ゴーストミクとノーマルミクが最終的に結ばれる話(仮題) 作:新品のタタリモップ
「あ゛~、つっかれた~」
ようやくスタッフさんへの挨拶巡りも終えてほとんど自室同然の控室へ帰ってきたアタシは、上着も脱がないでソファに身を投げ出した。衝撃でメガネが吹っ飛んでソファの下に落ち、カランと音を立てる。時計はもう深夜と呼べる時間を指していた。ペラップが構ってくれとばかりに飛んでくるけれど、もう少しだけ休ませてほしい。この一週間ずっと準備やらライブやらで動き通していたからへっとへとなのだ。というか、ほとんど一緒に活動してたのになんでこんなに元気なの、この子は。クッションに顔をうずめたまま、誰に向けるでもないひとりごとを言う。
「やっぱり三日連続ライブなんてうけるんじゃなかった」
「ナカッタ?」
「うん、なかった……」
ペラップのオウム返しに適当に言葉を返しながら、寝返りをうって天井を見上げる。蛍光灯がまぶしいので手を顔の前に持ってきて……この一週間を思い出す。今までにないくらいの密度でライブをして歌を歌った。実りのある時間だったと、自信を持って言える一週間だった。結局、最後まであの違和感は抜けなかったけれど。やっぱりがむしゃらに歌を歌うんじゃダメってことなんだろうか。はぁ、とため息をひとつ吐く。
「アタシ、やっぱり焦ってるよなぁ……」
焦るのは良くない、なんてことはもちろんわかってる。だけど、もうスランプに陥ってから数か月。誰も気づいていないとはいえ、自分が納得できていないものを世の中に発信しているというのは、こう、一介のミュージシャンとしては思うところがあるわけで。このままだったらどうしよう、なんて考えだって過る。
ああダメだ、疲れているとどんどん思考が後ろ向きになる。アタシの様子を見たペラップがペラ?と鳴いて心配そうにのぞき込んでくるのに、大丈夫だよと声を掛けて頭を撫でてやる。ああ、そういえば。誰も気づいてないなんて言ったけど、スランプに気付いた人が一人だけ居たのを思い出す。人間離れをした容姿で、そしてたぶん人間じゃないだろうあの人。
「……ユウレイさん、なにしてるのかな」
だいたい1ヶ月前のあの日から、ほとんど毎日会いに行って色々と話したけど、ここ一週間は忙しくて会いに行けていない。でも。そう、それでも、目を閉じれば鮮明に思い描くことができてしまう。初めて会ったあの日、あの歌声を。アタシに向けられた、黄色くてあやしいひかり、不敵な笑み。震えた鼓動を、アタシの心臓は覚えている。ぶるりと震えた身体を、アタシのココロは覚えている。
「……──♪」
優しく、音符をなぞるように歌を歌う。本当に疲れているから、力も籠っていない弱弱しい歌。……アタシの、好きな歌。代名詞になってる『ハイパーボイス』を意識した歌い方なんて見る影もないけど、まさか防音もされてない控室であの歌い方をするわけにはいかないし。身を起こして、ソファに座りなおす。すっと柔らかく息を吸って歌を続ける。
「──♪」
いつ知ったかもわからない、歌詞も覚えていないから、メロディをララ、と口ずさむだけ。でも、アタシがちっちゃいころから知ってる、大好きな歌。疲れたときに口ずさむと少しだけ元気になれる、アタシのおまじない。横目でペラップを見れば、心地よさげにしっぽをゆっくりと振って歌に身をゆだねているようだった。
「──♪、さて、と。今日はもう寝ちゃおっか、ペラップ」
「ネチャオ!ネチャオ!」
歌い終えて、ペラップに声をかける。このソファはベッドも兼任してるから、あとは毛布を被れば寝られるんだけど……毛布どこだろ?いつもはソファの端にかけてあるのに、今その位置にはなにもない。
「ペラップ、毛布しらない?」
「シラナイ!」
……これは知らないってことでいいんだよね?ペラップとは長い付き合いだけど、このオウムがえしはたまにややこしいから困る。しかし困ったな、毛布なんてそうそう無くなるものでもないと思うんだけど。どこにやったか考えていると、ぽんぽんと肩を柔らかいもので叩かれた。振り返ると、毛布がふわふわと浮かんでいる。受け取れとばかりに近付いてきた。
