その話を聞いたエヴァンスは嫉妬の炎を焦がすが、実はお相手はエヴァンスだった!
互いに意識しながらもすれ違う二人のガンマンの西部喜劇二次小説!!
楽しんでいただけたら、幸いです
強き者が掟であった頃、西の荒野のどこかで――
女賞金稼ぎのオークレイは昼間から酒場JBサルーンの店番をやることもある。軽く腹ごしらえをしに来る者、仕事を休み羽を伸ばしている者等、夜には訪れない客から珍しい情報を聞き出せることもあるからだ。だが、今日はお尋ね者の情報とは無縁そうな婦人がカウンターを挟んで彼女に話しかけていた。
「賞金稼ぎって危険な仕事でしょ。結婚して男性が側にいた方が何かと心強いと思うのよ」
先ほどからの熱心な勧誘に辟易していたオークレイは、愛想笑いをしながら返事をする。
「ごめんなさい、ミセス・デイヴィス。まだ身を固めるつもりはないわ。自分の身くらい自分で守れますから。それに賞金稼ぎも続けたいですし」
そう言うと、話を打ち切るように食器を片付け始める。
ミセス・デイヴィスは若い男女の仲を取り持つことが生き甲斐となっている女性だ。だからオークレイの態度にもめげたりしない。
「別に賞金稼ぎを辞める必要はないわよ。夫婦で一緒に働けば良いじゃない」
「一緒に働ける相手なんて、そうそういませんので」
以前、他の賞金稼ぎと組んだことがあったが、実力が違いすぎて組めたもんじゃなかったのだ。しかし、そんな事情を知らないデイヴィスはオークレイの冷たい返事にめげる様子は見せない。
「そんなことないわよ。あなたにピッタリの人がいるのよ。同じガンマンでしかもあなたの知り合いよ。今週末に会ってみない?ちょうど写真を持っているわ」
そう言って彼女はバッグの中を探り始める。
「あの、誰が相手でも結婚はしません。それに週末は予定があるので―――」
デイヴィスが取り出した写真を見てオークレイの言葉が止まる。
「彼なんだけどどうかしら?私のイチオシ」
カウンターに置かれた写真にはエヴァンスが写っていた。
「ま、まあ、来週に延期してもらえれば。会って食事をするくらいなら構いませんけど」
自分の金髪を指で弄りながら、オークレイは一気に態度を軟化させた。
この物語は…
孤高のガンマンが一匹狼の美学を貫く話ではない。気になる相手とのお見合いと聞いて心躍らすガンマンの二次小説である。
その日の夜、JBサルーンのドアに手をかけたエヴァンスだが、中から女性の会話が聞こえ思わず手を止めた。女性の雑談は必聴だという父の教えを忠実に守り、店の外から会話に聞き耳を立てる。
「へえ、フィービー、随分乗り気じゃない」
これは以前、オークレイの誕生日の際に会った彼女の友人の声だ。
「別にやる気になんかなってないわよ」
そう返したのはオークレイだ。台詞とは裏腹に声が弾んでいるような気がする。エヴァンスはさらに集中して耳をすませる。
「えー、ミセス・デイヴィスに勧められたお見合いを断らないで『延期』にしたんでしょ?それって興味があるってことなんじゃないの?」
お見合い
友人の口から出たその言葉をエヴァンスは聞き逃さなかった。オークレイが誰かとお見合いをする。もしかしたら意気投合し付き合かもしれない。そんな嫌なイメージが頭に浮かぶ。エヴァンスは咄嗟に胸を抑えた。
(お見合いの相手はいったい誰だ?)
