次回からいよいよ本番。
♢六奈子
「ハローべいべーアフリカ。ナイル川からティーンエイジャー。ナコナコの訓練4日目担当は美少女魔法戦士クラムゼリー改めジュエリーゼリー。ゼリーちゃんと呼ぶことを許可する。よろよろ」
「よろしく~!」
訓練四日目。今日の担当は、半透明でキラキラしたコスチュームと、クラゲみたいな帽子、そしてしゃべり方がかなり特徴的な魔法少女クラムゼリー、もとい”ジュエリーゼリー”だ。
「あれ? でもそういえばあの相方の子にはクラムちゃんって呼ばせてたよね? ゼリーちゃんもガリちゃんって呼んでたし」
「ああ、私たちは魂で繋がったソウルフレンドだから。他のメンバーとは少し趣が違うのだよ。てなわけで、ナコナコはあくまでゼリーちゃんと呼ぶがよろし。ガリちゃんもらっきょんって名前で呼んであげた方が喜ぶと思うよ。明日はガリちゃんの担当だし」
「うん、わかった!! ⋯⋯あれ? 明日がらっきょんってことはもしかしって最終日の担当って⋯⋯」
「ほいほい、考え事はそこまでにしナコナコ。今この時もすでに、ナコナコは私のキラキラゼリーに包囲されているナコナコ」
クラムゼリーが指摘した通り、奈子の周囲にはすでにクラムゼリーが自身の魔法、『ゼリーをぷかぷか空に浮かべるよ』の魔法で宙に浮かべたゼリーがぷよぷよと漂っていた。
ゼリーは、きらきらしたラメのようなものを含んでいて、とても綺麗だ。これがもっと遅い時間だったら、きっと夜空に浮かぶ星のように見えたことだろう。奈子が思わず見とれていると、ふいに浮いているゼリーのうちの一つが、ほかのゼリーと接触した。
「ぱいよえ~ん」
接触したその瞬間、クラムゼリーが奇声を上げる。すると、接触した2つのゼリーは弾け、その衝撃で奈子は後方に吹き飛ばされた。
「ええ!? なにこれ!?」
「私のゼリーは、ゼリー同士が接触すると弾けて消えるの。ふぁいあー、あいすすとーむ、だいやきゅーと、くらむぼん。ぷかぷか笑ったハッピースマイル。おいしいヤミー感謝シェイシェイ。⋯⋯ほら、こうしている間にも、さっきの衝撃で、またゼリーがナコナコの周りを囲んでるよ」
クラムゼリーが指摘した通り、ゼリーはぷかぷかと再び奈子の近くに寄ってきている。さっきの衝撃をまた食らってはたまらない。奈子はクラムゼリーの奇妙なセリフ回しは無視して、ゼリーを回避する方法を全力で考える。思い返すのは、昨日のさくらとの模擬戦だ。あの時、さくらは奈子に何と言っていたか。
「高所を取れば、有利に動ける!!」
ゼリー同士が接触する寸前に、空中へジャンプで逃げる奈子。そして、足元で発生した衝撃の反動を活かしクラムゼリーへと一気に詰め寄る。
「どりゃあああ!!」
気合の雄たけびを乗せて、奈子はキックをお見舞いする。しかし、そのキックはクラムゼリーに当たることはなく、体の前方を覆うように浮かんだ大きなゼリーによって阻まれてしまった。
「残念だったねナコナコ。このゼリーは私が触ることで空中に固定することもできるんだ。でも、ゼリーのぱいよえんボムの衝撃を利用してこっちに飛んできたのは凄いと思う。なかなかセンスがいいんじゃない?」
その後も、奈子はクラムゼリーとの訓練を日が暮れるまで続けた。宙に浮かぶゼリーの動きは未知数で、伸びてくる方向が分かりやすいさくらの魔法の桜の木と比べると回避が難しく、さくらが先日言っていた『戦闘力順で順番を決めた』という言葉の意味が何となく理解できたのだった。
「お疲れ、ナコナコ。いいデュエルだったぜ。そんなあなたに私からプレゼントふぉーゆー。『ナコナコ』、この名前を贈ろう。いつか立派な魔法少女になって返しにこい」
「え、これってあだ名じゃなかったんだ。でも、可愛いから嬉しい!! ありがとね!!」
☆☆☆☆☆