「ありがとう……」
「アリガト~!」
ペラップと一緒にお礼を言って、毛布を受けとった。そして気付く。……毛布が浮いてる。とくせい『ふゆう』のポケモンみたいに。これは、もしかして。いや、もしかしなくても。アタシは目にチカラを集めた。
「『みやぶる』」
「…………」
「……なにやってるの、ユウレイさん」
『みやぶる』を使うと、やっぱりユウレイさんがいた。お風呂でやる顔の下半分を湯舟につけるやつを床でやっている。要するに、顔の上半分だけが床から生えている状態だ。不機嫌です、と言わんばかりのジト目でこちらを見て……よく見ると頬も膨れている。いつも無表情のユウレイさんには珍しいのだけれど、正直顔の上半分が床から生えてる状態の方がずっと珍しいからあまり気にならない。ぶつぶつと、見えないけどたぶん唇をとがらせてユウレイさんが喋る。どうやって発音しているのか少し気になる。
「……言った」
「え?」
「毎日来てくれるって……言った」
言われて思い出す。たしかに、初めて会ったときにそんなことを言った気がする。……もしかして、それで来たのだろうか。アタシが来ないってだけでこんなにむくれて?どうしよう、ちょっと可愛い。ふふ、と笑みを浮かべながら「ごめんごめん」、と謝る。笑われたと思ったのか、ユウレイさんの眉間に寄った皺が深くなった。
「最近ちょっと忙しくってさ」
「知ってる……ミクが疲れてるのも本当だし、仕事は仕方ないから……怒ってるけど、そっちはゆるす」
そっちは、っていうのが気になるけど、思ったより簡単に許してくれた。ふくれっ面をしぼませてから、ユウレイさんはふわりと床から浮き上がる……というか生えてきた。そのままふよふよと宙を舞って、アタシの隣に腰を下ろす。そして、はい、と言ってなにかを渡してきた。なにやら丸い、白地に黒で円が書かれたものだ。なんだろうこれ、と見分する。
「なにこれ。マト?」
「それは……『ねらいのまと』。持たせたポケモンの無効タイプを、無くしちゃうアイテム。倉庫にあったから……もしかしてと思って……」
そう説明するユウレイさんを見ると、まだどこか不満げな様子だ。さっき「そっちはゆるす」って言ってたし、会いに行かなかった事とは別になにか不満なことがあるんだろうか。
「ねぇユウレイさ……んわっ!?」
何に怒っているのか聞こうとした瞬間、ユウレイさんに引っ張られてバランスを崩してしまった。そしてそのまま、すとん、と。ユウレイさんの足にアタシの頭が乗っかる。いわゆる膝枕の形だ。状況がつかめずに目を白黒させていると、ユウレイさんが白い手を袖から出して頭を撫でてくれた。あ、ひんやりしていて気持ちいい。
「いや、じゃなくて!どういうこと!?」
「ミク、いま『ねらいのまと』……持ってるから」
質問の意図をどうしてさわれるのかだと思ったらしく、ユウレイさんがそう返してくる。無効タイプを無くしたってこと?アタシはポケモンじゃないんだけど。でも、たしかにユウレイさんからアタシには触れないし、お互いポケモンのわざが使えるし、そんなこともある……のかな。って、いやいや違う、そうじゃなくて。
「そうじゃなくて、なんで急に膝枕なんて……」
「無理、したでしょ」
遮るように言われた言葉が予想外で、一瞬思考が止まる。こちらを見下ろすユウレイさんは、またふくれっ面に戻っていた。たぶん、三日連続でライブをしたことを言っているんだと思う。たしかに初めての挑戦ではあったけど他にもやってる人はいるし、そこまで無理ってわけでもないよ、と伝える。しかしユウレイさんは首を振って、アタシの頭を撫でながらぽつりと言葉を返した。
「ミク……すごく疲れてる。それに……普通はライブの設営準備にまで手を出さない」
「う……」
「休憩も……大事」
それを言われるとその通りなんだけど……スランプのアタシが自分の思い通りのライブをするためには、会場の細かい配置まで覚えた方がいいと思ったのだ。そう言おうとするのを、ユウレイさんが手で制した。
