【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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コンラート級二番艦の〈イザーク〉は、ルミナスとその家臣団を乗せている。この〈イザーク〉こそがアランからルミナスに与えられた星、とそう言い切ってしまうとそれは嘘になる。ルミナスとしてはそれで満足だが、他の女王が不満に思ってしまうだろう。

この〈イザーク〉は、アランからルミナスの一党に貸し与えられているだけだ。新たな星系への移住に必要という建前である。それでも艦のAI人格であるイザークは、当然のようにルミナスの家臣として振る舞っていた。

「ねえ、イザーク。我が星に移住を願う民の集まり具合はどうなのかしら?」

珈琲のカップを卓上に置くと、静かな声色でルミナスがイザークに問う。

「はい、ルミナス様。」

イザークが宙に自身の姿を投影させた。投影されたイザークの姿は、かつて滅んだサイヤン帝国の軍服に身を包んでいる。

「惑星アデルに開設した領事館を窓口に、人類圏全体からサイヤン・ルミナへ深い関心が寄せられています。旧人類銀河帝国からの移住希望は、既に300万人を突破しました。」

ルミナスの得た星は、サイヤン・ルミナと改名された。ルミナスの名前を加えられた、新たなサイヤン帝国の主星である。かつてのサイヤン帝国は紛れもなく復活を遂げたと、そう高らかに歌い上げるような星の名である。

「それ、全てを受け入れられて?」

「はい。食料と住宅の手配は問題なく可能です。仕事も一次、二次産業面については期待できます。問題は工業力の方ですが…。」

ルミナスは素早くイザークの話を遮った。

「産業については問題ないわ。イーリスに命じて、オーランド重工を我がサイヤン・ルミナへと移動させます。」

オーランド重工、それはかつてルミナスが買収した巨大企業である。金塊でオーナー一族の横面を張り飛ばすような荒技だったが、今は無事に再生の道を歩んでいた。これまで累積した赤字にまだ苦しんではいる。だが継続的な仕事があれば、問題なく立て直せる。航宙軍の艦隊再編計画が、オーランド重工の追い風となっていた。

「オーランド重工はサイヤン・ルミナで再建出来るでしょう。労働力も資源も資金も、税の優遇もあるわ。正に一石二鳥ね。」

ルミナスは自らの計画をそう自画自賛した。アランの妻は王権を維持する為に、他の国や星系より税の負担が少ない事を許されている。大企業にはそれを一部還元させる事で、競争力を獲得させ星の発展に寄与させるのだ。

「しかし、資金の回転が上手くいっておりません。このままでは、新たに融資を重ねてもすぐに焦げ付くでしょう。」

イザークの指摘に、ルミナスの表情が引き攣った。

「ねえ。それは貴方の力で、何とかできないの?」

イザークの演算力は宇宙屈指だ。星系ひとつの発展管理くらいは、丸投げできる筈である。彼女の全てを肩代わりして処理してくれる。その為のイザークではなかったのか。

「私のライブラリは、空白に近いのです。」

イザークは神に罪を告白するかのような口調でそう切り出した。彼としても、忠誠を誓った主君に無能を晒すのは本意ではないのだろう。

「イーリスは何をすればいいかを熟知しています。しかし私では現代流の対処法を把握しておりません。私が生きていた頃からでは、時代が変化し過ぎている為でしょう。」

イーリスには人類銀河帝国のA Iとしての基礎がある。その上でアランは寵愛するイーリスの性能を大幅に向上させた。

イザークはかつてアランの敵であった。だから余計な過去の感情や知識を削ぎ落としている。そうやってオリジナルの人格に原点回帰させた。その人格が生きていたのは二千年前と大昔の事だ。言われてみれば、現代の政治を委ねるのは確かに無理がある。

「思えば記憶を消していたわね。」

己の迂闊さを悟ったルミナスの返答は、些か辛辣なものにならざるを得ない。自分は、余りにも知識を欠いた状態でイザークを運用していたのだ。

「ねえ、なんとかなさい。この世に知識は溢れている筈だわ。情報を得て、なんとか努力なさい。本を読むとか新聞を読むとか、知識を得る手段はある筈であるでしょう。」

「最適な知識の裏づけが必要です。それを欠く場合、試行を繰り返せば最適なパターンを導き出す事は可能でしょう。」

ルミナスは、若干いかがわしそうにイザークを見つめた。『試行を繰り返す』という響きにどこか不吉な匂いを感じる。遠い過去に、何か似たような事があった。同じくごり押しでの対処を命じ、それが完全に裏目に出た嫌な記憶が蘇る。

