ソリテール様結婚しましょう…貴方が旦那様です。   作:ごすろじ

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▼第61話▶ダンシングナイト

 

 

社交界当日の夜。

 

 

オルデン家の大広間は、今宵ばかりは城塞都市の無骨さを忘れたかのように華やいでいた。

 

天井から吊り下げられた三基のシャンデリアが、数百の蝋燭を灯して琥珀色の光を降り注いでいる。

磨き抜かれた大理石の床にその光が跳ね返り、広間全体が蜂蜜を溶いたような温かみに満ちていた。

 

楽団は広間に設えられたバルコニーに陣取り、弦楽五重奏の調べを絶やすことなく紡いでいた。

第一ヴァイオリンが旋律を歌い上げ、チェロが低く応答し、その間をヴィオラが縫うように支えている。

 

奏でられる音が広間の空気を揺らし、着飾った男女がその波に身を委ねるように踊っていた。

 

絹と宝石と香水。

革靴が石の床を叩く音と、笑い声と、グラスが触れ合う澄んだ音。

 

この地方の有力者たちが一堂に会する社交界は、戦乱で疲弊した要塞都市に束の間の彩りを与えていた。

 

シュタルクは広間の中央付近に立ち、サッシュを斜めに掛けた汚れひとつない高価な礼服を纏い、挨拶に訪れる客人たちに応対していた。

 

三ヶ月前とは別人のような立ち居振る舞いだった。

 

背筋は伸び、視線の高さは安定し、杯を傾ける手首の角度までマナー通り。

日々の地獄の特訓は、無駄になること無く形を成していた。

 

フェルンはシュタルクの半歩後ろに控えていた。

象牙色のロングドレスが足元まで流れ、普段は後ろに伸ばされている紫の髪が編み込みの中に収められ、白いうなじが露わになっている。

 

長い白のオペラグローブが両腕を肘上まで覆い、左手にはシャンパンの杯が添えられていた。

作法の訓練で叩き込まれた所作が自然と板につき、何も知らない客人たちは、二人が由緒正しい騎士の嫡男とその婚約者であると疑いもしなかった。

 

広間の反対側では、オルデン卿が柱の影から二人を見ていた。

その傍らにはガーベルが控えている。

 

 

「どうだ」

 

「上出来でございます。歩幅も姿勢も申し分ありません。ヴィルト様との差異に気づく者は、まずおりますまい」

 

 

ガーベルの声に、三ヶ月間の教え子に対する感慨が僅かに滲んでいた。

オルデン卿は腕を組んだまま、シュタルクの背中を見つめた。

 

 

「今日で依頼は終了か……何故だろうな、名残惜しく感じるのは」

 

「ヴィルト様と話せば、きっと気がお合いになったでしょうな」

 

「そうかもしれないな」

 

 

ガーベルは一言だけ答え、ただ静かに、一礼した。

 

 

 

広間の隅、壁際のテーブル席では、フリーレンがケーキを皿の上で裂いていた。

 

フォークの先で苺を転がし、クリームの層を崩さないようスポンジを口に運んでいる。

食べ方に貴族の作法は微塵もなかったが、本人は至極満足そうだった。

 

 

「うん、美味しい」

 

ぽつりと漏れた感想に、隣のザインが杯を掲げて応じた。

 

「流石は伯爵家主催の社交界だな。酒も悪くないぜ」

 

二人は、豪華な食事をこれ以上ないほど楽しんでいた。

 

「あの二人、うまくやってるみたいだね」

 

フリーレンがフォークの先で舞踏場の方を差し、客人と談笑するシュタルクとフェルンを示した。

 

「あぁ、大したもんだ」

 

 

ザインが感心したように頷いた。

その時、杯を口に運ぶ手がふと止まった。

 

大広間の入口に、三つの影が立っていた。

 

最初に踏み込んだのは、黒い長身の人影だった。

 

 

足首まで届く漆黒のロングコートの裾が、歩みに合わせて石の床を掃くように揺れている。

一歩ごとに翻る裏地から燃えるような真紅が覗き、蝋燭の光を受けて血の色に濡れた。

 

襟は鎖骨の高さまで立ち上がり、その内側に深い赤のシャツと黒いベストが重ねられている。

黒の細身のスラックスが長い脚の輪郭をなぞり、磨かれたショートブーツが大理石を硬く叩いた。

 

右手には細身の黒いステッキが握られ、銀の持ち手が灯火を弾いて白く煌めいている。

 

翡翠色の髪が腰のあたりまで真っ直ぐに流れ落ち、歩くたびに背中の上で絹糸のように揺らいでいる。

切れ長の垂れ目が広間を見渡し、涼やかな翡翠の瞳で前を見つめていた。

 

ソリテールだった。

 

だが、普段の姿とは全く違う。

背丈が伸び、小柄な少女の面影は消え去り、そこに立っているのは壮麗な男装の貴公子だった。

 

 

 

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半歩後ろに、純白が続いた。

漆黒のキャペリンハットの広いつばが、蝋燭の光に丸い影を落としている。

 