「よっしゃー! 5日目担当はかわいいかっこいいガリちゃんこと、らっきょんやで。よろしゅうたのむな!!」
「ちょっと待って!!」
訓練5日目担当は、板前風の恰好をした魔法少女、ガリもとい”らっきょん”だ。いつもなら笑顔で挨拶を返す奈子であったが、この順番には納得できず、つい突っ込んでしまった。
「ねえ、らっきょんが今日ってことは、あのジメジメした人が皆の中で一番強いの? うそでしょ??」
「ジメジメした奴ってもしかしてさららのことか? あー、まあ確かにあの性格だと強そうには見えんかもしれんけどな。あいつと戦って勝てるビジョンはうちには浮かばんな。特に、こっちの情報を知られている状態ならなおさらな。まあ、あいつのことは明日わかるやろ。今はうちに集中せえ!」
ぐわっと目を見開き、好戦的な表情を浮かべるガリ。その雰囲気に押され、奈子も自然と気が引き締まった。
確か、ガリの魔法は『トッピングを好きに選ぶことができるよ』だったはずだ。魔法の響きだとそこまで強そうには思えないが、昨日戦ったクラムゼリーは魔法をうまく活用して戦っていた。きっとガリも奈子が思いつかないような魔法の活用法で攻めてくるに違いない。
「どっせぇい!!」
「うわわ!?」
しかし、その予想とは裏腹に、ガリは魔法を使った様子もなくいきなり殴りかかってきた。慌てて応戦する奈子であったが、ガリの動きは先日まで模擬戦をした二人よりも圧倒的に鋭く、素早かった。パンチを防いだところを、お粗末になっていた足元を払われ、転倒したところを上から押さえつけられる。そして、ガリは奈子の上から圧し掛かった体勢のまま、自信たっぷりにこう宣言した。
「なんや。まだまだ大したことないなぁ。これなら、うちが魔法を使わんでも勝てそうやわ。もしうちに魔法を使わせたら、満点あげたるで?」
「む! あんまり馬鹿にしないでよね!!」
奈子は全身に力を入れ、ガリを押しのける。そして、そのまま反撃に移るが、奈子の攻撃はガリにことごとく軽くあしらわれてしまう。
このままではダメだ。冷静に考えて、奈子の戦闘経験値とガリの戦闘経験値は違いすぎる。純粋な格闘戦でガリの意表をつくことはできないだろう。
ならばと、奈子は自分の固有の魔法アイテムである巨大な消しゴムを、ガリ目掛けてぶん投げることにした。
「うおっ!?」
すると、ガリは大げさなくらいに反応して回避行動をとる。一瞬だが、隙が産まれた。奈子は、その隙を逃さず懐に入り込み、こぶしを叩き込む。
「へえ、やるやん。やっぱ、あんたそこそこ戦闘センスあるで」
ガリにそのこぶしは届くことなく、右手で受け止められてしまった。しかし、奈子の戦闘センスを認めたガリは、自分の魔法を見せることを決め、空いている左手で指をパチンと鳴らす。
「あっつぅ!?」
奈子の顔面を襲ったのは、焼けるような熱さ。何か熱いモノが顔の上に乗っている。少し遅れてそのことに気づいた奈子が慌てて顔を手で払おうとするも、全然顔の上のモノははがれない。
「あっはっは!! 無駄や無駄無駄!! それを取るには食うしか手段はないで!! これがうちの魔法、『トッピングを好きに選ぶことができるよ』や。うちが食べたことのあるモノなら、どこにでもトッピングを載せることができる。今載せたのはアツアツの目玉焼きやな!!」
「あつ、あつ!! こ、これを食べればいいの!?」
奈子は、言われた通り素直に顔の上の物体に舌を伸ばし、頑張って捕食する。食べてみると確かに、熱々の目玉焼きだった。しかもおいしい。
「もぐもぐ。おいしい!! でも、確かに驚いたけれどさ、この魔法ってそんなに強くなくない? だってトッピングできるだけでしょ?」
