ゴーストミクとノーマルミクが最終的に結ばれる話(仮題)   作:新品のタタリモップ

13 / 18
三日月の■■ (1)ヒメリのみ

 どれだけそうしていただろう。がらん、と。一人、ただ一人、ユウレイさんがいないだけであまりに広く空虚に変わってしまった『わすれられたそうこ』で。アタシは呆然としていた。その場でへたりこんだ姿のまま、動けずにいた。本当は今すぐにでもユウレイさんを追いかけないといけない。そうだ、追いかけないと。そう考えて彼女がどこに行ったのかわからないという事実に愕然とする。そんなことを何度繰り返したんだろう。

 ぐるぐると回る思考は空転するばかり、まるで泥に嵌ったタイヤだ。ユウレイさんはどうして行ってしまったのだろうか。アタシのことが嫌いになってしまったのだろうか。ストロボのような強い光を見たせいか、ユウレイさんの最後に見せた表情が、寂し気な顔が、焼き付いたように消えてくれない。

 

「アタシ、なんにもできてないじゃん」

 

 なにが彼女の記憶を取り戻す、だ。そう息巻いた結果がこれか。あの寂し気な顔か。手を床に打ちつけて、ドンという音が響いた。手がジンジンと痛む。あの約束も、なにもかも、アタシじゃきっと不十分だったんだ。アタシはユウレイさんが隣に居ないとダメだった。けれど、きっと彼女はそうじゃない。もっと、ずっと上手く彼女の寂しさを、孤独を。埋められる人がきっと居ただろうに。

 目の前に転がったテレビはなにも映していない。いや、映していたところでユウレイさんがいなければテレビを使った移動なんて出来やしない。……アタシは、ユウレイさんの傍に居ることもできない。

 ぐちゃぐちゃになった感情が目から溢れだして、ポタリと落ちて床を濡らした。うずくまった態勢のまま、アタシは後悔していた。──パタパタと、羽音が聞こえる。なんとなくそちらを見れば、いつのまにボールから出たのかペラップが飛んでいた。

 

「ペラップ……?」

 

 ペラップは部屋の天井近くまで、あの笹のテッペンまで飛ぶとそこからなにかを啄んだ。嘴でそれを持ったまま、ペラップはこちらに飛んでくる。アタシの目の前に降り立つと、そっとそれ──少しだけ埃をかぶった短冊──を差し出す。

 

「これ、ユウレイさんの……」

 

 自分に読む資格があるんだろうか。そう考え、受け取る手を引っ込めようとして……ボールの中からベラカスちゃんの『テレパシー』が飛んできた。よんで、という、たったそれだけ。背中を押されたアタシは、転がるように書かれた字に視線を走らせる。ああ、なんて書いてあるのだろう。せめて、せめて。アタシと過ごした日々を否定するものでなければ。そんなことを考えて……。

 

「……ふふっ、あはは。なんだ、そうだったんだ」

 

 思わず笑ってしまうような子どもっぽい内容だった。思わず涙が出てしまうくらい、嬉しい内容だった。その内容は。ユウレイさんの、願いは。

 

『ミクと、ずっと仲良しでいられますように』

 

 支えもなく走り書きしたからか、少しばかり拙い字。でも、本気で願っていることがわかる、強い字。……なにが、アタシより上手くやる人、だ。傍に居ることもできない、だ。さっきまでの自分の考えを全て唾棄する。

 そんな人が居たって関係ない、譲ってやったりしない。この一年間、ユウレイさんの隣に居たのはアタシだ。一緒に居ることができないなんてことが、諦める理由になるものか。ユウレイさんの願いを、叶えてやれない理由になるものか。約束したんだ。誓ったんだ。ずっとそばに居ると、ほかでもない彼女に。

 涙を拭って立ち上がる。下を向く時間は終わりだ。向き合わないといけない。なんの方法も思い浮かばないけれど、アタシはユウレイさんに会わなければいけない。

 テレビの方へ目を向ける。いつのまにやらゴーストポケモンたちがテレビの周囲へと集まっていた。一様に心配そうな顔を浮かべて。そうだよね、あなたたちも心配だよね。

 ふと、アタシのポケットからなにかが落ちた。見れば、それはお守り。アタシが理由もわからないのに大事なものだと感じている、お守りだった。拾い上げようとして、その布の隙間からなにかが見えた。慌てて巾着の口を閉じようとして……ベラカスちゃんの『テレパシー』が飛んできた。これは……お守りが、光ってるイメージ……?

