ゴーストミクとノーマルミクが最終的に結ばれる話(仮題)   作:新品のタタリモップ

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十月のハロウィン

「ハロウィンの予定?」

 

 空いてるけど、それがどうかしたの?と、予定を聞いてきた張本人であるユウレイさんに質問を返す。今日は十月の初め、時間は夕刻。アタシは例のごとく『わすれられたそうこ』で紅茶を啜っていた。ここにも慣れてきたものだな、なんて思いながらお茶を飲む。この前調子に乗って二杯飲んだら体調を崩したので、一杯を大事に。ペラップとベラカスちゃんはゴーストポケモンたちとなにやら遊んでいる様子で、時折声が聞こえてきていた。

 それにしても、ユウレイさんから予定を聞いてくるなんて珍しい。そこまで暇なわけじゃないアタシの予定が空いていたのはラッキーといっていいんじゃないだろうか。マネちゃんがあそこまで敏腕じゃなかったら、たぶんもっと忙しいのだろうけど。

 

「えっと……行きたい場所があって。……ミクと一緒に」

 

 ミクと一緒にのあたりで恥ずかし気にもじもじとするユウレイさん。ほとんど無表情だけどほんのり頬が赤いユウレイさんを見て、「デート」の文字が頭を過ったので、すぐさま掻き消す。初めて出来た友人を──そろそろ親友にランクアップしてもいいかな、いいよね──初めて出来た親友を遊びに誘うのだから、緊張くらいするだろう。変に期待するべきじゃない。……期待?

 

「えっと……ミク?」

 

 アタシが自分の言葉に引っ掛かりを覚えていると、なかなか返事をしないアタシを不安に思ったらしいユウレイさんが顔を覗き込んで名前を呼んできた。気付いたらユウレイさんの顔が近くにあるものだから、びっくりして思わずのけぞってしまう。

 

「んわっ!?ゆ、ユウレイさんどうしたの!?」

「ミク、なんか変。……一緒に行くの、嫌?」

 

 しょんぼりした様子でそう言うユウレイさんに、慌てて「まさか!」と否定を返す。

 

「ちょっと考え事してただけだよ!ユウレイさんから誘ってくれるなんて初めてだしすごく楽しみ!あ~どこに行くのかな~!」

 

 自分でも早口になっているのがわかるくらいの速さで、手を意味もなく振りながら必死にまくしたてる。ちらっとユウレイさんの方を見れば、きょとんとした表情をしている。そして、一拍置いて微笑んだ。

 

「そっか……よかった」

 

 どうやら誤魔化せたみたいだ。いや、別に隠すようなことはなにもないのだけど。どうして自分があんなに慌てたのか考えようとして、頭を振って思考を散らした。別に今考えるようなことでもない。そういえばどこに行くのかまだ聞いていないことに気付いて、ユウレイさんに聞く。

 

「それで、どこに連れてってくれるの?」

 

 聞かれたユウレイさんは手でちょっと待ってと示してから、紅茶を口にした。いつになく上品に紅茶を飲んだユウレイさんは、カップをソーサーの上に戻して口を開いた。

 

「ミク……そのメガネの話、しない?」

「ちょっと誤魔化すの下手すぎない?」

 

 あんまりにもあんまりな誤魔化し方だったのでついツッコんでしまう。あと、メガネはトレードマークなんだから外す気ないってば。

 

「……天気、いいね」

「今日雨だし、ここ地下だから見えないでしょ」

 

 続く言葉も誤魔化し……意味を為してはいないけど、たぶん一応誤魔化しだった。アタシの人生における誤魔化すのが下手な人ランキングは見事に更新されてしまったが、しかしそんなに言いにくい場所なんだろうか。もしかして危なかったりする?と聞くと、ユウレイさんはハッとして、泳ぎまくっていた目をしっかりこちらに向けてからそれはないと思う、と言った。

 

「ちょっとした、パーティみたいなもの……だから」

「ふ~ん?」

 

 今度はアタシが紅茶に口をつける。どうやら行く場所だけがヒミツらしい。ハロウィンパーティってこと?とアタシ。そんな感じ、とユウレイさん。

 

「それで、場所はどこなの?」

「待ち合わせは……ここで大丈夫」

 

 ここっていうのは、この『わすれられたそうこ』のことだろう。待ち合わせ場所だけを答えるあたり、本当に場所を教える気はないみたいだ。……ユウレイさんには七夕の願い事も秘密にされてるし、ちょっと意地悪しちゃおっかな。

 

「そっか、それで場所は?」

「え……えっと、あの、ペラップにごはん……あげた?」

 

 下手な誤魔化しを続けるユウレイさんに、こちらも畳みかけて応戦する。

 

「あげたよ。それで、どこに行くの?」

「こ、紅茶……おかわり、しない?」

「まだあるから大丈夫。ね、パーティの場所はどこなの?」

「う、え、っと……おかし!お菓子たべない?」

「今はいいかな、ねね、場所は?」

 

 うぅ~……と唸って頭を抱えてしまったユウレイさん。ちょっとやりすぎちゃったかも知れない。謝ろうと少し身を乗り出すと、こちらを上目遣いで見るユウレイさんと目が合った。少しだけ涙目で、唇を尖らせている。

 

「……いじわる」

 

 拗ねたようにそう言うユウレイさん。…………どうしよう。ものすごく可愛いんだけど、ものすごくいじめたくなる。いやいや、これ以上は可哀想だからやめてあげないと!いや、でももう少し続けるのもアリか……?