「別に……それをやめろってわけじゃない。でも、無理して倒れたら……大変だから。叱るためにきた。ミク……無理しちゃ、ダメ」
そう呟くように言ってから、少し間をあけてユウレイさんは言葉を続けた。いつもよりさらに小さい声で。
「私も……心配するから」
そう言うユウレイさんの目は、本当に純粋にこちらを心配していた。『みやぶる』を使わないとユウレイさんのことは見えないから、もしかすると、準備中もアタシのことを見に来てくれていたのかもしれない。「ごめん」、と謝る。「もうしないでね」と、小さく微笑むユウレイさんの顔を見ながら、たしかに一週間ほとんど動き通すのはやりすぎだったかもな、と反省する。後半はテンション任せだったしな、と改めて思い返していると、ユウレイさんの声が上から降ってきた。
「それに、なんだか焦ってるみたいだから……癒すついでに……悩み、聞いてあげる」
「うぇ?」
間抜けな声をあげて上を見れば、そこにはフンス、と擬音がつきそうなくらいにやる気満々のユウレイさん。やる気を出してくれてるところ申し訳ないけれど、これ以上甘えるわけにも行かないし、流石に断ろう。
「あー、ユウレイさん、アタシは大丈夫だよ……?」
「うんうん、わかってる」
そう言って頭を撫でてくるユウレイさん。これ諦める気ないな。どうにか逃げる手段はないか考えて、ペラップに助けを求めようと部屋に視線を走らせる。居た。アタシの上着を布団にして寝てやがる……!頼れる相棒がまったく頼りにならないのを確認してしまい、どうしようかと目を右往左往させて……ユウレイさんと目が合った。
「ミクの力になりたいから。……聞かせて……?」
純粋にアタシを心配している目で見つめて、ユウレイさんはそう言った。観念、しようかな。正直一人で抱え込むのも疲れてきたところだし。……心配、かけちゃったし。ふぅ、と息をついて、一言一言、間違えないように言葉を吐きだす。
「ねぇ、ユウレイさん。アタシのライブ、どうだった?」
初めて会った日と同じ質問に、ユウレイさんは少し迷うような様子を見せる。正直に言っていいよ、と伝えると、少しだけ申し訳なさそうにしながら口を開いた。
「正直……あんまり」
その言葉に、「だよね」、と返す。
「アタシ、スランプだって言ったじゃん?自分で歌ってる感じがしないって」
「うん」
「今はまだどのお客さんにも気付かれてない。けど、本当はこんなもんじゃない。本当のアタシの歌はこんなもんじゃないって、たぶん、アタシだけが知ってる」
そう。ユウレイさんも、スランプじゃないアタシの歌は知らない。言ってるうちに、言葉に熱がこもる。やっぱり気づかないうちに色々溜まってたのかもしれない。ユウレイさんは、静かに、確かに、アタシの話を聞いている。
「それが、申し訳ないんだ。アタシを見に来てくれてるのに、ちゃんとアタシを見せてあげられないのが」
そうだ、アタシは申し訳なかったんだ。アタシのために遠くから来てくれるお客さんがいる。アタシの歌に勇気をもらったって言ってくれるお客さんがいる。疲れを吹き飛ばしにくる人がいる。純粋に歌を楽しみにくる人がいる。評価しに来る人がいる。難癖をつけにくる人だって、もしかしたらいるかもしれない。いろんな人がいて、でもみんな、アタシの歌を聞きに集まって来る。そんな人たちに聞かせるのが、アタシが納得できていない歌だなんて、そんなの。
「ひどい話じゃない?」
「……」
自嘲するように言ったそれに、ユウレイさんはなにも返さない。もしかすると、返せないのかも知れない。まだ1か月程度の付き合いだけど、ユウレイさんはとてもやさしい人だって、私は知ってるから。困らせちゃったかな。空気を変えるために口を開こうとして、ユウレイさんの言葉がそれを遮った。
「ミクは……どうして歌ってるの?」
アタシを責める感情なんて一切ない、優しい声色だった。それでも嘘を許さない鋭さがある、矛盾を孕んだ不思議な声だった。聞かれたアタシはすぐに言葉を返す。取材でよく聞かれることだったから、ほとんど反射的に。
「それはもちろん、みんなのために歌ってるよ」
