魔法少女育成計画NoName   作:赤葉忍

17 / 46
連日投稿。ノリノリでいきます。


正義に屈しちゃうっす!!

♢六奈子

 

──時刻は、ケイオスが合流する少し前に遡る。

 

 奈子の目の前で、さくらがミルキーウェイの腹を貫き、そしてその奥では、ああああの身体に穴が空いている。突然やってきたあの黒い魔法少女は誰だ。さくらがなんでここに居るのか。ああああは、なんであんなことになっているのか。

 

 何一つ理解できずに固まる奈子。ガリも、奈子の隣で動揺を隠しきれていない様子でいる。

 

「⋯⋯ねえ、どうして、私の周りにこれ浮かべているのかな?」

 

「サクサク、あなたのサクサク桜満開度合い、いつもと違うよね。アイアム電波5Gの反応が違うと反応している。あなた、誰?」

 

 声も、さくらとまったく同じだ。しかし、奈子とガリよりも早くその独特な感性でもって異変に気付いたクラムゼリーは、既に戦闘態勢を取っていた。ゼリーをさくらの周りに浮かべ、いつでも起爆できるよう準備している。

 

「⋯⋯おかしいですね。ちゃんと仮面は被れているはずですのに。日本語もほら、ちゃんと話せているでしょう?」

 

「やっぱり偽物。じゃあ、本物はどこ?」

 

「この仮面、もしかしてあまりよくないのでしょうか⋯⋯。顔が気に入ったから剥ぎ取ったんですけれど。まあ、いいです。もっといい仮面を見つけたので」

 

 かみ合わない会話を続ける、クラムゼリーと仮面の魔法少女、マーブルフェイス。マーブルフェイスは顔だけは奈子たちに向けたまま、後方に腕を振る。高速で投げられた鋏が、ああああの太ももに突き刺さり、ああああは床に膝をつく。それと同時に、ああああの膝から下に穴が空き、消し飛んだ。

 

「ああやって刺しとかないと魔法少女の顔が残らないですからね。ギャシュリー、あなた、殺すなら先に言ってください。折角見つけた仮面が、無駄になるところでした」

 

「おお、ソーリーソーリー!! でも、この子が死ぬのは運命デスね。ワタシ、これに関与できませーん!!」

 

 “殺す”。“死ぬ”。その二つの言葉の意味は知っているはずなのに、奈子は目の前の出来事が理解できない。息が荒くなる。呼吸が、苦しい。見たくないはずなのに、ああああから目が離せない。苦し気な表情を浮かべるああああが、まだ残っている方の腕で端末を取り出し、誰かに連絡している。でも、その声は聞こえない。聞こえるのは、自分の荒い呼吸音だけだ。

 

「⋯⋯っ!! お前ら、何やったかは知らんけれど、(おさ)を殺そうなんてこと、うちが許すと思っとるんか!!」

 

「待っててリーダー。今、助ける!!」

 

 ガリとクラムゼリーの二人は、今度は同時に動き出していた。しかし、先ほど先に理解し動いていた分、クラムゼリーの方が、ああああに近づくのが早かった。

 

「邪魔デス」

 

 それ故に、クラムゼリーの方が一足先に、その死神(ギャシュリー)の手の届く範囲に来てしまった。たった一言。つぶやかれた言葉と共に振りぬかれた拳は、ぱぁんと乾いた音を立てて、クラムゼリーの顔面を一瞬で破裂させた。

 

「⋯⋯え?」

 

 ぴしゃっ、と自分の顔についた赤い液体に、ガリは呆けた声を出して足を止める。その視線の先には、首から上がなくなった状態で揺れる、クラムゼリーの身体がある。

 

 思考も足も、一瞬でフリーズしてしまったガリ。その横をゆったりとした足取りで通り過ぎたマーブルフェイスは、すれ違いざま、ガリの耳もとでささやく。

 