 

「ちがう、中のなにかが光ってるんだ」

 

 呟いて、閉じようとしていた手を動かす。中のものを暴くために。長く閉じっぱなしだったからだろう、硬くなっていた口を苦戦しつつも開くと、そこにはボロボロになった羽根のようなものが入っていた。アタシは、これを知っている。懐かしい感覚と同時、思い出さなければいけないという感情が溢れてきて、けれどあと一歩のところで思い出せない。修復すれば思い出せるかもしれないと思い至って、アタシはボールからベラカスを出して指示を飛ばした。

 

「ベラカスちゃん、『さいきのいのり』!」

 

 ベラカスの身体から溢れる光の奔流が、ボロボロだった羽根を修復していく。アタシはそれを、じっと見つめていた。ずっと閉じていた記憶が、ようやく開く。ああ、どうして忘れていたんだろう。優しいあの子のことを、ずっと一緒だと信じて疑わなかった、アタシの一番の友達のことを。……でも、後悔している時間はない。後悔なら、もう済ませた。

 

「ありがと、ベラカスちゃん、ペラップも」

 

 お礼を言って、ドアに向き直る。不退転の決意をこの身に込めて、ぐっと拳を握りしめる。

 

「行くべき場所がわかったよ」

 

 そう言うと、テレビの周りに集まっていたゴーストポケモンたちが一斉にこちらを見た。ああ、そっか。この子たちも行きたいのか。ヒトモシ、ゴース、ゴースト、ヨノワール、ポットデス。アタシよりずっと長くユウレイさんと関わってきた彼らが、彼女を助けたいと思わないわけがなかった。でも、だけど。

 

「ごめん皆、アタシに任せてくれないかな」

 

 そう言ってアタシは頭を下げた。そらとぶタクシーを使っていく場所だ、大人数は連れていけないし、あの場所は……危険だ。特に、ゴーストポケモンにとっては。そう伝えても、彼らは納得した様子を見せることはなかった。そりゃそうだ、アタシが逆の立場でもそうしている。理屈で納得するわけがない。

 

「そうだよね。アタシだってみんなの側だったらそうしてると思う。……だから、約束するよ。必ず二人で帰って来る。そのときみんなには、おかえりって、そう言ってほしいの」

 

 本当は全員で行きたい。みんなで行って、ユウレイさんと一緒にみんなで帰ってきたい。歌でも歌いながら、ゆっくり歩いて帰りたい。でも、それは出来ないから。ポットデスが、これが最後だと言うように一歩前に進み出た。

 

「ポット……」

「うん、そうだね。じゃあ……アタシがピンチになったら、みんなを呼ぶよ」

 

 そんなの届くわけがない、届いても、テレビがない場所にすぐ来られるわけがない。だから、これは方便ってヤツなのだろう。あるいは、冗談か。それをわかっているだろう皆は、それでもこの場を引いてくれた。

 

「ありがとう」

 

 一言だけそう言って、アタシはドアへと歩き出す。この『わすれられたそうこ』に、ユウレイさんを連れ帰るために。ずっとそばに居るという約束を、果たすために。さあ行こう、目指すのはただひとつ、全員笑顔の大団円。アタシはドアを開け放って、目的地に行くため走り出した。『しんげつのもり』へ行くために。

 

「ロトトトトト!!」

 

 閉じたドアの向こうに、ロトムの笑い声を聞いた気がした。

 

 

 そらとぶタクシーに揺られること一時間ほど、アタシは車窓に見える『しんげつのもり』を見下ろしていた。黒々とした木々が密生していて、昼間でも暗い森。中には道と呼べるものはほとんどなく、人の手が入っていない。にもかかわらず、一部のポケモン以外は住むことさえしない森だ。ぽっかりと開いた森の入口は、なにか不気味な怪物が口を開けて待ち構えているようだった。