「あー、ダメやわ。ダメダメ。なんも分かっとらんなぁ。うちのトッピング魔法は、”どこにでも”トッピングできるんやで? もちろん、目視した場所って制限はあるんやけどな。それでも、こうやって会話してる隙に、うちがあんたの口の中を見て、そこに餅をトッピングしたらどうなると思う? あんた、息詰まってしまいやで」
「そ、そう言われると確かに怖いかも」
「どんなに弱そうに聞こえる魔法でも、決して油断はせんことや。魔法少女の可能性は無限大やからな。やれると思えばやれることの方が多い。でも、経験値がないとそもそも何ができるか考えることも難しいやろ? だからこうして皆で稽古をつけとるんや。しっかり先輩たちから学ばんとあかんで、奈子ちゃん」
そう言ってばちんとウインクをしてみせるガリは、なんだかとても頼もしく見えた。クラムゼリーと二人でわちゃわちゃしている時はそんな風には思わなかったが、なんだか頼れるお姉さんみたいな雰囲気を感じる。
「えっと、確か”アネゴ”とか言うんだっけ? こんな感じの人のこと」
「おーい、なんか言うたか? まだまだ訓練はここから。弱音吐くには早いで~?」
「ううん、なんでもない!! 改めてよろしく!!」
この日も、奈子は日が暮れるまでガリと訓練に励んだ。ガリとの訓練はかなり激しいもので、ここ数日でだいぶ慣れたかと思っていたが、終わるころにはへとへとになってしまっていた。
「お疲れさん!! よう頑張ったな。そんな奈子ちゃんにはうちから素敵な名前をプレゼントや。『775』。こう書いて”ナナコ”って読むんや。数字が名前になってる魔法少女なんてめったにおらんやろうから、うちらみたいに名前で苦しむ心配もない、完璧ネーミングや!」
「うおー、天才だぁー!! この名前、大事にするね!!」
名前を貰えると、嬉しさで疲れも吹き飛ぶ。奈子は、たくさんの名前を貰って、とても幸せだった。
☆☆☆☆☆
「え、えっと⋯⋯。あ、今日はよろしくお願いします⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「あ、そうですよね。ぼ、ボクみたいなジメジメした奴とは話したくないですよね⋯⋯」
「やめてよ、それ。なんかあたしが悪いみたいじゃん。今日はあなたが担当なんでしょ。さっさとやって、早く終わらせようよ」
訓練最終日。今日の担当はさららだ。正式に登録されている名前は、”『さらら』がいいです”という不憫な魔法少女だ。
だが、奈子はどうにもこの魔法少女が苦手だった。いちいち自分を卑下するような言い回しがどうにも気に障るし、常に丸まっている背中とか、ジメジメした雰囲気とか、見ているだけで苛立ってくる。
純粋な見た目だけなら、凄くきれいだと思う。お姫様みたいなデザインのドレスも、ぐるぐる渦巻いている虹色の瞳も、気を抜くと見とれそうになるくらいだ。
でも、それを上回る嫌悪感が、奈子に刺々しい態度を取らせてしまう。奈子は、自分でもどうしてこんなにさららに対してキツイ態度を取るのか不思議だった。
それにしても、こうして対峙してみても、さららがチーム内最強とはどうにも信じがたい。昨日戦ったガリは、強者の風格があった。模擬戦はしなかったが、リーダーのああああも強者特有のオーラのようなものを感じられる。しかし、目の前のさららにはそんなオーラは一切なかった。
「そ、そうですね。早く終わらせましょう。痛いのは嫌だし、戦うのも好きじゃないから⋯⋯」
「ねえ、準備はいい? そっちが来ないなら、こっちから行くよ?」
「あ、えっと、もういいです。
奈子が、さららの言葉を理解したのは、自分の四肢にいつの間にか巻き付いていた髪の毛が、自分を持ち上げて宙づりにされたその時だった。
