♢キューティー☆E
「悪いな。私のわがままを聞いてもらって」
「別にかまへんかまへん。いろいろあったけれど今は同じチームやしな。逆に遠慮される方がやりにくいわ」
前を歩くガリの後ろについていき、アジトの中を歩く。キューティー☆Eとガリを除いた他のメンバーは、まだ作戦を練っている途中だ。それなのに何故キューティー☆Eとガリが別行動をしているかというと、再戦への準備で必要なものがあるからに他ならない。
「よっしゃ、着いたで。ここがアイアイの部屋や」
「アイアイ⋯⋯というと、貴殿たちの仲間のケイオス殿の別名だったな。ここに、私が求めているモノが置いてあるのか?」
「ああ、絶対おいてあるはずや。あいつはかなりの魔法アイテムオタクやからな。あいつの遺品、存分に使ってやってくれや」
「遺品ではないだろう、先ほどの通信で生存を確認できたと言っていたはずだ!! 冗談とは言え不謹慎だぞ!!」
「あんた真面目な奴やなぁ~。もうちょい気楽にやらんと人生損するで? なあ、クラム?」
キューティー☆Eと会話していたガリは、突然誰かの名前を呼び、後ろを振り向く。その行為の理解ができず首を傾げたキューティー☆Eであったが、ガリの顔がひどくこわばっているのを見て、何となく事情を察した。
「すまない。クラムというのは、その⋯⋯貴殿たちの仲間の1人か?」
「⋯⋯ああ。うちの相棒や。もう死んでもうたけれどな。はは、すまんな。ちょっとまだ、普段の癖が抜けきってないみたいや。あー、ジメジメしたのはもうやめや。そういうのは現リーダーで十分やしな。うちは自分の役割ってもんをちゃんと理解しとるつもりや。こんな時こそ明るくいかんとな!!」
「私に真面目と言ったが、貴殿も他人のことを言えなくないか?」
「はぁ!? 何言うとるんやあんた。ガリちゃんほどお茶目な奴はこのRe:Nameにはおらんで?」
そんなことを言いながらも、ガリは先にケイオスの部屋の中に入り、キューティー☆Eの目当てのモノを探し続けてくれている。やはりかなり真面目な奴なのではないだろうか。
今ここにいる他のメンバーも、比較的真面目な魔法少女ばかりだ。奈子という魔法少女も、アーカー・ペンシル子という魔法少女も、作戦会議に真面目な表情で臨んでいた。真面目な魔法少女は、好感が持てる。臨時で加わったこのチームだが、キューティー☆Eにとっても居心地が良い。
ただ、さららという魔法少女に関しては、判断が難しい。強い魔法少女であることは間違いないのだが、その考え方はかなりいかれている。
先ほどの会議の中でも、ペンシル子の魔法を使ってとんでもないことをしてみせた。あんなことは、並の人間には思いつかない。少なくとも、キューティー☆Eは考えもしないことであった。
その結果としてキューティー☆Eの戦闘力は上がったので喜ぶべきことではあるのだろうが⋯⋯あまり、敵に回したくない魔法少女だ。その一連の作業が終わった後のペンシル子はかなり疲労した様子だった。まあ、ペンシル子と仲のいい奈子からは非難の目を向けられて涙目になっていたから、別に悪い魔法少女ではないのだろう。
「おー、あったあった。すまん、待たせてもうたな。これがお望みのブツや」
「自分で言っておいてなんだが、本当にあるものなのだな⋯⋯」
新たに行動するようになった面々に関して思いを馳せていると、ガリがキューティー☆Eの欲していたものをケイオスのかなり雑多な棚の中から見つけ出してくれた。
キューティー☆Eが欲していたもの、それは、失った右腕の代わりに自由に動かせる義手であった。魔法の国産の魔法のアイテムにしてはかなり機械的な外見をしたその義手は、個人が趣味で集めているにしてはかなり本格的なもので、それを望んだ本人であるキューティー☆Eですら、本当に出てきたことに少し引いてしまった。