 まだ続けるか謝るかの熾烈な戦いを脳内で繰り広げていると、乗り出したままの姿勢で固まったアタシにユウレイさんが「ミク……?」と声をかけてきた。その声で正気に返ったアタシは、謎の衝動を抑え込んでユウレイさんに謝る。

 

「なんでもないよ!それよりごめん、ちょっと意地悪しすぎちゃった」

「……ゆるす」

 

 許されたらしい。もう場所は聞かないことを伝えて時計を見る。針は八時過ぎを指していて、結構いい時間だ。

 

「あ、ごめんユウレイさん。明日ちょっと忙しいから、そろそろアタシ帰るね」

「あ、うん……わかった」

 

 パタパタと帰り支度を整えて、『わすれられたそうこ』のドアから廊下に出る。相変わらず寒々しいなぁ、と思いながら、振り返ってユウレイさんに声を掛けた。

 

「それじゃユウレイさん、また明日」

「うん、また……明日」

 

 そう言って、なにかイタズラっぽい顔を浮かべたユウレイさんは、思いついたように言葉を続けた。

 

「デート……楽しみにしてる」

 

 じゃ、と言って閉められるドア。取り残されるアタシとペラップ。ボールの中で寝てるベラカスちゃん。取り落としたバッグが、ドサリと音を立てた。

 い、今ユウレイさんデートって言った?遊びに行くのが楽しみ、じゃなくて?いや、きっといつものイタズラだ、揶揄っているだけだ。そう自分に言い聞かせても、ドキドキと早くなった心臓は収まってくれない。

 

「デート!デート!」

「ちょ、ペラップやめて!」

 

 とりあえず、明日の仕事は寝不足で辛いことになりそうだ。

 

 

 そして迎えたハロウィンの日。アタシはユウレイさんに言われた通り『わすれられたそうこ』に向かっていた。結局、あれから何度聞いても行く場所は教えてくれなかったし、ユウレイさんが最後に言ったデートって言葉の真意についてもイタズラっぽく笑うだけだった。だから、というわけではないけれど、今日のパーティーはすごく楽しみだ。ちょっと浮足立つような足取りで進んでいると、すぐにいつものドアが目に入った。

 

「ユウレイさん、来ったよ~!」

 

 半ば叫ぶような声量でそう言って、勢いよくドアを開ける。中にはユウレイさんがふわふわと浮かんでいて、その周りにはたくさんのゴーストポケモンが……あれ、いない?

 

「ミク……トリック・オア・トリート」

「んぇ?」

 

 きょろきょろと忙しなくあたりを見渡すアタシに、ユウレイさんがお決まりの言葉を投げかけてくる。アタシは待ってましたとばかりにバッグに手を入れて、用意したお菓子を取り出した。あれ?こんなにもふもふしてたっけ。

 

「はい、ユウレイさん!ハッピーハロウィン!」

「ミク……それ、ペラップ」

 

 え?と驚いて前に出した手を見れば、そこには満足気な顔でけぷ、と息を吐くペラップの姿。……こ、コイツ食べたな?ユウレイさんと好きな味が同じだからってコイツ!アタシがペラップをもみくちゃにしていると、ユウレイさんが声を掛けてきた。

 

「ふふ。じゃあ……イタズラ、だね」

「う……お、お手柔らかに?」

 

 そう言うと、ユウレイさんはテレビの方へ手招きするようなポーズをとった。なんだろうとテレビの方を見ると、中からヨマワルの生首が飛び出してきた。

 

「ひっ!?」

 

 びっくりしてその場に尻もちをついてしまう。そうしている間にもヨマワルの生首はじりじりと近づいてきて……。

 

「ロトム……『トリック』」

「わっ!?なに!?」

 

 ユウレイさんがなにか言ったかと思うと、急に視界が狭くなった。狭くなった視界であたりを見回すと、そこに生首ヨマワルはいなくて、ロトムとユウレイさんが大成功とばかりに笑い合っている。よく見るとロトムがアタシのトレードマークたるあのメガネをかけているのが目に入った。そこで先程ユウレイさんがなにを言ったのか理解し、いつのまにやら顔に装着されていたものを外す。手に取って見ると、それはお面だった。

 

「な、なるほど。ヨマワルのお面を持ったロトムが『トリック』を使ったのか……」

「うん……そういうこと」

 

 簡単なイタズラだった。手の中にあるお面はけっこうチープな造りで、アタシが着けると口元が出るくらいの大きさ。これであそこまで驚いた自分がちょっと恥ずかしいくらいだ。見事にしてやられたアタシがうぐぐと唸っていると、ユウレイさんから声を掛けられる。

 

「今日のパーティでは……そのお面を着けて、外さないでね」

「え?うん、それはいいけど……なんで?」

 

 そう聞くとユウレイさんは今までになく真面目な顔になって、内緒話をするような声色で言った。

 

「大丈夫だとは、思うけど……連れてかれるかも、だから」

「連れてかれる?」

 

 いまいち意味のよくわかっていないアタシの言葉に、ユウレイさんはうんと頷いた。よくわかんないけど要はこのお面さえしていればいいみたいだし、そんなに心配することでもないだろう。それよりあのメガネはちゃんと返してもらえるんだろうか。なにやら気に入ったらしいロトムとユウレイさんのあのメガネへの執着を考えると返してもらえない可能性もある。

