魔法少女育成計画NoName   作:赤葉忍

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What's your name?

♢キューティー☆E

 

 突入の合図と同時にギャシュリーにドロップキックをお見舞いしてやったが、相変わらず岩盤でも蹴っているようだ。蹴ったこっちの足の方が痺れるくらいに、ギャシュリーの体幹はバケモノじみている。

 

 だが、既にそのバケモノじみた力を知っているからこそ、キューティー☆Eに動揺はない。事前に立てた作戦通りに、魔法の端末の音量をマックスに上げる。

 

「いったい何をするつもりデスか? なんだかワクワクしてきますネ~!!」

 

 強者の余裕なのか、ギャシュリーは自分からは仕掛けてこず、上半身をゆらゆら揺らしながら、笑っている。ケイオスは、そんなギャシュリーを睨みつけつつ、キューティー☆Eが何をするつもりなのか気になるのか、一瞬だけちらりとこちらを見た。

 

「レッツ、Q・T・E~~~!!!!」

 

 お決まりの合図と共に、ビシッとギャシュリーに向け腕を振り下ろす。それは、ギャシュリーに対しQTEを送る合図であると同時に、端末の向こう側にいる人物への合図でもあった。

 

 ギャシュリーにすぐ壊されることがないように、すぐ傍まで伸びてきていたさららの髪の毛に端末を託す。その直後、端末から大音量で流れだすのは、キューティー☆Eでは到底できない、超高速のQTE詠唱だ。

 

『上右左下斜め回転回転逆回転、お茶立ちょ茶立ちょちゃっと立ちょ茶立ちょ青竹茶筅でお茶ちゃっと立ちゃ!!』

 

 ⋯⋯なんだかQTEに関係ない早口言葉まで混じっているみたいだが、問題ない。現に、ギャシュリーは嵐のように流れ込むQTEの情報によって、初めて笑みが崩れていた。

 

「は? なんデスかこれ!?」

 

 その様子に、逆にキューティー☆Eの表情に笑みが浮かぶ。作戦は、どうやら完璧に決まったらしい。義手の中にしまい込んでいた刀を、ガシャンという起動音を立てながら取り出し、そのままギャシュリーに向かい斬りかかる。その一瞬の間に、キューティー☆Eの脳裏にはこの作戦を立てた時の会話がよぎっていた。

 

☆☆☆☆☆

 

「──これ、間違っていますよね?」

 

 アジトでの作戦会議を行っていた時、キューティー☆Eは、さららに言われるままに、自分の魔法の発動条件・制約に関して紙に記した。しかし、それを見たさららは、その紙をペンシル子の方へと差し出し、そんなことを言い出した。

 

「え、これ、私に言ってるの? ど、どういうこと?」

 

「キューティー☆Eさんは、自分のQTE魔法の発動、そして指示を出すには自分の声、もしくは脳内指示を飛ばしてやることとあります⋯⋯。あとは、制限として、自分と他人に対し同時にはQTE魔法はかけられないとも」

 

「自分の魔法のことは誰よりも分かっているつもりだ!! そこに嘘偽りなど一切ないと断言する!!」

 

「あ、すいません。キューティーさんは少し黙っていてください⋯⋯。ボクは今、ペンシル子さんと話しています。⋯⋯これ、間違っていますよね?」

 

「えーっと、本人がそうって言ってるなら、間違ってないんじゃないかな?」

 

 ペンシル子は、困惑した様子でそう答えるが、それでもさららの主張は変わらなかった。

 

「いえ、これは間違っています⋯⋯。正しくは、『他人の声でもQTEの指示が可能』、『自分と他人に同時にQTEをかけられる』。⋯⋯これが、正しい内容です。修正を、お願いします」

 

 そこまで言ったところで、ようやくキューティー☆Eにもさららが何をしようとしているか理解できた。そして、同時に戦慄する。この魔法少女は、なんということをしようとしているのだ。

 

「む、無理だよ!! 私が本気で間違っているって思っているものじゃないと、私の魔法じゃ修正できないもん!! ⋯⋯魔法少女の使う魔法の内容を修正するなんて、絶対に無理!!!」

 

 どうやら、さららのしようとしていることに思い至ったのはペンシル子も同様であったようで、顔を真っ青にしながら否定している。

 

「い、いえ、無理ではないです。そうやって決めつけてしまえば、そこが限界。⋯⋯でも、なんだってできると思い込めば、魔法少女の使う魔法には、無限の可能性があります。⋯⋯ごめんなさい、少し手荒な手段を取りますね」

 

 そう言うと、さららはぶわっと髪の毛を上空へ広げる。その髪はペンシル子の頭上で球体上の塊となり、その塊が一気にペンシル子の頭頂部へと落下した。

 

