ゴーストミクとノーマルミクが最終的に結ばれる話(仮題)   作:新品のタタリモップ

12 / 18
二月のスポットライト

 今日は二月の最終日。待ちに待った、ライブの日。十月にやって以来だから、半年近くも間を空けてのライブになる。実を言うと、これだけ間隔を置いたライブというのは今までなかった。……観客は、間違いなくアタシを待ち望んでいる。

 ユウレイさんには今日のライブは絶対に見て!と念を押した。あの特別席を用意してから特に理由もないのに通い詰めるユウレイさんのことだから、見ないなんてことはないと思うけど、念のため。今日のライブは、あなたのために歌うのだから。

 目を閉じて、観客の熱気を感じる。もうすぐに開演するのだろう、あわただしくスタッフさんが動いている音が聞こえた。ふと、そういえばもうすぐユウレイさんに会って一年だな、なんて思う。

 ユウレイさんに会ってから、本当に色んなことがあった。助けてもらったと、そう言ってもいいだろう。四月の夜更け、内緒話をした。悩みを打ち明けて、焦りから救ってもらった。七月の夕方、ふたり願い事をした。結局ユウレイさんの願い事は教えてもらえてないけれど、ふたりで楽しい時間を過ごした。十月のハロウィンで、デュエットをした。尻込みするアタシを引っ張り出して、歌の楽しさを思い出させてくれた。十一月のあの日、ふたりで流星群を見た。本当に綺麗な空と……彼女を見て、約束をした。ぜんぶぜんぶ、かけがえのない思い出だ。

 だから、今日のライブは第一歩。もらってばかりのアタシに出来る、唯一で絶対の、この歌で。あの日の宣言を、証明してみせる。手に持ったマイクをぎゅっと握る。楽しみにしてるね、なんて言う彼女の声を、笑顔を想起して。アタシはいよいよ心に火を灯した。

 ガコン、と音がして、アタシの立っている足場が揚がっていく。今日の舞台装置は奈落。ステージの下から現れる演出。少しずつ、少しずつ。舞台に姿を現していく。薄暗い会場に、スポットライトは一条のみ。アタシだけを照らす光をいっぱいに浴びて、顔を上げた。観客がワッと歓声をあげて、ドームが揺れる。さあ、開演だ。一撃で倒れてしまわないように、しっかりこらえて聞いていけ!

 

「───ッ!!!!」

 

 前兆、予兆、いっさいナシ。マイクも通さずに放たれるシャウトは、しかしそれでも会場を揺らさんばかりの声量と……ココロを震わせる響きを持つ。『ハイパーボイス』は意識しない、正真正銘、アタシのココロだけが込められたアタシのシャウト。ビリビリと空間を震わせるそれに会場が一瞬静かになる。観客全員を圧倒したまま、一曲目の前奏が始まった。あらんかぎりの大音量、並のシンガーなら声がかき消されるその音の中で、アタシはマイクに歌を吹き込んだ。

 

「────♪!!」

 

 呆然としていた観客が、そのワンフレーズで再起動を果たす。この曲は三月のライブでも歌った、初っ端にサビが来る曲だ。喉を温めるのにも、新しいアタシのデモンストレーションにも丁度いい。一気に熱量をあげるドームの様子を見て、アタシはどんどんボルテージをあげていく。誰の猿真似でもない、本当のアタシを。歌にのっけて教え込んでいく。

 

「─────♪!!!」

 

 歌の一番が終わる。丁寧に、丁寧に歌った一番。本当のアタシを見せるために、まだ抑え気味に歌った一番。でも、それももういいかな。片目で観客を見る。デモンストレーションは十分みたいだ。アタシはイタズラに笑って、マイクを口許に寄せる。

 

「じゃ、ここから本気ね」

 

 振り落とされないでよ?なんて笑って、更に盛り上がる観客の前で、足を肩幅に開いて直立する。上半身を完全に脱力させて、俯く。目を閉じて、その瞬間を待つ。心を爆発させる、その瞬間を。ユウレイさんから盗んでアタシのものにしたルーティン。演奏がボルテージを上げていくのに合わせて上を向き、すっと鋭く息を吸う。ここだ。

 

「─────ッ♪!!!!」

 

 ドン、と爆発したかのような錯覚を受けるほどの音圧……否、感情の圧力。これはアタシがここにいることを証明する讃歌だ。本当のアタシがここに来たことを知らしめる、証明の歌。ねぇ、ユウレイさん、ちゃんと見てる?本当のアタシって、こんなにすごいんだよ?

