トヨウケビメは恐ろしく静かです。
さっきまで詰め寄られて面倒臭そうにしていたとは思えないほどに静かに私のからだの中で本を読んでいます。そういうことをして静かにするのは良いです。
「トヨウケビメさん、漫画ばかり読みますね」
「仕方ないでしょ。あなたの読む本、小難しいのよ。なんなの?気化熱による空気圧の変動着火実験って、こんなの読む意味あるの?」
「そこは趣味ですね」
「じゃあ、このネッシーは首長竜ではなく水浴びのキリンっていう話しも?」
「そうです。どっちだと思います?」
「首長竜でしょう」
「正解は帆を畳んだヨットだったんです」
アレを聞いたときはショックでした。船の影と霧の歪曲による視覚の誤認。そういうのもあるから、雑学本は何度でも読みたくなります。
まあ、好みは分かれますけど。
「あやかしあやし?」
「はい。アニメーション作品ですね。私の中なら見れるのではないですか?」
「映画館仕様なのね。贅沢だわ」
「……えっ」
私の「前世の記憶の保持」は映画館仕様という事実にどう答えようかと思いながら、トヨウケビメの「文字の意味を具現化する。これ、モヂカラじゃない」と言われて、差異を伝えます。
「私が言うのもあれだけど。景は気を許したらすぐに受け入れるわね、バカじゃないの?」
「失礼ですね。善し悪しは分かります」
「分かってないわよ。私の事、ダーティーハリー症候群だと想ってるじゃない」
「もしくは、ヒロイック・エゴイズムシンシンドローム。自分の行動や思考に対する快楽を得ているとも想っていますよ。私に拘るのもそれですよね」
「......流石、すごいわね。けど、私は可愛いものを守りたいだけよ」
「キュートアグレッションですか。業の深いことですね、左之助さんも私限定ですけど。キュートアグレッションですよ」
「でしょうね。いえ、ドメスティック系の快楽神経が人より多いんじゃないかしら?」
「確かに、そこは気になりますね。ヒロイック系ではないですし、左之助さんはいるだけで本当に色々と考えさせてくれますね」
「セクシャル系の反応もすごいわね。普通、病弱な貴女を縛るとかしないわよ?」
「そこは、まあ、フィーリングでカバーしてもらえると助かりますね」
そんなことをトヨウケビメと話し合いながら、私とトヨウケビメの会話に頭を抱えて悩み始める左之助さんを見ます。
無理に知ろうとしなくていいんですよ?
「教えてくれ、景」
「教えるわけないでしょう。相楽」
「左之助さん、はずかしいです」