その影の下から、腰を遥かに越えて流れ落ちる白髪が、歩むたびに背中で波打っていた。

重厚なヴィクトリアン調のドレスコートは首元から足首まで隙なく全身を覆い、高い襟が白い首を縁取っている。

 

コートの袖口は深い切れ目があり、縁には黒地に黒糸で浮かび上がる精緻な刺繍が施されていた。

同じ意匠がコートの裾にも繰り返され、光の角度によって模様が浮かんでは沈む。

 

足首まで垂れるフレアスカートには細かなプリーツが刻まれ、裾を幾重ものレースが飾っていた。

 

両手は黒い手袋に包まれ、肌の露出は首から上だけ。

編み上げブーツの紐が、一段ごとに几帳面に交差している。

 

色白の肌に浮かぶ真紅の瞳が、帽子のつばの影からシャンデリアの灯りを受けて赤く燃えた。

 

こちらはフルーフだ。

普段の投げやりなコート姿とは似ても似つかない。

隣のソリテールと並び立つその佇まいは、長い歳月をかけて磨かれた淑女のそれだった。

 

 

 

 

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三人目が、その横に並んだ。

 

肩にかかる桃色の髪が、緩やかなウェーブを描いて内側にカールしている。

 

普段のツインテールではない。

柔らかな巻き毛が頬の横で揺れ、広い紫の瞳が光を吸い込んで輝いていた。

 

黒を基調としたミモレ丈のワンピースドレスが、華奢な身体の線を上品に拾っている。

袖は肩口で僅かに膨らみ、手首に向かって絞られたクラシカルな仕立て。

 

首元は襟が立ち上がり、細い紐飾りの留め具で閉じられていた。

その少し下、胸元に雫型の開きがあり、鎖骨の影が覗いている。

 

スカートの両脇には深いスリットが入り、動くたびに内側から白い花柄のシースルーレースがプリーツ状に広がり、黒地の中に花弁が咲くように翻った。

黒い薄手のストッキングに包まれた脚が、漆黒のハイヒールで大理石を鳴らす。

 

最後はリーニエだった。

こちらも体躯が変わっている。

 

普段の幼い体型は消え、しなやかな肢体を持つ大人の女性がそこにいた。

ただし、感情の読めない無機質な瞳だけは、何一つ変わっていなかった。

 

 

 

 

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三人が広間に踏み入れた瞬間、周囲の空気が変質した。

 

通り過ぎる客人たちが思わず足を止め、目で追い、囁き合う。

だが三人はそのどれにも頓着せず、真っ直ぐに広間の奥へと歩いていく。

 

シュタルクは客人との会話の途中で、入口からの小さなざわめきに気づいた。

視線を向け、三つの影を認める。

 

激しく見覚えのある、桃色の髪の女。

だが、色々となんかデカい。

 

 

「……え?」

 

 

シュタルクの口から、間の抜けた声が漏れた。

 

舞踏場の脇で壁にもたれていたシュトルツもまた、三人の姿を捉えていた。

眉が跳ね上がり、杯を持つ手が止まる。

 

あの三人だと気づくまでに、弟よりもう少し時間がかかった。

 

変身魔法の存在は知っていたが、ここまで印象が変わるとは思ってもいなかった。

 

三人は迷うことなくフリーレンとザインのいるテーブルへ向かった。

 

ソリテールが椅子を引き、フルーフの背に手を添えて座らせた。

 

そのまま隣の椅子に腰を下ろし、ステッキを卓の脇に立てかける。

リーニエは反対側の椅子に音もなく座った。

 

 

「ケーキが好きなのね、フリーレン。まるで無垢で可愛い少女のよう、だけど、その手はとても多くの血で――」

 

「黙れ。ソリテール」

 

 

ソリテールがなにか口にしようとした瞬間、フリーレンはたったの二言で速攻封殺する。

 

フォークを止めず、塩対応なフリーレンに対して、ソリテールはニコニコと笑みを浮かべなが一先ず黙った。

社交の場での礼儀自体は弁えているようだ。

 

静かにテーブルの中央に置かれたホールケーキに手を伸ばした。

銀のナイフを取り上げ、正確な角度に切り分けていく。

 

一切れをフルーフの皿に取り分け、もう一切れを自分の前に置く。

フルーフは帽子のつばを僅かに持ち上げ、フォークを手に取った。

 

 

「ありがとうございますソリテール様。いただきますね」

 

 

その一言が、妙に品よく響いた。

 

背筋が真っ直ぐに伸び、フォークを運ぶ手首の角度は教本通り。

音を立てず、唇を汚さず、一口分を丁寧に切って口に運ぶ。

 

普段のかぶりつく食べ方とは、天と地の差があった。

 

ザインは杯を口元に止めたまま、三人をまじまじと見つめていた。

 

 

「……誰だお前ら」

 

 

本気で聞いている目だった。

いつもの三人組と同一人物だと頭では理解しているが、感覚が追いつかない。

 

フルーフが黒い手袋の指先で口元を押さえ、品よく微笑んだ。

 

 

