学園物、女二人、ある意味スポ根

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ラスボス系同性万能幼馴染に目をつけられた

「おはよー!今日もやってるー?」

 

 絵の具と紙の独特な匂いのする教室に、体育会系らしい元気な、この部屋の雰囲気からは少し浮いた挨拶が響いた。

 窓側の風通しが良い机でスケッチブックを開いていた眼鏡の女生徒が、鬱陶しそうな顔でそれに応えた。

 

「朝から五月蝿いわね、こんな所に油売りに来る位に暇なの?」

 

「もう、せっかく美人な幼馴染がモーニングコールを届けに来てあげたのに!

 いけずなんだからぁー!」

 

「はぁ、アンタが男だったら私も無碍にはしないんだけどね……

 また何処かの部活に朝練呼ばれてるんじゃないの?」

 

「今時異性じゃなきゃ恋愛出来ないなんて遅れてるわ!

 才色兼備でおまけに性格も良い幼馴染なんて、属性盛りすぎでお得よ!」

 

 大口を開けて、だが何処か育ちの良さを感じさせる笑い方をしながら彼女は机の隣にしゃがんだ。

 

「ま、朝練は良いのよ、それより幼馴染の方が大事ね」

 

 彼女は断りも入れずにスケッチブックをパラパラとめくり始めた。

 

「ふん、何処の部活も真面目にやるつもりが無いだけでしょう。

 先生方も色んな部長も嘆いていたわよ。

 あんなに才能があるのに何処の部活も続かないって」

 

「だってちょっと練習すれば、そこの誰よりも強くなっちゃって面白くないんだもの。

 やっぱりライバルが居ないと長続きしないのよね」

 

 眼鏡の女生徒は呆れながら肩をすくめた。

 幼馴染の飽き性は今に始まったものではないが、溢れんばかりの才能を持て余しているのを見て、彼女は勿体無いと思った。

 

「それ、見てて面白い?

 落書きしかしてないし、貴重な朝の時間を割いてまで見に来るほどの価値は無いと思うけど?」

 

「価値はあるね!

 私ちーちゃんの絵好きだし、楽しいよ」

 

 そう言って彼女はニッと笑って千明を見上げた。

 

「身内贔屓で客観性の無い意見ね。

 お世辞なのが良くわかるわ。

 でも、ありがと……」

 

 体育会系の女生徒一夏と、眼鏡の女生徒千明がここで会う時にいつもしているやりとりだ。

 絵を見て一夏が感想を言って、千明が照れ隠しに憎まれ口を叩く。

 

 

 一夏は色んな部活を掛け持ちしていて忙しい。

 そして持ち前の明るさと美貌で何処に行っても人気者だった。

 それでも態々自分の様子を見にきてくれる幼馴染に、口には出さないが千明は感謝していた。

 

 

 だが、今日はいつもと少しだけ違った。

 

 

「私もちょっと描いてみようかなぁ?」

 

 

 一夏のいつもの気まぐれだ。

 だが、その一言は千明の心をざわめかせた。

 

「そう、良いんじゃない?

 スケッチブック、貸してあげるわよ」

 

 努めて冷静に、手が震えない様に気をつけながらそれを手渡す。

 何故怯えているのか、千明には理由が分かっているがその可能性には目を背けて気付かないフリをした。

 

 

「えっ、ちーちゃんのを貸してくれるの!

 つまり、初めての二人の共同作業ってコト!?」

 

 

 他人の気も知らず軽口を叩く一夏の頭の上に拳骨を降らせ、始業のチャイムが鳴る前に千明は美術室を出た。

 痛む頭を抑え蹲る一夏は、待ってよー、と聞こえるように呟いて上目遣いでそれを見送った。

 

 

 

 視界から千明が消えると、彼女は無表情でスケッチブックを端から目に焼き付けるように一枚一枚丁寧にめくった。

 まるで機械の如く、それを脳内に刻む様に。

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ!見て見て!」

 

 放課後、一夏は早速描いた絵を持ってきた。

 美術室の窓からの風景をとても精巧にスケッチした絵だった。

 

「へえ、上手いじゃない……」

 

 千明は、出来るだけ素っ気なく聞こえるように気をつけながら返事をした。

 

「初めて描いたにしては上出来だと思わない?

