ゴーストミクとノーマルミクが最終的に結ばれる話(仮題)   作:新品のタタリモップ

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三日月の■会 (3)みかづきのはね

 ハツネを抱きしめたまま、しばらく目を閉じていた。ただ、静かだった。風もない夜の静けさが、アタシたちに降り積もっているように感じた。

 もう、アタシとユウレイさんじゃなくなった。ミクとハツネに、戻った。アタシが彼女の名前を呼んだから。後悔はない。いや、違うな。これから一緒に帰って、後悔しない選択にするんだ。

 唐突に、抱きしめていたハツネから突き飛ばされた。少しよろけて、ハツネと距離ができる。彼女は俯いた状態で、なにかに吊られるように立っていた。

 

「……おぼえてない」

 

 静寂を破って出てきたのは、そんな言葉だった。ハツネの口から出た、精いっぱいの拒絶だった。ザァ、と風が木々を揺らす音を遠く聞く。

 

「あなたなんて、知らない……!」

「……ハツネ」

 

 私が名前を呼んだ瞬間、ハツネが弾かれたように顔を上げた。

 

「私に、友達なんていない!私に、助けてくれる人なんかいない!そばにいてくれる人なんか、いるわけないっ……!」

 

 私に、私なんかに、と。そう譫言のように繰り返す彼女は……その言葉を、否定を。自分に言い聞かせていた。怒りを、憎しみを、ずっと自分の裡に向けてきたのだろう。本当は誰かのせいにしたくてたまらないのに、優しい彼女にはそれが出来なかったのだろう。だから、アタシは否定する。

 

「いるよ」

「っ、そんな人……っ!」

 

 一言、それだけ言ってアタシは彼女に歩み寄る。彼女は怯えている。孤独になることよりも、孤独じゃないことを知ってしまうのを、なにより恐れているのだろう。だから、忘れたい。認めたくない。でも、そんなのアタシだって認められない。

 

「ここにいる。ハツネの友達で、ずっとそばに居る人が」

「そんな、そんなの……」

 

 溺れかけているかのように言葉を何度も吐き出そうとしては飲み込んで、ハツネは未だ怯えている。ハツネの否定は、自己否定だ。「自分なんか」を根底に置いた、どこまでも自分の価値を貶める否定。だから、アタシはハツネの否定を否定する。否定しなくちゃいけない。

 

「ハツネ、ごめんね」

「……ぁ」

 

 でも、なによりもまずは謝らないと。アタシはきっとあの日、ハツネを置いていった。意識がなかった、自分ではどうにもならなかった……言い訳なんていくらでもできるだろう。人に言えば、あなたのせいじゃないなんて言われるんだろう。だけど、他でもないアタシが、アタシのことを許せない。

 

「あのとき、ハツネを置いて行って。そのせいで、ずっと辛かったよね」

「ちがう、ちがう……あのとき、私があんなもの見つけなければ……ごめん、ごめんなさい……」

 

 しゃくりあげながら、ハツネも必死に謝る。そうだ、彼女も自分を許せない。アタシも、ハツネも。自分じゃ自分を許せない。だから、こうしよう。

 

「ね、ハツネ。アタシはハツネを許すよ」

「……ぇ?」

「自分を許せないハツネの代わりに、ハツネを許す」

 

 呆然と、アタシを見上げるハツネ。アタシたちはきっと、自分じゃ自分を許せない。だから前に進むため、アタシはハツネの代わりに、ハツネはアタシの代わりに、お互いを許し合っていこう。アタシたちが、前に進むため、きっと必要なことだから。

 

「……どうして、そこまで」

 

 震える唇で、ハツネはようやく言葉を口にした。かと思うと、ぺたりとその場にへたりこんでしまう。そっか、ユウちゃんには言ったけど、ハツネにはまだ言ってなかったっけ。くすりと笑って、目線を合せて、私は教える。ユウちゃん曰く、「ひどい理由」を。

 

「ふふっ、実はさっき言ったんだけど……気に入らないから、が理由なんだ」

「気に入ら、ない……?」

 

