♢六奈子
ああああを先頭に、正面玄関から突入したメンバー。しかし、全員がそのまま進むわけではない。さくらは、正面玄関から救援が来るのを防ぐ役割を担っていた。
「桜花ちゃん、大丈夫なの? 一人だとやっぱ危なくない? やっぱり、誰かが一緒に居た方がいいんじゃ⋯⋯」
奈子は、まだ一週間弱の付き合いだが、年も近くてテンションがあうさくらのことは一番仲良しだと思っていた。さくらもそう思っていると願いたい。
「だいじょうぶいだよ、奈子ちゃん! 私の魔法なら桜の木を生やしまくればバリケード作れるし、危なくなったらすぐ逃げちゃうから!! それより、そっちの方が大変なんだから、気を付けてよね!?」
「うん、そうだよね⋯⋯」
さくらはいつもと同じハイテンションだが、奈子の不安は晴れない。そんな奈子を見て、さくらは満開の笑みを浮かべ、ぎゅっとハグをお見舞いしてきた。
「大丈夫、大丈夫。何も問題ないって。かいちょーが、私たちを導いてくれる。皆で勝って、素敵な名前を手に入れよう? そうだ、全部終わったらさ。どっか遊園地にでも行こうよ。私、奈子ちゃんともっといっぱい遊びたいな!!」
「──分かった!! 約束だからね!!」
さくらからぎゅっと抱きしめられて、奈子の心にわずかに残っていた不安は晴れた。そんな二人の様子を、残りのメンバーは少し離れた場所でほほえまし気に眺めている。
「いやあ、美少女二人の抱擁は絵になるなぁ。うちらもハグしとくか? クラム。うちらの絵はなんぼで売れるやろなぁ」
「一、十、百、千、満天なんでも鑑定団。残念ながら私たちの百合は造花みたいだよ」
「さあ、残るさくらの分も、私たちは先に進むぞ!! この旗に続け!!」
ああああが、旗を掲げて先頭を進む。奈子は、さくらに手を振って別れを告げ、その後ろに続いた。不思議と、旗を見ると勇気が湧いてくる。これは、ああああの魔法の力なのか、それとも彼女のカリスマによるものなのか。
さくらの姿が見えなくなってから約数秒後。少し開けた場所に出たところで、異様な光景が目の前に広がる。そこにあったのは、室内を縦横無尽に渡すようにかけられた、無数の橋。まるでバリケードのように建てられた橋の前に、魔法少女が二人いる。
一人は、ピンクと白のふわふわしたコスチュームが特徴的な魔法少女。もう一人は、半透明な合羽のようなコスチュームに、キラキラのラメが散りばめられた、やや青っぽい髪色の魔法少女だ。そして、その青色の髪の魔法少女は、右手でピースサインを作りながら左手は前に伸ばし、やや前傾姿勢でポーズをビシッときめてみせた。
「夢と希望、未来をつなぐ天ツ橋!! 彗星の如く、今、推・参!! 魔法少女ミルキーウェイ、憧れに届くためにも、ここから先は、絶対に通しません!!」
きらきらと強い意志のこもった瞳でこちらを見据えるミルキーウェイを見て、奈子は自分もあのポーズ、めちゃくちゃかっこいいなぁと思わず見惚れてしまったのであった。
♢ああああ
目の前に立ちふさがる魔法少女二名。どちらもかなりの手練れだ。そして、事前に調べた情報で把握しているのは、ここが人事部のオフィス前のスペースであるということ。つまり、この魔法少女2名を突破してあの橋のバリケードを破らなければ、ああああの目的は果たすことができない。
「私はこのピンクの魔法少女と戦う!! 皆はその青い魔法少女を頼む!!」
どちらも戦闘巧者であることは変わらないが、おそらくこちらのピンクの方が立ち振る舞いからして年齢は上。そして、個人差はあるが年齢を重ねた魔法少女は基本自分の魔法に関する理解度が高い。すなわち、より相手にするのがめんどくさい。ああああは、面倒くさい仕事は自分が引き受けるタイプの上司であった。
「一騎打ちだ!