「そんな……このマイフレンドフルーフをお忘れなのですか?」

 

「いや、覚えてるぞ。昨日の夜一緒に飲んだよな……いや、本当に同一人物か? 二人共随分と背が伸びてるし、リーニエに至ってはまるで別人だろ」

 

フルーフがケーキを一口頬張り、ナプキンで唇を軽く押さえた。

 

「角を隠すついでに、身長を伸ばして頂いたんですよ。リーニエ師匠にも無理を言って合わせてもらいました」

 

「感謝しなよバカ弟子のフルーフ。はぁ、めんどくさ」

 

 

リーニエは無言でケーキを皿に移し、フォークで端を崩した。

口に運び、咀嚼し、飲み込む。動作のすべてが無駄なく洗練されていたが、その口調は相変わらずだ。

 

眠たげな半眼でフルーフの横腹を拳でドツキ、ケーキから苺だけを奪っていた。

 

 

フリーレンは本日四切れ目のケーキに取りかかりながら、ソリテールの全身を横目で一瞥した。

それにあっさりと気がついたソリテールは、一本に纏められたフリーレンの髪を触り、指の腹で愛でる。

 

 

「目が合った。やっぱり私たちは運命の――」

 

「汚い手で触んな。殺すぞ」

 

 

ぶりっこだけでなくキザったらしい仕草に、フリーレンの額がピキリと音を立てた。

対して、ソリテールは髪から手を離し、鼻で深く息を吐く。

 

やれやれと更にキザな仕草を披露する。

 

ピリつく空気の中、ザインが軽く咳払いをし、仲裁に入る。

 

 

「ゴホン、おいお前ら。喧嘩なら外でやれよ。折角着飾ってんだ、そういうのは別の日でいいだろう」

 

「えぇ、そうね。今日は奥さんとの舞踏会を楽しむ予定なの。……あぁ、ごめんなさい、フリーレン。貴方とは踊ってあげられないわ。その熱い視線には答えられないの、私、既婚者だから。浮気はよくないと思うの。ごめんさいフリーレン」

 

 

最後に特大の煽りをかまし、ソリテールはフルーフへと視線を移す。

フリーレンのフォークを握る手がプルプルと震えている。ブチギレである。

 

それにもかまわず、ソリテールはフルーフの手袋に覆われた手にそっと指を重ねた。

 

フルーフの頬が僅かに緩む。

普通にデレデレだが、今夜はまだ自制が効いているらしい。

 

楽団が新たな曲を始めた。

弦楽器の調べが広間の天井に昇り、三拍子の柔らかな波動が床を伝って足裏を揺する。

 

ワルツだ。

先程までの軽やかな舞曲とは趣が異なり、低音弦が主旋律を支える重厚な構成で、チェロの響きが胸の底を震わせる。

 

ソリテールが席を立った。

 

椅子を引く音もなく、立ち上がる動作に揺らぎが一切ない。

重心が床から数ミリ浮いているかのような軽やかさだった。

 

フルーフの前に立ち、左手をコートの裏に添え、右手を差し出した。

 

掌を上に向け、指先が僅かに反る。

視線は真っ直ぐにフルーフの瞳を捉えている。

 

騎士が姫を迎えに来たような、絵画じみた一場面だった。

 

 

「私と一曲、踊ってくれるかな。愛しい人」

 

 

その声は、囁きよりも少し大きく、広間の喧騒よりも確かに通った。

 

フルーフは帽子のつばを指先で押し上げ、真紅の瞳でソリテールを見上げた。

黒い手袋に包まれた右手が、差し出された掌の上に置かれる。

 

 

「はい……喜んで。私の愛しい旦那様」

 

 

椅子から立ち上がる所作も、エスコートされて歩き出す足運びも、長い裾を捌く手の動きも、すべてが流れるように繋がっていた。

 

二人がフロアの中央に歩み出ると、周囲で踊っていた何組かが自然と間隔を広げた。

 

ソリテールの左手がフルーフの肩甲骨の下に添えられ、右手がフルーフの左手を持ち上げる。

フルーフの右手がソリテールの肩口に触れ、指先がコートの襟に掛かった。

 

ホールドが完成、二人の間の距離は拳一つ分。

近すぎず遠すぎない、教本が推奨する理想の間合い。

 

チェロが三拍目を刻んだ瞬間、二人は同時に動き出した。

 

最初の一歩で、広間の空気が変わった。

 

ソリテールの踏み出しは、床を蹴るのではなく、床の上を滑るような質感だった。

ロングコートの裾が半拍遅れて追随し、真紅の裏地が扇のように開いては閉じる。

 

右足が前に出ると同時にフルーフの身体が半歩退き、コートのプリーツが渦を描いた。

 

そして華やかな回転。

ソリテールがフルーフの手を高く掲げ、その下をフルーフが潜るように一回転する。

 

漆黒のフレアスカートが広がり、裾のレースが宙を舞った。

白髪が遅れて弧を描き、蝋燭の光を受けて銀の軌跡を引く。

 

着地と同時にホールドへ戻る。

が、その移行に継ぎ目がなかった。

 

