この世界において、転生とはコンスタントに行われるものである。
トラックに轢かれるわけでも、神の手違いによって死んでしまうわけでも無く。
自分自身を新たな高みへ──『伝説の英雄』という頂へ辿り着くためにのみ行われる行為。
転生を行う『神殿』で、司祭は項垂れた。
コンスタントに行われる転生と、命知らずのダンジョン探索。そのあまりの命の軽さに司祭は頭を抱えた。
司祭は転生の儀式を担当している。神殿内でもかなり誉れ高い担当分野であり、やり始めた頃こそ鼻高々であったが、業務を始めて2ヶ月と少し、すでに司祭の心は折れかかっていた。
「転生お願いします」
「承知いたしました……見た目はどうなさいますか?」
「変更します」
「見た目はランダムに変更で、転生をさせて頂きます」
今来た赤い髪の彼は、大体2日に1回転生しにくる。
職業は遊び人、未取得のスキルがまだ多く、何をマスターするかは運次第、と言ったところだ。
彼の転生回数は健全……? かどうかは微妙だが、それでも遥かにマシだ。
司祭は、神殿に受け継がれている刺突剣で彼の心臓を一突きした。
彼は何の抵抗もせずに地に伏せた後、光と共に今度は緑色の髪をした少女に転生した。
「おめでとうございます! ねこだましをマスターしました!」
「うーん、ゴミ。あ、でもステータスは悪くないな」
「それでは」
緑色の髪をした彼女は、そういうとすぐに全員が話す広場へと向かう。
司祭は、刺突剣についた赤い髪の彼の血を布で拭った。
「転生お願いします」
次は、大体1日に1回の頻度で来るピンク色の髪をした羽の生えた天使だった。
天使であろうと悪魔であろうと、この2ヶ月で3桁の転生を繰り返す猛者がいるほどの『伝説の英雄たち』には勝てない。
彼らにとっては転生数と武器の合成数のみが強さの指標である。
種族は所詮、美しさや可愛らしさ、勇ましさや雄々しさ、神聖さや禍々しさを表すものに過ぎないのだ。
天使の職業はドラグーン。
かなり最近実装された職業で、もちろん天使はドラグーンでの初めての転生であった。
天使は緊張した面持ちで、しかし少し期待した目をしながら司祭を見ていた。
司祭はうんざりした気持ちを押し隠して話を進める。
「承知いたしました……見た目はどうなさいますか?」
「見た目はこのままで……」
「見た目はこのままで転生をさせて頂きます」
司祭は天使を神聖なる刺突剣で突き刺した。
倒れ伏す天使。そして、光と共に新たな生を受ける。
転生前と何故か1ピクセルの違いもないピンク色の紙を持った天使の姿で。
2ヶ月と少しこの仕事をやってきたが、司祭はいまだにこの光景に慣れることができない。
おそらくこれからも慣れることはないだろう。
死んだ人間が、全く同じ姿で蘇る……? 何故……?
それもこれも全ては我らがぷりけつ神の思し召しである。司祭として疑問に感じることに罪悪感を覚えつつも、頭を捻らずにはいられない光景が目の前にあった。
「おめでとうございます! アクアレイドをマスターしました!」
「噂のアアイじゃん。全チャではネタ枠っぽかったけど試してみよ」
そういうと、天使はカオスで喧騒とした広場に消えていった。
司祭は、死んだ天使の血を拭った。
「転生お願いします」
次に来たのは『伝説の英雄たち』の1人、大体1日に3回、日によっては4回転生する……狂人たちだ。
彼らを理解しようとするのは無意味である。
『伝説の英雄たち』である時点で十分に強いのにも関わらず、その中でもさらに頂に登らんと生と死を繰り返す。
1日に3回も、しかも自らの意思で。
一度死ぬのすら嫌な司祭にとって彼らは最早別の生物である。
1日1回ぐらいならまだわからなくもない──いや、わからないか──しかし、1日に3回自ら望んで死にに来る? 強さのために? 膨大な時間を費やして?
彼らは一体何を目指しているのか、司祭には最早見当もつかなかった。
最近彼らは、司祭のような一般人には及びも付かぬほどの強さを持つモンスターが跋扈するダンジョン7層で、延々と探索を繰り返しているようだ。
そのうち1人でバハムートを討伐でもしようとしているのではないだろうか。
司祭はそんな恐れの感情を必死で飲み込み、業務を始めた。
「承知いたしました……見た目はどうなさいますか?」
「見た目はそのままで……」
「見た目はこのままで転生をさせて頂きます」
司祭は刺突剣を『伝説の英雄たち』の1人に突き刺した。
その強さに見合わず刺突剣は軽々と彼の命を奪い、そして与えた。
ちなみに、彼の職業は初期職業の旅人である。
その理由は簡単で、彼はそのおびただしい転生回数で全ての職業のスキルをマスターしていたからだ。
最近実装されたはずのドラグーンすら、実装後3日以内に全てマスターしていた。
「おめでとうございます!」
「このステなら……7層回れるな」
そう言って、広場で一言二言話すと、彼はすぐに探索を始めた。
「あ、あの……転生って、ここであってますか?」
「ええ、ここ神殿で、貴方たちは転生し、少しずつ強くなっていきます」
「えっと、転生お願いします!」
次に来たのは初心者、しかも初転生を行おうと神殿に来た、異形の化け物であった。
「承知いたしました……見た目はどうなさいますか?」
「見た目はそのままで……。この姿、結構気に入ってるので!」
「見た目はこのままで転生をさせて頂きます」
司祭は刺突剣を異形の化け物に刺した。
「痛っ!」
化け物のフレッシュな反応に思わず笑顔になりそうになったが、司祭はそれを必死に我慢した。
人殺しながら笑顔になったらただのサイコパスである。
異形の化け物は胸を守りながら倒れ、そして新たな生を受けた。
「おめでとうございます! 旅人の知恵をマスターしました!」
「これが転生……。ありがとうございます! また来ますね!」
そういうと、アドバイスをもらいに化け物は喧々轟々とした広場へ向かった。
死を恐れるフレッシュな初心者がまた1人減ったことに悲しみを覚えながらも、司祭は刺突権の血を拭った。
数分が、珍しく誰も来ていないことを確認して、司祭はため息混じりに呟いた。
「あいつら全員バケモノだよ……」
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