 

「じゃあ……行こっか」

「え?ここでやるんじゃないの?」

 

 そんなことを考えているアタシにユウレイさんは声をかけてきた。まるで移動するかのようなセリフに首を傾げると、ユウレイさんも不思議そうな顔で首を傾げる。

 

「ここだと……ちょっと狭いから。この子の家で……やることになった」

 

 そう言って先程から辺りを飛び回っているロトムを指さすユウレイさん。このロトムの家でやるってことなんだろうか、でもどうやって行くのだろう。アタシはテレビで移動するなんて無理だし。ふと、少し俯き気味に下を見ていたアタシの視界に青白い手が映りこむ。視線をあげてみれば、そこにはユウレイさんがイタズラげな笑みで手を差し出していた。

 

「私からだと……握れないから。ミクから、お願い」

 

 少しだけ照れたようにそう言うユウレイさんに見惚れてしまって、半ば無意識に、誘われるようにその手を取った。アタシの手を両手で包み込むように、祈るような姿勢になったユウレイさんは、目を瞑って口を開いた。

 

「『ハロウィン』」

 

 瞬間、ミクの身体が一瞬光ったかと思うと絵本に出てくるようなお化けたちがあふれ出した。彼らは一様に楽し気で、イタズラっぽい笑みを浮かべてアタシたちの周りをぐるぐると取り巻く。そして最後にぱっと光って、アタシはそのまぶしさに目を閉じた。次に目を開いたときには彼らの姿は影も形もなくて、一瞬の出来事にアタシは目を白黒させる。そんなアタシを見てクスリと笑ったユウレイさんがふわりと浮いて、握ったままのアタシの手を引いた。当然、アタシの身体は重力に縛られているから浮かび上がるはずもなく……。

 

「えっ!?えっ!?」

「ふふっ……」

 

 重力なんて知らないとばかり、風船のように浮き上がった。予想外の出来事に、アタシは困惑の声を上げる。文字通り地に足がつかない感覚に困惑するアタシを見て、楽し気にユウレイさんが笑った。

 

「ちょ、ユウレイさん!?これどういう……」

「『ハロウィン』は……ゴーストタイプを追加する、わざ。今のミクは……アタシと同じ」

 

 ユウレイ、だよ。と言って笑ったユウレイさんの顔は、今までにないぞっとするような妖しさと美しさがあって、一瞬呼吸が止まったような錯覚を受けた。そのまま馬鹿みたいにぼーっとしているアタシにお面を着けると、ユウレイさんはこれでヨシ、と笑う。お面を確認しようとユウレイさんから離しかけた手を引かれ、アタシたちは誘われるようにテレビの方へふわふわ飛んでいった。テレビは光を放っていて、だんだんとそれが増しているように見える。薄暗い『わすれられたそうこ』が、青白い灯りで満ち満ちていく。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

「ふふ、またない。……お菓子、忘れてたし」

 

 あっ、ちょっと根に持ってる!あ、あれはペラップが……と言い訳しようとするアタシの唇に指を添えて……すり抜けたそれを見たユウレイさんは、そのまま指を自分の口元に持っていき「しずかに」のジェスチャーをとった。

 

「とりっく・おあ・とりーと。……お菓子かイタズラか、だよ」

 

 イタズラ気に微笑むその顔が、少しの寂しさを伴っているような気がして。つないだままの左手をぎゅっと握った。驚いた顔をするユウレイさんに、今度はアタシから言ってやる。いろいろ起きすぎて手も声も震えているけれど、ここは譲れない。ユウレイさんに寂しい思いなんてさせてなるものか。

 

「そ、それならとびっきりのを頼むよ?一生忘れられないような……ずっと二人で笑い合えるような!」

 

 ユウレイさんの表情はいっそう光を増したテレビが逆光になってよく見えなかった。でも、アタシには確かに見えた。青白い光に耐えられなくなって目を閉じるその一瞬、たしかにユウレイさんが笑っているのが。

 

「じゃあ、行こう」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、アタシの身体をこれまでとはまた違う浮遊感が襲った。

 

 

 目を開けると、そこは小さい部屋だった。光源は砂嵐状態のテレビの他は明り取りの窓がひとつあるだけで、それも日が沈んだ今では殆ど意味を為していない。調度品のようなものもなくて、いくらかの本が床に積まれているだけ。まさに廃墟の一室、といった具合の部屋だった。不気味な雰囲気に少しだけ怖くなったアタシは、ユウレイさんと繋いだ左手をぎゅっと握る。ユウレイさんは少しだけ驚いたようだけど、すぐに微笑ましいものを見るような目を向けてきた。い、いや別に怖いとかではないからね!?