 森の手前に降りたタクシーから飛び降りて、アタシは『しんげつのもり』へと足を踏み入れる。湿った土の香りが肺を満たした。森の中は空から見るよりもずっとずっと不気味だ。密生する木は月の光さえも遮り、本当にごくわずかな光しかない。ともすれば何も見えなくなりそうな闇をかき分けて進む。今はまだ道のある場所を進んでいるけれど、その道も砂利を敷いただけのお粗末なもので、苔むし、ところどころにシダのような植物が生えている。下草も深く鬱蒼としていて、道から外れれば二度と戻れないのではないかと思わせるなにかがあった。そしてなによりもこの霧だ。さして深いわけでもないのに、身体に絡みつくような粘着質の霧が森全体を覆っている。

 アタシはその中を走った。ただユウレイさんを探して。彼女がこの森にいるのは間違いない。肺に水が溜まるくらいの湿度を鬱陶しく思いながら、森の中をひた走る。本当に、暗い。暗くて、昏くて、冥くて、──黒い。ときおりポケモンらしき影とすれ違いながら、アタシはがむしゃらに森の中を走る。

 

「ユウレイさーん!」

 

 彼女につけたあだ名を呼びながら走る。彼女が気に入ってくれた、安直なその名前を呼びながら。小さな沢を飛び越えて、頭にかかる蜘蛛の巣を無視して。しかし彼女は見つからない。どこにいるのかわからない。体力が切れかけて、膝に手をついて荒い呼吸をする。休んでいる暇なんてないのに。揺れる視界は落ち葉の降り積もった地面を映していた。

 

「ユウレイ、さん……」

「あら、呼んだかしら?」

 

 すぐ前でどこか聞き覚えのある声がして……ふと、視界に靴が入り込んだ。違う、足だ。──誰かが、アタシの前に立っている。ユウレイさんではない、誰かが。その事実に気付いて、バッと顔をあげた。

 

「ユウちゃん……?」

「ええ、奇遇ね。ずいぶんと酷い顔だけれど」

 

 そこに居たのは、アタシがあのハロウィンの日に出会った少女……ユウちゃんだった。いつのまに、どうしてここに、ユウレイさんを知っていないか。大量の疑問が頭を埋め尽くす。アタシがそのどれかを選び取る前に、ユウちゃんは口を開いていた。

 

「ここにはね、確認に来たの」

「確、認……?」

 

 繰り返すアタシに「えぇ」、と頷いてから、彼女はどこまでも酷薄に笑って言い放った。

 

「ミク、答え合わせをしましょう?」

 

 ──困惑するアタシの周りで、霧が風に吹かれていた。

 

 

 

「答え合わせ……?」

 

 意図が読めずオウム返しするアタシに、彼女はひとつ頷いてから補足を始める。霧が少しずつ濃くなっていく。ああ、無視することはできないのだと、逃げられないのだと直感した。

 

「あの日、私があなたにした質問の答え合わせよ」

 

 それだけじゃ少し足りないから、いくつか質問を足させてもらうわね。そう言って妖しく笑うユウちゃん。悪いけど構っている時間はない。先に行かせてほしいと口を開こうとしたアタシは、続く言葉に固まった。

 

「私が満足したら、ユウレイさんのところに案内してあげるわ」

「っ!」

 

 驚いて、息を呑む。願ってもいない話だ、ユウレイさんのところに連れて行ってくれるというなら、アタシにこの提案を受けない手はなかった。その様子を見てくすりと笑った彼女は、試すような声色で口を開く。

 

「ねぇ、あなたに覚悟はあるかしら?」

 

 その言葉に、ここに居る理由を思い出した。冷えていたアタシの心に、再び火が灯る。どこまでも挑戦的に笑って、アタシは口を開いた。宣言を、約束を、アタシは背負っているけれど。それでも教えてもらった本質を間違えたりしはしない。

 

「当たり前、存分に確認してってよ!」

 

 ユウちゃんは一瞬驚いた顔をすると、くすりと笑った。覚悟の証明が、始まる。

 

 

 

Q.1 "あなたの名前は?"