 

「─────……♪」

 

 一曲目を歌い終える。シン、と一瞬だけ静かになる会場。でもアタシは知ってる、これが嵐の前の静けさに過ぎないってことを。観客席に向けて……本当は特別席に向けて、ぐっと拳を突き出す。瞬間、ワッと割れんばかりの歓声がドームを満たした。一曲目が終わっただけでこの盛り上がり。だけど、このライブはまだ終わらない。

 

「まだまだ行くからねっ!」

 

 再び沸く観客。今は見えないユウレイさんの方を指さして、アタシはそう叫んだ。

 

 

〇

 ライブは順調に、快調に、最高の盛り上がりで進んでいった。明らかに今までとはレベルの違う盛り上がりに手応えを感じながら歌い進める。飛ぶように過ぎ去っていく時間。次が最後の曲だ。今日はこのためにライブをしたと言っても過言じゃない、このライブの目的と言っていい曲。まさに『とっておき』だ。

 

「次が最後の曲なんだけどさ!みんな、今日のライブどうだった!?」

 

 そう聞けば、口々に感想を言う観客。どう受け取っても好意的なそれに、本当のアタシを認めてもらえたことを実感する。ユウレイさんはなんて言ってるかな、なんて一瞬考えて……すぐにやめる。まだこの曲を聞いてもらってないのだから。

 

「よかった!じゃあ歌うんだけど、アタシ次の曲題名も歌詞もわかんないんだよね~!」

 

 そう言うと、今度は困惑に包まれる観客。そう、この曲を歌うにあたってマネちゃんが色々と調べてくれたのだけど、かなり年代の古い曲だってことしかわからなかった。そう説明してるマネちゃんの姿を思い出しながら、困惑してる観客に向けて言葉を継いだ。

 

「だけど信じてよ。最高のライブになる、ううん、アタシがしてみせるからさ!」

 

 そう言えば、観客席がまたワッと歓声に包まれる。アタシはうんうん、と頷いてからそれを手で制した。徐々に静まりを取り戻していく観客席の音を聞きながら、アタシは目を閉じる。照明さんが機械を操作したのか、ステージを照らす光が優しいものに変わった。ピアノの伴奏が、優しく空気を震わせる。アタシは柔らかく息を吸って、マイクに思いを吹き込んだ。

 

「……──♪」

 

 アタシの歌声が、静かに、確かに空気を伝う。思いを込めた歌声は、きっとあの子に届いてる。もう観客席の様子は気にしない。目を閉じたまま、ただひとつ、ユウレイさんのことだけ考えて歌を紡ぐ。

 

「───♪」

 

 思い出すのは、この一年間の思い出。ユウレイさんと過ごした、大事な大事なたからもの。きっと、隣に居るのが他の誰でもダメだった。ユウレイさんだから。優しくて、甘えたで、寂しがりな彼女だから。

 

「────♪」

 

 アタシはこうして歌えてる。ひとつ思い出すごとに温かい想いが溢れて、それが歌に変わって口からこぼれていく。──だんだんと、自分の深いところに潜っているような気がした。昔の記憶が少しずつ溢れてくる。なぜ、と疑問を挟むことができない。それが当たり前のことだと感じたから。歌が、終わりつつある。

 

「───♪……」

 

 ここは、どこだろう。ああ、アタシが昔住んでた町だ。そういえば街はずれに川が流れてて、なぜかそこによく行ったっけな。そこであの子と遊んで……あれ?あの子っていったい誰の……

 瞬間、ワッと響いた歓声でアタシの意識は戻された。いつのまにか歌い終わっていたらしく、観客の中には涙を流している人さえいる。途中から無意識だったけど上手くいったみたいだ、と思って……なにか、嫌な予感がした。思い出すのは、流星群の夜にユウレイさんが零した言葉、弱音。思い出すのが怖いという、本音。アタシは予感に従って目にチカラを集めた。

 

「『みやぶる』」

 

 観客に聞こえないようわざ名を呟いて、奥の特別席に目を向ける。すぐにユウレイさんと目が合った。白い顔を更に青白く、もはや生気を感じないほどに青くして、流れる涙をぬぐうことさえ出来ていない彼女と。アタシと目が合ったことに気付いたユウレイさんはハッとして、ふわふわとどこかへ飛んで行く。今のユウレイさんを一人にしちゃダメだ。理屈じゃない部分でそう直感したアタシは、ステージから舞台袖に飛び込むように移動する。

 そのまま『わすれられたそうこ』へ急ごうとして、驚いた表情のマネちゃんが視界の端に映った。ライブがまだ終わり切ってないことに今更ながら気付く。

 

「ごめんマネちゃんっ!なんとかしといて!」

 

 そう叫んでアタシは今度こそ走り出した。呼び止めるマネちゃんの声を遠く聞いて、逸る足で『わすれられたそうこ』を目指す。ユウレイさんのあの目が……なにかに怯える黄色い瞳が、頭にこびりついて離れなかった。

 

 

〇

 

「ユウレイさんっ!!」

 