 心底意味不明だという顔で、ハツネは聞き返した。うん、と頷いて、アタシは言葉を続ける。

 

「気に入らない。アタシに向かってワガママになれって言ったハツネが、アタシのために消えるのが」

「そっ、か……」

 

 気に入らないんだ、と呟くハツネ。そこに、もう否定の、拒絶の色はなかった。諦めたように笑うハツネの身体に、ノイズが走る。ジジッ、という音と共に、彼女の姿が薄れていく。慌てて駆け寄ろうとして、こちらを笑顔で見上げた彼女に遮られた。

 

「ねぇ、ミク」

 

 そこで区切って、彼女は泣きそうな笑顔でアタシに言った。ほかでもないアタシに、今求めている言葉を。

 

「──たすけて」

 

 その言葉を最後に、ハツネの身体は消えた。でも、まだ終わっていない。希望が消えたわけじゃない。初めて聞いたユウレイさんの、ハツネのSOS。

 

「任せて。……絶対、助けるから」

 

 届いているかもわからない言葉を口にして、アタシは前へ歩みだす。ハツネの身体から出たノイズが、少しずつ森の奥に移動している。きっと、この先に彼女は居るんだろう。十年前から、ずっと。落ち葉を強く踏みしめて、アタシは歩みを進めた。

 

 

 

〇

 ノイズを追いかけて、森の中を進む。奥へ進むにつれて森はより深くなり、木々の間から漏れ出る月光もその数を減らしていった。ジジッ、というノイズ音を、その姿を、見失わないよう気をつけながら進んでいく。枝を払いのけて……一気に視界が開ける。見れば、そこは広場のようになっていた。太く立派な大木が一本その中心に座していて、周りの木を寄せ付けていない。木漏れ日のように月の光が漏れ出していて、この広場だけが図ったかのように明るかった。アタシはその広場を見渡して……弱り切ってボロボロの、ムウマージの姿を見つけた。

 

「っ、ムウマージ……!」

 

 急いで駆け寄り、ボールからベラカスを繰り出す。『さいきのいのり』を指示して……しかし、ベラカスちゃんは困ったような『テレパシー』を返すだけだった。なんで、と考えてすぐに答えにたどり着く。

 

「そっか、『さいきのいのり』はもう……」

 

 ポケモンには、休まずに使えるわざの回数に上限がある。トレーナーにとっての基本だ。『さいきのいのり』は一度しか使えないから、すでに『みかづきのはね』に使ってしまったベラカスちゃんにはもう使えない。『げんきのかけら』も『きずぐすり』も持ってきていない。どうすればいいか考えて……自分がやるしかないと気づいた。

 アタシが使えるポケモンのわざは、1.見たことのある 2.ノーマルタイプの 3.へんかわざ だけ。条件は満たしている。必死にベラカスちゃんが使っているところを思い出して、チカラをアタシから弱り切ったムウマージに送る。

 

「お願い……『さいきのいのり』」

 

 呟くと同時、辺りに淡い光が溢れた。成功したらしいことに安堵しかけて、まだ終わっていないと気を引き締める。ムウマージの様子を伺うと、ボロボロだったその身体が徐々に治ってきていた。ムウマージが、ゆっくりと瞼を開ける。

 

「っ、ムウマージ!大丈夫!?」

「……マージ」

 

 懐かしい、呪文のような声で一声鳴いて、ムウマージはふわりと浮き上がった。どうやら大丈夫みたいだと判断して、今度こそほっと息をつく。そんなアタシを、ムウマージは静かな赤い瞳でじっと見つめていた。なにかを問うようなその瞳をまっすぐ見つめ返して……アタシはムウマージにお願いする。

 

「アタシ、あなたたちを迎えにきたんだ。今度こそ、一緒に帰りたい」

 

 ムウマージが、驚いたように目を見開いたのがわかる。きっと、ムウマージは覚えている。アタシが、なにもできなかったことを。アタシのせいで、この森に来たことを。でも、謝るのはあとでいい。今はとにかく、ハツネを助けないといけない。

