歪んだ提督と胃が死ぬ秘書艦   作:G14

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第二話『人の心』

 毒気を抜かれる、とはまさにこのことなのだろうかと長門は考えていた。自分について来る2人は上司と部下というよりは親友や戦友……いや、夫婦か恋人といった雰囲気だ。

 

 軍服を着た青年の方は圧こそ凄まじいが、前任の提督のような嫌悪感は感じない。むしろ好ましいとすら思える。

 

 彼に付き従う叢雲は一目で凄まじい練度がある事が理解できた。先程一瞬だけ近くで見れた艤装は明らかに個人でカスタムされた形跡があり、それほどに使い込んでいるのだと分かった。

 

 新米提督にしては、あまりにも異質。しかし提督としては……まぁ、模範の範囲であろう青年と叢雲。クソを地獄の業火で煮詰めたような前任を知っている長門が毒気を抜かれるのも仕方が無いと言えるだろう。

 

「埃っぽいなここ。最初の仕事は掃除か」

「アンタ1人でやりなさいよ? 私は寝て待っておくから」

「上官命令だ、お前もやれ」

「横暴ねぇ」

 

 ……少し、軍人としては緩すぎやしないかと長門は思った。

 

 

 

「ここが執務室だ、鍵は開いている」

 

 そうだけ言ってさっさとどこかに行く長門を見送って、2人は執務室の扉を見据える。

 

「こんだけ鎮守府が荒れてるんだ、酷い有様だろうな」

「私のテンションは過去最低って現状を報告させてもらうわね」

 

 仕事の多さと闘争への道のりの長さにそれぞれため息を吐き出す。そして彼は鍵が開いてると聞いていたのに執務室の扉を蹴破って中に入る。

 

「……予想外だぜ」

「何言って……なにこれ、ひっどい趣味ね」

 

 執務室は廊下や玄関と対照的に埃1つ見当たらない清潔さだった。ただ、内装の趣味がゲボカスみたいに悪い。

 

 全ての家具がメッキ加工でもしてあるのかと思うほどに光輝いており、どこを見ても金色が目に入る。アニメや漫画の成金を10倍くらい誇張したってここまでの悪趣味にはならないだろう。

 

「俺ここで執務したくねぇんだけど」

「奇遇ね、私もよ」

「そうだな~……よし、資料だけ取って爆破しよう!」

「普通に軍規どころか法律違反よ」

 

 軽率に爆破の選択肢が出てくるあたり、学校始まって以来の天災っぷりは未だになりを収めていないようだ。今更だけども(鎮守府にしっかり4発撃ちこむように命令した彼と実行した叢雲を思い出しつつ)。

 

 まぁ、爆破するにしてもしないにしてもまずは重要書類に目を通さねばいけないのは道理。なので2人は自身の荷物を適当に執務室の端に投げて物色を始める。

 

「作戦記録、これは必要ね」

「艦娘の在籍名簿に……これエロ本じゃねぇか、執務室に置くなよこんなもん」

 

 叢雲は壁の1面を占拠している本棚を。彼は前任が座っていたであろう椅子に座って執務机を物色する。

 

 作戦記録に艦娘の在籍名簿から始まり、資材備蓄の記録や各海域についてのレポート。鎮守府の持つ金とその使い道。

 

「こんな荒れ具合だから記録なんてロクに取ってねぇだろと思ってたが……以外にもあるもんだなぁ」

「きっと私みたいな真面目な子がマメに取ってたんでしょうね」

「ハハハ抜かしおる」

 

 自分を真面目だと宣う叢雲を笑う彼。そんな彼の頭に戦術指南書がクリーンヒットし鈍い音が執務室に響く。

 

「やめろ、そこそこ痛い」

「アンタも大概頑丈ね。艦娘になったらどう?」

「俺は男だ」

「知ってるわよそれくらい」

 

 いつも通りの雑談をしながら、されども2人の近くにはかなりの速度で重要書類の類が積み上げられていく。軍学校で最高成績の彼とそんな彼に鍛えられた艦娘だ、速読程度は身に着けているため雑談しながらでもさっさと重要書類かどうかを見分けることが出来る訳だ。

 

 ちなみにこの技術は昭和のツッパリも真っ青だった入学初期の彼に対して、それはもう親身(物理)に接していた教師役の艦娘からの直伝であったりする。

 

「……マジかよこりゃあ、なるほどなぁ」

「ん、どうかしたの?」

「ちょっと来い。見りゃわかる」

 

 2人が積み上げた重要書類達が、全部合わせれば叢雲の身長を超すくらいの高さになった頃。何かを見つけた彼が驚愕の後に呆れと納得を漏らす。

 

 そんな様子の彼に呼ばれた叢雲は、どこまで見たかの栞代わりとして適当な本を横向きに本棚に差し込んでから彼のもとに駆け寄る。

 

「アンタがそんなになるなんて、一体どんなのが――!?」

 

 絶句。文字通り、叢雲は言葉どころか息すら吐きだすことが出来なくなる。

 

「悪趣味だよなぁ……差し詰め艦娘の違法ポルノってところか」

 

 彼の手には1つのファイルがあった。そこにファイリングされているのは裸か裸に近い艦娘達の写真だ。それもこれもが明らかに同意の下に撮られた写真ではない事が、写真に写された彼女達の表情から見て取れる。

 

「――これ、どこにあったの?」

「このいっちばんデカい引きだし、二重底になってやがった。しかもこれ以外にも色々ある臭い」

「ここの前任は何をやらかしてくれたのかしらね……それで、そのファイルはどうするの?」

「爆破しよう」

「こればかりは賛成よ。はぁ、目が穢れたわ」

 

 彼はファイルを閉じて二重底の中を物色する。そうしたら出るわ出るわ汚職の証拠資料に怪しげなSDカードとUSB、それに加えて先程と同じようなファイルが数冊。

 

「すげぇな、お手本みたいな汚職提督だぞここの前任」

「教育ビデオに乗せてもらいましょうかね」

「さて……ポルノ以外はなんかに使えそうだから取っておくかね。ポルノは塵も残さず爆破する」

 

 全く反吐が出るぜと彼は笑う。そんな彼を見て叢雲は少しだけ疑問を漏らす。

 

「にしても、あんなのを見て平気だなんて……アンタ人の心持ってる?」

 

 彼と出会ってから叢雲が幾度となく口にした疑問。この質問に対しての彼の答えはいつだって決まっている。

 

「そんなもんは火星に捨てて来たよ」

 

 いつも通りスレた笑顔でそんなことを嘯く彼に、珍しく叢雲の肘が突き刺さることは無かった。

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