 ようやく『わすれられたそうこ』にたどり着いて、バンと大きな音を立ててドアを開ける。いつもの空間、見慣れた場所に視線を走らせて……居た。ユウレイさんはこちらに背を向け、テレビの前に佇んでいた。そのテレビから聞こえる砂嵐の音が、いつもより大きい。

 

「よかった、顔真っ青にして出てっちゃうから心配したよ。それで、どうしたの?なにかあった?」

 

 アタシは安堵しながら……止まらない嫌な予感を振り払うようにそう言った。白々しいくらいに明るいアタシの声に、ユウレイさんは答えない。まるで狭い空間で独り言を言っているみたいに、アタシの声が反響する。砂嵐の音だけが、寒々しく、騒々しく、空気を揺らしている。なぜか彼女が手の届かないくらい遠い場所で独り立っているような気がして、このままじゃいけない気がして。歩いて距離を詰めた。

 

「ね、ユウレイさん、なにかあったの?言ってくれないと……」

 

 わからないよ、と言いかけて、アタシの口は凍り付いた。近づいたことで見えたユウレイさんの横顔が、なんの感情も映していなかったから。ユウレイさんは無表情に思えるけれど、その実感情が表情に出ていることが多い。『みやぶる』を使っているアタシにしてみれば、むしろ表情豊かにさえ思える。だから、こんなにも感情の乗っていない、空虚な表情を見たのは初めてだった。まるで、本当に人形になってしまったかのような。

 スル、と。爬虫類のような無感動さでもって、ユウレイさんはアタシに視線を向けた。その黄色い瞳にわずかな感情が灯ったかと思うと、すぐに消える。困惑するアタシに、呟くような、平坦な語調でユウレイさんは言葉を発した。

 

「……いかないと」

「っ!」

 

 平坦で、冷たくて……焦燥感にあふれた言葉だった。明らかに正気じゃない彼女を見て、行かせてはいけないと強く感じる。なぜそう感じたのかはわからない。けれど、アタシにはユウレイさんの行く先が崖に続いているようにさえ思えた。なんとかして止めないといけないのに、金縛りにあったみたいに身体が動かない。テレビから聞こえる砂嵐の音が明確に大きくなっている。

 

「もう……時間がない」

「ユウレイさんっ!!」

 

 何事かを呟きながら、ユウレイさんはテレビの方へと歩き出した。必死に叫ぶアタシの声は、彼女の耳には届かない。ゆらゆら、ふらふら、覚束ない足取りで、彼女は進んでいく。砂嵐の音はいよいよ大きくなって、テレビの周りにノイズが走り始めた。

 

「っ、『とおせんぼう』!」

 

 ようやく動いた身体を引きずるように動かして、ユウレイさんに抱き着く。……抱き着こうとして、すりぬけた。え、と小さく声を漏らす。今まで、アタシがユウレイさんにさわれなかったことなんてないのに。一瞬、呆然としてしまった。その一瞬が、ダメだった。ユウレイさんはまた一歩、テレビに近付いていく。

 

「あの子を……解放してあげないと」

 

 ごうごう、ざぁざぁという砂嵐の音の中にあって、耳元で響いたその声は嫌にクリアに聞こえた。焦りと、悲観と、諦観と……いろんな感情がないまぜになった声だった。振り返ると、ユウレイさんはテレビの周囲に走るノイズで囲まれていて……あ、まずい。もう行ってしまう。もう、会えなくなってしまう。直感して、飛び込むように手を伸ばす。

 

「待って!■■■!!」

 

 砂嵐の音は、もう自分が何を言ったのかもわからないほどに大きくなっている。瞬間、テレビから眩い光が放たれた。アタシは思わず目を閉じる。目を閉じる前の一瞬、ほんの一瞬。ユウレイさんがこちらを振り向いて……寂し気に笑った気がした。ああ、そんな顔、させたくないのに。

 目を閉じたまま伸ばしたアタシの手は、ユウレイさんではなくテレビに当たった。ガシャ、と音を立てて床に転がったそれは、もはや砂嵐さえ映していない。もうそこにユウレイさんはいなかった。砂嵐の音もなくなって、痛いくらいの静寂が耳を叩いた。

 無力感に膝を着いて……黒い画面が視界に入る。もう、なにも映さないガラクタは。真っ黒なテレビの画面は。なにも出来なかったアタシを、酷薄なまでにはっきりと映していた。

 

「ユウレイ、さん……」

 

 誰も言葉を返さない。アタシの声に答える人は、いつも優しく言葉を返してくれる人は……アタシの前から消えてしまった。

 

 

 

--------------------

ロトムのテレビ

 

ロトムが 細工をした テレビ。

ゴーストタイプの ポケモンは

ここから ほかの ロトムのテレビに

移動できる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。