差し出された義手を恐る恐る腕の切断面に当ててみると、義手から伸びた無数のケーブルが、キューティー☆Eの腕の中に入り込んでくる。物凄い異物感が襲い、とっさに義手を投げ捨てようとしたものの、その時には義手は完全にキューティー☆Eの身体と一体となっていた。
試しにいつもの感覚で手を動かそうとすると、問題なく動く。違和感がなさ過ぎて、逆に怖いくらいだ。それどころか、人体の可動域を超えたような指の動きまでできる。
「うわ、なんやその指。きっしょ」
「言わないでくれ。私も正直気持ち悪いと感じている」
指をそれぞれ別方向に曲げてタンポポのようにしてみたら、そばで様子を見ていたガリに思いっきり気持ち悪がられてしまった。そのことに軽くショックを受けつつ、この場所で探していたものは見つかったので、次の目的地へと向かう。
「なあ、私が探していたのは、義手と、戦うための武器だ。可能ならば刀などがいいのだが、このアジトに刀があるのか?」
「武器ならうちが趣味で集めとる。今向かっているのはうちの部屋やな」
「⋯⋯貴殿たち、テロでも起こそうとしていたのか? ああ、そういえば似たようなものだったか」
こうして話していればあまり感じないが、元々は人事部にカチコミを仕掛けてきた危険な思想を持った集団だった。ついそのことを忘れそうになってしまうが、普段は忌避すべきそういった要素も、今ならばありがたい。つくづく、時と場合によって正義や悪は形を変えるものである。
「よっしゃ。着いたで。ここがうちのマイフェイバリットルームや」
「おお!! これは、めっぽう素晴らしい眺めではないか!!」
ケイオスの部屋から出て数分も経たずにたどり着いたガリの部屋は、シンプルながらに至る所に武器が収められており、小さな武器庫といった様相であった。その光景は、戦闘を活動の主とするキューティー☆Eにとってもなかなか見ごたえのあるものであった。
「いやあ、なかなかに壮観だ。刀も何本か置いてあるな。この刀など、実に見事だ。お、こんなところに扉があるのか。この中にはさらに武器が置いてあったりするのか?」
「あ、ちょっと待った。その部屋は⋯⋯」
ガリが止めようとした声が聞こえたが、その前にキューティー☆Eは扉を開けてしまっていた。
扉を開けると、真っ先に目に飛び込んできたのは、勉強机だった。その上に丁寧に並べられた教科書、ノート、そしてランドセル。
壁に海のポスターが貼られているところまで確認したところで、ガリによって無理やりドアは閉ざされた。
「⋯⋯すまんな。その部屋は開けんといてくれんか? そこは、うちの部屋とは関係ない場所や」
「あ、ああ。すまない。先に確認しておくべきだったな」
「ほら、これがこの部屋に置いてある一番いい刀や。それ使ってせいぜい大暴れしてくれや。さららの考えた策では、あんたがあの黒いのを抑えるカギなんやからな」
「⋯⋯ああ、任せてくれ。腕や足の2,3本持っていかれようとも、必ず奴に勝ってみせる」
部屋のことに関しては、これ以上突っ込んで聞くことはしない。まだそこまで親しい関係ではないし、何より、ここで必要以上に詮索して空気を悪くしたくはない。
重要なのは、再戦の際にキューティー☆Eがギャシュリーを抑えきることだ。作戦がうまくはまれば、倒すまではいかなくとも大幅に力をそぐことができる。
キューティー☆Eは、左腕以上に力が伝わる義手で、ぎゅっと刀を握りしめる。すらりと鞘から刀を抜くと、刀身がきらりと光り、決意に燃えるキューティー☆Eの顔を映し出していた。
「ああ、心配せんでも、確か義手はまだ3本くらい置いてあったで?」
「いや、あくまでそういう意気込みというだけだ。それはボケなのか? 天然なのか?」