七詩ムメイがこの世に生まれるまでの話を神話的・童話的に書いてみた。
※昨日のオリ曲が良すぎて勢いでやった。

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第1話

「君の名前は?」

「あなたの名前は?」

「「分からない」」

 

響く声は二人。

顔見合わせ二人。

首を傾げ、笑った。

 

「私には“名前がない”」

「私にも“名前はない”」

「「必要がなかったから」」

 

今まではただ一人。

見渡す限り一人。

一人、だった。

 

「私はナナシ」

「私はムメイ」

「「これで二人」」

 

何もない世界に色が差す。

昼と夜が分かれるように。

今と昔が分たれるように。

 

自分ではない何かが生まれて名付けられ、世界が循環し変転する。

世界の始まりーー『文明』が生まれた瞬間だった。

雨粒が地面に落ちるように、何かと何かがぶつかり合って、変化し発展する。

 

歯車が噛み合いくるくると、お互いがお互いを必要とした。

一人ならば名前がなくとも、二人いればお互いの名前が必要だった。

それらが連鎖して千々に分かれ、みんなが名前を持った。

 

自分と他者、全てが『混沌』として一体になる世界で、名前が世界を分かち、形作った。

その変化を『時間』と呼び、その広がりは『空間』と認識された。

やがて、様々な歯車が噛み合って生物が生まれ、原初の『混沌』に成り代わり、『自然』と呼ぶべき秩序が世を満たす。

 

「私はナナシ」

「私はムメイ」

「「それが私たち」」

 

二人になった二人の周りは、いつしか数えきれないもので満たされていた。

その全てに名前があった。

名前がないのは二人だけ。

 

数限りなく産み落ちて。

絶え間なく満ち満ちて。

終に音なく死に絶える。

 

「私はナナシ」

「私はムメイ」

「「私たちは……」」

 

ふと、二人のうちどちらか、あるいは両者が疑問を持つ。

二人はどこからきたのだろう。

初めは一人だった。

 

一人が二つに分たれて二人になったのか。

一人が写し取られて二人に増えたのか。

一人がもう一人を産み落としたのか。

 

「あなたはナナシ」

「あなたはムメイ」

「「私は……?」」

 

名付ける事で分たれる境界があるのなら、名付けられる事で失われる空白がある。

名も無き二人はその事を痛感した。

ある日片方が居なくなる。

 

名前を持たないその片方の名を叫ぼうとして愕然とする。

相手の名前が思い出せない。

自分の名前と似ていたはずなのに。

 

名も無き一人は、もう一人を探す旅に出た。

名を忘れたもう一人の名前を思い出すために。

世界のどこかにもう一人がいた証を残したくて。

 

名も無き一人は旅路で様々な生き物に出会った。

二人だけの世界だった時にはなかったものだ。

そして、その生き物には必ず名前があった。

 

「やあネコさん、私に似たものを知らない?」

「こんにちは、残念ながら初めて見る顔だよ」

「そっか」

 

「ごめんね。でも、この先の山には物知りなヤギさんがいるから聞いてみなよ」

「ありがとう、行ってみるよ」

「お気をつけて」

 

偶然出会ったネコという生き物はお話好きで、気まぐれだった。

日光浴が好きでよくお昼寝をする。

山への道を教えてくれた。

 

「やあヤギさん、私に似たものを知らない?」

「うむむ、初めて見るなぁ」

「そっか」

 

「もしかしたら、この先の海にいるクジラの爺さんなら知っているかも」

「ほんとう!? 教えてくれてありがとう!」

「爺さんは夕方になると岬に息継ぎに来るから、訪ねておいで」

 

山に住むヤギは非常に理知的で一人旅を労ってくれた。

強靭な脚力で山肌を踏破する。

海への道を示してくれた。

 

「やあクジラさん、私に似たものを知らない?」

「おお、小さな子よ。残念ながら知らないねぇ」

「そっか」

 

「もしかしたら、あの森に住むフクロウなら見たことあるかもね」

「そうなの?」

「ああ、何せ空から世界を見る目は彼が一番さ!」

 

海を泳ぐクジラはとても物知りでいろんな生き物のことを教えてくれた。

海の生き物なのに息継ぎが必要だけど、海で一番大きい。

フクロウの住処を教えてくれた。

 

「やあフクロウさん、私に似たものを知らない?」

「ごめんね、私は世界中を飛んだけれど、君を初めて見たよ」

「そっか」

 

「ところで、君の名前はなんていうの?」

「私の名前は……」

答えようとしたところで落ちた。

 

フクロウが警告する声が遠い。

意識が途切れそうになる。

何かの声が脳裏に過ぎる。

 

「私は   」

「私は   」

「「    」」

 

記憶が欠けていく。

世界として機能する歯車は、今日もくるくると軽快に回っているのに。

私たち二人の世界は欠けてばかりだ。

 

雨粒が地面に落ちるように、何かと何かがぶつかり合って、変化し発展するのなら。

何者にもぶつからず落ち続ける自身は何なのか。誰なのか。

どこに行くのか。どこから来たのか。

 

それは分からないけれど。

その一人は『文明』の守護者として生まれ変わった。

ある日不思議な縁を結び、そのほかの四人と共に。

 

ほかの四人がおずおずと名を明かし。

遠慮がちに『文明』を見たその時。

彼女は確かな意志でこう告げた。

 

「私は“ナナシムメイ”。“分かちて明らかにする”。“分明”から生まれた」

「『文明』の守護者」

そう、彼女は誇らしげに、そして少し寂しそうにそう言った。

 


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