 

「だから、お願い。……力を貸して」

 

 頭を下げるアタシを静かに見つめたムウマージは、溜息に似た鳴き声をひとつ吐いてからなにか呪文を唱えだした。どうしたのだろうと顔を上げると、大木の表面が水のようにゆらゆらと揺らめいているのが目に入る。驚いてそのまま見つめていると、少しずつ大木の姿が変わって……違う、戻っていく。ムウマージが呪文を唱え終わるとそこには、大きな洞と、その洞のなかでぐったりと木に身体を預けている、ハツネがいた。

 

「ハツネっ!」

 

 弾かれたように駆け寄って、彼女の身体を抱きしめる。死んだように冷たくて……一瞬、最悪を想像してゾッとする。けれど、すぐに彼女の胸が規則正しく上下していることに気付いて落ち着いた。大丈夫、生きてる。まだ、間に合う。

 

「ベラカスちゃん、アタシに『スキルスワップ』」

 

 ゆらゆらと浮かびながらやってきたベラカスちゃんに『スキルスワップ』を指示する。これで、アタシの特性が『テレパシー』になった。抱きしめたハツネから漏れ出る、悪夢の気配を強く感じる。これならいけると確信して、ボールからペラップを出す。

 

「必ず戻るから。ベラカスちゃんと一緒にここを守ってほしいの」

「ホシイノ!」

 

 頼んだよ、相棒。そう呟いて、視線をハツネに戻す。その端正な顔を歪めて、悪夢に魘されている彼女に。もう少しだけ待ってて、すぐに助けるから。『みかづきのはね』を手に持って、ハツネとおでこを合せる。『テレパシー』で、深く、深く潜る。ハツネの、夢の中へ。彼女がずっと囚われている、悪夢の中へ。──アタシは、静かに目を閉じた。

 

 

 

〇

 アタシが目を開くと、そこはただ、ただ真っ黒だった。眼前に広がる闇は、どこまでも、いつまでも、ひたすらに真っ黒だった。暗い。暗くて、昏くて、冥くて、闇くて──黒い。

 闇の中で、アタシは一人立っていた。これが、ハツネの悪夢。吹き消されそうになる心を強く意識すると、わずかに闇が弱まった。胸元を見ると、松明のような弱いものながら……火が、そこにあった。

 

「ハツネを、探さないと」

 

 アタシは歩き出した。ここがハツネの夢なら、どこかに必ずハツネがいるはずだ。ただ真っ暗な空間で、アタシは歩みを進める。しばらく歩いていると、誰かの声が聞こえた。ハツネのものじゃない、誰かの声が聞こえた。

 

「──だ」

 

 なんとなく、そちらに歩みを進めた。手がかりがなくて、なにかあるかもしれないと思ったのかもしれない。そちらに歩みを進めて……。

 

「──お前のせいだ」

 

 ゾッと、背中が凍り付いた。こんなにも悪意に塗れた声を、アタシは聴いたことがなかった。アタシがすぐに逃げ出さなかったのは、きっとその悪意が自分に向いていなかったから。すぐに声のした方を見て……わずかな、マッチのそれよりもなお弱い火を見つけた。ハツネだ。そう直感した。

 

「──っ!」

 

 ハツネ、とそう言ったはずの声は言葉にならず闇へと吸われ、溶けて、消えた。この闇は、音さえも喰らってしまう。あの悪意に塗れた声だけがよく響いた。アタシがそれを否定しようとしても、アタシの声は聞こえない、届かない。

 

 「──お前のせいだ」違う、ハツネのせいじゃない。「お前が悪い」ハツネはなにも悪くない。「親が死んだのも」関係がない。「今お前が独りなのも」アタシのせいだ。「ずっと仲間外れだったのも」ハツネはなにも……「お前が死ぬのも」

 

「全部──お前が……」

「うるっさいッ!!!!!」

 