言ってから、違和感に気付いた。どこに違和感があるのかはわからない、スランプのときと同じような違和感。あれ、と不思議に思う。今まで取材に答えたときは、こんな違和感なかったのに、と。「本当に?」と、ユウレイさんがのぞき込むように目を合せて再び問うてくる。今度はすぐに返すことなんてできなくて、言葉に詰まる。
「アタシ、は……」
アタシ、なんで歌ってるんだっけ。なにか、大事なことを忘れている気がする。ぐるぐると頭の中がかき混ぜられるような感覚を覚える。少しずつ、呼吸が早くなる。自分の根幹が揺らぐのを感じて……アタシの頬に、ぴと、と冷たい何かが触れた。いつのまにか閉じていた目を開くと、ユウレイさんが私の頬に手を添わせている。ぼんやりとユウレイさんを見上げた。大丈夫、落ち着いて、と。そう言ってアタシの頭を撫でるユウレイさん。だんだんと落ち着いてきたアタシに、ユウレイさんは言う。
「ミクは……もっとワガママでいいと思う」
「……アタシ、今でもけっこうワガママじゃない?」
そう言えば、ユウレイさんはふるふると首を振って否定する。
「たぶん、ミクは誰かのために歌わなくちゃダメだって……そう思ってる」
「……」
「だから、自分のために歌ってみるのも……いいと思う。もし難しいなら、自分の思う……誰かのために」
言われてしまうと、心当たりがないわけじゃなかった。でも、そんな風に歌ってもいいんだろうか。自分のために歌っても。みんなに聞かせる歌を、一人のために歌っても。ふわふわとした、宙に浮いているような不思議な感覚に襲われる。けれど、さっきみたいな嫌な感じじゃない。すごく、あたたかい感じ。
ふと、ユウレイさんが小さく「あ」、とこぼした。どうしたのだろうと見上げると、少し申し訳なさそうにユウレイさんが言う。
「ごめん、そろそろ……時間切れみたい」
時間切れ?と不思議に思った瞬間、ユウレイさんの足がアタシの頭をすっとすり抜けて、アタシはぼすん、とソファに落下する。なんで!?
「わっ!?えっ!?」
『ねらいのまと』持ってるのにすりぬけた!?と、急いで身を起こして手に持っていた『ねらいのまと』を見ると、かなり大きな亀裂が入っている。えっ?もしかして壊しちゃった!?と、慌ててユウレイさんの方を向けば、アタシの様子を見てくすくすと笑っていた。アタシの反応が面白かったらしい。とりあえず怒ってはいないようなので、説明を求める。
「その『ねらいのまと』は……壊れかけ。だから、あんまり長く使えない」
「そっかぁ……」
もう壊れちゃった、と無表情ながら残念そうに言うユウレイさん。アタシとしても残念だ。これからはもっとユウレイさんとスキンシップを取れると思ったんだけどな。毎回膝枕されるのはさすがにちょっと恥ずかしいけど、頭を撫でてもらうのは気持ちよかった。ちょっと名残惜しさを感じて、ソファの上で壊れた『ねらいのまと』を見つめていると、ユウレイさんが声をかけてくる。
「悩みは……よくなった?」
「あ~、う~ん……」
どうなんだろう。アタシの悩みは、たぶん解決はしてない。むしろ新しい問題が出てきたような気もするし、一瞬パニックになりかけもした。でも、気持ちは晴れて、すごくスッキリしたと思う。
「たぶん?」
自分でもやっぱりよくわからなかったから、曖昧な返事になってしまった。ユウレイさんはそっか、と言ってふわりと浮かぶ。もう帰るつもりなのだろう。床に真っすぐ飛ぼうとするユウレイさんに待って、と声をかける。
「ねね、最後にアタシの歌聞いてってよ。今ならちょっとはマシなの歌える気がするんだ!」
悩み聞いてくれたお礼に、リクエストしていいからさ!と言うと、ユウレイさんは少し悩むような素振りを見せてから口を開いた。今のアタシの歌がお礼になるかわかんないけど、ユウレイさんが欲しい歌を歌うなら少しはお礼になるかも知れない。
「じゃあ……さっき歌ってたやつがいい」
そう言われて、アタシなんか歌ったっけ、と記憶を探る。もしかして、『みやぶる』を使う前に歌ったあの曲だろうか。いや、待って。なんで知ってるの!?聞いてたの!?