フルーフのステップが、音楽の呼吸と完全に同期していた。

ヴァイオリンが上昇する旋律に合わせて身体が伸び上がり、チェロが沈む低音に合わせて膝が僅かに落ちる。

 

足裏が床に触れる時間は最小限で、まるで音符の上を渡り歩いているかのようだった。

 

ソリテールのリードには、一切の力みがなかった。

手のひらに込められた圧は、風が花弁を運ぶ程度のものでしかない。

 

それだけで、フルーフの身体は望む方向に導かれていく。

ソリテールがフルーフの腰に手を回し、二人が一つの軸を共有して回り始めた。

 

コートの裾とスカートの裾が互いに絡むように翻り、黒と黒の渦の中から赤い裏地と白いレースが交互に閃く。

 

二拍目で止まり。三拍目で沈む。そして一拍目で跳ねる。

ワルツの波動を全身で呼吸するように、二人は踊り続けた。

 

広間の視線が、自然と二人に集まっていた。

踊りの技巧だけではない。二人の間に流れている何かが、見る者の目を引きつけて離さなかった。

 

互いの動きを予測しているのではなく、もはや同じ神経で動いているかのような一体感。

片方が息を吸えばもう片方が吐き、片方が伸びればもう片方が沈む。

 

長い時間をかけて溶かし擦り合わされた二つの歯車が、今この瞬間、噛み合う音を響かせていた。

 

フルーフの瞳が、ソリテールの翡翠の瞳を映している。

帽子のつばの影の中で、その赤い目が蝋燭の灯りを吸い込んで濡れたように艶めいていた。

 

最後の旋回。

ソリテールがフルーフの背中を深く傾け、ディップの姿勢をとった。

 

フルーフの白髪が床すれすれまで垂れ下がり、逆さまの視界で天井のシャンデリアが万華鏡のように煌めく。

ソリテールの腕だけが、重力に逆らうフルーフの全体重を支えていた。

 

曲が終わる。

最後の和音が天井に吸い込まれ、余韻だけが広間に漂った。

 

拍手が湧いた。

誰が最初に手を打ったのかはわからない。

 

だが、広間の至るところから乾いた手拍子と感嘆の囁きが重なり合い、二人を包んだ。

 

ソリテールはフルーフの身体を引き起こし、その手の甲に唇を落とした。

 

フリーレンはテーブル席でフォークを止め、口角をヒクつかせながらフロアを眺めていた。

ザインが杯の縁越しに二人を見やり、「ありゃ場数が違うな」と唸った。

 

舞踏場の端では、シュタルクが目を丸くしていた。

 

 

「すっげぇ……あの二人、あんなに踊れたのかよ」

 

 

素直な驚きが口を突いて出た。

三ヶ月間叩き込まれたダンスの型と比べてしまい、自身の練習が児戯に思えてくる。

 

隣のフェルンも、二人のダンスに目を奪われていた。

踊りの完成度もさることながら、二人の間に流れていた無言の対話に、胸の奥が微かにざわついた。

 

 

「……本当に、お上手でしたね」

 

 

フェルンの声は静かだったが、そこには純粋な感嘆が滲んでいた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

フルーフとソリテールがテーブル席に戻って間もなく、リーニエは席を立った。

 

ケーキの皿を押しやり、ナプキンで指先を拭う。

ハイヒールが大理石を打つ硬い音が、人混みの合間を縫って響いた。

 

桃色のウェーブヘアを指で一房だけ直し、長い脚でフロアを横切っていく。

紫の瞳が広間を一巡し、目当ての人物を正確に捉えた。

 

フェルンは舞踏場の端に立ち、シュタルクと言葉を交わしていた。

次の曲が始まる前の、束の間の静寂。

 

グラスを傾けながら、先程のフルーフとソリテールのダンスについて感想を交わしている最中だった。

 

リーニエがフェルンの正面に立った。

普段であれば見上げる形になる身長差が逆転している。

 

フェルンよりも頭半分ほど高い位置から、紫の瞳が見下ろしていた。

 

フェルンの視線が、足元から上へとゆっくり這い上がった。

 

 

「リーニエ……様?」

 

「そう」

 

 

声の調子は普段と変わらないが、声帯自体が変わっているせいか響きが少し低い。

 

リーニエは黙ってフェルンの前に立ったまま、右手を差し出した。

 

丁寧な所作で掌を上に向け、指を軽く開く。

手首の角度、肘の位置、視線の落とし方――先ほどソリテールがフルーフに差し出したのと同じ、男性側の作法。

 

 

「踊ってあげる」

 

 

命令か誘いか判然としない口調だに、シュタルクが横で「は?」と声を上げた。

リーニエの紫の瞳がシュタルクを一瞥し、すぐにフェルンへ戻った。

 

 

「未来の姉が、踊ってあげる。光栄に思いなよ、妹」

 

 

フェルンは数秒、黙った。

表情が動かないまま……瞬きが一つ、二つ。

 

リーニエの言葉の意味が頭の中で組み立てられ、咀嚼されていく。

未来の……妹?