そう、何もイザークに無理をさせる必要はない。別に今のルミナスは世界全てを敵に回している訳ではない。幾らでも対処可能な筈だ。それならば、とルミナスは考えを改めた。

「それでは、専門家を呼びましょう。正解を知れば、方針が定まる筈。後は決めた結果を、イーリスに確認して貰えば良いわ。」

ルミナスの方針決断は早かった。一刻も早くこの問題からルミナス自身が離れる為である。イーリスに全てを丸投げするのは、それは流石にアランが許さないだろう。だが、計画を提出して確認を求めるくらいは頼める筈だ。

イーリスは帝国宰相なのだ。ならば、その立場から提出された開発計画の不備の指摘はしてくれる筈である。誰かを頼り、人材を使い倒すことにかけてはルミナスは天性の才がある。

「誰を頼るべきか。私は今、その事だけを考えればいいのね。」

ルミナスは珈琲のカップを口元へ運びながら考えを巡らせる。寛いでいるように見えても、ルミナスも水面下で懸命に足掻いている。どうすれば、この快適な環境を維持できるか。彼女は常に最適解を求めてやまないのだ。自堕落を追求するその姿勢こそ、ルミナスの人任せの極地に他ならないのだった。


外伝7 カトルの不行状

惑星ノクターリス

 

タラ女王は、侍女のカーラを連れてエルナ女王を訪問していた。エルナは既にオデットを嫁がせる許可をカトルに与えていた。今回は単に、タラが直接挨拶に出向いたという形式を踏んだだけである。

 

元々、タラとエルナは関わりがある。共にアランの妻であり、共に女帝クレリアを支える一翼である。その関係は身内と呼んでほぼ差し支えない。

 

「お久しぶりね、タラ」

 

「はい。エルナ様もお元気そうです。」

 

こうして対面すると、2人の女王は格が違った。アランとクレリアを支えて戦い抜いたエルナと、タルスやカトルの貢献を加味して妻の末端に加えられたタラ。そもそも貴族出身と平民出身というだけでも、彼女達の立場はだいぶ異なっている。

 

「それで、そちらは国内が大変なのでしょう?」

 

テーブルを挟んで座り合いながら、エルナは本題へと入った。今日の議題はオデットの結婚そのものより、彼女を嫁がせた後の待遇の確認である。

 

「はい。お父様やお兄様では、貴族達の抑えが効かなくて。」

 

タラの顔が曇る。タルスやカトルが商人上がりなのは、広く世に知られた話である。タラが女王に即位しても、国政の中心は貴族が担っている。タルスやカトルが冒険者を集めた程度では、徒党を組んだ貴族の私兵集団には敵わない。それは国内に彼らが制御出来ない集団が存在する事を意味する。

 

これがエルナのように直属の部隊でも居れば睨みも効かせられる。ルミナスやウルズラならば、討伐を命じる家臣に不足していない。エヴリンも頼りになる父親が後見に控えている。コンスタンスもルミナスが後見である上に、アラム聖国には頼りになる臣下が多い。例外はアリスタだが、彼女はその卓越した手腕で早くから王国内の貴族を丸め込んでいた。

 

だが、女王の中で最年少で身分も低いタラにとって、徒党を組む不逞貴族の対処は簡単な事ではない。アランに泣きつくしか方策がないが、アランは表向きは傘下の王国への不干渉を掲げている。貴族達はそこに目をつけ、タラ女王への強訴という暴挙に出ているのだ。

 

「大丈夫よ。オデットには我が兵の半数を同行させましょう。」

 

「まあ、そんなに。」

 

タラが感激した声を挙げる。軍事力による裏付けこそ、タラに欠落している力だ。オデットがカトルと結婚すれば、タラは恒久的に利用可能な後ろ盾を得られる事になる。

 

それにオデットは兄嫁なのだ。兄に取って代わられる心配をする必要がない。むしろ、可能な限り使い倒したい。それにオデットの指揮官としての能力と立場は、タラが自前の部隊の創設にも最適である。

 

「クレリア様からタラの事は頼まれているもの。それに、アランもタラを心配しているのよ。」

 

アランがこの状況を静観しているのには理由がある。アランは全ての妻に、女王としていずれ星を与えるつもりなのだ。その為にタラやコンスタンスといった若い妻は、女王としての能力を証明しなくてはならない。