 

「じゃあ、行こっか」

「ちょ、ちょっと待ってユウレイさん!結局ここはどこなの?」

 

 そう聞くと、ユウレイさんは忘れてた、と小さく呟いてから説明してくれた。

 

「ここは……シンオウ地方にある、廃墟。ゴーストポケモンが、たくさん住んでる」

「シンオウ!?」

 

 海越えてるじゃん!と驚くアタシを見て満足気な表情のユウレイさん。そんなに遠くへ行くんだったら事前に地方だけでも教えておいてほしかったよ……。

 

「それじゃ、会場まで……案内するね」

「うん、お願い」

 

 そしてやっぱりこの部屋でパーティを行うわけではないらしく、アタシの手を引いてだいぶゆっくりと歩き出すユウレイさん。ゴーストタイプの身体に慣れていないアタシとしてはありがたい気遣いだ。薄暗い廊下を時々浮かび上がってしまったりしながら進んでいくと、すぐに広い空間に出た。ロフト、じゃないな。なんていうんだろう、階段で下と繋がった二階部分だ。ここはホール……玄関と一体になっているからエントランスホールだろうか。思ったより広い建物であったことに驚いているアタシの耳に、ユウレイさんの「あれ?」という声が入って来る。

 

「どうしたの?ユウレイさん」

「ここが……会場、のはず」

 

 その言葉を聞いて、再度広いエントランスホールを見回してみる。広さ以外はさきほどの部屋と変わらず普通の廃墟といった様子で、とても今からパーティが始まるような雰囲気には見えない。ユウレイさんの横で首を傾げていると、とつぜんボゥっという音と共に目の前に明かりがついた。

 暗さに慣れていた目を細めて見ると、それは紫色をした炎だとわかった。どこか怪しい雰囲気を纏ったそれは、ゆらゆらとこちらを誘うように揺れている。ユウレイさんがアタシを守るように一歩前に出る。アタシもすぐにボールに手をかけて……そのとき、なにかの鳴き声がエントランスホールに響き渡った。

 

「ロトトト!!」

 

 瞬間、ボボボボッと音が鳴ってエントランスホールのそこかしこにあった燭台やシャンデリアが灯りに変わる。いきなり明るくなった室内に視界が白く染まって、なにも見えなくなる。

 目に光が慣れたころには、エントランスホールの様子はすっかり変わり、賑やかな雰囲気へと変じていた。広い空間はゴーストポケモンや森でよく見るポケモンたちで溢れかえり、狭いんじゃないかと錯覚するほど。ボロボロだった床には赤い絨毯が敷かれ、くすんだ色の木は妖しげに生気を取り戻している。死んだよう、といった表現が相応しかった廃墟は、一瞬のうちに高級感溢れる洋館へと黄泉返りを果たしていた。なにも状況がつかめないアタシでもただひとつわかるのは、この場がものすごく楽しそうな雰囲気に包まれているということ。

 ユウレイさんと二人で目をぱちくりさせていると、ロトムがふわりと降りてきた。アタシのメガネをかけているのでここに来る前に会った子だろう。ロトムはユウレイさんに二言三言なにかを言うと、またふわふわとどこかへ飛んで行ってしまった。置いてけぼりのアタシは、ユウレイさんに目でなにを話したのか聞く。

 

「サプライズ……だって」

 

 私、お菓子持ってきたのに……とちょっと不貞腐れた様子のユウレイさん。気にするところはそこなんだろうか。やっぱりちょっとズレてるユウレイさんに苦笑しながら、それにしても……と、アタシは一瞬でパーティ会場に早変わりしたエントランスホールへともう一度目を向ける。

 所せましとひしめくゴーストポケモンたちは、誰も彼も楽しそうだ。階段の手すりにはコロボーシとコロトックが並ん、で妖しく陽気な音楽を奏でている。ポットデス、ゴースト、ヒトモシ……『わすれられたそうこ』に居た面々もいるみたいで、踊ったりきのみを食べてパーティを楽しんでいる様子だ。

 

「ね、ユウレイさん!アタシたちも行こうよ!」

「あっ……」

 

 楽しそうな雰囲気に我慢できなくなったアタシはユウレイさんの手を引いて、ふわりとパーティ会場に飛び込んだ。笑顔で二階部分から飛び出したアタシはその身を空中に投げ出して、しかし重力の軛に縛られることなくふわりと浮き上がる。……制御できないから、あとはよろしく、という意味を込めてユウレイさんに目配せ。意図が伝わったのか、ユウレイさんは驚いた表情を微笑みに変えてアタシの手を引いてくれた。仕方ない、なんて呟いて。アタシたちは、二人ふわふわと遊覧飛行する。

 

「ねね、ユウレイさん!次はあっち!あっちのゲンガーの方行きたい!」

「ふふ、わかった」

 

 するする、ゆるゆる、ふわふわり。幻想的できらびやかなパーティ会場をユウレイさんと飛び回った。はしゃいでるミミッキュの中身があやうく見えそうになって慌てて目を閉じたり、ペラップがシャンデラに催眠をかけられて嫌いな甘いきのみをほお張らされてたり、ヨマワルたちに仲間と間違われてユウレイさんに通訳してもらったり。あっちこっち行ったり来たりしながらパーティを楽しんだ。ユウレイさんは色んなところでお菓子を渡してまわっていて、お菓子を持っていないアタシは色々とイタズラをされた。

 

「ふ~、いやぁ、まわったまわった!」

「楽しんでくれて……よかった」

 

 慣れないゴーストタイプの身体で動き回って疲れたアタシは、ユウレイさんと一緒に手すりへ腰かけて休んでいた。パーティは今も続いていて、ベラカスは同じ虫タイプのコロトックたちと、ペラップは満遍なく誰とでも遊んで楽しんでるみたいだ。

