魔法少女育成計画NoName   作:赤葉忍

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本日2話目です。まだ読んでいない方は、ぜひ前話からお読みください。


裏口の戦い

♢正午少し前

 

 作戦開始の10分前。Re:Nameのメンバーは、諸々の準備を終え、最終確認を進めていた。勿論、皆をまとめるのはああああだ。

 

「いいか、改めて作戦の概要を伝える。正午ちょうどに、私たちは人事部のオフィスを占拠。人事部職員を人質に、部門長へと交渉を申し出る。侵入時は裏口と正面玄関に分かれ突入。正面玄関で私たちが注目を引き付ける間に、別動隊のアイアイとさらら、お前たち二人で職員を拘束してくれ」

 

「了解っす」

 

「あ、あのぉ⋯⋯。なんでボクたちは二人なんですか? 人数的に平等に分けた方が、いいんじゃないかと思うんですけれど⋯⋯」

 

「戦闘力で平等に分けた結果だ。さらら、君は強い。私は君のことを信頼しているよ。勿論、ほかの皆のこともな。⋯⋯私たちならば、必ず目的を達成できるはずだ!! 人事部をぶっ潰せ!! 多少の暴力は、許容する!! 私だってあいつらの顔面をぶん殴りたい欲望がある!! だからそれを止めることはしない!! しかし、命は奪うな!! 私たちはあくまで、本来得るべき名前を手に入れるために戦っている。その本質だけは忘れてはならない。いいな!?」

 

「「「「「おう!!!!」」」」」

 

「うう、気は乗らないけれど、頑張ります⋯⋯」

 

 さらら以外のメンバーの声は一つに揃った。さららも、なんだかんだ言いつつ、ここまで一緒に来ている時点で逃げだしたりすることはないだろう。メンバーは皆、さららがやるときはやる奴であるということを知っている。若干一名、新入りの奈子だけは、こいつ空気読めないなぁと内心さらに好感度を下げていたが。

 

「突入の合図は、人事部門の協力者が出してくれる手筈になっている。そいつは、信頼はできないが、裏切る心配はない。何度か話す機会があったが、あれは正義とやらに妄信的に取りつかれているからな。人事部に入ったのも、公務員が正義っぽいという理由だそうだ」

 

「いやあ、あいつはやばいっすよ。うちも一回会ったことがあるっすけれど、あれは控えめに言って変態っすね。正面から突入してあいつと顔を合わせることがないのは、正直ほっとしてるっす」

 

「ソイエとアイアイがそこまで言うなんて、なんか逆に気になってきちゃうなぁ」

 

「心配せずとも、奈子。お前にはあいつに関わらせる気はない。⋯⋯そして、噂をすれば何とやらだ。合図の連絡が来たぞ」

 

 ああああが皆に魔法の端末の画面を見せる。差出人の名前は、『正義の味方ドロップちゃん』。メッセージの内容は、『入口のロック解除したっすよ~。それじゃあ、いっちょ正義の鉄槌、食らわせてくれっす!!』というものであった。

 

「こいつ、うちと語尾が被ってるのも気に食わないんすよねぇ」

 

「どうせ付き合いはこれきりだ。気に食わないなら一発ぶん殴ってやればいい。そんなことより、作戦開始だ!! 皆、気を引き締めていけ!!」

 

 ああああが旗を振り上げ、その合図とともに、皆が動き出す。特に動きが速いのは、裏口からの侵入チームに割り当てられた、ケイオスとさららの二人だ。ケイオスは魔法のアイテムのサポートをフル活用してターボエンジンで爆走し、さららは髪の毛を器用に使い、ベルトコンベア形式で自分を猛スピードで運んでいく。

 

「はぁ。気乗りしないです⋯⋯。な、なんか嫌な予感がするんですよね。やっぱり、今からでも帰りませんか?」

 

「何言ってんすか馬鹿タレ。もう作戦始まってるんだから、今さら引き返せるわけないでしょうに⋯⋯。っと、馬鹿なこと言ってるうちに、裏口着いたみたいっすね」

 

 正面玄関から裏口までの距離はそこそこあるが、その距離をこの一瞬で移動したことからも、この二人の実力がうかがえる。ロックがちゃんと解除されていることはケイオスは目に装着した透視用の魔法のアイテムで確認したが、トラップが仕掛けられている可能性もある。

 

 ケイオスが合図をしようとして横を向くと、既にさららは髪の毛を入り口に向けて伸ばしていた。おどおどした態度は相変わらずだが、こういう時は常に最適解を最速でたたき出す。