デイヴィスからまだ話を聞かされていなかったエヴァンスは自分が話題になっているとは夢にも思っていない。さらなる情報を得ようと扉に耳を押し付ける。だが、
「じゃあ、また今度、お見合の結果を聞かせてよね」
話を切り上げた友人がドアに向かって歩いてくる気配が感じらる。エヴァンスは咄嗟にドアから離れる。素早く店の裏手に身を隠した直後に友人が出てきた。彼女はエヴァンスに気づくことなく通りを歩いていってしまう。エヴァンスは彼女が戻ってこないことを確認すると、服装を整えたった今やってきたふりをして店に入る。すぐにカウンターの奥に女賞金稼ぎの姿を認めた。
「いらっしゃ――」
こちらを向いた彼女の声が止まる。見る見る内に彼女の顔が真っ赤に染まっていく。それを隠すように彼女は後ろを向く。エヴァンスがカウンターの前に立つとぼそりとオ-クレイが問いかけてきた。
「お見合いの話(ミセス・デイヴィスから)聞いた?」
盗み聞きしたのがバレたと思い込んだエヴァンスだが、それでもクールな雰囲気を崩すことなく頷く。
「ああ、少しだけな(盗み聞きした)。まさかお前がお見合いをするとはな」
二人の間に沈黙が流れる。店には隅の席で優雅に酒をたしなむ老紳士と、窓際で談笑する女性のグループがいるだけだ。酒場としては珍しく静かな夜であった。エヴァンスは黙ってオークレイの背中を見つめる。オークレイがお見合いを受けるという事実に彼はかなり動揺していた。
(ミセス・デイヴィス、なぜ俺ではなくどっかの馬の骨を紹介したんだ?)
エヴァンスは自分のことを馬の骨呼ばわりしたことに気づけていない。
対するオークレイはエヴァンスの視線を背中に感じながらも黙ってコップを拭いている。コップは自分の真っ赤な顔が映るほど綺麗に磨かれている。顔の火照りは収る気配はなく、エヴァンスの方を向けそうになかった。彼がいつものようにポーカーフェイスで接してくるものだから自分だけが動揺していることが余計恥ずかしく、同時に少し悲しくもあった。
(どうして、あいつは平気なのよ。私とのお見合いなんてそんなものなのかしら)
そう考えると胸の動悸も体温の上昇も少しおとなしくなってしまう。彼女は西部でトップクラスのガンマンであり、敵の殺気には敏感だが、気になる相手の秘められた動揺や怒りを背中越しに感じることは出来なかった。
しばらく続いた沈黙を破ったのはエヴァンスだった。
「オークレイ、お見合いに出る気なのか?」
断ってくれないかと一縷の望みを託す。オークレイが振り返って軽い調子で答えた。
「まあ、仕方ないわよ。ミセス・デイヴィスの顔も立てなきゃいけないもの」
彼女は金髪をいじりながら興味がないような口調で話す。だが、その顔が赤く染まり、口の端が持ち上がっているのをエヴァンスは見逃さない。
(お前がそんなに楽しそうな顔をするとは、一体どんな男なんだ)
エヴァンスは自分自身に嫉妬する。だが、ポーカーフェイスを信条とするエヴァンスは胸の奥でどす黒く渦巻く炎を抑え平静を装ったまま会話を続ける。
「会うだけなら行っても意味がないだろ?」
「ど、どうなるかわからないでしょ」
そう言ってオークレイはますます顔を赤くする。エヴァンスもさらに嫉妬の炎を燃やす。
「男女の付き合いというのは大変なものだぞ」
まるで過去に何度か経験しているように話し始めるがエヴァンスは彼女いない歴=年齢である。
「付き合う前には見えていなかったそいつの変なところも見え始める。そして期待が高ければその分、幻滅もする」
「変なところね」
オークレイは少し考えてから
「そうね、例えば子犬さえ駄目なほど犬が苦手だったり、銃にシャーリーって名前をつけて可愛がっていたりとか?」
そう言ってオークレイがにやりと笑いながらエヴァンスを見る。
「それくらいのこと気にしないわよ」
オークレイとしてはエヴァンスのおかしな点をからかいながらフォローを入れたつもりである。だが、
(誰だそいつ?変なやつがいるもんだ)
エヴァンスは心の中で首を傾げる。オークレイが挙げたエピソードはどちらもエヴァンスが吐いた嘘が元であり、本人はその嘘をすっかり忘れている。そのため保安官にはフォローされた自覚は全く芽生えなかった。それどころか、楽しそうに相手の男の話をするオークレイを見て余計に焦りが生じる。エヴァンスはカウンターに身を乗り出して強い口調で語る。
「オークレイ、お前が男に熱中するとはらしくないな」
「べ、別に熱中してなんかないわよ」
顔を真っ赤にしている彼女の方を見ないようにしながらエヴァンスは言葉を続ける。
「広い視野を持て。お前にはもっと良い相手がいる」
(俺とか!)