 

その二つの単語が示す関係図は、一つしかない。

フェルンの思考回路がその結論に到達するまで、三秒。

 

 

「あの、リーニエ様。私はシュタルク様とは――」

 

 

否定の言葉が唇の端まで来た。

だが、その手前で止まった。

 

視線が横に流れた。

リーニエの発言の含意に全く気づいていない顔で、純粋に姉の突然の行動に困惑しているシュタルクがいる。

 

そのままフェルンと目が合うが、シュタルクは「なんだよ」と首を傾げるだけだ。

 

フェルンの口が閉じた。

ここで否定することは出来る、だがそうするとどうしてもシュタルクに、リーニエが口にした発言の意味が伝わってしまう。

 

それは……なんというか、フェルン的に凄く気まずかった。

意味合い的にどうしても否定になるので、それの言葉を聞かれるのも普通に嫌だった。

 

溜息が鼻から静かに抜け、仕方ないとばかりにその手を取る。

 

 

「……わかりました」

 

白いオペラグローブに覆われた右手が、リーニエの掌に乗せられた。

 

「おい姉ちゃん、フェルンに迷惑かけないでくれよ……」

 

 

シュタルクの抗議は、リーニエの背中が向けられた時点で空気に溶けた。

二人がフロアに向かう。

 

リーニエの歩幅にフェルンが合わせ、並んで舞踏場の端に立った。

 

新たなワルツが始まる。

 

第一ヴァイオリンが高い音で主題を提示し、ヴィオラが裏拍で追いかける。

先程のフルーフとソリテールの曲よりも軽やかで、速度がある。

 

リーニエの左手がフェルンの背中に触れた。

 

その瞬間、リーニエの紫の瞳の焦点が、肉眼では見えないものを追い始めた。

 

フェルンの身体を流れる魔力の経路。

筋肉の緊張と弛緩のパターン、呼吸の周期。

 

重心が左右どちらに傾いているか。

踵と爪先のどちらに体重が乗っているか。

 

相手の身体から発せられる情報を根こそぎ読み取り、フェルンという人間の身体特性を、触れた瞬間に全てを把握していく。

 

一歩目。

 

フェルンは自分の身体が勝手に動いたことに、僅かに目を見開いた。

 

リーニエのリードは、力で導くものではなかった。

手のひらに込められた圧は羽毛のように軽く、それなのにフェルンの身体は、まるで水の流れに乗った木の葉のように、望まれた方向へ自然に動いていく。

 

重心の移動が、信じがたいほど滑らかだった。

踵から爪先へ体重が移る瞬間に、リーニエの手がほんの数ミリだけ位置を変える。

 

その微調整が、フェルンの身体の揺れを吸収し、次のステップへの繋ぎを消してしまう。

 

二歩目、三歩目。

足裏が床に触れるたびに、フェルンは戸惑いを深くした。

 

自分はこんなに軽く踊れただろうか。

 

練習では何度も足が縺れ、侍女たちに注意されたはずだった。

なのに今、ステップの一つ一つが呼吸をするように自然に繋がっていく。

 

リーニエは踊りながら、フェルンの身体が発する微細な信号を魔力から読み続けていく。

右膝に僅かな硬さ、左の肩甲骨周辺の筋肉が緊張、力の流れの偏り、杖を握る利き手の癖。

 

その一つ一つを、リードの中で加味し調整していく。

フェルンの身体が右に傾きかければ、左からの支えを百分の一拍だけ早める。

 

呼吸が浅くなれば、ステップの間隔を半歩広げて余裕を作る。

結果として生まれるダンスは、フェルン自身の実力を遥かに超えた仕上がりになっていた。

 

リーニエがフェルンの手を持ち上げ、旋回。

ドレスの裾が大きく翻った。

 

布地が蝋燭の光を受けて金色に輝き、フェルンの髪飾りが揺れた。

 

足元に乱れはなく、着地も安定している。

フェルン自身が驚いているのが、その表情から読み取れた。

 

 

「私は愚弟と違って上手い。けど、身体がまだ硬いね。私のテクニックでその身体をほぐしてあげる」

 

「お上手なのは認めますが。その、言い方……」

 

 

無表情なままリーニエが、フェルンを引き寄せ耳元で囁いた。

事実ではあるが、随分と堂々とした自画自賛だった。

 

後、無自覚なのだろうが言い方が妙に生々しくフェルンは眉をピクつかせる。

声にも不本意さが滲んでいたが、踊りを止める気配はなかった。

 

ステップが重なるにつれ、二人の動きは加速していった。

リーニエのリードが大胆になり、フロアを使う範囲が広がる。

 

フルーフとソリテールが見せた流麗さとは質が違う。

 

こちらは躍動感に満ちていた。

フェルンを駒のように回し、会場内を優雅に駆け巡っていく。

 

その最中に、リーニエは平然と口を開いた。

 

 

「で、いつ結婚するの」

 

「しません」

 

「子供は何人産む予定?」

 

「産みません」

 

「私の農園に来なよ。二人分の住居用意してあげる、私金持ち。大富豪」

 