 

しかしアランも「周囲の手助けは得られるもの」とそう見越しているのだろう。クレリアやエルナがタラに手助けが出来るか。タラは助けられて恩義に感じる事が出来るか。能力や人間性を見られているのだろう。エルナはアランの思惑をそのように解釈している。

 

「本当に宜しいのでしょうか。エルナ様。」

 

おずおずとカーラが口を挟んだ。結婚の了解は早々に得られたものの、オデットが兵を率いて派遣されるのはタラ女王に都合が良すぎるとそう考えているのだろう。カーラはタラの侍女であるが、アランへの報告者という顔を持つ。彼女もまた、アランへの報告を求められる立場なのだ。

 

「カトルには、『オデットをきちんと正妻として遇しなさい』と伝えておいて。カトルがあの子を幸せにしてくれるなら、私はそれでいいわ。」

 

エルナがそう釘を刺しつつも、理由を説明する。これはつまりカトルには側室も認められているのだと、タラもカーラも了解した。側室がいても支障がない様に、正妻のオデットに箔をつけるという文脈である。

 

「いずれにせよ、タラが気に入らない貴族は自由に討伐していいのよ。」

 

エルナのやや傲岸な物言いに、タラもカーラも驚愕する。そこまで勝手していいとは、これまで考えていなかったに違いない。

 

「そうなのですか?」

 

「貴方が女王なのだから。私やダルシム将軍が、クレリア様に刃向かうものを容赦する筈ないでしょう?」

 

力は振るわれなければ意味がない。大切なのは過不足なくという部分である。案外、この加減が一番難しい。

 

タラとカーラは沈黙していた。社稷の臣下は居なくとも、かつてのクレリアと同じ立場というのが彼らの意識に残る。エルナは言葉を付け加えた。

 

「大丈夫よ、オデットなら上手くやるわ。私はオデットに、その辺りの全てを教え込んだ。恐らく人類スターヴェイク帝国では、貴族相手の処理が一番上手いのではないかしら。」

 

 

 

 

コンラート級戦艦〈イザーク〉

 

カトルは意外な人物からの呼び出しを受けていた。あの女神様(ルミナスさま)からである。皇帝の臣下として、女王からの正式な召喚をカトルは断る事など出来ない。そうでなくとも女神様(ルミナスさま)の召喚を断るなど、惑星アレスの住人には畏れ多くて不可能だった。

 

今回呼び出された理由は、事前に判明していた。『オデットとの結婚を祝し、祝いの品を下賜する』と召喚状に理由が記されていたのだ。

 

「カトル、よく来ましたね。」

 

片膝をついたカトルに、女神様(ルミナスさま)の声が降り注ぐ。

 

「知っているわ。随分と、貴族の令嬢を泣かせていると。」

 

「は、はい。」

 

カトルは問題を抱えている。「カトルと交際していた」と申告する貴族令嬢達から、オデットとの婚約に際して抗議の山が寄せられていた。それは食事を同席したり手を握られただけの仲から、一夜を共にし子を授かったまで多岐に渡る関係性があった。

 

「オデットを愛する気持ちに偽りはありません。ただ…」

 

「ただ?」

 

「誘惑に…」

 

「まあ、男の人はいつもそれね。」

 

女神様(ルミナスさま)は呆れた様に鼻を鳴らした。

 

全ては仕事の訪問先での接待という間柄だった。「貴族のしきたりとはそういうものです」と、全てを言われるがまま受け入れてしまった。元々、皇帝の側近に対しての罠として仕掛けられていたのだろう。貴族女性達の厳重包囲下にあるカトルには、“女神様(ルミナスさま)の祝福が必要だった。

 

「経緯はどうであれ、事実があった者には救済を。いいですね。」

 

「はい、女神様(ルミナスさま)。」

 

カトルは敬虔な素振りで同意する。

 

「貴方が誠実に対処すると誓うなら、オデットとの結婚に祝福を与えましょう。タルスの子カトルよ、誓いを行いますか?」

 

「は、はい。我が名に賭けて誓います。」

 

女神様(ルミナスさま)に祝福された結婚というのは、誰からも後ろ指を差されない結婚である事を意味した。誰が結婚に対する女神の決定に口を挟めようか。女神様(ルミナスさま)のお声がかりとあらば、全ての異議申し立てを無効に出来る。これで正室が誰かは議論の余地が生じない。