 いやー、コレは才能があるかもしれませんなぁ!」

 

 やはりそうだろうと千明は思った。

 なんでもそつなくこなす一夏だったから、初めてでもコレだけ上手く描けると予想はしている。

 一方、自分はこのレベルまで至るのにどれくらい努力しただろうか。

 彼女はスケッチブックを握る手に力が籠らない様に精一杯だった。

 

「一度、ちゃんとしたキャンバスに描いてみる?

 才能、試してみるべきかもよ?」

 

 よせばいいのに、と内心思いながらそれとは裏腹に勝手に言葉は出てくる。

 断ってくれと彼女は願った。

 

「ホントにー?

 じゃあ、ちーちゃんが言うならやってみようかな?」

 

 お互い、古くからの付き合いなので何を考えているのかは分かった。

 分かっていて、見栄の為に千明はそう聞いてしまった。

 分かっていて、一夏は千明の領分に踏み込む事を選んだ。

 千明は、口元を引き攣らせてぎこちなく笑った。

 一夏は、ニンマリと牙を剥く肉食獣のように笑った。

 

 

 

 一夏は千明の予想通りどんどん上手く描ける様になっていった。

 勿論千明にとって喜ばしい事でもある。

 飽きやすくとも、熱中してる時は一心不乱な一夏の情熱は良い刺激になった。

 実際、次に描くモチーフを話し合ったり、落書きを見せあったり、画材を見に文具屋に行ったりする時間は楽しい物だった。

 だが、手慰みにやっている一夏が、瞬く間に自分と同じ位上手くなってきている事に焦りも感じていた。

 只の幼馴染ならこれほど一夏の事を意識はしなかっただろう。

 しかし、あらゆる才能に溢れて……しかも絵を描くしかないと思っていた自分の才能に、こうも簡単に手を伸ばせてしまえる彼女に、千明は嫉妬もしていた。

 そして怒りも感じていた。

 一夏が絵にどれほど拘って情熱を注いでいるのか、千明も知っている筈なのだ。

 

 

 千明は確かに色んな部活に出入りしたり、助っ人として呼ばれたりし、その全てで成果を出す人気者だ。

 だがそこで常に努力していたその部のレギュラー達に勝負を挑み、蹂躙し、挫折させてきた。

 そういう意味で悪名も知れている。

 大した努力もしていないのに、才能だけで一方的に負ければ心も折れるだろう。

 しかも彼女はどちらが上なのか、何度でも徹底的にやる。

 その癖、自分より強い人間が居なくなると、途端にその部活に顔を出さなくなるのだ。

 それでトラブルになった事もある。

 

 

 一夏は今までは勝敗がしっかり付く、第三者に評価を委ねない競技しかやっていなかった。

 だから自分の領分には関係のない友人の悪癖だと思っていたのだ。

 そして……

 

 

 

 いつもの様に美術室の窓側の席でなんとなく筆を滑らせていた時、不意に一夏が近づいてきた。

 

「ねー、ちょっとコレ見て見て!」

 

 千明は胡乱気に彼女を見た後、机に置かれた封筒をしげしげと眺める。

 差出人はとある画廊だった。

 千明が絵に熱中するきっかけになった画廊だ。

 いつか、自分の絵もそこに飾って貰えたら幸せだろうと密かに目標にしていた画廊だった。

 震える手で封を切り、中身を読んだ。

 要は、受賞したのでお越し下さいという手紙だった。

 

「いやー、ちょっと上手く描けたかなって思って持ち込んでみたんだけどさ、案外簡単に通って拍子抜けしちゃった!