 

「あっ、えっと⋯⋯特にトラップなんかはないみたいです。でも、入り口から30mほど離れた位置に、魔法少女らしき人物が一人隠れています。た、たぶん戦闘慣れしてます。気配の隠し方がうまいので⋯⋯」

 

「うーん、今さら突っ込まないっすけどね。さららのその状況把握能力、マジいかれてるっすよね。なんで髪の毛伸ばしただけでそこまで分かるんすか?」

 

「か、髪の毛の性質をアレンジして、五感を持たせるようにしてるので⋯⋯。あ、でも、触覚だけは普段は切ってますよ。痛いのは嫌なんで⋯⋯。うう、かなり強いですよ、この魔法少女。不意打ちで倒すのは無理です。正面から突破しないと⋯⋯」

 

「確か、人事部門には警備担当の魔法少女が居たはずっすから、そいつかもしれないっすね。どうっすか、さらら。うちらで勝てそうっすか?」

 

「あ、それは勝てます。で、でも、戦闘音でボクたちの存在がバレたら、作戦うまくいかないかもですよね。うう、なるべく早く終わらせないと⋯⋯」

 

 ケイオスは、ぶつぶつと考え込み始めたさららを見て、半ば呆れていた。さららは、既に勝利を疑っていない。心配事は、どれだけ早く戦闘を終わらせることができるかなのだ。それは、ネガティブすぎるというより、ある意味傲慢にも思えた。

 

「じゃあ、さっさと突入するっすよ。そうやって考えている時間の方が無駄っす」

 

「あ、ちょっと待ってください。ね、念のため耳栓を付けてから⋯⋯」

 

 ケイオスは、さららが耳栓を装着するのを横目に、既に裏口のドアを開けていた。何故さららが急に耳栓を付けだしたのか。その理由は、裏口を開けた瞬間、目の前に投げ入れられたスピーカーから流れてきた軽快なミュージックを聞いた瞬間に理解させられた。

 

『ミュージックに合わせて流れる指示! レッツ、Q・T・E!!』

 

 直後、ケイオスの脳内に、でかでかと矢印が表示される。それがおそらく何らかの魔法であることは理解できたものの、その意味までは分からず、ケイオスはとっさに身構えることしかできなかった。

 

「ぐわああああああ!!?」

 

 すると、脳内にぶっぶーとクイズに不正解した時のような効果音が聞こえたと思えば、全身にいきなり雷に打たれたような衝撃が走る。あまりの痛みに思わず声を漏らしたケイオスは、さらに体の異変に気が付く。何故か、まったく体を動かすことができないのだ。

 

「──不審者には、容赦など不要!! 最初からペナルティ最大、電撃マックスと一定時間魔法の行使の制限と身体の拘束をかけさせてもらった!! このまま捕縛といきたいところだが⋯⋯どうやらゴミ虫は、もう一匹いたらしい」

 

「よ、よかった⋯⋯。ラジカセが見えたから、念のため耳栓しといて正解でした。い、今のでだいたい分かったので、これで安心して対処できます⋯⋯」

 

「はっ! まさか、耳栓だけで私の魔法を対策したつもりか!? そんな舐めた態度など、言・語・道・断!! ルールにのっとり、貴様らを捕縛する!! ブタ箱にぶち込まれる覚悟はいいか、ゴミ虫どもめ!!」

 

 ケイオスは、心の中で、それなら先に警告しとけよ! と悪態をつくが、口すら動けない状態なので、その文句は届かない。さらさらと髪を伸ばし臨戦態勢を取るさららを、今はただ応援することしかできない。

 

 さららは、まずはけん制とばかりに、伸ばした髪で対面する魔法少女、キューティー☆Eに対し攻撃する。それをひらりとかわしたキューティー☆Eは、さららに視線を向けたまま、ぶんっと腕を振り下ろした。

 

 すると、その瞬間、さららの脳内に大きな矢印が表示される。さららは、その矢印に素直に従い、体を動かした。

 

(きっと、これは相手の魔法の効果。ボクは耳栓をしてたから直接は聞いていないけれど、髪の毛で音は情報として捉えていた。あの音楽はQTEと言っていたから、きっとこの指示に従わなかったせいでアイアイさんはペナルティを受けてああなっているんだ)

 

 さららが髪の毛を伸ばした範囲では、あらゆる情報は筒抜けになる。それに加え、さららの病的なまでのネガティブ思考からくるほぼ未来予知にも近い危機察知能力は、本来なら致命傷となりうる“初見殺し”をほぼ無効化する。

 