エヴァンスは心の中で大きく叫ぶがカウンターの向こう側に届くはずがない。オークレイにはエヴァンスがお見合いを避けようとしている風にしか見えないのだ。
「そこまで嫌がらなくても良いんじゃないかしら」
悲し気な呟きにエヴァンスの良心が痛む。オークレイはがっくりと肩を落とし、背中を丸め陰鬱なオーラを放っている。心なしかリボンさえしおれた花のように見える。エヴァンスは開きかけた口を慌てて閉じる。すまなかった、俺が口を出して良い問題ではなかったなと言いたくなるのをぐっと耐える。彼女の恋路を応援する、もしくは少なくとも邪魔をしないのが彼女の友としてライバルとして正しい対応なのだろう。だが、
(俺は言いたくない)
エヴァンスは強くこぶしを握る。友達以上、ライバル以上の関係を願う者として、成り行きに任せることなどできなかった。
「お前の私生活に口出しするのが野暮なのは承知だ。だが、考え直す気はないのか?」
「エヴァンスはどう思っているのよ?これはあんたの事でもあるのよ」
(俺の事?)
突然のオークレイの質問にエヴァンスは混乱する。考えがまとまらず黙っていると、店のドアが開いた。
「あら、保安官さんここにいたのね」
そう言いながら店に入ってきたのはデイヴィスだ。保安官と賞金稼ぎを視界に捉えた彼女は顔の前で手を合わせてまくしたてる。
「やっと見つけたわ。助手さんにも尋ねて探してたのよ。来週のお見合いの話をしたかったのだけど、どうやら二人で話を進めてくれたようね。乗り気なようで良かったわ。保安官さんもようやく身を固める気になってくれたのね」
デイヴィスの言葉を聞くうちに、エヴァンスは自身が盛大な勘違いをしていたことにようやく気づいた。オークレイのお見合いの相手は自分自身だったのだ。先ほどまでの行動が違った意味を持ってしまうことに気づいたエヴァンスだが、彼が言い訳を考える間にオークレイが口を開いた。
「エヴァンスは乗り気じゃないみたいですよ」
それを聞いたデイヴィスが目を丸くする。
「あら、それはもったいないわ。このお見合い、保安官さんにも悪い話じゃないと思うのよ。ガンマン同士、きっと話が合うわ。それなのに断るだなんて。まあ、無理強いはしないけど」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
エヴァンスは手を前に突き出しデイヴィスの台詞を止める。デイヴィスが期待のまなざしを向ける。
「あら、やっぱりやる気になってくれたかしら」
頷こうとするが、背後からオークレイの視線を感じエヴァンスは動きを止める。もしここで自分が頷けば、先程乗り気ではなかった理由を話さなくてはいけない。そしてオークレイと別の男とのお見合いを阻止しようとしていたことを話せば、それは自分がオークレイに特別な感情を持っていると示すことになるのではないか。長年オークレイとライバルという立ち位置を維持してきたエヴァンスにとって、それはとても照れることだった。
(だからといって、断るのか?)
エヴァンスは一人自問する。いくら恥ずかしいからといってその問いに同意するわけにはいかなかった。ここでお見合いを断れば、それはオークレイとのお見合いを嫌がるということ、つまり彼女を恋愛対象に含めないという意思表示になってしまう。それはエヴァンスの望むところではない。それに思うように近づけないオークレイとの関係を一気に変えられるチャンスを逃したくはなかった。
悩むエヴァンスは父カートの教えを思い出していた。
それはまだ少年だったエルモア・エヴァンスが父から射撃訓練を受けていた時のことであった。
「息子よ、ガンマンたるもの常に綺麗な道を歩けるわけではない」
哀愁を帯びた声で話しかける父に対し息子は無邪気な正義を掲げ反論した。
「でも、ガンマンなら正々堂々と生きるべきじゃないの?」
父は辛そうな表情を浮かべ首を横に振った。
「確かに確固たる信念を持ちまっすぐ生きることに越したことはない。だが、仲間や家族を守るために時には汚い手を使うこともある。時には嘘を吐くこともある。それが己のミスにより、平和が脅かされている時ならなおさら手段を選んではいられない」
父はいったん言葉を切り、パイプを口に咥える。長々と煙を味わってから父はしゃがみ息子に視線を合わせる。
「息子よ、覚えておけ。本当に強いガンマンというのは己の信念を曲げてでも大切なものを守る者のことを指す」