 

皇帝と女帝に加えて、女神様(ルミナスさま)の祝福まで与えられる。それはカトルとオデットの婚姻について、最高の環境が整えられた事を意味する。これほどありがたい申し出はなかった。

 

「いいでしょう。それでは貴方とオデットとの結婚を祝福します。これは祝いの品です。」

 

対面した女神様(ルミナスさま)は、膝をつき床を向いて畏まるカトルに言葉をかけた。そして祝いの品をポンと宙に放り投げて寄越す。

 

「直には手を触れず、布で受け止めるように。」

 

カトルは予めそのような指示を受けている。ルミナスの傍に立つマシラにそう教えられた通り、カトルは用意された布で落下物を受け止めた。そして受け止めた布ごと持ち上げて、押し頂く。

 

「カトル、貴方からオデットにそれを渡しなさい。」

 

それはルミナスの紋章を模った装身具である。希少なプラチナに大ぶりなダイヤが幾つも嵌め込まれている。宝石の大きさとカット技術の巧みさはカトルを驚嘆させる。しかもサイヤンの文字が記されていた。聞けばそれはオデットの名だという。金の鎖で首から下げても、手首に結えてもいいらしい。

 

「このような立派な品を、本当に頂いてよろしいのですか?」

 

「それはまあ、身分証のようなものね。オデットが私の庇護下にある事を示しています。私の力も込めているわ。」

 

そう言ってルミナスは意味ありげに笑う。神聖文字であるサイヤン語が読めれば、“ルミナスの庇護をオデットに与える”と刻まれているのだ。

 

女神様(ルミナスさま)の意向の届く範囲であれば、無条件で助力が得られる筈である。その中には教会とイリリカ兵という厄介事の両極端が含まれる。これは謂わば、“ジノヴァッツという猛犬に注意せよ”と警告表示されているようなものだ。ルミナスとしては、実務は下僕達に全てを丸投げするのみで気楽なものなのだが。

 

高価な品ではあるが、ルミナスの財布への負担はない。ダイヤは人工であり、プラチナと共にイザークに精製させたものだ。「金塊やプラチナを必要以上に現金化するな」とアランとイーリスからは釘を刺されている。これは市場相場を操作して、経済を混乱させる真似を慎むようにとの意図である。

 

しかし、これは身分証なのだ。そのような建て付けである以上、どれほど豪華に作ろうとも経済を混乱させる懸念はない。身分証の不正利用は重罪である。オデットの名前が入っているので、他の者が使用出来ない。オデットが死ねば回収されるだけであり、彼女の継承者には改めてその者の名前を入れて返してやれば済む話である。

 

「限られた者にしか与えられない、貴重な光輪紋です。ルミナス様のお力で、売られることも無くすこともないでしょう。」

 

マシラがそう補足した。マシラも誇らしげにこの光輪紋を首から吊るしている。光輪紋を買取などすれば、教会に破門されイリリカ兵につけ狙われる。人のコミニティーから除外されかねない。女神様(ルミナスさま)の祝福の具現化とは、けして軽い物ではないのだ。

 

女神様(ルミナスさま)の名に恥じぬように、懸命に務めます。」

 

「オデットのですよ、それは。」

 

ルミナスが軽い笑いをたてる。カトルの光輪紋は用意していないのだ。それはルミナスの高度な計算による。花嫁に対するプレゼントであれば、まず持ち帰る筈である。だがカトルの分を用意すると、『要りません』と断られかねない。

 

光輪紋は呼び出した理由づけのような物だ。ルミナスの意図はカトルという財政の専門家をイザークに対面させる事にある。カトルには何か価値がありそうな品物を与えて、恩に着せてイザークと対談させさえすればいい。光輪紋はその為に考案したに過ぎない。ルミナスにとっては、その程度の品である。相手がどの程度評価するかは、計りかねている。

 

「その品が、オデットの身を守る事もありましょう。」

 

ルミナスの言葉に、マシラもカトルも頷いている。カトルは主にオデットの正妻の地位を確立できる点について、マシラは主にルミナスの威光を信じての発言だろう。この三人の思惑は微妙に異なっているのだが、今この瞬間は奇跡的に一致を見ていた。まさに女神様(ルミナスさま)の栄光である。

 

「もしも壊れたのなら作り直させましょう。我が祝福、軽い物ではないのですから。だからオデットには必ず常に身につけさせなさい。」

 