「きゅ、急に何を⋯⋯あ、あ、あっ!!?」

 

 まるで帽子のようにペンシル子の頭に被さったさららの髪の塊は、その一部をするするっと耳の中からペンシル子の頭へと忍ばせていく。慌てて逃れようと暴れるも、手足までがっちりと髪の毛で拘束されており、ペンシル子は白目を剥くことしかできない。

 

 キューティー☆Eを含めた他のメンバーは、突然の出来事に茫然と見守るしかできなかった。身体をぴくぴくと痙攣させていたペンシル子だったが、不意にその動きが止まる。そして、顔を上げたペンシル子は、妙におどおどした見覚えのある態度に変わっていた。

 

「⋯⋯か、髪には魂が宿るといいます。ボクの魔法は、ヘアアレンジをするだけですが、こうしてボクの髪に魂を伝えて脳内に侵入すれば、一時的に精神をのっとることも可能です⋯⋯。こ、これでキューティーさんの魔法の修正、たぶんできますね。⋯⋯あ、できた」

 

 自分の魔法でペンシル子の身体をのっとったさららが、そのままペンシル子の魔法を使い、先ほどキューティー☆Eが書いた紙に赤ペンで修正を加える。その瞬間、キューティー☆Eは確かに自分の中で何かが変わるのを感じた。

 

「ちゃ、茶田千代さんの魔法⋯⋯『どんな魔法でも最後まで噛まずに言える』魔法ならば、きっとキューティー☆Eさん以上の高速詠唱が途切れずに可能なはずです⋯⋯。その高速QTEを使って、ギャシュリーを拘束してしまいましょう。こ、コウソク(・・・・)だけに⋯⋯ふふふっ」

 

「さらら!! そのギャグめっちゃつまらない!! てかペンシル子に何やってんのさ!!」

 

 その後、怒った奈子に対しさららが土下座して謝るなどひと悶着あったものの、さららの作戦は見事に決まり、キューティー☆Eは自身の魔法の制限を打ち破ることができたのであった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 一瞬の間の回想を終え、キューティー☆Eは刀を力強く振り下ろす。その間も茶田千代による超高速のQTEは途切れることなく流れており、ギャシュリーはまだそれに対応しきれてはいない。さらには、茶田千代の声とは別に、自身にもQTEをかけ成功ボーナスを付与することで、キューティー☆Eの力は今だけで数倍にも膨れ上がっていた。

 

 その結果として、キューティー☆Eの振り下ろした一閃は、ギャシュリーの右腕を断ち切ることに成功していた。舞い散る鮮血、驚きと歓喜の表情を浮かべるケイオス。

 

 しかし、キューティー☆Eは気を緩めない。なぜならば、腕を切り落とされたギャシュリーは、異様なほどに目を見開いて、宙に舞う自分の腕を見ていたからだ。

 

『⋯⋯イチゴジャム、美味しそう』

 

 これまでカタコトの日本語で話していたギャシュリーが、急にネイティブな英語で何かを呟く。キューティー☆Eの背筋にぞくっと寒気が走る。ギャシュリーが、笑う。今までよりも、もっと愉し気に、心からの笑みを、キューティー☆Eとケイオスに向ける。

 

『私の誕生日パーティにケーキを持ってきてくれたの? ありがとう、今殺してあげるからね!!』

 

 ギャシュリーは宙に舞った自分の腕を残った腕でつかみ、ヌンチャクのように振り回す。既に神経が繋がっていないはずのその手は、指をうねらせてキューティー☆Eの刀を絡み取り、地面に投げ落とした。

 

「ぬがああああああ!!?」

 

 キューティー☆Eは、刀を離さなかった。それ故に、刀をつかんだまま、キューティー☆Eの義手は接合部から無理やり剥がされ、その痛みに苦悶の声を上げる。

 

 思わず動きを止めてしまったキューティー☆Eの顔面目掛け、ギャシュリーが拳を突き出す。しかし、その拳は、横から飛んできた熱光線によって阻まれる。

 

「私が居ること、忘れてるんじゃないわよ!!」

 

 腰に手を当てたかっこいいポーズを決めながら、ケイオスが叫ぶ。キューティー☆Eは、その隙にギャシュリーから距離を取り、呼吸を整える。

 

 ギャシュリーもまた、一歩後ろに下がる。しかし、その息はキューティー☆Eと違って乱れていない。相変わらず子供のような無邪気な笑みを浮かべたまま、ギャシュリーは一冊の古びた絵本を取り出した。

 

『What's your name??』

 

 英語には疎いキューティー☆Eとケイオスの二人でもわかるその質問は、二人に対する純粋な殺意であふれていた。

 

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