千人近くいた闘技者は僅か半月の内に、名前を知っている人だけになってしまいました。というより圓明流の関係者が暴れまくったせいですね。
あとで、また会場に向かわないとです。
「ん、天兵君だ」
「しとり、久しぶりだな」
「久しぶりだね」
陸奥天兵。
剣路君と同じくしとりに恋慕を向けていた筈の彼の目の狂気は失くなっており、しとりを求める修羅の狂気は消えたと安堵します。
むしろ安心しました。
横恋慕は潰えました。
良かったですと思っていると天兵君は徐にしとりの頭を撫でて、頬に触れるとそのまま接吻しようとしたため、流石にキレた剣路君によって、天兵君の胴着は斬られるも肌には当たっていない。
「いきなりかよ」
「しとりはオレの許嫁だ」
十四歳の男の子のセリフに、しとりもビックリした顔から少しだけ照れた女の子の顔になる。あら、あらあらあらあら?と娘の成長に微笑んでしまいます。
「(しとりは剣路君に守って貰うのは初めてですもんね。いつもと違う顔付きにビックリして、胸の奥がドキドキしてしまう)」
恋と言うのは、当然なんです。
「……ん、んんっ、わたしで対応できたよ」
「しとりは女の子だろ。下がってろ」
「っ、んぅ……母様、困った気がする」
「フフ、それもまた良いことです」
よしよしと優しくしとりの頭を撫でてあげ、剣路君と天兵君の間合いを一緒に離れて、しとりの気持ちが落ち着くのを待ちます。
好意は向いていたのでしょうが、恋の発芽はとても劇的だったせいもあり、しとりはとてもとても困った顔で自分の胸を押さえています。
「母様、ドキドキする」
「フフ、剣路君に守って貰えて嬉しかったですか?」
「……ん」
しとり、それは恋です。
しとりは確かに剣路君の事は好きでしたけど、あくまでお友達として好きだった。けれど、守って貰うときのギャップに、グッと来てしまったんです。
すごく分かります。
私も左之助さんのそういうギャップにドキドキしていましたから、鋭さを持っているのに、私だけに甘さを見せてくれる。
とても可愛くてビックリした。
「……けんちゃんは好きだけど。違う好き?」
少しだけ困ったように小首を傾げて、可愛らしく悩むしとりに「悩んで良いんです。それもステキな大人になる一歩です」と伝えて抱きしめる。
ただ、左之助さんが知ったら絶対に面倒で大変なことになるのは分かりきっています。なので、出来るだけ隠しておけるようにしないとです。
あなたのお父さんは過保護なのです。
それはもう物凄く過保護なんですよ。