ゴーストミクとノーマルミクが最終的に結ばれる話(仮題)   作:新品のタタリモップ

10 / 18
十二月のプレゼント

「メリークリスマスっ!」

「クリスマス!」

 

 パァンッ、という小気味良い音を響かせて、クラッカーが弾ける。クラッカーを構えたアタシと、頭上から追加の紙吹雪を散らすペラップを前に、ユウレイさんはポカンとした顔でいつもの場所に座っていた。黄色い目でアタシの全身を見まわしたあと、呆れたジト目で見上げてきた。

 

「……今度は、何」

「よくぞ聞いてくれました!これは『ハツネミク クリスマスの姿』だよっ!」

 

 今日は12月25日、クリスマス!……ではなくて、その3日前、12月22日。今日も今日とて『わすれられたそうこ』に来たアタシは、サンタ衣装に身を包んでいた。ふわふわで真っ白なポンポンと綿に縁どられた真っ赤な帽子。大きな白いボタンを胸元に2つ着けた、もこもこワンピース型のサンタ服に、裏起毛の黒いストッキング。おまけに、白いつけひげを生やせば、どこから見てもサンタの衣装だ。

 自信満々に、ユウレイさんに伝える。……けれど、ユウレイさんの顔は、まるで「またか」とでも言いたげなジト目のまま変わらなかった。やれやれ、と肩をすくめながら、幼児を諭すように言う。

 

「……クリスマス、まだだけど」

「わかってるって!わざわざ今日にしたのは、山よりも高く、海よりも深~い理由がありまして……」

 

 そう言って語ろうとすると、ユウレイさんの眉間にしわが寄った。無言でヒトモシを持ってきて、口を開く。

 

「また、『おにび』……するよ?」

「んぇ!?わ、わかったって!手短に説明するから!!」

 

 そう言って、ユウレイさんを座らせる。

 7月の前科があるからか、ユウレイさんは信じていないような、白けた目でこちらを見ていた。彼女の膝には、ヒトモシがいつでもわざが使えるように待機している。

 でも、ワクワクが隠しきれていないような、そんな顔だった。

 

 「……あ。その前に」

 

 ユウレイさんは、急に真面目な顔になって、アタシに言う。

 

「おかたづけ……してからね」

「あ……はぁーい」

 

 出鼻をくじかれたような気持ちになって、つい低いトーンで返事をしてしまう。いや、私がやったこととはいえ、もう少し楽しんでからでも……。

 あたりには、紙テープやら紙吹雪がまき散らされたままで、頭上では、まだペラップが紙吹雪を散らし続けている。

 ふわふわと舞い降りてきた紙吹雪が、ヒトモシの炎で静かに燃えつきる。

 

「……火事に、なっちゃうよ?」

「わぁぁあああ!?すぐ片付けます!……ペラップもストップ!ストップ!」

 

 

 

 紙吹雪散らしにハマってしまったペラップを、なんとかなだめてボールにしまいながら、後始末を終えた。ユウレイさんやゴーストポケモン達が手伝ってくれていなかったら、もっと時間がかかっていたかもしれない。……さすがにヒトモシがこけて、紙吹雪の山にダイブしそうになった時は、肝が冷えたけど。

 

「さてと。改めて……はい、これ。クリスマスプレゼント!」

 

 いつもの恰好に戻り、いつもの場所に座って、目の前の彼女にプレゼントが入った封筒を渡す。……意外にも、『ハツネミク クリスマスの姿』は結構不評で、ユウレイさん曰く「そのメガネに白いひげはもっと違和感がある」そうだ。良いと思ったんだけどな~、サンタコス。

 そんな彼女は、なぜか緊張した面持ちで受け取った封筒を見つめていた。いつだったかのように、耳を少しだけ赤くしながら、丁寧に丁寧に中身を開く。彼女は笑顔で中身を見ると――

 

「……なに、これ」

 

 ――一瞬で表情を曇らせた。がっかりしたような、拍子抜けのような、そんな表情だった。

 さっきまでの丁寧さはどこへやら、軽く表と裏を見た後「細い……落書き?」なんて言ってアタシに返そうとしてきた。

 

「失礼しちゃうなー!これは、チケットだよ!」

 