「えっと⋯⋯。あ、ボクが勝ったから、もう終わりでいいですかね? あ、そういえば、名前。名前、贈れって言われてたんだった。あ、あの、もしご迷惑でなければ、ボクも名前を考えたので、えへへ⋯⋯。も、貰ってくれませんか?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!! 今何したの!? まったく分からなかったんだけれど!?」
「あ、あ!? そういえばボクの魔法まだ言ってなかった⋯⋯。ダメだよね、こんなんじゃ⋯⋯。えっと⋯⋯ボクの魔法、『さらさらの髪の毛を自由にアレンジできるよ』って言うんです。ここに来た時に、地面に髪の毛を伸ばしておいて、いつでも拘束できるようにしてました⋯⋯」
「ちょ、それってずるじゃないの!? 納得いかない!! もう一回やってよ!!」
奈子が大声を出すと、さららはびくっと身体を震わせ、涙目で奈子を見つめてきた。
「で、でも⋯⋯もしかしたら、模擬戦で凄い痛い怪我するかもじゃないですか。ボク、痛いのは嫌なので⋯⋯」
「は? 何言ってるのさ」
「常に、最悪の結果を想像してるんです⋯⋯。怪我したらどうしよう。戦うの嫌だなぁ。じゃあ、戦う前に無力化すればいいのかなって。あと、あなたのソレ⋯⋯」
さららは、震える指先で地面に落ちている消しゴムを指さす。奈子は、その時初めて、自分の手元から消しゴムがなくなっていることに気が付いた。
「消しゴムを使う魔法、髪の毛を消したりとかできそうじゃないですか⋯⋯。だから、縛る前に背後から伸ばした髪の毛で消しゴムだけ落としておきました。あ、大事なモノでしたよね。ごめんなさい、ボクなんかがこんなことして⋯⋯」
「いや、あたしの魔法の消しゴムで消せるのは落書きとかそれくらいで、髪の毛みたいなしっかりしたものは消せないし⋯⋯」
「どうしてそう言い切れるんですか? 魔法なんだから、100%できないなんてことないじゃないですか。だから、ボクは警戒するんです。常に最悪の未来を想定して、それを回避するために全力を注ぐんです。そうしないと、怖くて息をするのも苦しいから⋯⋯」
病的だ。病的なまでのネガティブさだ。奈子は、何故さららが一番強いと言われていたのかをなんとなく理解した。この魔法少女は、常に最悪のパターンを想定している。そして、その最悪を防ぐために最適な行動を、最速で行うように全力を注いでいる。
奈子は、さららに自分の魔法の詳細を教えていない。それなのに、さららは奈子の魔法の消しゴムを警戒して、真っ先に叩き落としている。それは、奈子がネガティブすぎるがゆえに、最悪なパターンを想定した結果の対処だ。病的なまでのネガティブさが、さららを結果的に強い魔法少女にしていた。
「あたしがあなたのことをなめていたのは謝るよ。でも、今日はあたしの訓練でしょ? じゃあ、あたしが納得するまで付き合うのが仕事じゃないの?」
「あ、確かに、そうですね⋯⋯。じゃあ、乗り気じゃないですが、もう一戦、お願いします⋯⋯」
さららは、髪の毛の拘束を解いて、奈子を地面に下ろしてくれた。関節をがっしり絞められていたので、少し痛みは残るが、動きには支障はない。奈子は、消しゴムを拾い上げ、先ほどさららから言われたことを考える。
本当に、この消しゴムで髪の毛を消せるのだろうか? ずっと、消しゴムじゃ実態のあるモノを消すのは無理だと思い込んでいた。でも、奈子は魔法少女だ。魔法少女なら、きっと、普通ならあり得ないことだってできるはずだ。
「あ、じゃあ、いきます⋯⋯」
気の抜けた掛け声と共に、さららが髪の毛を伸ばす。髪の毛を自由にアレンジできると言っていたが、本当に自由に伸ばしている。でも、目に追えない速度じゃない。奈子は、冷静に髪の毛の動きを目で追い、その先端に向けて消しゴムを振り下ろした。
「や、やった!!」
