歪んだ提督と胃が死ぬ秘書艦   作:G14

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第零話『彼』

 軍学校で最高成績を収めた新米提督が最前線の鎮守府に送られると言う話が日本海軍内で話題になっていた。

 

 それもそうだろう、普通新米提督は後背地の鎮守府で熟練の提督の指導を受けてから初めて自らの鎮守府を持つ。だと言うのに、その新米提督はぶっつけ本番で……それも最前線の鎮守府を持つのだと言うのだから。

 

 話題の彼は、子供ってのは現実を知らねぇ。だから軍人なんてモノに憧れるのだと自嘲気味に笑って秘書艦に言う。まるで自分自身が子供の頃に軍人に憧れて、そして苦汁をなめさせられたかのような笑顔で未だ戦場に立ったことのない14歳の彼は言う。

 

 さて、彼の話をしよう。今ここに立つ彼の話をするのならばまずは遥か前世の彼の話をしなければならない。深海棲艦も居なければ大怪獣も居ない、そんな現代日本で彼は5歳の頃にトラックに撥ねられて死んだ。即死だった。

 

 そんな彼を哀れに思ったのか、神とも言うべき上位存在が輪廻の輪に戻ろうとする彼の魂を絡め取り、問いかけた。

 

『未練はあるか』

 

 それに対して、彼は父の遊んでいたあのゲーム……アーマード・コアを全部遊んでみたかったと子供らしい未練を零した。

 

 

 

 気が付けば、彼はレイヴンになっていた。5歳の少年にはいささか荷の重い地獄巡りが始まったのだ。

 

 死んだ回数なんて彼の知っている数では数えられなくなった。何度も死に、何度も死に、何度も何度も何度も何度も死に続けて……気が付けば、また彼はレイヴンになっていた。

 

 ミグラント、アナトリアの傭兵、人類種の天敵、独立傭兵レイヴン――地獄巡りが終わったのは5歳だった彼がすっかりスレてしまい、人の命の価値を見失い……そして人の命の使い道を知った頃であった。

 

 

 

 地獄巡りの締めくくりに危険物質を宇宙にバラ撒いた彼が次に目を覚ました時には、彼は懐かしきかな……擦り切れた記憶の中にもしっかりと残っていた日本に生まれていた。

 

 最も、彼が生まれてすぐに深海棲艦によってそんな日本は失われてしまったのだが。

 

 なぜ、地獄巡りを終えた彼が軍学校に入ったのか。なぜ、最前線を志望したのか。不思議に思うのは当たり前だろう。深海棲艦との戦いに関与せずに生きられる道も彼にはあった。関与するにしても後方地勤務の仕事もあっただろう。

 

 だが、それではダメなのだ。彼の魂はもう、闘争の裏の平和なんて望めない。闘争があるのならばそこで生きたい、そこで生きなければならない。

 

 闘争の中……もうそこでしか生きたくない。

 

 地獄巡りの中で歪められた彼は、そうして最前線の鎮守府へと送られる新米提督という奇異な立場に自ら立ったのだ。

 

 剝がれかけの舗装路を走るバスの中で、彼は笑う。

 

「最前線って感じの雰囲気だな、こりゃ笑えて来るぜ」

「ルーキーが調子乗ってんじゃないわよ……ったく、なんで私はこんなのに捕まっちゃったんだか」

 

 そして、彼の隣に立つ秘書艦はそんな奇異な立場に小さな文句こそ飛び出はしても最前線まで付き添っている。流石は学生時代に縁を結んだ者同士だ、確かな絆があるのだろう。

 

「お客さん方! そろそろ着きますよ!!」

 

 2人りだけが乗るバスの運転手が2人に声をかける。なるほど、確かに窓から頭を出してみれば遠くにそれらしき建物が見える。

 

「はぁ~……アンタ、現地の子に余計なこと言うんじゃないわよ?」

「俺が余計な事言うと思ってんの?」

「同期の数を30%にまで減らしたアンタが言わない方がおかしいでしょう? もう半ば諦めてるわよ私も」

「賢明な判断に感謝しますってな」

 

 憂鬱そうに溜息を吐く彼女とは対照的に、彼の顔は骨格が歪んでいるかとすら思える笑顔であった。もちろん、彼女の肘が彼の頭に突き刺さったのは言うまでもないことだろう。

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