メンバーに指示を出した直後、ピンクの魔法少女の前に躍り出て、旗を掲げ、技名を叫ぶ。効果は、“一定時間自分以外に意識を向けないようにする”。これで、この魔法少女はああああにしか攻撃できない。
槍のように突き出した旗は、ピンクの魔法少女が手に持つスポンジで受け止められた。手ごたえが思った以上にない。どうやら、あのスポンジはこちらの技の衝撃を吸収しているようだ。あいさつ代わりの一撃で相手の魔法の効果を推察したああああは、仕切り直しのためいったん離れる。
「挨拶が遅れて申し訳ない。私の名前は、今は『ああああ』だ。この名前で、私たちが何故今ここにいるのかを察してもらえると助かるのだが!!」
「あらあら。これはどうもご丁寧に~。私の名前は、ラブリーバブリー。普段は清掃員をしているんだけれど、ちょっと危ない魔法少女を見かけたから、臨時で助っ人に入ることにしたのぉ。それで、あなたたちが今ここにいる理由だったかしら? それを私が察したところで⋯⋯どうせ捕まる社会のゴミに、同情なんかいるのかしら?」
ラブリーバブリーが、目をすっと細める。その目は、まさにゴミを見るような目だ。やはり、こちらを警戒した自分の判断は間違っていなかった。
今度は、先手を取ったのはラブリーバブリーだった。スポンジを使い即座に泡を生成し、その泡を利用して地面を滑り、蹴りを入れてくる。スカートがひらりと舞い、それに合わせてああああも旗をひらめかせる。足をからめとったかと思いきや、ラブリーバブリーは即座に宙返り、今度はかかと落としをこちらの脳天に食らわせてくる。とっさに頭上で旗を横に構えて受け止めるも、思わず腕がしびれる強さだ。
ぐるりと旗を回す動きに合わせ、ラブリーバブリーはくるりと後方に飛び跳ねる。その着地に合わせ突き出した旗は、またしてもスポンジに受け止められる。しかも、今度は受け止められるだけではなかった。スポンジが旗の先端を受け止めた直後、カウンターのようにスポンジから放たれた衝撃派によって、ああああは吹き飛ばされる。
「──なるほど、攻防一体のスポンジ。なかなかに厄介だな」
「ふふふ、あなたはさっきからぶんぶん旗を振り回してばかりだけれど、誰を応援しているのかしらぁ?」
「ふん、あまり舐めてくれるなよ。貴様を振り回してやるさ!! “
魔法の力で自分の力にバフをかけ、ああああは先ほどよりも数段早くなったスピードで、旗を振り回す。単調な攻撃はしない。スポンジで受け止められて返されるだけだからだ。いつも以上に旗を大きく振るい、視界を遮るような立ち回りを意識する。
「も~、うっとおしいわね!! いい加減、おとなしくしなさい!!」
ラブリーバブリーは、そう言うと、床に両手をつき、半径10m程度の範囲をスポンジの床に変えた。そして、スポンジと化した床に対し、力強く足踏みする。直後、突き上げるような衝撃によって、ああああは宙へと打ち上げられた。
「くっ!?」
対処不能の衝撃を受け、苦悶の表情を浮かべるああああ。しかし、これで終わりではない。
空中で自由に身動きできないああああ。その隣に浮かびあがるのは、大きなスポンジを手に持ったラブリーバブリーだ。その手に持ったスポンジで自ら発生させた衝撃を吸収させることでダメージを防いでいたラブリーバブリーは、追い打ちとばかりに、その巨大スポンジから放った衝撃派をああああにぶつけた。
吹き飛ばされたああああは、壁に激突して床に落下する。ダメージはそこそこ大きいが、ああああは即座に立ち上がり、そして再び旗を振り始めた。
「また旗を振ってるの? そろそろ白旗でも上げた方がいいんじゃないかしらぁ?」
「⋯⋯私が、何も考えずにただ馬鹿みたいに旗を振っていたと思っているのか?」
「? 何を言って⋯⋯る⋯⋯?」
追撃を入れようと動かしたラブリーバブリーの足が、ピタリと止まる。何故か、旗の動きから目が離せない。そして、心の奥底から、とてつもない勇気が湧いてくる。それと同時に、湧き上がるのは、ああああに対する尊敬の気持ち。この旗に従えば大丈夫だという安心感。
真剣な面持ちで旗を振り続けるああああは、既にラブリーバブリーのことを見ていない。その目が見据えるのは、橋のバリケードの先。ああああがぶち壊したいと願う、人事部門の総本山。歩き出すああああに対し、ラブリーバブリーは自然と膝をついて道を譲っていた。
「“先生”。どうぞ、先にお進みください~。あなたの目指す理想が、私にとっても理想です~」
「ああ、ありがとう。あと、私のことは先生ではなく、ソイエ・グローリアと名前で呼ぶように」
「わかりました、先生~!」
ああああは、ちらりと後方を振り返る。そこでは、まだ仲間たちがあの青い魔法少女と戦っていた。しかし、手助けはしない。ああああは、自分の望みをかなえるため、突き進む。
「さあ、お堅い人事部門の奴の顔を、ぶん殴ってやろうか」
怒りでゆがめられたその顔は、メンバーの誰も見たことがない、ああああの隠しきれない本心であった。