「貴様、私の魔法の仕組みにもう気づいたのか!! だが、気づいたところで、一切問題はなし!! このまま畳みかける!!」

 

 キューティー☆Eは、本来ラジカセの音源を聞かせた時点で侵入者を一網打尽にするつもりであった。入口付近に気配があることは、何となく感じとっていたので、複数人にも効く方法でQTEを仕掛けたのだが、不発に終わってしまった。

 

 キューティー☆Eの魔法の発動条件は、対象の相手を視界にとらえ、合図を出すこと。その合図には、決まったポーズなどはないため、その場に応じてウインクしたり腕を振り下ろしたりで、臨機応変に対処している。複数人に対して一度に合図を出す際には、音声が一番効果的なので、自分の声を録音したラジカセは常に持ち歩いている。

 

 しかし、どういうわけか、不審者の片割れは耳栓をしていたので、不意打ちは半分不発に終わった。その後の動き方を見ても、どうやらこの髪を自在に操る魔法少女はかなりの戦闘巧者だ。キューティー☆Eは、警戒レベルを何段階か上げ、さらに魔法をぶつける。

 

「『右・上・左・下・上・左・ジャンプ・回転・逆回転・スキップ・しゃがむ・右・左』!!」

 

 さららの脳内に表示される指示は、先ほどとは段違いの速度と難易度だ。それらに即座に対応しつつ、視線はキューティー☆Eから外さない。さららが脳内指示に従って右に移動したところに、キューティー☆Eは全力で拳を振りぬく。本来は、その後のQTEもあるので、対処すればその後のQTEが達成できず、QTEに従えばパンチに当たる回避不可能な攻撃だ。

 

 しかし、さららは、その拳を髪の毛で作った巨大な拳で受け止めることで対処した。もちろん、体はQTEの指示に素直に従う。その間も、思考を平行に動かしながら、髪の毛を魔法で操ることは止めない。

 

 一方、自分の攻撃を受け止められたキューティー☆Eも、動揺することはなく、冷静に対応する。目の前で髪の毛がほどけ、キューティー☆Eの四肢に絡みつこうとするが、それはジャンプで回避。再び魔法でさららに指示を与え、追撃を与える構えだ。指示は先ほどよりもさらに速く、複雑に。

 

「あ、ちょっと、面倒ですね、これ⋯⋯」

 

 さららは、口ではそう言いつつも、余裕をもってQTEに従う。しかし、一連のフェイズを乗り越え、最後に脳内に示されたQTEを見て、さららは絶望した。

 

「ええ、嘘ぉ⋯⋯」

 

 その指示は、前後左右、すべてに伸ばされた矢印。絶対に再現不可能な動きに対応できず、初めて脳内でぶっぶーと不正解の効果音が鳴り響く。

 

「卑怯とは言うな!! しかし、その理不尽な指示は、その分課せるペナルティもそこまで重くはない!! だが、一瞬でも動きが止まれば、それは致命的な隙になる!!」

 

 動きを止めたさららに、キューティー☆Eは懐から取り出した手錠をかける。この手錠は、魔法少女の魔法の力を封じる効力を持つ、特注の一品だ。刑務所でも使用されているこの手錠を、なんとか借りることに成功したキューティー☆Eは、ここでそのうちの一つを使うことを決断した。本来は、この後にやってくるという二人の魔法少女用に備えたモノだったのだが、背に腹は代えられない。

 

 しかし、その覚悟をもってかけたはずの手錠は、さららの腕をとらえることはなかった。目の前でさららだったものが、さらさらの髪の毛に分解される。目を見開くキューティー☆Eの背後から、さららのおどおどとした声が聞こえてくる。

 

「あ、すいません⋯⋯。ボク、髪の毛といつでも場所交換できるんです。隙を見せたら、たぶん何か切り札を見せてくるとは思ってましたが、そんな危ないモノ、やめてくださいよ⋯⋯。絶対痛いじゃないですか」

 

 とっさに振り向いたキューティー☆Eだったが、その時には既に髪の毛によって四肢は拘束され、持っていた手錠は、さららが髪の毛でくるんで破壊してしまう。

 

「あ、えと⋯⋯勝ちました。あのぉ⋯⋯アイアイさんを動かすには、どうしたらいいですか?」

 

 さららは、この短い戦いの勝者とはとても思えないおどおどとした態度で、キューティー☆Eにそう尋ねる。しかし、キューティー☆Eはまだ諦めていない。いまだ衰えない闘志をその瞳に宿しながら、さららを力強くにらみつけるのであった。

 

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