~~ダーハルーネ~~
「それでは皆さん長らくお待たせいたしました! これより第1回海の男コンテストの開催を宣言しますっ!!!」
「「「うおおおおお!!!!!」」」
皆さんもどうも! なんだかよくわからない間にこれから始まる大会の参加者席にいるハムザ君です!
……あっるえ~!? おっかしいぞ~!?
俺は参加者としてではなく観客として楽しもうと思っていたんですが!!
ちなみに今の俺は王子だとバレないように顔を仮面で隠す変装を行い,隠密能力を総動員することで,今まで垂れ流していると言われた覇気すらも頑張って消しているのである。
これはシンプルに注目されないためだったのだが,まさか出場者に間違われてしまうとは……。
運営を先輩たちに任せてサボっていたせいで会場の仕組みを理解していなかったので周りの流れで移動していたのが致命的だったか……!
と,とにかく一旦落ち着くためにもまずはこの状況に至った経緯を説明するとしよう。
まだ自分の順番まで余裕があるので,俺は椅子に座ったまま目を瞑って集中している風を装った。
現在の時期はダーハルーネの町が完成してからすぐで,この町のこれからを考える上で最も大事な時でもある。
そこで日々賑やかさが増していく中で,何か町を象徴する名物になるような催し物をして町を更に盛り上げようと言う話になったのだが,そこで俺が提案したのが"海の男コンテスト"だ。
これは原作でもダーハルーネの町で開催されていたイベントで,その名が表す通りに"海の男らしさ"を競う大会として紹介された。
勇者たちがここに立ち寄った際は彼ら一行を狙うデルカダールの将軍"ホメロス"の登場などもあって大会自体は中止されてしまうので,大会の詳細な様子などはプレイヤーにも伝わらないという謎の多い祭りでもある。
そんな自分でもよくわからない祭りを提案したのは完全に思いつきだったのだが,思いのほか皆の興味を引いてしまったことでその詳細を考えなければならない羽目になってしまった。
……ちなみに原作では第1回の優勝者は,現在俺の横で気合を入れているフェルナンド……の息子である"ラハディオ"だったりする。
ラハディオは原作ではこのダーハルーネを築き上げた男として町長を務めていたのだが,この世界ではどうなることやら……。
まぁ彼の家族はうまくやっているようなので,あまり心配する必要もないだろう。
話を戻すが,俺の記憶に残っていたこのコンテストの情報は多くない。
ただ,その記憶の中で印象的だったのはこのコンテストの審査基準……といえるのかわからないが,3つのことである。
1つ目は,"荒波のようなたくましさ"を持っていること。
2つ目は,"潮風のような爽やかさ"を持っていること。
3つ目は,"海のようなおおらかさ"を持っていること。
……以上。
これら3つを備え合わせた男が優勝者になれるようなのだが,その審査方法などは全くの不明であった。
そこで俺が考えたのは,参加者がそれぞれ上記の3つの点をアピールするパフォーマンスを行い,それを審査員に評価してもらって点数をつけて優勝を決めるやり方である。
審査員がそれぞれが1~10点までつけることができ,その合計点がその参加者の得点となるのだ。
ちなみに今回の審査員は先輩とオセノン,更にナギムナー村からわざわざ呼び寄せたキナイの3人である。
……やっぱり俺はそっち側にいるべきだルォ! なんで参加者側なんだ俺が!! おいオセノンせめてそこ代われ!!(横暴)
……はっ!? お,抑えるんだ俺,落ち着くための思考という当初の目的を見失うのはよくない。
話を戻すが,今回のこのコンテストは特別な参加条件などは必要なく,当日の朝までに参加を申し込めば誰でも参加できるようにしてある。
原作でも直前になって立ち寄った主人公たちに出場を勧めるくらい緩い条件だったしこんな感じでも大丈夫だと信じたい。
兎にも角にも初開催なので問題は色々と出てくるかもしれないが,それも祭りの楽しみというものだろう。
改善点があれば,次回から少しずつ修正していけばいいのである。
今のところは毎年開催する予定で考えているので,来年も来ることがあればそっち側の審査員席を奪い取ってやるぜ!
……だがそんな風に考えていた俺は衝撃的なことに気が付いた。
待てよ……いくら不本意であったとはいえ,こんな気持ちでコンテストに臨むのは他の参加者に対して失礼ではないか?