 でもでも、凄くない!?是非是非お褒めの言葉を頂戴致す!」

 

 

 千明には、一夏は全て分かった上で言っていると分かった。

 これは宣戦布告だ。容赦は要らない。

 

 

 

 

 

 

 

 一夏は、その日人生で初めてグーで殴られ、人生で初めて空を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 なんで一夏が色んな部活に出入りしていたのか、その本心を私は察していた。

 きっと沢山の生徒の心を折ってきたのだろう。

 だが、彼女は審査員が欲しい様な競技は好きでは無かったし、流石に長年の友情に罅を入れる様な事はしないだろうと思っていた。

 甘かった。

 

 

 なぁにが貴方の描く絵が大好きだ!

 なぁにが思ったより簡単に通っちゃってだ!

 巫山戯やがって!

 私がどれだけ描いてきたと思っていやがる!

 私よりも上手いつもりか?勝ったつもりか!

 冗談ではない!

 こちとらお情けでスキマ時間に友情ごっこをしてやっただけだ!

 親友だと思っている?片腹痛いわカスが!

 

 

 

 

 貴方はずっと私を煽ててくれていれば良かった。

 なのになんで貴方が賞を取るのか?

 私より優れているというのか?

 そんな訳ない、それは自信を持って言える。

 

 いや、あの女が賞を取った事自体は腹立たしいが、別に良い。

 審査員の目が節穴だっただけだ。

 

 

 

 一番許せないのは、こんなに安い挑発で沸騰している私自身だ。

 そんなの、私がアイツをライバルだと認めている様なものじゃないか!

 当然私はそれを屈辱だと感じている。

 

 

 

 な!の!に!

 

 

 

 何故!!今!!過去最高に筆が乗っているんだよ!!!

 

 

 

 

 

 その絵はとてもじゃないが見るに堪えない代物になった。

 だがそれは私視点での話だ。

 赤や黒を基調としたグロテスクな絵は大層ウケが良く、美術館に展示される事になった。

 

 まばらに居る見物客の中で彼女を見かけた。

 私は思いっきり睨んでやったが、アイツはそれに、にんまりと笑って応えた。

 

 

 

 

 彼女は私より顔が良く、金があり、頭が良い。

 そしておそらく……絵の才能もある。

 そんなの狡いじゃないか。

 唯一つ。

 絶対に、この才能で先を譲る訳にはいかない。

 

 

 

 

 例え、この美術部があの女が顔を出す数ある部活の一つに過ぎないとしても。

 

 例え、その悉くであの女が輝かしい成果を収めていて、コレもその一つに過ぎないとしても。

 

 例え、この私の怒りすらあのクソ女の掌の上だったしても。

 

 

 

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 私は私を羨望の眼で見る視線が大好き。

 才能に嫉妬してる仄暗い目線は三度のご飯より大好き!

 

 私が絵を描いたのは本当に気まぐれで、評価されるような物だとは少しも思って無かった。

 点数を他人に任せる競技は面白くないと思ったし、ちーちゃんとは友達でいたいから本当にお遊びのつもりだったの。

 ごめんね、そんな絵で賞を掻っ攫っちゃって。

 でもちーちゃんも悪いんだよ。

 私の絵を見た時、あんなに唆る顔をするから。

 ただ笑って上手いねって、私みたいにお世辞を言ってくれれば良かったのに。

 余りにも可愛い、恐怖すら滲んでいる、取り繕えてない笑顔に堪らなくなっちゃって。

 貴方が全力で突っかかってくれる事が、こんなに嬉しいだなんて思わなかった。

 友達として好きだったのに、こんなに好きになっちゃうなんて思わなかった。

 絵なんて興味も無いけれど、貴方が誰よりも私を情熱的に見てくれるから。

 

 ふふっ、今度の趣味は長く続けられると良いなぁ……

 

 

 




良心が欠落してるって事で許してください…

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