 

「最初は軽いのから行きましょうか」

 

 そう言って、ユウちゃんは背筋を伸ばし、手を後ろ手に組んだ。ゆっくりアタシの周りを歩いて、その後ろで立ち止まる。アタシは目で追うこともせずに、ただ立っているだけ。そういえば、初めてユウちゃんと会ったときも後ろから声をかけられたような。

 

「アナタはだぁれ?」

 

 小さな子どもがするような誰何だった。アタシが何者か、一瞬だけ考える。考えようとして、やめた。アタシは心のままを吐き出せばそれで良い。アタシは何者か。どこの誰で、どんな人間か。とっくの昔に、ユウレイさんから教わっている。

 

「アタシはミク、ハツネミク。新進気鋭のシンガーとして人気絶頂の、そして最高にワガママな歌手だよ」

 

 そうだ。アタシはシンガーだ。歌手だ。歌を歌うことしか能がない、その唯一で生きている人間だ。その唯一を、最高に楽しんでいる、最高にワガママな人間だ。後ろにいるユウちゃんの表情は見えないのに、彼女が笑っているような気がした。

 

「そう。いい名前ね」

 

 

 

Q.2 "どうしてここにきたの?"

 

「それじゃ、次の質問」

 

 そう言うと、ユウちゃんはまたザクザクと落ち葉を鳴らして、アタシの右側にあった石へと腰かけた。そこには月の光が一条落ちてきていて、まるでスポットライトを浴びているようだと思った。

 

「ここに来た理由を教えてくれるかしら?」

 

 足を組み頬杖をついて、彼女はアタシにそう聞いた。今度はどこか老成した雰囲気を感じさせる声色だった。アタシは目を閉じて、どうして自分がここに来たのか考える。約束を果たすため、宣言したから。そう思っていたのに、どれもしっくりこなかった。アタシがここに来た理由、ユウレイさんに、したいこと。ああ、そうだ。そうだった。アタシはそうしたかったんだった。目を開いて、身体ごとユウちゃんに向き直って言葉を返す。

 

「ユウレイさんに会って、ワガママに生きろって言ってやるため」

 

 アタシにそう言ったくせ、自分は他人ばかり優先するユウレイさんに、ワガママに生きろと言ってやりたい。アタシがその言葉で救われたように、その言葉を大事に生きているように。

 ユウちゃんはそれを聞いて、どこか遠い目をしていた。月が動いたのだろう、もう彼女に月光は当たっていなかった。

 

 

 

Q.3 "ココがどういう場所か知ってる?"

 

 ユウちゃんは腰かけていた石から立ち上がると、服についた汚れをパッパと払った。それを見ているといきなり強い風が吹き、落ち葉をザァっと巻き上げた。思わず目を閉じるとアタシの前に居たはずのユウちゃんが消えていて、アタシの背中に誰かの背中が触れていた。アタシは取り乱さず、静かに待った。背中の彼女が次の質問をすることを。

 

「なら、あなたはここがどういう場所か知っているのかしら?」

「……知ってるよ」

 

 ここは危険な場所だ。野生のポケモンは狂暴だし、深い森というだけで迷って出られなくなる危険がある。立ち入れば悪夢を見ると言う噂もあって、近隣住民は森の浅いところにさえ近づかない。『しんげつのもり』はそういう場所だ。

 

「でも、今のアタシには関係ない」

 

 今のアタシには、そんな些事はどうでもいいのだ。この森にユウレイさんが居て、会えるかもしれないこと。大事なのはそこで、ほかの情報は二の次。アタシがしたいことを、諦める理由になりはしない。

 

「そう」

 

 それだけ言って、ユウちゃんはアタシの背中から離れていった。

 

 

 

Q.4 "ユウレイさんはあなたにとってどんな人?"

