
「一部では蝗害に食い殺されたと思しき動物の死骸が発見されてこそいますが、上方の信頼性に関しましては......あまり......」
「そうか」
大方予想は付く。あまり考えたくはない妄想だが、
「はぁ、ともあれ今は何も出来ないな......多少の軍は着いてきてくれたが、この程度の戦力では治安維持すら難しい。給与もマトモに......いや、この時勢ではもはや金など意味を成さないか......」
「第二次アメリカ内戦でドルは暴落。ルーブルはもはや通貨としての価値を失ってます......」
「ドルを中心とした世界経済は正にカオス。円と元で立て直しを図っているが、まぁ応急処置にもならんだろうな。焼け石に水だ」
カチッ、カチッと一秒ごとに古臭い時計から音が鳴る。
副官とは大して仲が良いというわけでも、悪いというわけでもない。だが、ここ最近は雑談などほとんど無くなってきていた。
単に明るい話題が少ないというのもあるが、それ以上に気力がない。ここ最近は常に気を張り詰めてばかりで、異に穴が空きそうだ。
いや、もう空いているかもしれないが。
「セルゲイ閣下、ご報告が」
静寂を破り、執務室のドアが叩かれる。
「入れ」
「はっ、ウラジオストク港にボールドイーグルが帰還しました」
「ようやくか......」
インド洋を渡り、太平洋を渡り、世界的大震災の影響で補給もままならない最中の長期航海。ウラジオストクの資源も乏しいとはいえ、ここは盛大に祝ってやらねば。
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日本海に面し、日本列島という巨大な防波堤に守られた軍港、ウラジオストク。大和の艦橋から眺める街の情景に目立った損害は見られない。先の大震災の被害は軽微のようだ。
とはいえ、母港に帰港できない高野大佐はどこか不満気であった。
「まさか日本の港が全滅とはね......いやはや、覚悟はしていたが......中々に堪えるな......」
「ですが修理はしなければなりません。第二次ロシア内戦の影響で、極東まで
「............そうだな。今は、目の前のことに集中しよう」
日本の国旗を掲げたタグボートが損傷の酷い艦艇から順に、ドッグへと押し込んでいく。残念ながら、大和は一番乗りだ。
「さて、この損傷では暫くは動けんだろうね。前甲板を丸ごと換装することになれば我々も暫くは大和を離れることになる。そうなれば、君ともお別れかな、ルカ軍曹」
高野大佐は大和の船体を一瞥し、ルカに敬礼を送る。
「長い間ご苦労であった。ルカ軍曹。君の祖国が待っているぞ」
「はっ、ありがとうございました!!」
ルカにとっては、久々の祖国。国家は形を成してこそいないが、そこには祖国の土地がある。この時代、それだけでも価値のあることなのだ。