消しゴムで髪の毛を消せると強く自己暗示をかけながら試してみた結果、消しゴムは見事髪の毛を消すことに成功した。でも、消しゴムが髪に触れた箇所が、黒く汚れてしまっている。このままだとすぐにまた消すことはできない。汚れを取るために一度地面か何かを擦る必要があるだろう。きっと、これが実態のあるものを消すときの条件なのだ。落書きを消した時は消しゴムが汚れることはなかった。
「あ⋯⋯。やっぱり、消せちゃいますよね。なら、対策しといてよかったです⋯⋯」
しかし、対峙するさららは奈子が髪の毛を消しても驚くことはない。何故なら、先にその可能性を考え、既に対処をしていたから。いつの間にか切り離された髪の毛の一部が、奈子の背後から襲いかかり、奈子の首元にきゅっと回される。さららは、髪の毛ならばたとえ切り落とした髪の毛でも自由にアレンジして操ることができた。
「う、く、苦しい⋯⋯」
奈子は、何が起こったのかすら分からないまま、髪の毛に首を絞められ、そして気を失ってしまった。
目を覚ました奈子は、何か自分がすごくいい匂いのするさらさらの物体に包まれていることに気が付いた。それがさららの髪の毛であることに気が付いた奈子は、慌てて飛び起きる。
「あ、おはようございます⋯⋯。ご、ごめんなさい。ボク、手加減苦手だからついやりすぎちゃうんです。あ、地べたに寝かせたら悪いと思って、髪の毛の上で寝かせてましたが、嫌じゃなかったですか? いや、嫌に決まってますよね。ごめんなさい⋯⋯」
「⋯⋯ううん、それは嫌じゃなかったけれど」
むしろ、いい匂いでとても寝心地がよかった。そんな本音は、絶対に言ってやらない。相変わらず自分を卑下するような言動しかしないさららに対して、奈子は再びイラついてきた。
「ねえ、なんでそんなにネガティブなの? 見ててなんかイラつくんだけど」
「だって⋯⋯ぼ、ボクなんか、ただの根暗でダメな奴ですし⋯⋯」
『あたし、ゴミだって』
いじいじと顔をうつむけながら、なおも自分を卑下するさららに、昔の自分が重なる。ゴミみたいに生きていた、昔の自分が。あの、どうしようもなく救いようのない、ゴミみたいな日々が。
「うん、やっぱ、あたしあなたのこと嫌い。⋯⋯もう、これ以上はいいや。じゃあね」
「あ、もう帰りますか? あ!! な、名前、まだ名前、贈ってないです⋯⋯」
「⋯⋯いらないかな。あなたのは」
「あ⋯⋯。そうですよね。ボクなんかの考えた名前なんて、いりませんよね⋯⋯。へへへ⋯⋯」
何もかもあきらめたような、弱弱しい笑みを浮かべるさらら。そういう態度が、いちいちムカつくのだ。
この日、さららは初めて、幸せじゃない気持ちで一日を終えた。それが、さららのせいなのか、それとも名前を貰えなかったからなのか。自分でもよく分からなかった。
☆☆☆☆☆
最後に余計なことを思い出してしまった。奈子は、アーカー・ペンシル子の前で顔をしかめる。訓練最終日こそ微妙な気持ちで終わったが、奈子の気持ちは揺るがない。皆に貰った名前を、真に自分のモノにするためにも、そして、大切なみんなの願いをかなえるためにも、奈子はこの一週間で培ったすべての力を、明日の本番にぶつけるだけだ。
「赤ペン先輩、あたしは止まらないよ。皆のためにも、自分のためにも、やんなきゃダメなんだ」
「⋯⋯そっか。じゃあもう、私も止めない。でも、これだけは約束して。絶対、無事に帰ってきてね」
「⋯⋯もちろん!!」
奈子は、ペンシル子と指切りげんまんで約束する。再びここに帰ってくること。そして、その時は、自分の大切な仲間をペンシル子にも紹介してあげよう。奈子はそんなことを考えていた。
──しかし、その願いは叶うことはない。奈子が、その未来を知るのは、一日後。そして、その時起こる”最悪の事態”ばかりは、あのさららですら対処不可能なモノなのであった。