 そう言って、返そうとしてくる彼女の手に、もう一度チケットを握らせる。渋々、といったようにもう一度チケットを見るユウレイさん。アタシお手性のチケットには席の場所が書いてあり、自信作のイラストで彩られている。そんなイラストの一部を指差しながら、ユウレイさんが問う。

 

「この、カラフルな……バケモノは?」

「アタシだよっ!?」

 

 イラストを必死に説明しても、まったく信じてくれそうもなく、「……コレが?」なんて呟いてる。

 せっかく、寝る間も惜しんで準備したっていうのに!……まぁ、思いついた瞬間に、いてもたってもいられなくて、ついつい寝ずに作っちゃっただけだけど。

 

「これは、アタシのライブのチケット。本当のアタシの歌を届ける最初の。そして、ユウレイさんとの約束を果たすための、特別なライブの特別席のチケットだよ」

「特別席……」

 

 そう言って、彼女はやっと真剣にチケットを見てくれた。嬉しそうに表情を柔らかくした彼女を見ると、さっきまでのつれない態度も気にならなくなってしまった。

 

「さ、特別席に案内するよ!こっちこっち!」

 

 ユウレイさんの手を引いて、ライブ会場に向かう。

 ひんやりした彼女の手とは裏腹に、アタシの心は熱くなっていた。

 

 

 

「じゃーん!ここが、ユウレイさん専用の特別席でーす!」

「……ココ、?」

 

 夕暮れに染まるライブ会場。そこにはスタッフさんもお客さんもいなくて、アタシ達だけの貸し切り。マネちゃんには、"個人練習"っていう名目で貸し切りにしてもらってるんだけど……クリスマス付近のこの時期にはライブの予約がたくさんあって、空いている時間が今日のこの時間ぐらいしかなかった。だから、ちょっと早いクリスマスプレゼントになったというわけ。

 ライブ会場に着いたアタシは、さっそくユウレイさんにとびっきりの特別席を紹介する。ユウレイさんは、怪訝そうな顔をしてその特別席をまじまじと見ている。

 

「なんかの……装置?があるだけ。……席じゃない」

 

 目の前のバズーカーを指さしながら、ごもっともな苦情を言うユウレイさん。……場所だけ見たら、かなり良い席なんだけどな。

 ここは、ライブ会場のアリーナ席のちょうど真ん中……にあるバズーカが並んだ場所。

 バズーカっていうのは、紙吹雪とか、銀テープっていう金とか銀のキラキラした細長い紙を客席に振らせる装置のこと。要はクラッカーみたいなものだ。

 アリーナ席っていうのは、ドームの地べたの席で、野球場で例えるなら、選手たちが野球する場所。つまり、出演者に近いアタリ席。しかも、ステージの中心の真正面に位置しているから、アタシからもユウレイさんからも、お互いの位置が見やすい。……本当は最前列よりも前のバズーカにしようかとも思ったけどね。あまりにもステージに近すぎて、首が痛くなりそうだったから、アリーナの真ん中の、程よくステージから離れたバズーカにした。ここなら、ライブ中にこっそりユウレイさんの様子を見てもバレないからね。それに、バズーカが程よく後ろに傾いているおかげで、背もたれにもなる、まさに特別席!……難点は、ライブの最後の最後にバズーカが発射されるときに、ものすごい騒音、というか爆発音を間近で聞かされることなんだけど……。

 ……本当は、ユウレイさんにもちゃんとした席とチケットを渡したかったんだけど、他のお客さんからは黒いモヤモヤに見えるらしいから、こうするしかなかった。でも、特別席っていう響きのほうがかっこいいし、これはこれで気に入っている。

 アタシがそんな風に、特別席の良さを力説すると、ユウレイさんは、なんとか納得してくれたみたいだ。バズーカの傾斜と台をうまく使って優雅に腰かけている。

 

「よーし!じゃあ、そこで待ってて」

 

 タタタッと、ステージへと駆ける。舞台裏から、階段を上がれば、いつもの、アタシのステージだ。

 やっぱり、ここからの眺めはいつ見ても最高だな。ここで、いや、ここから。アタシの歌を、みんなに、彼女に、届けるんだ。

 マイクを持っていないのに、自然と、手をぎゅっと丸めて、口に当てていた。

 あぁ、早く歌いたい。早く、届けたい。2月が、待ちきれない!

