「ねえねえ、かーさまって黒幕なの?」
「えっ」
「黒幕なのー?」
ど、どこでそんなことを?と聞き出したい気持ちをグッと我慢しながら「いいえ、お母さんは黒幕ではありませんよ。だれに言われたんですか?」と問う。
「へんしゅーしゃのおじちゃん!」
「津南さんですね。左之助さんに言います」
さっき原稿を手渡したときに呟いたのでしょうね。えぇ、私なんて顔の怖い女ですよ、どうせ、顔色が悪くて怖いからそう言ったのでしょうけれど。
私は、泣きそうです。
「むう、かーさまを悲しませるヤツはこうする!」
シュパァンッ!
───と、空気の裂ける音が響く。
子供の柔軟な身体機能、常人より秀でた運動能力、どちらも持っているひとえのパンチは刀剣の如く空気を裂き、当たれば確実に身体の芯を打つ。
まだ、何も習っていない十になったばかりの女の子の持つ才能ではありませんね。───というより、ひとえのパンチは速すぎます。
「かーさま、どうしたの?」
「いえ、少しばかり貴女の成長性に感心していただけですよ。ひょっとしたらパンチだけでクマにも勝てるようになってしまうかも知れませんね」
「ほんと!?ひー、くまより強いの!!」
嬉しそうに笑うひとえに苦笑を浮かべつつ、しとりにも勝るとも劣らないポテンシャルの高さに、やっぱり、左之助さんの血筋は凄いですと感心する。
「ひとえは、合気道も合いそうですよね」
「あい、きどう?」
「力を使わない……いえ、分かりやすく説明するのは難しいですけど。打撃を廃して、投げを極める武道ですね。しとりの習う柔道に近しいです」
まあ、剣路君と組み合ったとき、よく鼻血を流すから練習にならないと不満を言っていましたけど。剣路君、薫さんに似ていて照れ屋さんですからね。
「ん!わたしの話が聴こえた!」
「えぇ、しとりの柔道のお話です」
「けんちゃんを胸で掴まえたら鼻血出したこと?」
「そうで、え?そんなことしたんですか?」
「ん、前に母様が父様にしてたやつ!」
「アレはただの抱擁ですよ?」
「父様は嬉しそうだったよ?」
それは、そうですけど。
ちょっとだけ違う気もしませんか?と思いながらも私はしとりの方を見て、まだ気付いていないしとりの様子に剣路君は本当に険しい道のりだと思う。
「ねーさま、ひーにもやって!」
「ん、えとね、こう?」
両手を広げるひとえに、しとりは抱きつく。
「?」
「?」
コテンと二人とも小首を傾げ、可愛らしく不思議そうにしているのはとても可愛いです。ソーキュートすぎて、お母さんは心臓がドキドキしています。