歪んだ提督と胃が死ぬ秘書艦 作:G14
「ん~~~~! やっぱり長い間身体動かさないと凝るわねぇ」
「バスの時に至っては俺ら立ってたもんな」
「アレよアレ、エコノミーなんちゃら。アレ対策よ」
適当な雑談をしながら2人はバス停から鎮守府へと続く道を歩く。その道は最低限の舗装すらされておらず、爆撃でも受けたのか所々に巨大なクレーターが出来上がっている。
「俺達が最初にすべき仕事は道路の整備かもなぁ」
「ずいぶんと裏方仕事ねぇ」
「何事も最初は金無いからなァ……いつもの事だけども」
辟易とした様子の叢雲とは対照的に彼は平然としている。
前世前前世前前前世と基本的に金欠に苦しんできた彼にとっては金欠など慣れたものなのだ。依頼の報酬が修理費と弾薬費で消し飛ぶのが日常茶飯事の傭兵相手に、普通の金銭感覚を期待してはいけない。
「街路樹も燃えて炭化してやがるな。鎮守府への道がこれじゃあ示しも付かん。伐採と植林もしなきゃならねぇ」
「私はやらないわよ?」
「人間大重機を使わない手はねぇ。上官命令だ、諦めろ」
「憲兵さーん」
こんな場所に憲兵が居る訳無いので叢雲のそれはもちろん冗談である。もし本当に呼ぶのならとっくの昔のあの夜に憲兵に突き出している。
いつも通りの雰囲気で歩いて十数分。2人は鎮守府の正門へと到着した。守衛の1人も居ない寂れた正門は、この鎮守府の現状を端的に表しているように見える。鎮守府の名前すらかすれて読めなくなっているのは流石にどうなのかと彼はボヤく。
「……憲兵、呼んだ方が良いかもな」
「ええ……はぁ、艦娘が人間よりも強いとはいえ、見張り無しは流石にねぇ」
着任後の仕事量がとんでもないことになっているのを察した2人は深いため息をついて正門をくぐる。方や仕事の多さに対するため息であり、方や闘争への道が遠のいたことに対するため息である。
鎮守府の敷地に踏み込む。彼の直感が警鐘を鳴らす。
「ッ叢雲!」
次の瞬間、2人の立っていた場所が爆炎に包まれた。
殺った。爆炎を見ていた誰もがそう思った。これで再び苦しまされずに済むと、誰もがそう思った。
巻き込まれた艦娘はかわいそうだが、撃ち込んだ弾の口径から見て中破程度で済んでいるはずなので後で入渠させれば問題は無いだろうと。彼女達はそう考えた。
まぁ、最も――
「素晴らしい歓迎だな」
「ええ、クソみたいな歓迎ね」
2人は至って無傷で、依然として健在なのだが。
「慣れたもんだな、砲弾の地対空迎撃」
「アンタにみっちり叩き込まれたせいね」
艤装を展開した叢雲と白い軍服に煤1つついていない彼が爆炎の中から現れる。突然の、それも味方の基地からの奇襲攻撃を受けたというのに2人は平然としている。
「さて……ここでの初仕事だ、叢雲」
「ミッションの概要は?」
「俺達に武力行使を持って反抗を行う艦娘の武力鎮圧だ、殺すなよ?」
「アンタじゃないんだから殺さないわよ」
鎮守府までの道を歩いていた時と同じように2人は歩く。しかし、その雰囲気は遥かに暴力的であり、鎮守府を全体を深海に沈め込むかのような圧がじんわりと2人以外の存在を蝕んでいく。
「んじゃぁ……正面建物、3階の右から4つ目の窓。弾種徹甲、当てる気で一斉射!」
「当てる気じゃなくて当てさせてもらうわ!」
ワザとこちらを見ているであろう
それに対して叢雲も大きな声で返事をしてから間髪入れずに命令された通りの場所に砲弾をぶち込む。
鎮守府の一角が弾け飛び、爆音響き渡る。
「音を聞くに全弾重装甲目標に命中か。ナイスショット」
「当たり前じゃない、なんてたってアンタの頼れる叢雲様よ?」
ケタケタと笑いながら2人は依然歩き続ける。
そんな2人の様子を見て、砲撃をした艦娘達は恐怖に心を飲み込まれていく。
