ゴーストミクとノーマルミクが最終的に結ばれる話(仮題) 作:新品のタタリモップ
──知ってる?あの噂。
あの噂って?
──ほら、あの倉庫のやつ。
あの倉庫って……『わすれられたそうこ』?
──そうそう、それでね、聞いた子がいるんだって
なにを?
──泣き声よ、泣き声!誰もいないはずの深夜の倉庫から、すすり泣くような声がするんだって!
〇
「───ッ!!」
『ハイパーボイス』を意識して声を張り上げる。一歩間違えればただの叫び声になるそれは、しかし確かな旋律をともなって空気を震わせる。アタシの代名詞になりつつあるそれを完璧に決めて、観客がワッと盛り上がる。自分でもサイコーにキマってると感じながら……拭いきれない違和感が邪魔をする。なにか違うのだ。なにが違うのかはわかんないけど。
このところいつもそうだ。歌っているとなんだか違和感がある。間違いなく最高のパフォーマンスをしているのに、まるで自分が歌っていないかのような違和感。『エコーボイス』も『ハイパーボイス』も、さすがにマイクは通してないけど『ばくおんぱ』の真似だってしてみた。なのに、自分が歌っていないかのような違和感は消えてくれない。
「───♪!!」
でも、今はライブ中だ。一瞬逸らした意識をすぐに戻して、サビを歌いきる。液晶で目元を表示するメガネをつけているから表情ではバレないかもだけど、さすがに歌ではバレちゃうからね。ドームがお客さんの歓声で壊れんばかりに震えて、アタシのココロを震わせる。これを見たらドゴームだって逃げ出すかもしれない。間違いなく盛り上がっている。誰にも負けないという自信があって、それでもこの心に巣食う違和感は消えてくれない。結局、アタシはこの日も最後まで違和感を振り切ることができなかった。
アタシはミク、ハツネミク。新進気鋭のシンガーとして人気絶頂の、そしてスランプ気味の歌手だ。
〇
個人的にいまひとつなライブを終えたアタシは、控室でソファに寝っ転がってスマホを弄っていた。このドームはもうアタシの拠点みたいなもので、泊まることもあるからと私物をどんどこ持ち込んだ結果、私の控室は自室と呼んでもまかり通るような状態になっている。いま見ているのはSNS。検索欄に今回のイベントの名前を打ち込んで、お客さんがどんな反応をしてるのかを見ている。いわゆるエゴサってやつだね。けっこう参考になる意見があったりするからライブのあとはSNSを見るのが習慣付いてしまった。マネちゃんからは程々にって言われてんだけどね。
「う~ん、誰も気づいてない……のかな?」
「ノカナ?」
スワイプしてもスワイプしても、表示されるのは肯定的な意見ばっかりで、特にアタシが不調だと思ってる人はいないみたい。安心したけど、ちょっと残念でもある。アタシをちゃんと見てれば気付けると思うんだけどな、なんて。アタシの上に乗っかってるペラップはよくわかっていない様子でオウムがえししてくる。
「……そんなこと考えてもしょうがないか!」
「ペラっ!?」
よっし!と気合を入れ、ソファの上で勢いをつけて身を起こす。アタシの上に居たペラップがバランスを崩してしまい、慌てて跳びあがった。ごめんペラップ。
このペラップはミュージシャンだったお父さんからもらった、アタシの初めてのポケモンだ。というか、アタシが持ってるポケモンはこのペラップだけ。人間の真似が上手いポケモンだからか、人の声を聞き取るのがとても上手い。たぶんこれがこの子の特技と言っていいだろう。
「今日はどんな音を聞こっかな~、ペラップ、なんかいい噂話とかない?」
そう聞くと、ペラップは悩むように目を閉じてなにやら唸り始めた。ぺ~とか言ってる。特技を活かして噂話を集めてもらっているのだ。ちなみに、いろんな音を聞くのはスランプになってから始めた習慣。ちっちゃいころから色んな音を聞いたせいか、アタシはとにかく物真似が上手い。ヒューマンビートボックスやモノマネカラオケなんかをやらせればアタシより上手い人はいないんじゃないかというくらいには自信がある。実際、前にライブでやったとき結構な話題になってたし。だから、色んな音を模倣することでスランプを抜け出せないかと試してみているのだ。
しばらくうなったあと、ペラップが口を開いた。
「──シッテル?アノウワサ」
そこから、ペラップを通じて知った噂話をまとめると、よくある都市伝説のようなものだということがわかった。なんでも、このドームにある『わすれられたそうこ』という場所で、誰かのすすり泣く声が聞こえるのだとか。しかし、このウワサどうしようか。私は少し悩む。
場所が分からないわけじゃない。それについては見当がついている。もうこのドームはアタシの庭だ。一部私物化するレベルでここに詳しいし、特に使われてない倉庫の場所はいいサボり場所になると思ってマークしてある。ただ、問題は。
「たぶん、ゴーストポケモンの仕業だよねぇ」
聞けるかな、と呟きをこぼして腕を組む。そう、アタシはどうもゴーストタイプと相性が悪いっぽいのだ。嫌われてるってわけじゃないけど、お互いに関わらない感じ。というか、普通にしてると見えないからアタシからは関われない。一応、姿が見えないだけで彼らが出す音は聴くことができる。ただ、それもノイズが走ったり音が小さかったりで、まともに聞けたことがない。逆にノーマルタイプのポケモンにはすごく好かれるし、ちょっとした能力もあったりするんだけど……。見えないと不意打ちされやすいから、もし悪いポケモンだった場合、ちょっと困るかもしれない。それになにより、音がまともに聞けないと行く意味がない。解決策がないわけじゃないけども。
腕を組み、うんうんと唸る。そのポケモンが危ない可能性や、一緒に行ってくれそうな人。色々考えて、考えて……飽きた。
「ま、いいや!行くだけ行ってみよっと!」
いくよペラップ!とポケモンフーズを食べてご満悦な様子のペラップに声をかける。慌てて飛んできたペラップを伴って、半自室と化した控室を飛び出した。目指すはドームの地下!数年前から急に使われなくなったあの倉庫だ!