 そうして休んでいると、またふわりとロトムが飛んできて、もう飽きたのかメガネを手渡される。勝手に取って勝手に飽きるだなんてなんて身勝手な。アタシは憤慨しながらメガネをバッグに仕舞った。これでまた飛んでいくのかと思ったらそうではないらしく、なにやらロトムはユウレイさんと話し始めた。しばらく何を話しているのか想像しながらその様子を眺めていると、ユウレイさんがちょいちょいとこちらへ手招きしてくる。なんだろうと思って近づくと、ユウレイさんが耳を貸して、と言ってきたので首を傾けて片耳を差し出す。「もうすぐパーティが終わるんだけど……」と前置きを置いてから、ユウレイさんは話し始めた。

 

「例年通りなら……そろそろ、ライブをすることになってる」

 

 例年通り、という言葉から察するに、毎年このパーティの最後にユウレイさんが歌っているのだろう。ということは、またユウレイさんの歌が聞けるんだろうか。何度か聞いたことはあるけれどユウレイさん曰く本気で歌ったのは始めに会ったあの日だけらしいので、アタシが未だに模倣できていないあの歌を聞けるのはとても嬉しい。いなくなるから気を付けてってことかな、なんて、油断してた考えで居られたのも束の間。

 

「今年は……ミクも一緒に歌うことになってる」

 

 続く言葉に、大声を出さないようにするのが精いっぱいだった。一緒に歌うって、デュエットってこと?アタシとユウレイさんが?なんとか囁き声の体裁を守って、アタシはユウレイさんに言葉を返す。

 

「ちょっ、そんな急に言われても無理だよ!」

「曲は、この前練習してって言った……あれ」

 

 アタシの言葉をまるで意に介さないとばかりに説明を続けるユウレイさん。たしかにあの曲ならライブで歌っても問題ないくらいには仕上げている。だけど、だけど。

 

「ミク?」

 

 黙って俯いてしまったアタシを不思議そうな顔でのぞき込んでくるユウレイさん。まっすぐな黄色い瞳に見つめられて、つい本音を……弱音を吐いてしまう。

 

「無理だよ。アタシの歌は、ユウレイさんよりも……」

 

 下手だから、というその先を口にできなかった。けれど察したのだろうユウレイさんは驚いた顔をして、それから怒ったような顔に変わる。

 

「気が、変わった。ミクには……意地でもステージに立ってもらう」

「え?」

 

 有無を言わさない圧力でアタシを黙らせたユウレイさんは、ぷんすこと擬音でも付きそうな雰囲気で歩いていった。なにがユウレイさんの気に障ったのかわからないアタシは、ぽかんと間抜けに口を開けてその姿を見送ることしかできなかった。

 

 

 

「──!!」

 

 いろんなポケモンの鳴き声が混じった、いつもとは違う歓声を浴びる。アタシは結局、ステージの上に立っていた。ステージはいつもと比べればなんてことない大きさで、特設で作りましたという感が満載だ。でも、アタシはいつも以上に緊張して……正直に言えば萎縮してしまっていた。隣に立つユウレイさんを、アタシが委縮してしまっている原因である彼女を見る。彼女はどこまでも自然体で立っていて、緊張なんてどこ吹く風。誰がどう見てもベストコンディションなその姿を見て、アタシはため息を吐く。それを見たユウレイさんはまたムッとした顔になった。なにが気に入らないのかわからないアタシは再びユウレイさんの方を見て……上半身を脱力し、俯いているその姿を視界に映してハッと息を呑んだ。しまった、はじまる。

 静かにコロボーシたちが木琴のような音でイントロを奏でる。アタシもすっと息を吸って準備する。この曲は静かに始まる曲だ、いつもの『ハイパーボイス』は似合わない。

 

「────♪」

「──♪」

 

 ユウレイさんの声に重ねるように歌を歌う。アタシが考えた、このステージを最良にする最善の方法がこれだ。アタシはユウレイさんを引き立てるように歌って、彼女を引き立てる。即興でハモりの音階を考える程度ならなんてことない。このまま最後まで歌い切れば、なんて思っていると……ズン、とユウレイさんの圧が増した。なにを、と疑問に思う間もなくユウレイさんの声が明らかにギアを上げていく。歌の速ささえ変える独特で強引なアレンジ。しかも浮いているかのように不定形で……これじゃ声を重ねられない!思わずユウレイさんの方を見ると、彼女は既にこちらを見ていたらしく、バチ、と目が合った。黄色く輝く、問いかけるようなあやしいひかり。前後の感覚さえわからなくなるような強い、強い光。その目を見たアタシは────気づけば、自分のギアをひとつ上げていた。

 

「────♪!!!」

 

 ああ、よくない、良くない。ユウレイさんを引き立てないといけないのに。それがこのステージをよくするための最善の方法なのに。この歌い方が、自分の歌い方が。楽しくってたまらない!

 アタシのギアが上がったことに気付いたユウレイさんが、今度はこちらを振り回すようにアレンジを入れる。サビがもう目前だというのに。また彼女の方を振り向くと、今度の彼女は不敵に笑っていた。

 

『引き立て役になんてならなくていい。勝手にそうしてやるから』

 

 声なんて聞こえるわけがないのに。そう言っているような気がした。彼女のちょうはつが、確かに聞こえたような気がした。いいよ、ノってやろうじゃん!アタシは彼女に──ユウレイさんに手を伸ばす。ユウレイさんがその手を取って、アタシたちはふわりと中空に身体を投げだした。

 瞬間、困惑したような表情の観客が目に入る。耐えがたい不安がアタシを襲って、大きく吸った息を吐きだそうとして……つないだ右手が熱を持った。ユウレイさんの声が、今度は耳元で確かに聞こえた。

 

「私だけ見て!」

 

 いつのまにか閉じていた目をパッと見開く。揺らめく炎の髪飾り、黄色く妖しいその瞳。今まさにイタズラが成功したかのように笑うその笑顔が、全ての思考を掻き消した。きらびやかに輝くシャンデリアの光を背に受けて、彼女は妖しく激しく息を吸う。時間が止まってほしいと思うほどに美しいその光景を見て、アタシの唇はなにも考えないうちから、歌を紡ごうと動き出す!