思い出せ……この大会を開催した目的は町を更に盛り上げるためだったはずだ。
この日を楽しみにしていた観客たちや参加者たち……それに開催のために尽力してくれた部下たちのためにも,ここはサマディーの王子として全力を尽くし他の誰よりも楽しんでこそ責務を果たしたと言えるのではないだろうか!?
そのことが頭から抜け落ちていたとは……くっ……! 俺もまだまだ未熟だったということか!!
……いいだろう! ならば俺が目指すは当然優勝だ!
この場にいる他の参加者どもをちぎっては投げ! 振り回しては叩きつけて格の違いを見せつけてやる!!(※比喩です)
……あれ,なんか前にもこんな決意表明をしたことがある気がするな……?
俺が心の中でそんな戯言を宣っている間にも,ステージの方からは他の参加者たちが行っているパフォーマンスの音や観客席からの歓声が聞こえてくる。
どうやらかなり盛り上がっているようで,これには俺もニッコリである。
この催しはその珍しさもあって,話を聞きつけた者が国内外問わず大勢押し掛けてきたことで予想を大きく超える参加者が集まった。
その影響もあってこの町の経済も高速回転していることだろう。
それにこれが町の名物になれば毎年新しいネタが生まれることになるだろうし,人が多く集まることは参加者のネタ切れ防止にも良いだろう。
初開催である今回でも,俺は最初の方しか参加者のパフォーマンスを見ていないが,彼らは様々な方法で自らをアピールしていた。
ある者は楽器の演奏を披露し,またある者は自分の肉体美を披露するべくポージングを取っていた。
他にも自慢の武器を振り回す者や,中には演説を始めるような猛者までいたくらいだ。
参加者が多いのでそのクオリティも玉石混交といった感じだが,俺も参加者側でなければとても楽しめたことだろう。
だがそういった俺の思考は中断させられることになる。
「「「ウォオオオオオ!?!?」」」
うお!? なんだなんだ!?
突然観客席の方から今日1番ともいえる程の歓声が聞こえてきたのである。
俺が慌てて目を開けてそちらに顔を向けると,そこでは俺と同じように仮面を付けた独特な雰囲気を醸している1人の小柄な男が観客席に向けて丁寧にお辞儀をしており,どうやら彼のパフォーマンスが終わったところのようだった。
……あれ,仮面を被っているから確信が持てないが,なんだか前世で見覚えがある特徴的なシルエットな気がするんだが気のせいだろうか?……うん,気のせいということにしておこう。
まさかこんなところに王族がホイホイと来るわけがないし,ましてやコンテストに参加するなんてまさかのまさかだよね……。
そんなことよりも観客がここまで騒ぐようなパフォーマンスがどんなものだったのか非常に気になるところである。俺も見たかったな~。
「さぁさぁ謎の男"ミスターL"の素晴らしいパフォーマンスに会場の皆さまのテンションも最高潮です! それでは気になる点数は~!! ……なんと! セルジオ殿10点! オセノン殿9点! キナイ殿10点! 合計で29点の超高得点が出ましたー!」
「「「おおおおお!!」」」
ギャース!? よく考えたら仮面とか俺とキャラ被りしているー!? ……じゃなくてとんでもない高得点がでている!
おいまさかこれ雰囲気とかで審査員が正体を俺だと邪推しての点数じゃないだろうな!?
いや,でも観客の反応も良かったしその可能性は低いか…それに先輩はそんなことする性格でもないしオセノンも気にしないだろうしキナイは俺がこの町にいることすら伝えていない……それになにより俺より体格が小さいから間違えるはずもなかったか。
ぐぬぬ,俺の方が邪推していたか……だが高い壁があってこそ燃えるというもの!俺が満点を叩き出して完全勝利を見せてやる。
そんな風に改めて気合を入れるだったが,ここで1つだけ問題があった。それは――
さて……俺のパフォーマンスは何やろうかな!?
自分が何を披露するか未だに決めていないことだった。
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それからも多くの人々が先の記録を超えるべく挑戦していったが,29点を超える者は現れることなく俺の番が来てしまった。
俺はステージの上まで上がって司会による合図を待っていると,司会が俺の簡単な紹介を始める。
「続いて発表を行うのはこの方です! その力強い歩みだけでもたくましさが伝わってくる彼の名前は……"水男"~! ……これは期待できそうです! それでは早速どうぞ!!」
ふっふっふ……水も滴る良い男……略して水男だ!
よし! では早速俺が先ほど時間ギリギリで思いついた渾身のヤツを見せてやろうではないか!