神妙に頷いた息子に向かって父は言葉を続ける。
「だから母さんには昨日の夜もお前と訓練をしていたと言っておいてくれ。家族の平和を守るためだ」
「確かに俺は見合いを渋った」
浮気をもみ消そうとしていた父の事を頭の隅に押しやり、エヴァンスは現在に意識を戻す。オークレイとデイヴィスの様子を交互に窺いながら話を続ける。少しの嘘も時には必要だと自分に言い聞かせながら。
「実は来週末は遠出をする予定があってな、ここを留守にしなければならない」
オークレイが驚いた顔を向ける。
「そうなの?だったらそう言ってくれれば良いのに」
「悪いな。実は秘密裏に動く必要のある仕事でな。だから、今言ったことも誰にも言わないでくれ」
そう言ってエヴァンスは口の前に人差し指を立てる。あとは週末に本当に外出すれば丸く収まる。ほっと胸を撫でおろすエヴァンスにデイヴィスが困ったように話しかける。
「勝手に話を進めようとしてごめんなさいね。じゃあ、このお見合いは中止に――」
「いや、待ってくれ」
エヴァンスはデイヴィスの言葉を慌てて遮る。
「『中止』ではなく、『延期』だ」
デイヴィスが店を出ていく。それを見送りながら、オークレイはそっとエヴァンスの様子を窺う。
「どうした、オークレイ」
彼女の視線に気づいたエヴァンスがこちらを見る。
「断らなかったのね」
彼女は先ほどから気になっていることを口に出した。
「ああ、ミセス・デイヴィスの顔を立てる必要もあるからな」
そう言った男の顔は憎らしいほどのポーカーフェイスで何を考えているかわからない。だからだろう、ちょっと試すようなことを言ってみたくなる。
「私だって忙しいのよ。あんたの都合にだけは合わせられないわ」
言ってすぐに彼女は不安に襲われるが、男はその不安をふきとばすような答えを返す。
「気にするな。お前と俺の予定が合うまで待つだけだ」
「ふうん、そう」
そう相槌を打ちながら彼女は先ほど友達に言われたことを思い出す。
『お見合いを断らないで『延期』にしたんでしょ?それって興味があるってことなんじゃないの?』
オークレイは真っ赤に染まった顔を隠すように背中を向けた。だから彼女は保安官が珍しくポーカーフェイスを崩し自分と同じように赤面しているところを見逃した。
ミセス・デイヴィスは日の沈んだマークウエストの街を一人歩いている。
「上手くいかないわね」
デイヴィスは小さく溜息を吐く。若い男女の仲を取り持つことが生き甲斐となっている彼女にとっては、『延期』という答えは十分に満足できる答えではなかった。
「ディヴィスさん、どうっスか?見つかったっスか?」
後ろからそう声をかけられる。振り返ると一緒にエヴァンスを探してくれた助手がいた。名前は確かクエイドと言ったはずだ。
「助手さん、おかげで見つかったわ。ありがとうございますね」
そう答えながらもデイヴィスの心は晴れない。それと対照的にクエイドは明るい表情で話かけてくる。
「あの、デイヴィスさんって女性を紹介してくれるって聞いたんスけど」
デイヴィスの顔が一気に明るくなる。
「あら、お相手を探しているのね?お安い御用よ。私が良いひと見つけてあげるわ」
「マジで!?あざっス!」
デイヴィスはクエイドににっこりと微笑む。デイヴィスとしても乗り気でなさそうに見えた二人のお見合いより、やる気に満ちている彼の相手を探すほうがやり甲斐がある。
「ちょうど今進めていたお見合いが先延ばしになったから、貴方のお相手探しを先にしちゃうわ」
二人はがっしりと握手を交わした。
クエイドの相手探しが難航し、エヴァンスとオークレイのお見合いが立ち消えとなることをこの時点では誰も知らない。
読んでいただきありがとうございます
CHAPTER35を読み返して「オークレイを紹介してあげて!」と思ったので、お見合いをセッティングされたエヴァオクを書いてみました。
ヒロインがお見合いをするところに乱入するというラブコメでよくある話を書きたかったのですが、オークレイはエヴァンス以外とはお見合いを受けさえもしなさそうなので、私の妄想力ではこれが限界でした……
なお、途中で出てくるオークレイの友人はCHAPTER22でエヴァンスに「本命のプレゼントは?」と聞いた女性です。彼女はオークレイの恋心に気づいてそうで、良いキャラだったと思います。
名前、あるのかな……