新しい流派技を習得する度に半兵衛と立ち会ってもらう無駄に勤勉な狼に「これは……ただの、太刀だ」された結果、追い腹を切れなんだ無念を明治まで引きずり倒して若干人格が歪みつつある半兵衛が『飛天御剣流の技ならば、或いは……』と考えて神谷活心流道場を訪れる話。

るろ剣は最近アニメ見たけどあやふやだし、『死なず半兵衛』は読んでないからそこらへんは注意。

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死なず流浪人

「頼もう!」

 

 神谷活心流の道場に声が響き渡る。

 腹の底に響く低い声色であり、どことなく疲れているような印象を受け、しかし人を呼ぶには十分な音量である。

 

「おろ?」

 

 その声に真っ先に反応したのは赤髪の青年、緋村剣心。

 ちょうど洗濯でもしていたのか、襷(たすき)を使って袖を縛り上げ、濡れた両手を振りながら現れた。

 

「ふむ、其処許(そこもと)よ。この道場に、滅法強い流浪人(るろうに)がおると聞いたのだが」

「えーと、まず、どちら様でござるか?」

「おお、これは失礼した。某(それがし)は半兵衛。とある目的のために流れておる流浪人(るろうに)よ」

 

 流浪人。その言葉を聞いて剣心は半兵衛の身なりを見る。

 もはや結い上げる者も少ない髷(まげ)に面頬。腹だけを護る粗末な鎧。そして腰に携える刀。

 どうやって警官隊に見咎められずここまで来たのか疑問に思うような装いだ。流浪人というより落ち武者が近かろうが、剣心は半兵衛が確固たる目的をもって旅している事をその瞳から敏感に読み取った。

 

「半兵衛殿、でござるか。それで、その目的とは如何に?」

「其処許よ」

「おろ?」

 

 話の筋を断ち切るかのような一言に怪訝な面持ちになる剣心。

 

「是非某と立ち会ってもらおう」

 

 しかし俄かに噴き出す殺気を見逃すほど耄碌した覚えも無し。

 

 上体を最大限後ろに反らし、半兵衛の抜刀術を見事に躱す。

 そのまま抜き放った逆刃刀を掲げ、二太刀目を防ぐ。

 

 大きく後ろに飛びのいて威力を殺したが、その為に開いた間合いはおよそ15歩。自分で跳ねておいてなんだが、剣心はその威力に正直感心してしまった。

 なにせ抜刀術にはあり得ざる『二太刀目』でこの威力。視界の端で翻される刀を捉えていなければ、落とされていたのは腕か腸(はらわた)か。

 

「あいにくでござるが、拙者にはおぬしと戦う理由が無い。他を当たるでござる」

「其処許にはなくとも、某にはある。済まぬな」

 

 納刀をせず、大上段に構える半兵衛。

 

「今の二重の抜刀術。そして大樹を思わせる重厚な体幹……おぬし、古流剣術、『葦名流』の使い手でござるな?」

「おお、よく知っておるな。いかにも、某は葦名流を極めたそれなりの剣士よ。では其処許よ、この構えからくる次の一手もわかっておろうな?」

「無論、葦名一文字でござろう」

「然らば……」

「ちょっと剣心! 何よ今の音!」

「おろろろろ?」

 

 またも殺気が膨れ上がるか、と構えた剣心の出鼻をくじいたのは、年頃の少女。

 この神谷活心流道場現当主、神谷薫である。

 

 剣心の肩透かしを見て、半兵衛もまた剣を納める。

 元より反撃の機運が感じられず、しかし刀を抜いただけに引っ込みが付かぬという理由で次の技を出そうとしていた半兵衛だ。第三者の乱入は正直望むところであった。

 

 別に、死合を求めての流浪ではないのだし。

 

◆◇◆◇

 

 さて、場所を移して道場の中。

 半兵衛は武装解除しての正座で家主に挨拶を始めた。

 

「某の名は半兵衛。葦名流を修めた剣客……というのはちと言い過ぎか。まあ、そんなところよ」

「葦名流?」

「戦国末期に生まれた古流剣術の一つでござるよ」

 

 家主の薫が浮かべた疑問に剣心が答える。

 

「葦名一心という国盗りを為した男が、側近の葦名衆の為に自らの剣術を編纂して生まれた剣術流派でござる。流派というのは得てして儀礼的なものが混ざりがちでござるが、葦名流は『ただ、戦に勝つ』だけに専心するのが特徴の流派でござるな。随分と前に遺失した、と聞いていたのでござるが……」

「まあ、一度生まれたものはそう簡単に消えはしない、という事であろうな」

 

 どことなく感慨深げに零(こぼ)す半兵衛。

 

「そんな人が、どうして真剣での道場破りなんて……」

「うむ。まさしく某の目的よ。とはいえ、道場の看板を目当てにやってきたわけではない。道場破りはあくまで手段。その過程にこそ目的はあるが、しかし類稀な強者と死闘を演じたいわけでもない」

 

 いよいよ意味が分からない、と言わんばかりの薫。

 

「……ここでは、ちと汚れるか。少し外に出よう。某の目的を見せる。そうでもないと信じられまい」

 

◆◇◆◇

 

 道場の裏手、普段は井戸水で洗濯などする場所に半兵衛たちは移動した。

 

「よく見ておれ」

 