「お気持ちだけで十分です」

 

「永住しなよ妹。愚弟と一緒に農園で働く。愚弟はコネ採用してあげる」

 

「リーニエ様。勝手に妹と呼ぶのは控えていただきたいです」

 

 

フェルンはダンスの最中に畳みかけられる怒涛の質問攻めを、一つ残らず冷静に突き返す。

 

だが声は淡々としながらも――耳は赤かった。

耳朶から耳の縁にかけて、薄桃色が滲むようにじわりと広がっている。

 

 

「左手に薬指してるから嫁」

 

 

フェルンの足が、一瞬だけ止まりかけた。

リーニエのリードが即座にそれをフォローし、ステップの流れは途切れなかった。

 

 

「これは、そういうものではありません」

 

「なら外せば?そこはそういう意味」

 

 

ついこの間まで知りもせず、シュタルク本人にも、そこにつけとけと指示した本人だというのに、なんと白々しい。

嘘と欺瞞、リーニエはしょうもないところで魔族らしさを発揮しまくっていた。

 

とんだマッチポンプだが、リーニエは遠慮なく踏み込む。

グローブの下にある金属を指の腹で何度も撫で上げていた。

 

 

「……」

 

 

無言になってしまったフェルンにリーニエはそれ以上追及しなかった。

紫の瞳がフェルンの顔を見下げ、無表情のまま、ほんの僅かに目を細めた。

 

曲の終盤。

 

最後の旋回で、リーニエはフェルンを大きく回した。

ドレスが広間の光を吸い込んで輝き、フェルンの足が音楽の最後の一拍と同時に床に降り立った。

 

完璧な着地だった。

 

 

「……すごかったです。本当にお上手なんですね」

 

 

息が僅かに弾んでいたが、乱れてはいない。

リーニエのリードが身体への負荷を最小限に抑えていた証拠だった。

 

 

「これが愚かで矮小な愚弟と、偉大なる姉の違い。妹、私を崇めて」

 

 

リーニエはフェルンの手を放し、一歩退いた。

男性の作法で軽く頭を下げる。

 

 

「ですから、妹では――」

 

「じゃあね、妹。夫婦になるんなら、一度は愚弟と踊っておきなよ、そういうものらしいから」

 

 

訂正をガン無視し、リーニエはハイヒールの音を鳴らしてテーブル席に戻っていった。

シュトルツの隣の椅子に座り、懐から出したスキットルの蓋を開ける。

 

ムスっとした表情でリーニエを見つめるフェルンの鼻には、リンゴの甘い匂いが漂ってきていた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

楽団が次の曲の準備を始めていた。

 

第一ヴァイオリンが弓を弦に当て直し、調弦の高い音が天井に一筋伸びた。

一拍の静寂を挟んで、ゆったりとした三拍子が流れ出す。

 

先程までの軽やかな曲とは異なり、穏やかで温かな旋律だった。

主旋律をヴァイオリンが歌い、チェロが低く寄り添うように和声を添えていく。

 

フェルンが舞踏場の端に戻ってきた。

ドレスの裾を軽く手で直し、呼吸を整えている。

 

結い上げた紫の髪飾りが、微かに傾いでいた。

 

シュタルクは、フェルンのその横顔を見ていた。

ワルツの余韻が広間の空気に溶け残っている。

 

灯りがフェルンの頬と首筋を柔らかく照らし、白いオペラグローブの指先がドレスを撫でる。

 

不意に、身体が動いた。

考えるより先だった。

 

シュタルクはフェルンの前に立ち、髪飾りを撫でるように直すと、片膝をつき、手を差し出した。

 

 

「……せっかく練習したんだしさ。俺達も踊ろうぜ」

 

 

声はぶっきらぼうだった。

仕込まれた優雅な誘い文句は、一つも出てこなかった。

 

ただ掌を上に向けて差し出し、フェルンの顔を真っ直ぐに見ている。

 

フェルンはその手と、シュタルクの顔を見比べた。

以前、似合っていないと口にした姿勢による誘い。

 

だが、今回はどこか微笑ましそうに、フェルンは口元を緩め、口を開いだ。

 

 

「本当に、似合っていませんね」

 

 

仕方のない人、とでも言いたげな声色だった。

白いオペラグローブに覆われた右手が、シュタルクの掌に乗せられる。

 

シュタルクの口元が緩み、二人はフロアの中央へと歩み出た。

 

シュタルクの左手がフェルンの腰に添えられ、右手がフェルンの左手を肩の高さに持ち上げる。

フェルンの右手がシュタルクの肩に触れ、指先が礼服の布地を軽く掴んだ。

 

ソリテールとフルーフのような完璧な型ではなかった。

 

肘の角度が少し浅く、二人の距離も教本の推奨よりやや近い。

だが、二人の体温が互いに届く距離だった。

 

三拍子の一拍目。

 

シュタルクが右足を踏み出した。

 

最初のステップは硬かった。

 

床を踏む音が大きく、二拍目への繋ぎにもたつきが出る。

フェルンの足が半拍遅れ、互いの靴先が触れかけた。

 