 正面を見据えれば、バチッ、と音を立てたかのように視線が合う。優雅に腰かけている彼女は、ハロウィンの時のように、挑発的に笑っていた。

 その勝負に乗りたい、今すぐに。

 はやる気持ちを何とかなだめようと、大きく深呼吸をする。胸が、心が、熱くたぎって仕方ないけど、まだそのときじゃない。

 

「オッケー!場所はバッチリだよー!!」

 

 そう声をかける。しかし、彼女はキョトンとした顔で首をかしげていた。

 あれ、もしかして声が届いてないのかな?そう思って、舞台袖から、練習用の音量が小さめのマイクを拝借する。これなら、ライブ会場の外に音漏れすることはないはず。

 

「ユウレイさーん?場所の確認はバッチリだよー!」

 

 マイクを通しても、ユウレイさんの顔はキョトンとしたままだった。聞こえないってことはないはずなんだけどな、なんて、不思議に思っていると、彼女はそのままの顔で口を開いた。

 

「……歌わないの?」

 

 マイクを通さなくてもはっきりと聞こえる、凛とした良く通る声だった。

 あまりにもまっすぐな声に、申し訳なさともどかしさが募る。「あー、それなんだけど」と、軽く前置きしてから、ユウレイさんに伝える。

 

「記憶を取り戻すって約束、二月のライブまで待ってほしいんだ」

 

「ほんとにごめん」と、言葉を付け加えて、頭を下げる。

 彼女は責めるわけでもなく、呆れるでもなく、ただまっすぐに「そっか」とだけ言った。

 

「なら、今日は……私の(ターン)だね」

 

 予想外の言葉に驚き、顔をあげる。彼女はコツ、コツ、と冷たい音を立てながら、客席の間を縫って歩く。移動なんてしてないのに、客席が道を開けたかのように見える。周りの空気が、ユウレイさんの雰囲気が変わった。そう、アタシが彼女の曲を初めて聞いたときと同じように。

 最前列の客席を通り抜けると、ふわりと体を浮かせてステージに上がった。呆然と立ち尽くすアタシを見て、にやりと笑いながらマイクを攫う。

 

「約束、先送りにするなら……もっと、期待するから。そこで……見てて」

 

 手をそろえて、観客席を示す。挑発的な、挑戦的な顔でこちらを見据えていた。

 今までなら、その雰囲気に圧倒されていたかもしれない。でも、今のアタシは、そんなやわじゃない。

 

「いいよ!……存分に、聞かせてもらおうかな!」

 

「ペラップっ!」と、高らかに相棒を呼ぶ。ボールから勢いよく飛び出したペラップの足をつかみ、颯爽とステージから飛び降りる。たくさんの機材と客席の間を素早く滑空し、ユウレイさんの特別席の近くの客席に腰を下ろす。

 そんなアタシをみて、ユウレイさんは満足げに笑って口を開いた。

 

「受け取って……私からの、クリスマスプレゼント」

 

 

 

「……───。」

 

 ユウレイさんは、ポツリ、と曲名を言った。――たしか、この曲って、2人用の……。

 アタシの思考を置いて、彼女は着実にルーティンを進める。

 足を肩幅に開く。両腕と、頭を重力に任せ、息を吐きながら、上半身を完全に脱力させる。そうして力の抜けたまま……。

 ……違う、ただ脱力しているんじゃない。よく見ると、うつむいたまま、息を止めてる。何かを、ためているような。ポケモンの技でいうなら、こらえる?きあいだめ?……いや、全部違う。これは、がまんだ。

 彼女が顔をあげる。音を立てて、目が合う。全身に緊張が走った。勝負を挑むような黄色い瞳に、確かな感情の光がともっていた。あやしいひかり、なんてものじゃない。フラッシュのように、会場内を強く照らす光だ。

 彼女が、大きく、鋭く、息を吸う。

 来る。アタシは、ひるまないように、強く服のすそをつかんだ。

 

「─────♪!」

 

 瞬間、鋭く早いリリックが飛び出した。全身を貫くような、ミサイル針。一撃一撃が、体を貫くように重い。早いのに、一言一言に、感情が、想いが乗ってる。

 その時、アタシは理解した。彼女が、ルーティンで何を溜めていたのか。感情だ。曲に合う想いを、溜めて溜めて歌に乗せる。だから、こんなに重くて鋭いんだ!

