魔法少女育成計画NoName   作:赤葉忍

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すべてスケジュール通りです

♢カレンダ・レンダ

 

「ぐっ⋯⋯! がっ⋯⋯!?」

 

「あんま大きな声出さないでくれっすよ。あの人たちの声が聞けないじゃないっすかぁ~」

 

 ふんふんと鼻歌交じりに、ドロップは手に持ったハンマーをくるくる回している。その先端についた血は、レンダの血だ。とっさに逃げようとしたところを押さえられ、両膝をハンマーで砕かれた。激痛で立ち上がることすらままならない状態だ。

 

「レンダせんぱい、顔面だけは滅茶苦茶整ってるっすからねぇ~。きっと、あの人たちも喜んでくれると思うんすよ。ほら、仮面付けているお方とかは特に!! そういえば今あの人は何を⋯⋯わわっ、見てくださいよレンダせんぱい!!」 

 

 突然目を輝かせたかと思うと、ドロップはレンダの髪の毛を引っ張って無理やり頭を動かす。そのまま固定された視線の先に居るのは、仮面をつけた魔法少女、マーブルフェイスだ。座り込んだマーブルフェイスの膝の上には、ああああの首が置かれている。

 

 嫌な予感がして視線をそらそうとするが、ドロップがそれを許さない。右手でレンダの頭蓋骨を万力のように締めあげながら、食い入るようにマーブルフェイスを見つめている。

 

 二人の視線の先で、マーブルフェイスがああああの頬を優しく撫でる。その手つきは、まるで恋人に対するそれのようであった。そして、その手が頭頂部まで到達したその時、いつの間にかその手には鋏が握られていた。

 

 おでこからすっと鋏を入れ、果物の皮を剥くかのように、するすると顔面の皮を剥いでいく。その一連の動作に、まったく躊躇いがない。一秒も経たずに、ああああの顔の皮は綺麗に剥がされ、残ったのは全く面影のない人体模型のような生首だけ。

 

 マーブルフェイスは、剥ぎ取った皮を真っ白な仮面に丁寧に貼り付け、そしてそれを自らの顔に押し当てた。その瞬間、マーブルフェイスの髪の色が白から金へと変わり、体型も細身の身体からメリハリの効いたモデル体型へと変貌する。

 

 落ちていた旗を拾い、天に掲げるその姿は、誰がどう見ても死んだはずのああああそのものであった。マーブルフェイスは、ああああだった生首を踏み潰すと、きゅっきゅっと靴を地面に擦りつけて靴裏についた血の汚れを拭き取り、おもむろにこちらへ視線を向けた。

 

「⋯⋯そこにいるあなたたち、さっきから何じろじろ見ているんですか。見世物ではありませんよ?」

 

 その声すらもああああの声そのもので、レンダは寒気が止まらなかった。しかし、恐怖を感じているのはレンダだけのようで、ドロップは感激した様子で涙を流していた。

 

「感動⋯⋯したっす!! ドロップちゃんに美的センスがあれば、さっきの光景を絵にして額縁に入れて、美術館に送り付けたのに!! その圧倒的な暴力、まさに正義の化身!! ドロップちゃんの忠誠とここにいるレンダせんぱいの顔面を捧げるんで、あなたたちの仲間に入れて欲しいっす!!!!」

 

 両手を組み、神に祈りを捧げるかのようなポーズで、ドロップは跪いてマーブルフェイスを見つめる。そんなドロップを見たマーブルフェイスは、ぼそっと一言だけ呟いた。

 

「⋯⋯気持ち悪っ」

 

 それは本当にそう。

 

 思わず心の中で同意してしまったが、前門の殺人鬼、後門の変態。レンダを取り巻く状況は全く変わらない。しかも、ドロップから目をそらしたマーブルフェイスと、うっかり目が合ってしまった。

 

「あなた、綺麗な顔してますね。剥ぎ取ってもいいですか?」

 

 最悪だ。これでもう、レンダは逃げられない。いや、膝を砕かれているので元々逃げられないのだが。

 

 しかし、逆に言えば、自分が死ぬタイミングはこれである程度把握できた。もとより、自分の死に関しては、予定通り(・・・・)だ。ならば、確定する前に可能な限りスケジュールを遂行する。

 

 視線の先で、キューティー☆Eとギャシュリーが戦っている。彼女に託すか。そう思ったのも束の間、マーブルフェイスがギャシュリーに声をかけたとたん、本気を出したギャシュリーによってキューティー☆Eは吹き飛ばされてしまった。

 

 それならばと、さらに視線を動かす。視線の先には、ラブリーバブリーがなぜかああああの仲間たちの前に立ちふさがっている。まさか、マーブルフェイスがああああの皮を被ったことで、洗脳が引き継がれてしまったのか。最悪だ。ラブリーバブリーも頼れない。