 

「悪い」

 

「いいえ」

 

 

小声のやり取り。

シュタルクが息を一つ吐き、二歩目を踏む。

 

今度は音が柔らかくなった。

三歩目で、二人の呼吸が合い始めた。

 

決して滑らかではない。

 

リーニエのリードのような豪快さも、ソリテールの導きのような流麗さもない。

シュタルクの足運びは素朴で、旋回のタイミングも教本通りの素直なものだ。

 

だが、拙さの中に熱があった。

三ヶ月間、来る日も来る日も叩き込まれた型が、シュタルクの身体の奥底に根を張っている。

 

意識しなくとも足が動き、手が導く。

頭で考えるのではなく、身体がダンスの拍子を覚えていた。

 

フェルンは最初こそ視線を逸らしていた。

シュタルクの肩越しに広間の壁を見つめ、踊っている自分を意識の外に追いやろうとしているかのように。

 

四歩目。五歩目。

 

シュタルクのリードが安定してきた。

左手がフェルンの背中を支える力加減が落ち着き、右手が繋いだフェルンの手を揺らさなくなった。

 

六歩目で、小さな旋回。

 

シュタルクの足が床を蹴り、二人が半円を描いて回った。

フェルンのドレスの裾が広がり、シャンデリアの光をまとって翻る。

 

その旋回の最中に、フェルンの目がシュタルクの横顔を捉えた。

 

蝋燭の光を受けた赤銅色の髪。

額の古い痣。真剣に前を見据えている、真っ直ぐな目。

 

フェルンの唇が、ほんの僅かに開いた。

 

表情が変わっていく。

力の抜けた驚きから、抵抗をやめた柔らかさへ。

 

眉間の緊張が解け、瞼が僅かに落ち着き、唇の結びが緩んだ。

 

次の旋回で、フェルンの身体がシュタルクのリードに委ねられた。

抗っていた力が抜けたわけではない。

 

ただ、信じた。

この手の導く先を。

 

シュタルクはそのことに気づいていたのかいないのか、変わらず真っ直ぐ前を見たまま踊り続けた。

 

旋律が高揚していく。

 

ヴァイオリンの弓が弦の上を速く走り、チェロが厚い和声で支える。

二人のステップも自然と速度を増し、旋回の弧が大きくなった。

 

フェルンのドレスが広間の光の中で輝き、シュタルクの礼服の裾が空気を切って翻る。

靴音が三拍子のリズムと重なり、二つの足音が一つの旋律を奏で始めていた。

 

洗練された踊りではなかった。

観客を魅了するような完成度でも、息を呑むような技術でもなかった。

 

それでも――踊っている二人の顔には、他の何にも替えがたい表情が浮かんでいた。

 

フェルンの唇が微かに弧を描いている。

安心感にも似た、とても控えめな微笑み。

 

目元の力が抜け、紫の瞳がシュタルクだけを映していた。

 

シュタルクもまた、いつの間にか緊張が解けていた。

唇の端が持ち上がり、青年らしい笑みがそこにあった。

 

踊ることが、楽しい。

この相手と踊ることが。

 

その単純な感情が、顔に余すことなく表れていた。

 

グローブの下で、橙色の指輪がフェルンの薬指に嵌まっている。

シュタルクの手がフェルンの左手を握った時、布地越しに小さな膨らみが掌に触れた。

 

シュタルクはその手を強く握りしめる。

守る、そんな心の声がフェルンに聞こえた気がした。

 

シュタルクは何も言わず、ただ、その手を離さなかった。

 

曲が終わりに近づいていた。

旋律が穏やかに下降し、チェロの長い一音が余韻を広間に溶かしていく。

 

最後の三拍。

 

シュタルクの足が止まり、フェルンの足が止まった。

 

二人は向かい合ったまま、繋いだ手を解かずにいた。

呼吸が僅かに弾み、頬が上気している。

 

シュタルクの手のひらが汗ばんでいたが、フェルンはそれを振り払わなかった。

 

沈黙が、音楽の代わりに二人を包んだ。

 

 

「……その、おつかれ」

 

シュタルクが、照れ臭そうに言った。

 

「はい。シュタルク様の方こそ、お疲れ様でした」

 

 

その声は普段よりも、ほんの僅かだけ、柔らかかった。

 

繋いだ手が、ゆっくりと解かれた。

指先が離れる最後の瞬間、布に染み込んだ微かな体温だけが、二人の間に残った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

テーブル席では、ザインが杯を掲げていた。

 

「なんだよアレ、あれでどうして付き合ってないんだ?なぁフリーレン」

 

「私に聞かれても……そんなの、知らないよ」

 

「それで、フリーレン。折角だし俺たちも踊るか?」

 

フリーレンは皿の上のケーキにフォークを刺したまま、ザインを見上げた。

 

「ケーキ食べる」

 

それだけ言って、何の迷いもなくケーキを頬張る。

 

ザインは杯を口に運びながら肩を竦めた。

 

「だと思ったよ」

 

 