 感情を乗せすぎると、テンポより速くなってしまうはずなのに。それに、こんなに早くて、細かくて、鋭いリリックを。恐ろしいほど正確にリズムを、メロディを刻む。2人用の曲だから、ブレスの位置も瞬間も厳しいはずなのに、余裕そうな顔で歌い上げている。まるで、素の技術の高さを見せつけるように。

 もうすぐBメロが終わる。彼女が大きく息を吸う。つられてアタシも息を吸う。会場が、アタシとユウレイさんが、一体になった感覚。もう、誰にも止められない。

 サビが、来る……!

 

「─────♪ッ!」

 

 いっそう、歌詞に乗る感情が大きくなる。我慢で溜めた以上の、彼女の気持ちがこもったような、さらに厚みと声量を増したサビ。心の底から叫ぶような、すがるような歌声が会場を震わせる。まるで、大きなスピーカーのように、会場が歌声を増幅させてるような錯覚に陥る。そんな大きな音の渦の中心に、彼女がいる。

 ――だけど。アタシにはなぜか、彼女が、渦から仲間外れにされて泣いている、独りぼっちの幼い少女に見えた。

 

「─────♪!!」

 

 思考が音にかき消される。我に返って、目の前の彼女を見ると、「よそ見、ダメ」とでも言っているかのように、こちらを見据えていた。そうだ、今は、彼女から勝負を仕掛けられているんだ。勝負の最中に、背中は見せられない。

 改めて彼女に対峙する。さぁ、あなたの声を、歌声を、想いを、全部ぶつけて!

 彼女は満足気に笑って、マイクを握りなおす。

 ラスサビは、すぐそこだ。

 

「─────♪ッ!!」

 

 転調し、更に盛り上がりを見せながら、サビのメロディを繰り返す。彼女の歌声に乗る感情も、全てを出し切るように、大きくなっていく。ココが最高の山場だ。

 服を握る力が強くなる。体が、心が、震える。鼓動が曲のビートを刻む。体全身で、彼女の歌声を受け止めて、一緒に歌っているかのよう。アタシ達は今、最高に熱い。

 

「─────♪!」

 

 曲の最後の歌詞を歌い切る。とても高い、叫ぶような声。

 会場が静寂に、いや、余韻に包まれる。まだ、頭の中で彼女の曲が鳴っている。感動に浸ったまま、時が止まったようだ。

 スッと、彼女がマイクを持った手を下ろす。止まっていた時が動き出す。感想を求める彼女の顔に対して、アタシはただただ拍手をしていた。息が荒い。息をするのも忘れて歌に聞き入っていた。彼女の歌には、それだけの力があった。

 少しずつ、頭が冷静に動く。彼女のルーティンのこと、彼女の表現のこと、彼女の技術のこと。

 彼女は感情が薄くて弱い。でも、その欠点を補うようなルーティンを身に着けて、それすらも自分のものにしている。

 ……もしかしたら、このルーティンはアタシの歌にも使えるかもしれない。

 そんなことを考えていると、いつもの雰囲気に戻ったユウレイさんが、ふわふわとアタシの前まで飛んで来ていた。イタズラが成功したかのような、したり顔で言う。

 

「……コレ以上の歌、期待してる」

「当たり前でしょ!」

 

 勢いよく立ち上がって、ユウレイさんの目をまっすぐ見る。彼女のちょうはつは、何度でも真正面から買ってやるんだ。

 

「絶対、最高のライブにするから!」

 

 今のアタシには、確かな自信と、彼女から受け取ったプレゼントがある。もう、何も、怖くない。

 決意を新たにして、2人帰路に着く。会場の隙間から漏れる月明かりが、優しく背中を押してくれているみたいだった。

 

 

 

 

--------------------

手作りのチケット

 

ミクが 書いた ライブの チケット

「特別席にご招待!」と 書かれている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。