 

 アタシの背中から離れたユウちゃんは、アタシの横を通って前に進み出た。そのまま落ち葉を踏みしめて歩いたかと思うと、歩みを止めた。ザク、と落ち葉の音がする。彼女は振り返らない。振り返らずに、口を開いた。

 

「ユウレイさんっていうのは。あなたにとって、どんな人なの?」

 

 ハロウィンのあの日、あの洋館で聞かれた質問と同じだった。立ち位置も、あの瞬間を焼き増ししたかのようだ。アタシは考えて……答えがほとんど変わらないことに気が付いた。気が付いて、けれどそのまま口に出す。

 

「助けてあげたい人」

 

 「それから……」と言いかけて、やめる。この先は、きっとあの子に直接伝えるべきだから。だから、今は言葉にしない。それでも満足したのか、ユウちゃんは振り返らずに「そう」、とだけ言った。その声色には、ほんのすこしの羨望が込められているように聞こえた。

 

「ねぇ」

 

 そう言って、ユウちゃんは振り返った。しっかりとこちらを見据えて、歩み寄って来る。月光のスポットライトは、今はアタシを照らしていて。ユウちゃんは自分がそれに照らされる直前で足を止めた。

 

Q.5

 

「"それは、どうして?"」

 

 まっすぐな瞳で、まっすぐな問いかけだった。その瞳に射抜かれて、それでもアタシはひるまない。考えることもなく、アタシは答えを口にした。ここまでの問答で、アタシの心は決まっていたから。

 

「約束したから。……なんて理由ならカッコイイんだろうけどさ。一番はアタシが気に入らないからだよ」

 

 それを聞いて、ユウちゃんはきょとんとした表情を浮かべてからころころと笑い出した。少女の姿によく似合う、見た目通りの無邪気な笑い声だった。しばらく笑ったあと「そう」、と言ってから彼女は口を開いた。

 

「ふふっ、ひどい理由ね」

 

 笑って出た涙をぬぐいながら、ユウちゃんはそう言った。ひどい理由だって自覚はある。だけど、だから。アタシはニッと笑みを深めて言い放った。

 

「言ったでしょ?アタシ、最高にワガママな歌手だって」

 

 忘れちゃった?なんて問いかけて、アタシはユウちゃんに向けて笑った。ユウちゃんはまた笑って、それから息を整えた。

 

「これで答え合わせはおしまい。……合格よ、憎らしいくらいにね」

 

 そう言って、ユウちゃんが手を軽く振った。するとボゥっという音がして、あの洋館にあったような燭台がどこからともなく現れる。燭台は道を作るように一直線に浮いていて、深い森の奥へアタシを誘っていた。驚いて固まっているアタシに、ユウちゃんは強引になにかを握らせた。

 

「わっ、なにこれ!?」

「ただのきのみよ。そっちは笑わせてくれたお礼」

 

 そう言って、ユウちゃんは呆れたような表情をした。もしかすると、チケットを強引に渡したことへの意趣返しだろうか、なんて思ってその顔を見つめ返していると、ユウちゃんがまた口を開く。

 

「呆けてないで、早く行ったらどう?」

「えっ、あっ、うん!ありがとね、ユウちゃん!」

「……精々、頑張りなさい」

 

 ユウちゃんにお礼を言って、燭台が照らす森へと駆け出す。振り返らず、一直線に、まっすぐに。視界の端で木々が流れていた。私は走る。暗い、暗い、森の奥へと。

 

「あの子を……私みたいにしないでね」

 

 今はもう遠い場所から響くユウちゃんの声を、背中越しに聞いたような気がした。

 

 

 あのときと同じように、ひとり森の中で佇む少女。その背後から、揺らめくように老爺が現れた。燭台で作った道をずっと見つめたままの少女に、老爺は声をかける。

 

「邪魔するわけにはいかないんじゃなかったのかい?」

 

 それを聞いた少女は、一度肩をびくりとさせてからそれを取り繕って……恨めし気に老爺の方へ振り向いた。ジト目になった目は悔しさを滲ませていたが、同時に心配気な色を含んでいることに老爺は気づいていた。

 

「仕方ないじゃない……応援するって、言っちゃったんだもの」

 

 軽率なことを言うものじゃないわね、なんて頭を振りながら、少女はまた燭台の道へ……その先に居るだろう少女へと視線を向けた。

 

「ミク。あなたのライブ……悪くなかったわ」

 

 そう呟く少女のポケットの中で、カサリ、と。使用済みのチケットが音を立てた。

 

 

 

--------------------

ヒメリのみ

 

ポケモンに 持たせると

PPを 10だけ 回復する。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。