~(少女移動中)~
〇
「さて、と。たぶんここが『わすれられたそうこ』だと思うんだけど……」
数えて10分と少し。道中走ってることを注意されたりしながらも、アタシはウワサの倉庫……と思しき場所に足を運んでいた。ここに来る途中で会った管理人さんによると、不用品がぽつぽつと置いてあるくらいで今は全く使われていないらしい。噂が出てからはなんと清掃員さえほとんど近づかないんだとか。別に誰が行くわけでもないからと、特に注意してもいないらしい……けど、それにしては埃が溜まっていないような。
「う~ん……どう?ペラップ、なにか聞こえない?」
「キコエナイ!」
「だよね~」
ペラップにも確認をとるけど、どうにも今のとこ異常はないっぽい。アタシも改めて問題の倉庫に続くドアと、その周辺を観察する。蛍光灯が古いのか、単にそういう作りなのかはわからないけど、とにかく薄暗い。鉄扉はろくに塗装もされてなくて、壁も灰色。というか、ところどころコンクリートがむき出しになってる。寒色どころか灰色ばかりで、すごく寒々しい空間だ。たしかに、”出そう”な雰囲気はあるな、と一人納得する。
本当はエスパータイプのポケモンとか連れてこれればよかったんだけど、アタシ本当にノーマルタイプ以外からっきしなんだよね。まぁ、他にも特定のタイプに適正があるトレーナーは居るけど、アタシのこれはその範疇にはない気がする。ともかく、今はすすり泣く声ってのを調べないと。
「これやるとちょっと疲れちゃうんだけど……ま、いっか」
時間は貴重らしいし、手早く確かめよう。誰に言うでもなく言葉を放って、いまやトレードマークにもなっている液晶メガネを外す。……外そうとして、手が空を切った。
「『ポルターガイスト』」
だれかの声が聞こえた。驚いて一瞬固まっているうちに、メガネはアタシの顔を離れてふわふわと浮かぶ。え?浮いてる?別にあのメガネは度がついてるわけじゃないから視界に問題はない、やっぱり宙に浮いてる!
「え!?あっ、ポケモン!?」
「……ふふっ」
驚いてあたふたしていると、また誰かの声が聞こえる。今度は笑い声だ。やっぱり幻聴じゃない、なにか居る!ばっとメガネに対して身構え、ペラップに声を飛ばす。
「ペラップ、見えてる!?」
「ミエテル!?」
オウムがえししてるせいでわかりにくいけど多分見えてる、はず。アタシに見えないってことはたぶんゴーストポケモンだ。メガネを取るだけってところを見るにそんなに悪いポケモンでもなさそうだけど、とりあえずメガネを返してもらわないと!
「ペラップ、メガネ取り返すよ!」
ペラッ!と元気よく返事をするペラップは気合十分だ。でも、トレーナーのアタシが見えてないと満足に指示が出せない。というか、今のままだとメガネに攻撃させるしかない。だから!
「『みやぶる』っ!!」
わざの名前を口に出して、目にチカラを集める。あるときから気づいたことだけど、なぜかアタシにはポケモンのわざが使えた。といってもなんでも使えるわけじゃなくて、一度見たことがあるわざしか使えないし、使えるのはノーマルタイプの、しかもへんかわざだけ。でも、このわざを使ってる間は、ゴーストタイプのポケモンはむしろ人よりはっきり見える!
「いくよ!ペラッ……ぷ?」
「……」
気合十分、さぁやるぞと意気込んで正面をにらみつけて、そこでポカンと口を開けてしまった。なぜって、そこにいたのがどう見てもポケモンじゃなかったから。
そこにいたのは、どこかアタシに似ているような、それでいてまったく似ていないような女の子だった。アタシのそれよりも少しだけ暗い、浅葱色の長い髪をツインテールにしていて、その毛先は絵本にでてくるお化けのようになっている。長い前髪からのぞく相貌は人形のよう。ぞっとするほど整っていて、その目は黄色、あやしいひかり。ともすれば吸い込まれそうな魅力だ。死んでいるかのように白い──本当に死んでるかもだけど──肌をすこし未来を感じる黒い服で覆っていて……そしてなによりも身体のところどころに走るノイズと、浮いている足が。彼女から人間らしさとでもいうべきものを奪っていた。その姿に、美しさに。あまりに人間らしさがなかったから、思わず口走ってしまったのだ。
「……ユウレイ?」
無表情のまま驚くという器用な真似をしながらこちらを見やる黄色の双眸に。アタシはなんとなく、運命じみたものを感じた。
--------------------
名前 ハツネミク
タイプ ノーマル
ようきな 性格。
--年--月--日
------で
Lv.--のときに
運命的な
出会いをした ようだ。
すこしお調子者。