【悲報】レストレンジの子、ロングボトムの子にガチ恋してしまう 作:血を裏切る者
イメージとして11歳ニハルちゃんの身長は130センチとちょっとくらいです。母親に似ないでちっちゃいですね。
『あと5分程でホグワーツに到着します。荷物はこちらで学校に届けますので、車内に置いて行ってもかまいません』
ホグワーツ特急から告げられたアナウンスが、私を現実へ引き戻す。
「……テルジオ 拭え。……着替え、なきゃ」
杖を振って涙の枯れた跡を拭い、よろよろとしながらなんとか立ち上がる。
トランクからローブを取り出し、着ていた服を脱ぐ。手に取ったローブへ袖を通しながら、向かいの席を見てしまう。
もし、彼がここにいてくれたら。そんなありえない、もしもの事をあの席に幻視してしまう。こんな事をしても傷つくだけなのに、しばらくの間そこから目を逸らせなかった。
静止したホグワーツ特急から、ゾロゾロと生徒達が降りる。私は押し流されるのを避けたくて、通路の人波が完全におさまったのを見てからコンパートメントの扉を開ける。
9と4分の3番線よりは小さなプラットフォームに汽車から降り立つ。辺りはすっかり暗闇に包まれていて、肌寒い夜風がローブの隙間から流れる。
「イッチ年生! イッチ年生はこっち!」
暗闇の先からランタンを掲げた大男が大股歩きでこちらに近寄ってきた。訛りのある言い方なせいで一瞬分からなかったけど、同い年に見えるくせっ毛頭の子が大男に駆け寄っているのを見て、彼が一年生を呼んでいるのだと気がつけた。
男の子の呼び方からして、大男は『ハグリッド』という名前らしい。
「ひい、ふう、みい……よーし、イッチ年生はこれで全員だな? 足元に気をつけるんだぞ。ついてこい!」
ずんずんと歩くハグリッドの持つランタンを目印にして、草木の生えた暗い小道を進む。最後尾を独りで歩く私は、彼の持つランタンの淡い光に少しばかり感謝していた。あの光がある内は、きっと
「ほら、イッチ年生達! ホグワーツが見えたぞ!」
しばらくして小道を抜け、大きな黒い湖の畔に出た。
ランタンから目を離してハグリッドの指した方を見ると、湖の先に浮かぶ山の頂に大きな古城が佇んでいた。あれが、ホグワーツ……。
誰もが、星明かりに照らされるあの古めかしい城に見惚れて目を離せないでいた。皆、あの先で広がるまだ見ぬ未知と期待に胸を膨らませ、疑わなかった。
私は違った。私にはあの石造りの城が、この苦しみから逃げる事を決して許さない牢獄に見えた。
ハグリッドの先導で広大な湖を四人乗りボートの船団で渡り、城下の船着場から長い階段を登っていると、見上げるほど大きな樫の扉が見えた。
ハグリッドが手を握りしめてゴンゴンゴン、と3度叩く。彼が一歩下がって少しすると扉が開き、中から四角い眼鏡をかけた、エメラルド色のローブを纏った魔女が出てくる。
「マクゴナガル先生、イッチ年生を連れてきました」
「ご苦労ですハグリッド。ここからは私が預かります。一年生の皆さん、私の後をついてきてください」
マクゴナガル先生はローブと同じ色の瞳でこちらを一瞥し、くるりと背を向けて玄関ホールを歩いていく。
彼女の先導でそのまま玄関ホールを通り抜け、狭い小部屋に集められる。
マクゴナガル先生は再びこちらを見渡して、厳格そうな雰囲気に違わない、静かでありながらよく通る声で言う。
「一年生の皆さん、まずはホグワーツ入学おめでとう。まもなく貴方たちの歓迎会が始まりますが、その前に。どこの席に座るか、どこの寮に入るかを決めなくてはなりません。寮の組み分けは非常に大切な儀式であり、入った寮の寮生が皆さんの新しい家族になります。共に勉学に励み、共に食事を取り、共に眠る。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンの四つの寮があります。それぞれ輝かしい歴史を持ち、偉大な魔女や魔法使いが卒業しました。親に”この寮だけは入るな”、などと言われた子もいるでしょうが、寮に優劣はありません。どの寮に入ったとしても、そこが皆さんの誇りとなるでしょう。……まもなく組み分けが始まります。身なりを整えておくように」