 

 サビが、来る。

 

「「─────ッ♪!!!!!!」」

 

 合わせようとなんてしていないのに。アタシはアタシの歌を、ユウレイさんはユウレイさんの歌を歌っているだけなのに。いつよりも、いつもよりも、どこのだれよりも!綺麗に重なって響き渡ってエントランスホールを満たす。

 ユウレイさんの矛盾を孕んだ烈しく優しい歌声が観客を魅了し、アタシのどこまでも真っすぐで愚直とさえ言っていい、技術云々よりもそこに込めた感情が彼らの魂を揺さぶる。

 ああ、たのしい、楽しい。楽しくって仕方がない!きっと今のアタシは満面の笑みだ。ユウレイさんを見れば、彼女もとびっきりの笑顔で歌っている。最高だ、間違いなく今までで一番のライブ。

 

「「────♪!!!!」」

 

 サビを歌い切って、曲が間奏に入った。二人両手をつないで、そこを起点にくるくると回る。お互いがお互いだけを見て、ゆっくりと降下しながら言葉を交わす。

 

「ねぇ、ミク。”本当のミク”って、そんなもの……?」

「まっさか!ここからだよ!」

 

 じきに間奏が終わる。また歌が始まる。こんな最高のライブで手を抜くなんて、悔いを残すなんてありえない!一気にフルスロットルまでギアを上げる。置いていくくらいの気持ちで歌おうが、間違いなくユウレイさんは着いてくる。下手をすれば追い抜かれるかもしれない。観客の表情は、もう見るまでもなかった。──ああ、アタシ、いま最高にワガママだ!

 

「「────……♪」」

 

 曲が終わる。シン、と静まり返るステージ。ああ、でも。もう不安はない。こんな最高のステージの最後を飾る音なんて、最初から決まっているのだから。ユウレイさんを見て、どちらからともなく歩み寄って。──二人でハイタッチを交わす。

 瞬間、万雷の拍手と割れんばかりの歓声がアタシたち二人に降りかかった。────この日アタシは、スランプを抜け出した。

 

 

 最高のライブの後。パーティの片付けが着々と進んでいくのを、アタシとユウレイさんは手すりに腰かけて見ていた。あのあとゴーストポケモンたちから数々の賞賛を受けたアタシたちはちょっと休憩中だ。ユウレイさんから受け取ったおいしいみずを飲みながら、ぼーっと会場の片づけを眺める。

 

「ね、ユウレイさん。ライブ、最高だったね」

 

 何とは無しに言ったその言葉を聞いて、ユウレイさんは「当たり前」と返した。あんまりにも自然にそう言うものだから、つい吹き出してしまう。ムッとした表情になるユウレイさん。

 

「ごめんごめん。でも、そっか、当たり前か」

「うん。私とミクが歌うんだから……当たり前」

 

 その言葉を聞いて、今度は意外さが勝った。ユウレイさんはともかく、アタシは本当についさっきまでスランプだったのに。顔に出ていたのか、ユウレイさんが「そんなに意外?」と聞いてくる。頷くと、ユウレイさんはため息をひとつ吐いた。

 

「ミクは、ちゃんと歌が上手。私と……同じくらい。気持ちだけ……負けてたんだと、思う」

 

 言われて、今までの自分を思い出す。それから、さっきのライブでの自分をイメージした。言われてみれば確かに、今までのアタシは観客の顔色をうかがうようなライブをしていた気がする。いろんな音を聞いて技術を身に着けようとしていたのも、もしかすると自信の無さの表れだったのかもしれない。さっきのライブでのアタシはそんなこと気にしていなかった。そんな余裕がなかったとも言うけれど、自分が楽しく歌って、そして観客が楽しむって順番だったと思う。

 

「そっか、自分が楽しんでないんじゃダメだよね」

 

 独り言として呟いたそれは、パーティの喧騒に溶けて消えていった。目を閉じて、さっきのライブを思い返す。声を重ねてハモろうなんて考えを、ユウレイさんに打ち砕かれて……そこで、あの瞬間を思い出す。「私だけを見て!」と、ユウレイさんが言ったあの瞬間。本当に綺麗だった。あのまま時間が止まったっていいと思えるくらいには、美しくて可愛くて妖しくて。ふいに、心臓がドキドキと音を立てているのに気が付く。それに困惑していると、ユウレイさんが心配そうに声を掛けてきた。

 

「どうしたの、ミク……顔、真っ赤だよ?」

「んぇっ!?」

 

 気づけばユウレイさんの顔が目の前にあって、おでこを合せて熱を測ろうとしているところだった。いつもは長い前髪に隠されて見えない顔が視界いっぱいに広がっていて、軽くパニック状態になる。

 

「な、なんでもないっ!あ、アタシちょっとトイレ行ってくるね!」

「え?う、うん……あ、トイレの場所は……」

 