「んぇ!?あれ聞いてたの!?ちょっと恥ずかしいんだけど!」
慌てた様子のアタシを見て、ほんの少しだけ口角をあげるユウレイさん。ほんとに人を揶揄うのが好きなんだな、じゃなくて。そういえばいつからユウレイさんは居たのだろう。
「あ゛~、つっかれた~……って、ソファに飛び込むとこから……?」
「いっっちばん最初じゃん!」
完全に油断してたから恥ずかしい。クッションに顔をうずめて恥ずかしいのを誤魔化す。うう、聞かれてるならもっとちゃんと歌えばよかった、なんて後悔していると、頭上からユウレイさんの声が降って来た。
「でも……すごくよかった。ミクが歌ったなかで……いちばん、響いた」
「……も~!褒められると怒れないじゃん!」
いちばん響いた、だなんて殺し文句を言われたんじゃ、怒れないし断れない。はぁ、とため息をひとつ吐いて、ソファから立ち上がる。歌い出すとわかったのか、ユウレイさんが入れ替わるようにしてソファに座った。
控室の中央まで歩いて、さっきの話を思い出した。自分のために、自分が思う誰かのために歌う。なら、今回は誰のために歌おうか、なんて思って。考えるまでもなく答えは出た。お礼のつもりなのだから、目の前でお行儀よく座っている彼女のために歌う以外、ありえないじゃないか。それに、ワガママになっていいなんて言ったのはユウレイさんなんだし。実験台になるくらいの責任は取ってもらわないと。
アタシは鋭く、大きく息を吸って……少し間を空けて、ふう、とそれを吐き出した。ユウレイさんが不思議そうな顔をしているけれど、よく考えたらこれはそういう、大声で歌うような曲じゃない。もうアタシの記憶にはないけれど、きっと、この曲は……ささやかなおまじないだったと思うから。
アタシは息を吸いなおす。今度はすっと、さっきよりずっと柔らかく。肺に空気を、心に感謝を。いつもと違う落ち着いた心で、アタシは歌にココロを込めた。
〇
歌い終えて、ふぅと一息つく。違和感はまだ残っているけれど、久しぶりに歌ってて楽しかった気がする。まだ震えているような気がして、手を喉にそっと添わせてみた。もちろん、もう振動しているわけなんかないんだけど、なんとなく。
そうして余韻に浸っているとソファの方からぱちぱち、と音が聞こえてきた。見れば、ユウレイさんが拍手をしていた。優しい微笑みを浮かべながら、バカみたいに手を叩いてる彼女を見て笑みがこぼれる。
「どうだった?」
「今までで……いちばんよかった」
また「いちばん」なの?と軽口を送れば、更新されたからしかたない、と返される。嘘なんてひとつもないだろうその言葉に、賞賛に、さらに笑みが深くなるのを感じた。これ以上はちょっと見せられない顔になりそうだから、タタっと小走りでソファに戻ってユウレイさんの隣に腰かける。座ってから思い立って、黙ってユウレイさんと目を合わせた。不思議そうな顔でどうかしたの、なんて聞いてくるユウレイさんに、ちゃんとお礼を言う。
「その、ありがとね!」
「ううん……友だちとして、当たり前」
「ん~、それでもやっぱお礼言わせて。久しぶりに、歌って楽しかったからさ」
そっか、よかった、とほほ笑むユウレイさん。お礼のつもりで歌ったんだけど、なんか更に貰っちゃってないだろうか。でも、これはこれでいいのかもしれない。今度はユウレイさんが困ったときに助けるくらいで、友達って案外そういうものかもしれないな、なんて思う。そういえば、と気になったことを聞いてみる。
「どうしてこの曲をリクエストしたの?」
そこが少し不思議だった。確かにいい曲ではあるけど、歌詞も覚えていないラララだけで歌った曲をリクエストするのは少し変わっているような気がする。イタズラのため、ってわけでもなさそうだったし。聞かれたユウレイさんはちょっと悩んでから、たどたどしく答えた。