マクゴナガル先生はそう締めくくり、小部屋を出る。
生徒だけになった小部屋で何人かが囁くように近くの子と話し始め、しばらくしてマクゴナガル先生が戻ってきた。
「これから組み分けが始まります。一列になってついてきてください」
マクゴナガル先生を先頭に小部屋を出て再び玄関ホールを経由し、今度はとてつもない広さの大広間に通された。
宙に浮かび静止する何千もの蝋燭に照らされる4つの長テーブル、何百人もの上級生達の視線、あちこちへ飛び回るゴースト、魔法で映された星々が輝く夜空。何もかもが皆をただ圧倒させるばかりだった。
だけど私にとって、そこに広がるすべてがどうでもよかった。
(ネビル……)
私の虚ろな瞳は、ただ1人の姿を映している。
私は彼を傷つけてしまう。私はそれがたまらなく嫌だ。
私はもう、元に戻れない。あの時感じた暖かさを知った上で、あの生き方へ戻る事を想像すると、私の何もかもが凍えてしまいそうで。それがたまらなく恐ろしい。
傷つけたくないのに、求めている。矛盾した感情で頭がおかしくなりそうだった。
「これより組分けの儀式を始めます」
マクゴナガル先生の声が大広間に響く。大声ではないのに、すんなりと聞こえてしまう不思議な声だ。
彼女は大広間の中央にスツールを一つ置き、継ぎ接ぎだらけで薄汚れた襤褸のとんがり帽を、パーティーの主役扱いするように椅子の上へ丁寧に乗せる。
私を含めた皆がその茶色い帽子に注目した次の瞬間、帽子の裂け目が喋るようにパカパカと開き、ひとりでに歌い出した。
自らを『組み分け帽子』と名乗った帽子は謳う。己は組み分ける存在であり、被った者の内にある資質を見定め決めると。
グリフィンドールには勇気ある騎士のような者が、レイブンクローには機知に富む賢者が、ハッフルパフには優しく忍耐強い者が、スリザリンには真の友を得られる狡猾な者が集まると。
『組み分け帽子』の歌への拍手も終わり、静まり返った大広間でマクゴナガル先生が丸まった羊皮紙を開き、新入生の名前を読み上げ、組み分け帽子を被せる。
「アボット・ハンナ」
「ハッフルパフ!」
組み分け帽子の宣言と同時に、黄のローブを着た上級生達が集まる長テーブルから拍手と喝采があがる。その光景を見て、私の胸の内に不安が渦巻く。
「ボーンズ・スーザン」
「ハッフルパフ!」
「ブート・テリー」
「レイブンクロー!」
次々と名前が呼ばれ、被り、分けられ、拍手と喝采があがる。
あの時、組み分け帽子は謳った。資質をもって分けるのだと。
分けられるに値する資質。私の資質は、何がある?……いや、私には何もない。ただ誰かに命じられ、言われるがまま動くだけの
「フィネガン・シェーマス」
「グリフィンドール!」
「グレンジャー・ハーマイオニー」
「…………グリフィンドール!!」
彼を除いて同学年で唯一知っているハーマイオニーは、帽子がしばらく悩んだ末にグリフィンドールを選んだ。何故かそれを意外そうに見てる子もいたけど、私は彼女がそこへ行った事に納得しか無かった。
初めて会った時、ハーマイオニーはネビルのトレバーを探す為に動いて、別れる時もネビルを心配していた。あの時ずっと正義的に動いていた彼女は、間違いなくグリフィンドールへ属する事に値する人物と言えた。……私と違って。
「レストレンジ・ニハル」
とうとう私の番が来た。
組み分け帽子の座るスツールへ向かう間、向いてしまう意識を必死に押さえつけ、彼から目を逸らす。もし見てしまったら、今度こそ完全に心が折れてしまいそうな気がしたから。
マクゴナガル先生が帽子を手に取り、すっぽりと私の頭へ被せる。
私にはどこか確信めいた感覚があった。きっとここが、私の運命を変える大きな分かれ道なのだと。
老成された知性を感じる声が耳ではなく、頭の中へ直接語りかけるように届く。
『ふむ、ふむ……これはまた……私はかれこれ千年近く、何万という数の子を組み分けてきたが、君はとびきりだ。私に手は無いが、もしあったら君は五指で数えられる程の難しさだろうな』
「私は『あぁ、返事は頭の中に思い浮かべるだけで結構』……私はどこに行くのですか?何の資質もない私の居場所など、どこにもありません)