 いっぱいいっぱいになってしまったアタシはユウレイさんに断りを入れてトイレへと向かう。ユウレイさんがなにか言いかけていた気がしたけれど、あちらこちらに身体をぶつけながら走り去るアタシの耳には届かなかった。

 

 

 

「迷った~、ここどこだろ……」

 

 数分後、アタシは見事に迷っていた。謎の動悸はもう収まって、どうしようという不安が胸を占拠している。トイレの場所なんてだいたい見当がつくからと一人で来たのが間違いだったようだ。というか、この洋館の造りは少し複雑すぎる。いくつもの廊下が迷路のように入り組んでいて、いろんなところに大きな鏡が置かれている。まるで人を迷わせるために作られたかのような……と、そこまで考えて思考を打ち切る。あんまり怖いことを考えると参ってしまいそうだ。

 

「ユウレイさ~ん……」

「呼んだかしら?」

 

 ダメ元でユウレイさんを呼んでみると、後ろから聞き覚えのない声がした。慌てて振り向くと、そこには緑がかった綺麗な黒髪をショートカットにして、赤いリボンをつけた少女が立っていた。そこには、たしかにさっきまで誰もいなかったと思うのだけど。

 

「えっ、と……」

「あ、ごめんなさいね。私もそんなあだ名で呼ばれていた時期があったものだから」

 

 困惑するアタシにそう言う彼女。結構珍しいあだ名だと思うんだけど、すごい偶然もあったものだ。

 

「そうなんだ……?えっと、アタシはミク!よろしくね」

「ええ。私は……そうね、ユウって呼んでほしいわ」

 

 ユウ……ユウちゃんか。ユウレイの上二文字だし、もしかしてそれがあだ名の由来なのかもしれないな。試しに聞いてみると「そんなところね」、と返ってきた。そういうことらしい。

 

「あ、そうだユウちゃん。トイレの場所知らない?」

 

 ここで人間と会ったのユウちゃんが初めてでさ、と言うと、彼女はひどく驚いたように目を丸くして、それから少し悩むように顔を歪めた。怒りとも悲しみとも取れないその表情に困惑していると「こっちよ」、とだけ言って歩き始めた。どうやらついてこいということらしい。

 ユウちゃんの後ろを歩いて廊下を進む。彼女はこの館を知り尽くしているのか、一切迷うことなくすいすいと進んでいく。歩くペースが速いのでなにか焦っているのかと思って、お話しようと思い至る。パーティの喧騒が近くに聞こえた。

 

「ねね、ユウちゃんってここに住んでるの?」

「……どうしてそう思ったの?」

「道の選び方に迷いがないからかな」

 

 ユウちゃんは少し迷ってから「ちがうわ」とだけ言った。なんでも、この近くに住んでいるだけで、ここが家ってわけではないらしい。ふ~ん、と返してまた自分から話を振る。────パーティの喧騒が、だんだんと遠くなっているような気がした。

 

「アタシはけっこう遠くから来たんだ。海の向こう側。ユウレイさんに連れてきてもらってね」

 

 ユウちゃんはそれに「そう」、とだけ答えて、今度は彼女から質問をしてくれた。

 

「その、ユウレイさんっていうのは?あなたにとって、どんな人なの?」

 

 その言葉にドキっと一瞬固まって、どう答えたものかと考える。ユウレイさんという人物を一言で表すのは至難の業だっていうのもそうだし、ついさっきまでユウレイさんのことを考えていたから。しばらく考えて……自分にとってどういう人なのかを答えることにした。────パーティの喧騒が、遠く聞こえる。

 

「アタシを支えてくれる人、辛いときそばに居て励ましてくれる人、かな」

 

 アタシの言葉に、また「そう」とだけ返したユウちゃんは、どこか躊躇うように、少しだけ歩くペースを緩めた。アタシは自分の言った言葉を口の中で反復して、間違いがないか探す。そして言い忘れていたこと、言わなきゃいけないことがあることに気が付いた。────パーティの喧騒は、もうほとんど聞こえない。

 

「それからね、助けてあげたい人」

 

 ピタリ、と。ユウちゃんの歩みが止まった。前を歩いていた彼女の表情は伺えない。どうしたのだろう、と不思議に思っていると彼女はなぜか悲し気な声で尋ねてきた。

 

「それは、どうして?」

 

 それを聞いて、アタシは再び考える。このどうして、はどうして助けたいのか、という意味だろうか。それとも、どうしてユウレイさんに助けが必要だと思ったのかという意味だろうか。両方だと判断して、答えを返す。

 

「ユウレイさんは時々、本当に少しだけ辛い顔をするんだ。それは、アタシに触ろうとして触れなかった時とか、昔のことを聞いちゃったときとか」

 

 ユウちゃんはピクリとも動かない。少し俯いた状態で石像のように固まって、ただアタシの言葉を聞いていた。

 

「ユウレイさんは、すごく優しいんだ。でも、その優しさが自分に向いてない。いつも誰かのために動いてる、そんな気がする」

 

 そうだ。アタシにワガママになれって言ったくせに、自分は本当に大事なときに他人を優先する。今日だってそうだ。ロトムからサプライズを受けたとき、ポケモンも持ってないのにアタシを庇おうとして前に出た。

 

「だから、アタシがユウレイさんの記憶を取り戻したらガツンと言ってやりたいの。今度はアタシが、ユウレイさんに」

 