 『ばくおんぱ』を意識して、声を張り上げる。ゴウ、と胸元の炎が強く燃え上がる。大音量のそれに、闇に潜むナニカがひるんだのを感じた。迷惑そうな視線も感じる。だから、どうした。肩で息をしながら、闇を切り裂いてハツネのもとに近づく。もう、声は消されない。

 

「独りなんかじゃないよ」

 

 アタシの胸元の炎に照らされたハツネは、幼いあの頃の姿をしていた。一歩一歩、ハツネに歩み寄る。そんな泣きそうな顔をしないでほしい。ハツネには、笑顔でいてほしい。

 信じたいけど、信じられない。そんな顔でこちらを見上げるハツネを、そっと抱きしめた。耳元で、間違えないように囁く。

 

「ハツネは、独りじゃない」

 

 ちらりと揺らめくハツネの胸元の炎が、ほんの少しだけ強くなった。アタシは目を閉じて、アタシの胸に宿る炎を移すように、ひとつずつ、少しずつ彼女に教える。思い出してもらう。

 

「『わすれられたそうこ』のみんながいる」

 

 彼らは今も、あの場所でハツネの、アタシたちの帰りを待っている。ポットデス、ヒトモシ、ゴース、ゴースト、ヨノワール……たくさんのポケモンたちが、ハツネの帰りを待っている。

 

「ずっとハツネを守ってくれてた、相棒のあの子がいる」

 

 ムウマージは、十年間もずっとハツネを守ってくれていた。ずっと外に居ただろうに、ハツネは全くといっていいほど汚れていなかった。どれだけ大事に思っていただろう、どれだけ悲しく思っていただろう。

 

「……なにより、アタシがいる」

 

 言って、抱きしめる力を少しだけ強めた。アタシの想いが、少しでもハツネに伝わるように。どれだけそうしていたのか、アタシとハツネの体温に違いが感じられなくなったころ。ハツネが、ぽつりと口を開いた。

 

「……ほんとう?」

 

 不安に揺れる声だった。期待に震える声だった。抱きしめたアタシの肩を濡らしながら、ハツネは聞いた。

 

「本当に、私……ひとりじゃないの?一緒にいて、いいの?理由も、ないのに」

 

 ぽろぽろと感情をこぼしながら、彼女は問う。自分は独りじゃなくなってもいいのか。本当に、あなたの隣に居ていいのか。アタシが返す答えなんて、決まってる。

 

「当たり前でしょ。理由なんか、なくていいんだよ」

「……っ」

 

 そう返すと、幼い姿のハツネはアタシの肩に顔を埋めて泣き出した。ぽんぽんと、背中を叩いてやる。しゃくりあげるその声を聞きながら、アタシもハツネが生きていることを確かめて……安心した。しばらくそうしていると、泣き止んだのかハツネはアタシの肩から顔を離した。暗闇の中、アタシとハツネの炎があたりを照らしている。

 ぽ~っと呆けた様子のハツネに、アタシは提案する。……そういえば、初めて会ったあの日も一緒に歌ったような気がするな、なんて昔を懐かしみながら。

 

「ね、一緒に歌おうよ」

 

 笑顔で言うアタシに、ハツネは驚いた顔をしてから、ジト目になった。なにか不評だったらしい。どうしたの?と問いかければ、ハツネはもごもごと口を開く。

 

「こんなときに……歌、なんて……」

 

 その言葉に、アタシは笑みを深める。

 

「ううん、こんなときだから歌うんだよ。もしかして、忘れちゃった?」

 

 二人で歌うのって、すっごく楽しいんだよ。そう言えば、ハツネはまたきょとんとしてから、今度は笑顔になった。「なに、それ」と言いながらころころと笑うハツネ。そんなに笑うことないのにな、と思いながら見ていると、ハツネがふぅ、と息を整えた。

 

「いいよ。……歌おっか」

「うん!曲は……決まってるよね」

 