『そう卑下しなくていい。君は己を才無き者と定義しているようだが、それはとんだ思い違いだよ。断言しよう。君は
組み分け帽子はとんでもない詐欺師だった。何もない私に資質が”有る”と嘯いた。もしこの帽子が人間なら、きっと金庫はガリオンで埋めつくされている。
『全く随分失礼なレディだな……私は組み分けで騙すような真似はせんよ。ジョークを歌う事はあるがね。ジョークといえば大昔、私が大悪党をアズカバンへ組み分けると言った者もいたが……あれは私の帽子生命で1番笑えないジョークだった』
組み分け帽子は詐欺師な上に冗談のセンスがない。もし笑えないジョークがあるなら、今起きてる事がそれだ。
『おっと失礼、君には笑えなかったようだ。……さて、何度も言うが君は何にでもなれる。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリン。君はどの寮に入ろうと偉大な魔女になれる。むぅ……実に悩ましいな君は。君の持つ才は無数の輝き方をするというのに、選べる輝きは一つだけだ』
懲りもせず帽子は嘯く。帽子にこの表現が正しいかも分からないけど、多分この帽子はセンスだけじゃなく目も悪い。それか目が悪いからセンスも悪い。
……私には勇気などない。傷つけ合う恐怖に向き合えず、目を背けてしまう私には無縁の存在だ。
『君は勇気を持てる。今は亡き我が主ゴドリックのように大敵へ剣を振るい、戦うべきでない敵の前で杖を収め、護るべき者を守れる』
私は賢くない。ただそこにあるものを覚えるだけの存在だ。メモ帳は賢者になれない。
『君は賢者になれる。多くの智をもたらしたロウェナは、同時に多くの未開を同志に託した。知識を広め、失わせない事もまた叡智の形だ』
私には優しさも忍耐もない。私は彼を傷つけるというのに、今も卑しく彼を求め続けてしまう。
『君は優しく忍耐強い。彼は君に傷つけられたと同時に君を傷つけた。それを許し続けようとする君の優しさと忍耐を、ヘルガなら必ず認めるだろう』
……私には狡猾さなどない。私が偉大になるなどありえない。もし私が偉大だと言われたならば、それを受け取るべきは私ではない。
『君は狡猾で偉大になれる。目的の為にいかなる手段も厭わず、真の友すら騙し、躊躇いなくその身を捧げる偉大な魔女の姿を、サラザールは誇りに思うはずだ』
────私は
『あぁ、そうだとも。君はからっぽだ、故に何にでもなれる。故に私は今こうして道を示す事しかできない。私にとっては屈辱だがね。頭を覗き、行くべき道へ導く事が私の存在する意味であり、誇りだというのに!』
そう叫ぶ組み分け帽子は、くしゃくしゃな布地を更に縮めながら私の頭に囁く。
『……偉大なる一族の遺し子よ。君が、行くべき道を選びたまえ』
(私が、選ぶ……私が?)
帽子の中で、紫紺の瞳が揺れる。私が、行く先を決める。────どうやって?
無理だ。そんな事は、私にはできない。
『いいや君ならできる。そして、これは君自身の意思で選ばなければ意味が無いのだよ。今私が選ぶのは駄目だ。君が何を望み、どこに
(私が、どこに行きたいか……)
帽子に言われるがまま、思考する。私の意思で道を、望みを決める為に、過去を掘り起こす。
だけど、灰色で止まり続けた
それなのに、光を失った瞳は映し続けている。行きたくて、行くべきでは無いその先を。
本当は分かっている。私の望みが、行きたい場所がどこかなんて。でも、無理だ。私の道は、もう……。
分からない。どうすれば、私は─────
『やれやれ、最後まで手のかかる子だな。だがこれで決まった。君の
「グリフィンドォーーール!!!」
10分にも及ぶ長考の末、組み分け帽子は高らかに叫ぶ。
マクゴナガル先生は呆然としたままの私から組み分け帽子を外し、何も言わず目線で促す。ほんの少しだけ彼女の頬は緩んでいた。
彼女に促されるまま、困惑気味の歓声とまばらな拍手で迎えるグリフィンドールの集団へ向かおうとして。
「何もない者に最も必要なのは、勇気だよ」
組み分け帽子の呟くような声は、私にだけ聞こえた。