舞踏場を見渡すと、フルーフがソリテールの肩口に額を預け、何かを囁いている。

ソリテールの翡翠の瞳が僅かに細められ、指先がフルーフの白髪を一房だけ掬い上げた。

 

 

隣では、シュトルツがリーニエのスキットルを「先生、一口ください」とねだり、「嫌」と即座に断られていた。

シュトルツは苦笑し、手酌でワインを注ぎ直す。

 

リーニエは桃色の巻き毛を指に巻きつけながら、フロアの方を見ていた。

 

その視線の先に、舞踏場の端でぎこちなく言葉を交わすシュタルクとフェルンがいる。

スキットルを傾ける手が一瞬止まり、再び口元に運ばれた後の喉の動きは、いつもより静かだった。

 

 

「今夜は、交尾するかな」

 

「先生、犬や家畜ではないんですから……そういうのは出来れば止めてあげて下さい。オッサン臭いですよ」

 

「半殺しにでもされたいの?」

 

 

城塞都市フォーリヒの夜は更けていく。

シャンデリアの蝋燭が短くなり、蝋が銀の受け皿に溜まっていく。

 

楽団の演奏は穏やかな小夜曲に移り、踊り疲れた客人たちが壁際の席に腰を下ろし始めている。

窓の外には、山脈の稜線の上に冬の星座が瞬いていた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

翌朝。

 

オルデン卿の執務室で、シュタルクは報酬を受け取った。

 

約束通りのシュトラール金貨十枚と、フリーレンが書庫から選び抜いた魔導書が一冊。

魔導書はフリーレンが既に両腕で抱え込んでおり、手放す気配は微塵もなかった。

 

 

「世話になった」

 

 

オルデン卿は短く礼を述べた。

その声に、普段の無愛想とは違う温度が僅かに混じっていた。

 

 

「ヴィルトの容態は快方に向かっている。もう数ヶ月もすれば、自分の足で立てるようになるだろう。お前たちのおかげで、その猶予を得られた」

 

シュタルクは頭の後ろを掻いた。

 

「大変だったけど、楽しかったよ」

 

「ふっ、そうか」

 

 

オルデン卿の口元が、シュタルクの気楽な返しに僅かに緩んだ。

フリーレン一行が屋敷を出る日、フルーフ一行は旅の支度をしていた。

 

馬車で近場の港街まで行き、交易船を待って、次の目的地へ向かうらしい。

陸路を徒歩で旅するフリーレン一行とは、ここで再び道が分かれる。

 

屋敷の玄関先には、シュトルツとあくびを噛み殺すリーニエが見送りに立っていた。

 

戦士の村の人間たちは既にオルデン卿の雇用契約のもとこの街に残り、シュトルツも当面はここで騎士団の一員として防衛に当たるようだ。

 

 

「達者でな、シュタルク」

 

「兄貴こそ。……親父にも、よろしく言っておいてくれ」

 

「自分で言え。親父は裏門で素振りしてるから、今なら間に合うぞ」

 

 

シュタルクは少し迷い、それから走り出した。

リーニエはフェルンの前に立ち、魔法を解いた普段の小柄な姿で見上げていた。

 

 

「妹。街にくるんだよ。偉大なる姉との約束」

 

「リーニエ様。ですから、妹には――」

 

「愚弟の嫁、じゃあね」

 

「あ、ちょ――」

 

 

リーニエはリンゴを一つ、フェルンの手に押し付けた。

 

そして何も言わず背を向け、屋敷の中へ戻っていく。

ツインテールの桃色の髪が、扉の向こうに消えた。

 

フェルンは掌のリンゴを見下ろし、小さく溜息をついた。

 

フリーレンが城門をくぐると、シュタルクが追いつき、フェルンが並ぶ。

ザインが煙草に火をつけながら最後尾を歩く。

 

四人の影が石橋を渡り、城塞都市フォーリヒの門を抜けていく。

 

 

北へ。

 

 

次なる目的地は、魔法都市オイサースト。

過去、未来、現在の全ての終着点、運命の岐路へと訪れる。

 

 




というわけで3.5章終了です。
もう外伝とかやる気力がないので、恐らくこのまま最終章へと雑にぶっ飛んでいきます。


レギュラーメンバー全身立ち絵を書き直しました。
この話しで使用した三人組の立ち絵ですね。身長差はほぼありません最低175cm~くらいですかね。(変身中は角は見えてないです)
フルーフは美人イメージ。
ソリテールはイケメンイメージ。
リーニエはそのまま縦に伸ばして髪をほどいた。

【挿絵表示】



アウラ&南の勇者。
南の勇者は服装だけ、結構身長差があるイメージ。

【挿絵表示】


ミリアルデ。
アニメ金髪だったので、ほぼ色彩調整しただけです。

【挿絵表示】


ツルギ(剣の魔族)&サヤ
アニメで銀髪じゃなかったので、修正して書き直しました。サヤは、沙耶まんまです。

【挿絵表示】


アインザーム。
モヤを足して全身を入れて調整しただけ。

【挿絵表示】


?????。
作中最強の天井血袋。

【挿絵表示】

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