 自前の真剣を逆手に持ち、さて何をすると剣心と薫が見守る中、半兵衛は己の心の臓へ流れるように刃を突き立てた。

 

「え?」

「おろ?」

 

 そのあまりにも自然な動きに二人は呆気にとられ、当然息絶える半兵衛を呆然と眺めていた。

 場数を踏んだ剣心は気を取り直し、即座に半兵衛の元へと赴いたが……殺人剣を操る剣心は、その正確な見立てで半兵衛の絶命を確認した。

 

「し、死んでる……」

「えぇーーー!?」

 

 じゃり。

 

 薫の方へ振り返った剣心の後ろから音がする。

 今まさに、心の臓を刀で貫き、絶命したはずの半兵衛がいるところから。

 

「うむ、まあ、死ねぬわな」

「ぎゃあああああああ!!」

 

 薫の脳はもはや絶叫を上げる以外の手立てを見失った。

 

◆◇◆◇

 

「とまあ、このようにだな」

「なにが『このように』よ! こっちの心臓が止まるかと思ったじゃない!」

 

 更に場所を移して道場内。

 目の前で人が死ぬという非日常に、死んだ人が蘇るというまさに異常事態。流石の剣心も未だ動揺が隠しきれていない。

 

「某は『不死(しなず)』。あるいは『蟲憑(むしつ)き』と呼ぶ者もおるな。死ねぬので、何とか死ぬべく流れておるのよ。陸(おか)の黒船、とまで謡われる飛天御剣流であれば、或いは殺し切れるかとここへ来たのだが……」

「拙者はもう人は斬らん」

「その様なので、埒が明かぬと剣を納めたわけよ」

 

 混乱する薫をよそに、そのような反応は慣れっこだと言わんばかりに落ち着いて顛末を話す半兵衛。

 

「葦名流が遺失した、というのはある意味本当だったわけでござるな」

「左様。事実、継承するものはもはやおらぬだろうからな。某は受け継いだというより、ずっと持ち続けているに過ぎん」

 

 その持ち続けている物すら、刀の修練相手が使っていた所を見様見真似で再現しているだけなのだ。

 葦名流は確かに遺失していると言えるだろう。

 

「その……当てはあるの? つまり、死なずを斬る方法について」

 

 おずおずと問う薫は心配げだ。『自分しかいない流派を持ち続ける』という部分に、どことなく共感を覚えたのかもしれない。思えば、剣心も似たようなものだ。そういう所に同情してしまうのは、もはや性分なのだろう。

 

「ある」

 

 正直間を持たせるためだけの質問で、『無い』という答えを考えていた薫だったが、意外な答えにこれまた驚く。

 

「薫殿、どうか某をこの道場においてはくださらんか?」

「え?」

 

 これまた意外な言葉だ。

 不死身のあまり世を倦(う)んだ人間を斬り、死なせてやるのはある意味『人を救う活人剣』の本領発揮かもしれないが、まさかそんな可能性でも見出したのだろうか?

 

「不死斬り、と呼ばれる大太刀がある」

 

 どうやら薫の勘違いだったらしい。

 

「この世で唯一、死なずを殺すことができる妖刀よ。某は一度、それと思(おぼ)しきものを見た。抜かれているところを見たわけではないが、鞘に収まっているだけでも明らかにこの世の物とは思えぬ禍々しさを孕んでおった。持ち主には『ただの太刀だ』と言われてしまったが、某はあれこそが不死斬りであると確信している」

「その持ち主は、いずこに?」

「さて……主の為に東奔西走する忍びであった故、どこで没したやら見当もつかぬ」

「必然、不死斬りの在処も見当つかず、という事でござるか」

「うむ。しかし剣心殿。其処許の刀は刃と峰が逆さになっておる奇怪な一振り。如何様にして手に入れたかは問わぬが、尋常ならざる刀剣であることは間違いない」

「拙者にとっては、『奇怪』の一言で片づけられたくは無いのでござるがな」

「それは失礼した。ともあれ、斯様(かよう)な縁(えにし)を持つ者の傍であれば、或いは不死斬りに相見(あいまみ)えることもあるやもしれぬ。無為な流浪にも倦んだというもの、どうかお願いできぬだろうか?」

 

 剣心と薫は顔を見合わせる。

 

「長く生きて知恵もあるし、剣心殿がいれば不要であろうが、用心棒にもなれる。刀の修練にも付き合おうぞ。死ねぬ体故、幾度でも斬られてやれるぞ」

 

 薫の答えは決まっていた。

 元より、一度情を掛けては見捨てられぬのは、彼女の美徳でもあったのだから。





Q:なんで半兵衛?
A:元々は全盛の葦名一心に転生者ソウルがインストールされてる感じだったんだけど、あらすじ書くときに『なんで死なず半兵衛なんですか?』って小オチを思いついたので転生者in死なず半兵衛で書いてたんだけど、書いてるうちに転生者要素が要らなくなったのでオミットした。
あと半兵衛の戦力がるろ剣時空だと良い塩梅だった。狼さんの練習台になってるから多少持盛っても大丈夫だし、一心様だと雷龍閃→雷返しみたいな世界観崩壊案件だったし。

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総合評価:28600/評価:8.98/完結:30話/更新日時:2026年09月28日(月) 20:00 小説情報


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