俺は右手の親指と人差し指で輪を作り,それを口にあてて思いっきり指笛を吹いた。
その瞬間,ステージの後方の海から巨大な水しぶきが上がったかと思うと,その水が空中で魔物の形を取り,ステージの上にいる俺の元に飛び込んできた。
これは俺のザバ系呪文を応用したもので,訓練の成果もあって水の操作もかなり精密に行えるようになったのだ。
俺はそれらを次々と拳で打ち消していき,偶に混ざっているプチアーノンの形をした水だけは躱すなどの遊び心も加えながらステージ上を駆けまわる。
一応は先輩クラスになると動きのクセでバレるかもしれないのでその辺りは意識して変えており,動きの激しさも全力と比べると少し控え目にしてある。
それを続けている内に,最初は驚いていた観客も徐々に全て俺が操作していると気が付いたのか歓声をあげ始めて会場は盛り上がっていく。
そんな中でびしょぬれになった俺は最後に,躱したことで壊れなかったプチアーノンの形の水を操作して,それらと一緒にお辞儀をしてパフォーマンスを終えた。
すると観客席からは先ほどのミスターLの時にも劣らない程の歓声が沸き上がった。
俺も予定通りに,動きの力強さでたくましさをアピールし,動きの軽やかさで爽やかさをアピールし,最後まで堂々とした様子でおおらかさをアピールできた……気がする!
名付けて〈欲張れ!水も滴る良い男大作戦〉だ! ……名前が長いしなによりダサいと思った奴は後でウマレース場に来るように!!
「実に素晴らしく迫力満点なパフォーマンスでした! 会場も今大会でも1,2を争うほどの盛り上がりを見せています! これは点数発表が楽しみだぁ!!」
今の言葉を聞く限りでは司会の人物からの評価もかなり高そうだった。さぁ審査員どもよ!この俺の点数はどうだ!
俺はそう思いながら審査員席にいる2人と1匹の方に目を向けるのだった……。
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その日の夜,俺はこの町で一番立派な屋敷…サマディー王家のために特別に作られた屋敷の応接間で机を挟んで先輩とあともう1人で話をしていた。
「それにしても今日は盛り上がりましたな! ハムザ様はどの参加者が記憶に残りましたか?」
そんな風にテンション高めでコンテストの感想を聞いてくる先輩に,俺は静かに返答する。
「……そうだな,私は"水男"が気に入ったよ」
「なるほど! 確かにハムザ様と同じく水の呪文の心得がありそうでしたから私も注目しておりました! 身のこなしも洗練されており我ら騎士団に欲しい程でしたな!」
またまた~! そう言われると照れるでござるよ~!
「……それに何と言っても全体で同率1位の高得点でしたからね!」
………
……そうなんだよなぁぁぁ! ミスターLに勝ちきれなかったんだよぉぉぉ!!
俺の点数発表の話だが,先輩とキナイは満点をくれたものの,オセノンからの評価が9点だったことで俺の最終成績は同率で1位になったのだ。
まさかのオセノンお前が1番辛口なのかよー! しかも後でゾルデ翻訳を使って理由を聞いたところ,思ったより真面目に解説してくれた上にかなり的確だったので,悔しいが納得させられた。
本番前にオセノンにそこ代われとか心の中で言ってたけど,僕が間違ってましたすみません……。君よりうまく採点できる気がしないからやっぱり変わらなくていいです……。
そんな新しい学びを得られた機会にもなりまいした……ハイ。
……ちなみに翻訳後に聞いたのだが,ゾルデは俺の正体を一目で見抜いていたらしい。
先輩ですら最後まで欺けたのに一目でわかるなんてこれはもはや凄いを越えてキモイの域じゃない?と密かに思ったのは秘密である。
とまぁそんな話はさておき,俺たちがこの部屋で話しているのには理由がある。
「私もあのパフォーマンスを見た時は負けてしもうたかと思いましたよ」
それは,笑いながらそう話す目の前の男性の存在である。
「それにしても改めて招待に応じて頂き感謝しますミスターL殿……いえ,ユグノアの宰相"ロウ"殿」
そう,彼は原作主人公の祖父で勇者パーティの1人であり,五大国の1角を担う"ユグノア王国"の王族でもあるロウなのだ。
どうやら今回はお忍びで来ていたらしく,その理由を聞くと『やはり生の知識を手に入れるにはその場に行かねばならんが1人の方が都合が良いからの!』などと言っていた。
……俺が思っていた以上に……この世界の王族って自由?
う~ん,このおおらかさ()もコンテストの秘訣だったんだろうか……?