「あーあ、あんな変わった喋り方していたのに、もう何も喋れなくなってしまいましたね。ざーんねん」

 

「ああ、あ、あ⋯⋯。あああああああああ!!!!??」

 

 さくらの声でそう囁くと、ガリは頭を抱えて絶叫し、蹲ってしまう。その様子を何も感情が感じられない瞳で一瞥したマーブルフェイスは、さくらの顔が張り付いた仮面をぽいっと投げ捨てると、ああああの元へ向かう。

 

 その時には、既に、ああああは全身に穴が空き、もう頭しか残っていなかった。しかし、マーブルフェイスの魔法は、顔さえあれば十分だ。先ほど投げた鋏を拾い、その顔に鋏を突き立てる。

 

「⋯⋯なんだ。なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

 

 ケイオスがやってきたのは、ちょうどその時のことであった。

 

 

♢カレンダ・レンダ

 

 先ほどから、震えが止まらない。目の前で繰り広げられた光景は、事前に危機が訪れることを知っているレンダにとっても、想定を超えたものであった。

 

 自分の首根っこをつかんでいた魔法少女、ああああの身体に穴が空いた時とっさに逃げてデスクに隠れたが、まさかあの魔法少女が目の前で死ぬとは思わなかった。しかも、その仲間が今また殺された。レンダにとっては初めて目の当たりにする『死』だ。覚悟は決めていたはずなのに、恐怖は抑えきれない。

 

 ふと気になって横を見てみると、ドロップもまた震えていた。この新入りは、ああああが率いるチームに協力していたはずだ。その相手が殺されたのだ、恐怖を感じるのは当然だろう。しかし、何やら様子がおかしい。恐怖で震えているにしては、顔色は悪くない。それどころか、何故か顔を赤らめているように見える。

 

「はあ、はあ⋯⋯!! あの、圧倒的な暴力!! これが、ドロップちゃんの求めていた本当の正義⋯⋯!! ああ、屈しちゃう、屈しちゃう!! 正義に屈しちゃうっす~~~♡」

 

 ダメだこいつは。レンダはこの瞬間、ドロップに対し完全に見切りをつけた。そして、デスクの裏でこっそりとスケジュール帳を取り出す。

 

 本当は、もう予定を変更するつもりはなかった。このままいけば、最低限の被害で抑えられる。多少人は死ぬが、それは避けられない未来。覚悟していたはずだった。

 

 だが、事情が変わった。ああああは、レンダのミスのために人生を狂わされ、ここまでやってきた魔法少女だ。その末路があれでは、あまりにも救われない。せめてもの罪滅ぼしに、その仲間だけでもなんとかここから生かして逃がしてあげたい。そう思った。

 

 このために残していたスケジュールの修正権一回分を、ここで使う。レンダはそう決意し、爆速でスケジュール帳に予定を記す。

 

「あっれ~? あれあれあれ~? レンダせんぱーい。何してるんすか~?」

 

 いきなり声を掛けられ、びくっと身体を震わせる。いつの間にかレンダの背後に潜り込んでいたドロップが、レンダの書いたばかりのスケジュール帳をのぞき込んでいた。

 

「うっわ、相変わらずきっしょ。てか何すか、その最後の予定。まさか、あいつら逃がすつもりなんすか?」

 

「⋯⋯あなたは、あの魔法少女たちに協力していたのでしょう? 彼女たちを逃がそうと思わないのですか?」

 

「なんでっすか? ドロップちゃんは正義の味方っすよ。敗者に味方はしないっす」

 

 レンダを見つめるドロップの瞳には、一切の曇りがない。純粋に正義を愛する狂信者の姿が、そこにはあった。

 

「ところで⋯⋯どうすればあの人たちの仲間になれるっすかね。ドロップちゃん、頭あんまよくないから、レンダせんぱいに考えてほしいっす」

 

「⋯⋯やめておいた方がいいと思いますよ。それに、あれは絶対、正義なんてものではありません」

 