 ハツネもあの曲しかないと思ったのだろう、こくりと頷いて、アタシの手を握った。不思議に思って彼女の顔を見れば、満足気な笑顔。まあいいかと、すっと柔らかく息を吸う。

 ハツネと初めて会うキッカケになったあの曲。ハツネが母親から教えてもらったという、あの優しい曲。辛い時、嫌なことがあったときに勇気をくれる……優しい、アタシたちのおまじない。思い出した歌詞を、そっとなぞる。

 

「「────♪」」

 

 歌を歌う。声を、心を重ねた歌声が、ゆっくり闇に溶け込んでいく。もう、闇はアタシたちの声を遮らなかった。アタシたちの胸元で輝く炎がひとつになって、闇を照らす。橙だった炎が、金色に変わっていく。やっぱり、楽しくてたまらない。

 

「「────♪」」

 

 何者をも焼かない、ただ闇を照らしてくれる、優しい金色の炎。静かに、音もなく、螺旋を描いて登っていく。木の育つように、子どもが前に歩くように、少しずつ、少しずつ。私たちの想いが、闇を晴らしていく。

 

「「───……♪」」

 

 目を閉じて、祈るように歌うアタシたちの下に、一条光が降り注ぐ。天井に届いた炎は、この空間を照らし始めた。スポットライトのようだった光は、だんだんと太く、強くなっていく。歌が終わる。

 目を開くと、そこにもう闇はなかった。ただ、晴れ渡る青空が、どこまでも広がっていた。目の前に座るハツネは、いつのまにか大人の姿に戻っていた。これでようやく、アタシたちは一歩前に進んだんだと思う。そうだ、と思いついてハツネに質問する。

 

「ね、あなたの名前は?」

「……私は」

 

 唐突に名前を聞くアタシに、ハツネは一瞬驚いたような顔をした。でも、聞いておきたかった。あのとき、『わすれられたそうこ』で聞いたとき。お互いに忘れていたその名前を、十年越しに、今度こそ。

 

「私の名前は、ハツネ。ハツネミク。ユウレイさんなんて呼ばれてる……あなたの、ミクの、一番の親友」

 

 ハツネは立ち上がって、アタシに手を差し伸べながら……そう言って笑った。青空をバックに笑うハツネは、もうユウレイには見えない。どこまでも、ただアタシの親友の少女だった。いつまでも呆けているアタシに、なにか間違えただろうかと不思議そうな顔で首を傾げるハツネ。なんでもないと首を振って、アタシはハツネの手を取って立ち上がった。やっぱりいい名前だね、と言って。それから、伸びをひとつ。

 

「ん~……、さて、それじゃみんなのところに帰ろっか!今度は、二人一緒にね!」

「……うん」

 

 少しずつ、アタシの意識が薄れていく。夢が終わるのだろう。それに逆らうことなく、アタシは瞼を閉じた。最後になにか、ハツネの声を聞いた気がした。

 

 

 

〇

 私は目の前で光に包まれながら消えていくミクを、ただ眺めていた。正直に言えば、本当に悪夢を祓ってくれるだなんて思ってなかった。『みかづきのはね』だって、一枚しかないはずなのに。こんなところまでやってきて、私を助けようとしてくれて。だけど、ううん。だからこそ、私は申し訳なかった。二人で一緒に、と笑っていた彼女の顔を思い出す。

 

「……そうなったら、いいのにな」

 

 私は、きっともう助からない。悪夢を祓っても、悪夢が削っていった体力は帰ってこない。私が今日まで生きてこれたのは、ムウマージが『いたみわけ』で体力を分かち合ってくれたからだ。そのムウマージが倒れて、私はもう死に瀕している。瀕死の相手に、ポケモンのわざは意味がない。ミクのおかげでこんなに綺麗な青空も見られた。私は十分、救われた。だけど、だけど。ひとつだけ、心残りだ。

 

「ひどいこと、言っちゃった」

 

────たすけて、なんて。言わなければよかったな。

 

 

 

 

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みかづきのはね

 

つきのような 輝きを はなつ はね。

悪夢を ふりはらう 力を

秘めていると 伝えられている。

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