いや~それにしても,最初に見た時にもしかしたらと思ってゾルデに探らせてみたら本物だったようで,せっかくだから会ってみたいと思って密かに接触したのである。
それに今のを聞いて驚いたかもしれないが,彼は現在はまだ王ではないのだ。
数年前に3人兄弟である彼の兄で長男だった当時のユグノア王が不治の病に罹って亡くなり,現在は真ん中の兄である人物が王を務めているようだが,彼も生まれつき病弱であることから政務はもっぱらロウ宰相が行っているらしい。
そして先代も今代も子供がいなかったはずだ。
……恐らくはしばらくしてなんらかの理由でロウが王位に就くことになるのだろう。
それにしても本物のロウだー! まさか初の勇者パーティとのエンカウントが彼になるとは!
俺が感激していると,ロウが話し始める。
「ホッホッホ! ……さて,それでは私をここに招かれた本当の理由を聞かせて頂きましょうかな?」
ロウは笑顔を浮かべつつも少しだけ雰囲気を真剣なものに変えながらこちらに問いかけてくる。
…………
……あの~大変申し訳ないんですが,ただ会ってみたかっただけじゃダメですかね?
そう思いつつも,不自然に見えないように返事を返す。
「フハハ! 今回は本当にお会いしたかっただけですよ。強いて申し上げるならば両国の友好を深めたいといったところですかな」
「ふむ……なるほどの……」
うーん,少し怪しまれているかな? ……ならばここはアレを使うとするか。
「もちろんここまでご足労頂いたお礼は用意してあります……ロウ殿には私からこれを差し上げましょう」
そう言って俺は先輩に合図をしてから1冊の本を受け取り,それを机の上に置いた。
そしてその効果は絶大だった。
ロウはそれを視界に捉えた瞬間,目が飛び出るほどに驚愕した表情を浮かべて声を震わせながら呟いた。
「!? ま,まさかこれは!?」
「ええ,今はもう絶版になっているあの伝説の『ピチピチ★バニー』の初版本ですよ」
……誤解してほしくないのだが,俺たちはふざけているわけではなくて至って真面目な会話をしているのである。
そして俺のこれは、相手が最も欲しがるものを提示した重要な一手なのである!
これもロウがこのムフフ本が好きだと原作知識で知っていたことで,対ロウの最終兵器として役に立つかもしれないと思って国中を探してようやく見つけた1冊なのだ。
本当はいざという時まで取っておきたかったのだが,早く使わないと俺が自分の趣味で集めたと思われていそうで恥ずかしかったという極めて個人的な理由もあってここで手放すことにしたわけだ。
今使うのは少々勿体ないが,これで少なくともロウの好感度は上がったはずだから無駄にはならないだろう。
「……こ,これを私に?」
「ええ,もちろんです。念のため中身を検めて頂いても構いませんよ」
「そ,そそそうですな……」
俺の答えを聞いたロウはもはや心配になるぐらいに震えながら恐る恐るそれを手に取って,少しだけ中身を確認してから目を逸らしたりまた見たりする奇行を繰り返した後,懐に大事そうに仕舞った。
「……お気に召しましたかな?」
俺がそう聞くと,ロウは微かに震えているようだった。
「……ハムザ王子!」
その声が聞こえた次の瞬間には,俺が今のままでギリギリ目で終えるくらいの高速スピードで立ち上がっていたロウに肩をがっしりと掴まれていた。
こ,これがドゥルダで数々の伝説()を残した男の動きか!
「ここにサマディーとユグノアの絆は確固たるものになりましたな! これからもよろしくお願いしますぞ!」
おお! こちらこそぉうぉ~~!? 揺らさないいで下さい~!
感情が昂ったロウがいきなり前後に激しく揺すってきたのだ。
「よろしくお願いしますぞーー!!!」
「こ,こちらこそよろしくお願いします! それよりロウ殿,手を! 手を放して下されぇぇぇ!!」
俺のその精一杯の抗議の叫びは,ロウが正気を取り戻すまでしばらく続いたのだった。
これにて第3章……完!
ヤチホコ先生の次k(以下略)……とはやはりなりません!
4章に関してですが,こちらは作者的に少し考えたい章でもあり,通しで書き終えてから投稿する形にしようと思っております。よって次の投稿は少しお待たせすることになるのをお許しをば……。
例の如く章終わりの活動報告を更新しておりますのでそちらも良ければどうぞ!
それではまた!('ω')ノシ
今の文字数ってどうですか?
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少ない
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いいかんじ
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