「長門さん大丈夫!?」
「ああ、大したダメージではない……」
砲撃をした潮という名の艦娘が今しがた4発の徹甲弾を受け止めた艦娘、長門へと心配の言葉を投げかける。今にも泣きだしそうな潮に対して、長門は大丈夫だと言って頭を撫でる。
周囲を確認し、既に砲撃を行った艦娘が自分と潮を除いて逃走していることを確認して安心し。そして、冷や汗を流しながら今も鎮守府へと歩き続ける2人の人影を見据える。
「あの叢雲は……
艦娘とは名前の通り艦の娘だ。戦闘を行うのは基本的に海上であり、彼女達自身も海上での戦闘に特化した作りとなっている。
現に、小口径の砲を撃つ時でさえ長門を含めた数人の艦娘で潮を支えてようやく正確に1発の射撃が可能といった具合であった。
だと言うのに、あの叢雲は平然と歩きながら4発の砲弾を正確に彼女達が居た場所へと撃ち込んだ。理解が出来ない、過去に数度交戦した経験のある陸上型の深海棲艦なのではないかという考えすら彼女の脳内には浮かんでくる。
「潮、皆に奴等への攻撃を止めるように伝えて来てくれ」
「え!? で、でも――」
「奇襲は失敗した。その上、地上からの砲撃でこれだけの正確性……地上戦なら私達の負けは必然だ」
「わ、解りました! 伝えて来ます!」
そう言って走り去っていく潮を見送り、長門は鎮守府の正面玄関へと向かった。
さて、相も変わらずとんでもない圧を発しながら歩いていた2人が鎮守府の正面玄関へと足を踏み入れる。
「最初の砲撃からここまで何も無しねぇ。賢い奴が多いのか、それとも上がしっかりしてるのか……」
「後者じゃないかしら」
ノックも無しにドアを蹴り開けた2人は埃っぽい空気に顔を顰めながら提督の執務室はどこかと案内板的な物を探す。
「ん~地図とか無いのな、不親切」
「日本軍がそんなムダ金使うわけが無いでしょう? 倹約の鬼なのよ?」
「今は自衛隊なんだよなぁ……」
お前ら艦娘に合わせて大本営やらが出来ただけで普通に日本に軍は存在していないんだよと常識を説く彼。そんな彼をウゼェという目で叢雲は見る。
「てなわけで、執務室への案内頼むぜそこで隠れてる誰かさん?」
「ッ!? 気付かれていたか……!?」
「キッショ、なんで分かるのよ」
案内板的なのが無いのなら仕方が無い、そう言わんばかりに彼は隠れて様子を伺っていた長門に声をかける。2人から見て壁の裏に居たようなものなのに、平然と存在に気付いていたのだから長門は驚愕し叢雲はいつも通りドン引きする。
「あれくらいで俺から隠れられると思わんでくれ。それで、案内頼めるか?」
「あ、ああ……ただ艤装は格納してもらうぞ。不安がる子も居るからな」
「最初に撃ってきたのはそっちでしょうに……まぁ、分かったわ」
長門の声に従って叢雲は艤装を格納する。それを確認した長門は2人に対してこっちだと言って案内を始めた。
無論、叢雲の手に榴弾が握られているのは言うまでもない事だ。
惑星█████の雪原で、1機の白いACが高速で飛び回る。
『クソッ! 速すぎる!!』
『互いに背中を守れ! 絶対にACから目を離す――』
『また1機落とされたぞ! どうすりゃ良い!?』
本当にACかと疑う程の速度で飛び回る白いACはその手に握られた武装で的確にMTを撃破していく。戦闘が開始してからたった5分しか経過していないが、既に50機近いMTが白いACの手によって撃破されている。
『クソ! クソ! クソォオオオオ!!』
また1機爆散する。白いACには未だに被弾は無い。
『これがッ! コイツがレイヴンか!!』
絶望を振りまく白いACの正体を勘繰るMTパイロット。彼への返答は火薬による初期加速の後に電磁加速による終末加速を受けた銃弾であった。