ルミナスは主にカトルの感謝を引き出す為にそのような言葉をかけると、改めてカトルとオデットの結婚をサイヤン語で言祝いだ。そして儀式は済んだ、とばかりに手を叩く。

 

「さて、別の要件があります。」

 

キョトンとしているカトルに向けて、ルミナスは椅子に座るように促す。気がつけば、マシラが椅子を横に据え付けていた。カトルの背を汗が伝う。これは彼にとっては予想外の展開だ。カトルの目の前に、仮想表示されたイザークが姿を現す。

 

「我が宰相のイザークです。アランにとっての宰相イーリスのようなもの。知っていますね?」

 

「はい、女神様(ルミナスさま)

 

カトルが知っているイザークは敵の親玉のような存在だが、ルミナスの使徒の名でもある。勿論、熟知していた。

 

「イザークから、貴方へ聞きたい事があるとの事。少し時間を割いてくださいな。マシラ、飲み物をカトルに。私は移動します。」

 

ルミナスはそう言い終えると、すくっと立ち上がった。聞いていても頭が痛くなる話は、聞かないに限る。後は彼らに任せて、応接室の少し離れたソファーに移動する。イザークとカトルは話し込んでいる。その会話がうるさくない距離で、ルミナスはただ話の決着を待てば良いのだ。

 

 

 

 

 

ヴァルツェン王国王都ヴァルツ

 

「なぜ、私はここにいるのだろう。」

 

オデットは訝しんだ。今の彼女は完全武装している。隣には女王然とした衣装と王冠で飾られたタラ女王がいて、背後には千名を超えるオデットの部下が控えていた。

 

「オデットお姉様、よろしくお願いします。」

 

タラ女王はオデットに笑顔を見せる。

 

「タラ女王陛下、これは?」

 

オデットはタラから渡されたリストを掲げた。タラに不平不満を示した貴族の名が書き連ねられている。

 

「いやですわ、お姉様。カトルお兄様と結婚された以上、オデットお姉様とは実の姉妹同然。『私の事は、タラと呼んで下さい』とそう申し上げたのに。」

 

「では、タラ様。本当にこれらの貴族を討伐してよろしいのですか?」

 

「はい。エルナ様からもオデットお姉様はこの手の問題の専門家と聞いています。お姉様に全てをお任せします。」

 

タラ女王は慢性的な頭痛から解放されたかのような満面の笑顔だった。その顔を見てオデットは悟った。自分がカトルに必要とされていたのは、正にこれが理由だったのだと。

 

カトルとオデットの結婚式は2日間に渡り行われた。エルナも式に参列し、アランとクレリアはダルシム夫妻を伴ってお忍びで姿を見せた。中日に早々に初夜を済ませてもいる。

 

しかし式を終えた今朝になって新婚の甘さがかき消えた。エルナはオデットに「当分はこちらでお世話になるといいわ。」と伝えるとカーラを従えて姿を消した。カーラはオデット不在の身代わりを務めさせられるらしい。

 

カトルは女神様(ルミナスさま)に命じられたからと、後ろめたそうな顔をして新たな側室達を迎えにそそくさと出かけた。先方の親族とだけ、内輪の式を挙げるのだ。カトルが側室を娶るのは、オデットも承知の話だ。とはいえ、彼女としてはもう少しカトルとの甘い名残を楽しみたかったものなのだが。

 

「大丈夫です。兄が他の女を連れてきても、私が認めているのはオデットお姉様だけなのですから。」

 

タラがオデットの悩みを見抜いたようで、そう言葉をかけてくれる。

 

(この子、こう見えて意外と裏がある性格なのかしら)

 

オデットはタラとの面識はほぼない。エルナ伝いに噂を聞くくらいである。オデットが対面したタラは、予想していたよりもふてぶてしい性格なのかもしれなかった。そうでもなければ、皇帝の妻は務まらないのかもしれない。

 

「さ、お姉様。武運を祈っています。」

 

オデットが見ると、タラ女王は『早く行って』という顔をしていた。

 

「それでは、タラ様。行って参ります。」

 

オデットは未練を断ち切るようにそう言い残すと、兵を率いて転送門を潜り抜けた。




今回は、読者の皆様にご要望頂いたのでルミナス登場です。今回の光輪紋は十字架の様なものです。ルミナスとしては必要に迫られて適当に作ったものですが、デザインは拘り抜くので人気を博す事になります。

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