「勝者が正義。簡単なことっす。だからこそ、誰よりも強ければ、ゆるぎない正義になるんすよ。そんなことも分からないなんて、案外頭悪いんすね。⋯⋯あ、いいこと思いついた」

 

 ぽんと手をたたくドロップの視線は、レンダに向けられたままだ。なんだか嫌な予感がして後ずさるレンダに、ドロップは爽やかな笑みを向けた。

 

「生贄なんて、どうっすかね??」

 

♢♰混沌ノ魔眼♰

 

「ワァオ!! 待ってたよケイオス!! みんなで一緒に、イチゴジャムパーティーを、再開しまショー!!」

 

 その声を聞き、先ほど端末の向こうに居た魔法少女はこいつだと理解するが、ケイオスにはもはやそんなことどうでもよかった。怒りと恐怖、混乱。入り混じった感情でぐちゃぐちゃになりながらも、叫ぶ。

 

「ぶっ殺す!!!!!」

 

 怒りに任せ、一歩前に踏み出す。しかし、それ以上体が動かない。何が起こった。自分の身体を見ると、青色の糸のようなモノが絡みついている。

 

「⋯⋯や、やめておいた方がいいと思いますよ。と、とっさに髪の毛をアイアイさんに巻きつけといてよかったです。そのまま進んでたらたぶん、し、死んでます」

 

 こんなおどおどした話し方をするのは、一人しかいない。反射的に後ろを振り向くと、そこには背中を丸めたさららが立っていた。

 

「う、うう⋯⋯。考えられる限り最悪に近い状況だぁ。こ、こんなの、ひどすぎる⋯⋯」

 

「さらら、止めないでよ!! あいつら、ソイエを、クラムゼリーを⋯⋯!!」

 

「お、落ち着いてください。今ここであなたが死んだら、ソイエさんとの約束は、ど、どうなるんですか⋯⋯?」

 

 そう言ってさららが指さすのは、泣き崩れる奈子と、蹲ってまったく動かないガリのいる方向だ。ケイオスの脳裏に、ああああの最後の言葉が蘇る。

 

『私の大切な仲間たちのことを、どうか、頼んだ、ぞ⋯⋯』

 

「さらら、お前、なんでソイエとの約束のことを⋯⋯」

 

「さ、昨夜、部屋で話していたのをこっそり聞いていました。すいません⋯⋯。とにかく、今ならまだ、本当の最悪は避けられます。本当の最悪は、ボクたちが全員、ここで死ぬことです⋯⋯」

 

「ちょっとそこの青髪ガール!! ワタシとケイオスの楽しいパーティ、邪魔しないでくれませんカ!?」

 

 せっかく面白そうな魔法少女がやってきてくれてウキウキしていたギャシュリーは、それを邪魔したさららに対し怒りを露わにする。そんなギャシュリーに対し、いつもと同じおどおどした様子で、さららはこう答えた。

 

「ご、ごめんなさい。あなた、やばいので、ボクたち、もう逃げます⋯⋯。その代わり、やる気満々な人はいるので、その人と遊んでください⋯⋯」

 

「はぁ!? そんなクレイジーなガール、どこに⋯⋯」

 

 その時、この凄惨な状況の部屋に似合わぬ、ポップな音楽が鳴り響き、ギャシュリーの言葉を遮る。そして、音楽がサビに差し掛かったところで、その魔法少女はギャシュリーの頭上から、全力でかかとを振り下ろした。

 

「レッツ・Q・T・E~~~~~~!!!!!!」

 

 余裕でガードするつもりだったギャシュリーは、脳内に溢れ出す大量の矢印に惑わされ、動くことができない。無防備な状態になったギャシュリーの脳天にかかとを落としたキューティー☆Eは、怒りを露わに叫んだ。

 

「私の可愛い部下を傷つけるなど、言・語・道・断!! ルールにのっとり、粛々と貴様らを処分する!!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。