 

 しかし、レンダは諦めない。何故なら、魔法のスケジュール帳には既に、こう記したからだ。

 

『レンダの魔法の端末とスケジュール帳を、この場から立ち去る魔法少女の誰かへと投げ渡す』

 

 レンダの魔法、『魔法のスケジュール帳で予定をきっちりたてられるよ』によって、この予定は既に確定された未来だ。書き換わることもなかったため、これはどんなことがあっても必ず起こる。

 

 そして、確定された未来の影響か、死に体だったミルキーウェイがキューティー☆Eの元に這って向かっているのに、レンダだけが気づいた。他の魔法少女は、誰も気づいていない。マーブルフェイスも、ドロップも、そして、キューティー☆Eにとどめを刺そうとしているギャシュリーさえも。

 

「⋯⋯予定通り、私のスケジュールに、狂いはありません」

 

 レンダは、残った力を振り絞り、魔法の端末とスケジュール帳を投げる。レンダが投げたそれらは、一度宙に浮かぶゼリーに当たってぽよんと跳ねた後、キューティー☆Eのすぐそばまで近づいていたミルキーウェイの目の前に落下した。

 

「夢と希望、未来をつなぐ天ツ橋!! あの彗星に負けない、青い輝きを!! 煌めけ、輝け、ミルキー、ウェーーイ!!!」

 

 ガリっと、ラピスラズリの金属板を噛みしめ、いつもの口上を叫んだミルキーウェイが、キューティー☆Eの身体と一緒に、レンダの魔法の端末とスケジュール帳を橋に乗せて運ぶ。その橋の向かう先は、一足先にこの場を離れたケイオスたちのところだ。

 

「ああ!? ちょっと、ワタシのおもちゃに、何してるですか、この死にぞこないさん!!」

 

 彗星のような速さで運ばれていくキューティー☆Eを目にして、お気に入りを目の前で搔っ攫われたギャシュリーは、怒りに任せミルキーウェイの背を踏み潰す。ぐしゃりと肉と骨のつぶれる音がして、ミルキーウェイは息絶えた。しかし、その顔はどこか満足げな笑みを浮かべていた。

 

「ワタシはケイオスたちを追いマス!! マーブルも早くそれ片付けてついてきてくだサイね!!」

 

「はい、分かりました」

 

 ギャシュリーは、「邪魔デース!」とまだ立っていたクラムゼリーの身体を蹴り砕き、爆速でケイオスたちの後を追いかけていく。その様子を一瞥したマーブルフェイスは、再びレンダに視線を向けた。

 

「⋯⋯あなた、何かしましたか? 私はともかく、ギャシュリーがあそこまで魔法少女が近くにいて、何もできないはずがない」

 

「それをあなたに教える義理はありませんね」

 

「ちょっと、レンダせんぱい失礼っすよ!! そんな生意気な口きくなら、今度は両肘砕いて⋯⋯」

 

「あなたは五月蠅いです」

 

 憤慨したドロップがレンダにハンマーを向けて脅そうとしたのを遮り、マーブルフェイスは鋏を投げる。その鋏はドロップの右目に突き刺さり、ドロップは痛みで叫び声をあげた。

 

「ぎゃー、痛い!! 痛いっす!! 屈しちゃう、屈しちゃう♡ 痛みに、正義に、屈しちゃう~♡ あ、頭がおかしくなっちゃうっす~~~♡♡♡」

 

 マーブルフェイスとレンダは、悶絶するドロップを無視して、改めて向き合う。

 

「あなたの顔は、とても素晴らしいです。でも、その生意気な口は、もう閉じてもらうことにします。最後に何か、言い残すことはありますか?」

 

「そうですね⋯⋯。それでは、少し時間を貰えませんか? ああ、別に何もしません。私の死も、最初からすべて予定通りですから。スケジュールは絶対。それが私の信念ですので」

 

 レンダは、胸元にしまっていたロケットペンダントを取り出すと、それにちゅっと口づけを落とした。

 

「⋯⋯私の思いは、永遠にあなたのもとに。どうか、無事でいてください。さようなら」

 

「さようなら、顔の美しい人。あなたの顔は、私が大切に持っておきますから」

 

 マーブルフェイスが鋏を振りぬき、レンダの首をはねる。ぼとりと地面に落ちたそのレンダの首は、落ちた衝撃で開かれたペンダントの中に入った写真を、最後に見た。

 

(ああ、最期に、あなたの顔を見て死ねるなんて、私は、なんて、幸せなんだろう⋯⋯)

 

 ペンダントの中で満面の笑みを浮かべる茶田千代の写真が、レンダがこの世で最後に見たモノであった。レンダは、そのことをとても幸福に感じながら、永遠の眠りについたのであった。

 

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