「懐かしい気持ちに……なった、から?」
「懐かしいって、あの曲が?」
ユウレイさんは「たぶん」、と返して不思議そうな顔をしている。本人があんまり気にしてないから忘れそうになるけど、記憶喪失なんだよね、ユウレイさん。もしかするとこの曲が手がかりになるかも知れないけど……。
「アタシもこの曲のことあんまり知らないからな~……」
「?」
身体をのけぞらせて呻くアタシを見て小首を傾げるユウレイさん。この曲のことがわかればユウレイさんの過去もわかるかも知れないことを伝えると、その手があるのかと言わんばかりに手をポンと打った。いや、だからこの曲の情報が少なくて困ったねって話なんだけど……。
「ユウレイさんは、アタシの歌でなにか思い出したりしなかった?」
「……それっぽいのは……思い出した、かも」
ダメ元で聞いてみると、意外な返事が返ってきた。少しでも思い出せたのって結構なビッグニュースなんじゃない!?どんな記憶を思い出したのか身を乗り出しながら聞くと、「え、えっと」と言ってユウレイさんが目を閉じて話しだした。
「小さい私と……ポケモンが遊んでる記憶、だと思う」
「それ、どんなポケモンだったかわかる!?」
むむむ、と眉間にしわを寄せて唸るユウレイさん。少し待つと、またぽつりと話し出す。
「たぶん、ゴーストポケモン。……ごめん、これ以上は……思い出せなさそう」
「あ、ううん!こっちこそいきなり色々聞いてごめん!」
申し訳なさそうに謝ってくるユウレイさんに慌てて謝り倒す。よく考えたら記憶喪失の人に対してこんな風に詰め寄るのよくないんじゃないだろうか。これからは気をつけないと。
「あ、そうだ。この歌で記憶がちょっと戻ったんだったら、スランプを脱却したアタシの歌声なら全部思い出せるんじゃない?」
「……そう、かな?」
「そうだよ、絶対!……いや、たぶん?」
さすがに絶対って言いきるだけの自信はなかった。アタシの歯切れか悪い宣言を聞いたユウレイさんは、キョトンとした様子で目を丸くしたあと、パッと花がほころぶような笑顔になった。その笑顔があんまり綺麗だったから、一瞬固まってしまう。見惚れた、と表現する方が正確かもしれない。ユウレイさんはそんなアタシの事情にはお構いなしで、そのまま耳に口を寄せて囁いた。
「じゃあ……楽しみに、してるね」
耳をくすぐるようにそう囁くと、ふわふわと浮いたユウレイさんは「おやすみ」、と言い残して床へ吸い込まれるようにして消えていった。
「……」
ユウレイさんがいなくなった部屋で、アタシは呆然としていた。というか、悶々としていた。いつものイタズラかもしれない。というか、十中八九そうだとは思うんだけど。けれど、『みやぶる』を使っていたアタシには見えてしまったのだ。ソファからふわりと浮き上がったとき、ユウレイさんの耳が、すこしだけ赤くなっていたのを。見間違いだったんだろうか、いや、でも……。
「……寝れないじゃん、ユウレイさんのバカ」
今夜はちょっと長そうだ。とりあえず、ずっと寝ているペラップを起こしてやろう。
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名前 ペラップ ♂
タイプ ノーマル ひこう
のんきな 性格。
--年--月--日
ミクの家 で
Lv.5のときに
出会った。
昼寝を よくする。
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こわれたまと
おおきくなヒビが 入った ねらいのまと。
なんの効果も ない。