 ワガママに生きてみなよ、って。アタシがそう言うと、廊下には静寂が立ち込めた。よく考えたら説明不足なところだらけだし、ユウちゃんには意味が分からなかったかもしれない。

 

「な、な~んて!ごめんね、意味わかんなかったよね!」

「……ええ、そうね」

 

 アタシの言葉に容赦なくそう言ったユウちゃんは、落ち込むアタシに振り向いて言葉をかけた。

 

「でも、いい目標だと思うわ」

 

 応援してる、と言った彼女の目に涙が光っているように見えて、慌てて顔を上げた。しかし、そのときにはもう彼女はこちらに背中を向けなおしていて、表情を伺うことはできなかった。

 

「ユウちゃん……?」

「……ごめんなさい。私ったら、道を間違えたみたい」

 

 嘘だ、と直感した。けれどなぜかそれを聞いてはいけない気がして、それを聞くことはできなかった。彼女はこちらを見ないまま、今まで来た道を指さす。

 

「この道を戻って、突き当りを右に曲がりなさい。そこがトイレだから、あとは来た道を振り返らないで戻ればパーティ会場に帰れるわよ」

「案内は、してくれないの?」

 

 ようやく絞り出した言葉。なんとなく、ここで別れたらもうユウちゃんには会えない気がした。けれど彼女は「ごめんなさい、私はこの先に行かないといけないから」と答えた。

 有無を言わせない雰囲気があって、「そっか」と返すのが精いっぱいだった。けれど、だけど。このまま別れるのは、違う気がして。アタシはタっと走って、ユウちゃんとの距離を詰めた。────もうほとんど聞こえないパーティの喧騒が、さらに小さくなる。

 

「っ!あなた何をして……!」

「これ!」

 

 アタシを怒鳴りつけようとしたユウちゃんに、震える手で持っているものを差し出す。

 

「これ……アタシのライブのチケット。次の二月にやるやつ」

 

 意図が読めないという表情でこちらをにらむユウちゃんの手に強引にチケットを握らせて下がる。

 

「この日のライブは、最高のライブになるからさ。ぜったい見に来てね!」

「あっ、ちょっと!?」

 

 そう言って、アタシは返事を聞かずに駆け出した。どんどんパーティの喧騒が戻って来る中、背中の向こうから一言だけ。ユウちゃんの声が聞こえた気がした。

 

「……ありがとう」

 

 

 もう一人の少女が消え、一人廊下に佇む少女は手に持ったライブチケットをじっと見つめていた。いつのまにかその背後に老爺が立っている。

 

「そのチケット、どうするんだい?」

 

 老爺が聞いた。

 

「もう手遅れの私が……邪魔するわけにはいかないでしょう?」

 

 少女は静かに答えた。少し皺の寄ったチケットを、じっと見つめながら。

 

 

 

「ユウレイさん遅くなってごめん!迷っちゃってさ!」

 

 ユウちゃんの言う通りの道を辿ってパーティ会場に戻ってきたアタシはユウレイさんを見つけてパタタと駆け寄る。だいぶ遅くなってしまったのでそれを謝るも、ユウレイさんは不思議そうな顔で首を傾げるばかりだ。

 

「そんなに……経ってない」

「え、嘘!?」

 

 驚いてスマホを見るけれど、たしかに数分しか経っていなかった。むしろ早く帰ってきたレベルだろう。アタシが不思議そうに首を傾げていると、ユウレイさんは帰ろっかと言って手を引いてくれた。

 来た時に通った道を辿り、またテレビを使ってワープする。光が収まるとそこはもう見慣れた『わすれられたそうこ』で、楽しかった時間が終わってしまったという実感が湧いてくる。ふぅ、とソファに座ってくつろいでいると、ユウレイさんが「どうだった?」と聞いてくる。

 

「すっごく楽しかった!」

 

 それを聞いてよかった、とほほ笑むユウレイさん。それから「普通の人を連れていくのは初めてだけど、なにもなくてよかった」と言って、ユウレイさんもアタシの隣に腰かけた。その言葉を聞いて、ふいにトイレに立った時のことを思い出す。考え事をしているのが顔に出ていたのか、ユウレイさんが心配そうな顔になった。

 

「どうかした?もしかして……なにか、あった?」

「えっと……」

 

 聞かれて、特に隠すことでもないかとあったことを話す。トイレに行こうとして迷ったこと、親切な女の子に道を教えてもらったけどその子も道を間違えてしまっていたことなどを簡潔に話した。すると、ユウレイさんの顔がみるみる険しくなっていく。

 

「え?なんか変なとこあった?」

「あのパーティに……人間は、私たちだけ」

 

 え?

 

「ま、またまた~ユウレイさん揶揄ってるんでしょ~」

「……」

 

 黙り込んだままじっと考え込むユウレイさん。え?もしかしてこれマジのやつ?

 

 ……その日はユウレイさんに頼み込んで一緒に寝てもらった。

 

 

 

 

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名前  ロトム

タイプ でんき ゴースト

 

きまぐれな 性格。

--年10月31日

わすれられたそうこ で

Lv.15のときに

出会った。

 

ものを よく 散らかす。

 

 

--------------------

名前  ■■■■■

NN  ユウ

タイプ ???

 

いじっぱりな 性格。

--年10月31日

■りの■■か■ で

Lv.--のときに

出会った。

 

辛抱強い。

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