魔法少女育成計画NoName   作:赤葉忍

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哀れな子羊は夢から醒めたくない

♢ラブリーバブリー

 

 それは、本当に突然の出来事だった。

 

 今は誰も働いている者が居ない人事部のオフィス内部。そこに集まり、ああああの仮面を被ったマーブルフェイスの指示を待っていたラブリーバブリーを含めた10数名の魔法少女たちへと、青色の糸のようなものが伸びてきて、たちまちにその四肢を拘束してしまう。

 

「うわ、なにこれ!?」

 

「ほどけないよ~!!」

 

 慌てて声を上げる他の魔法少女と同じようにラブリーバブリーも拘束から逃れようともがくが、もがけばもがくほどに四肢に絡みつく青色の糸は、なかなかに丈夫で、魔法少女の筋力でも引きちぎるのが難しい。

 

「⋯⋯ああ、これはあの魔法少女たちのうちの誰かの仕業でしょうか。となると、ケイオスがギャシュリーを連れ出したのもこの状況を見越してのことですか。まあ、ギャシュリーなら殺されることはないでしょうけれども」

 

 しかし、そんな中で、マーブルフェイスだけは既に旗を振るい、金色の糸を断ち切っていた。そして、そのまま一人すたすたと周りの魔法少女たちを放ってどこかへ歩き出したので、ラブリーバブリーは慌てて止める。

 

「せ、先生、待ってください~! 私のこれも解いてくれませんかぁ? 必ずあなたのお役に立ちますから!」

 

「⋯⋯まあ、いいでしょう。他の有象無象よりは、能力を理解している分扱いやすいですからね」

 

 マーブルフェイスは、ちらりと一瞬だけラブリーバブリーの方を見て、すっと素早く旗を振り下ろした。その一閃で、ラブリーバブリーを縛っていた青色の糸がパラパラと床に切り落とされる。

 

「先生、ありがとうございますぅ~!! 必ずお役に立ってみせますから~!!」

 

 ラブリーバブリーの脳内は、数多くの中から自分だけを解放してくれたことへの感激で溢れかえっていた。一瞬だけ感じた心の痛みを無視し、瞳をうるうると潤ませながらマーブルフェイスを見上げ、手を組んで祈りを捧げる。その姿は、まるで宗教画の一枚のようだ。マーブルフェイスが一切の感情を感じさせない無表情であることを除けばの話だが。

 

「ああ、ここにもう一人、便利でキュートな魔法少女、ドロップちゃんがいるっすよ~!! ぜひとも、あなたのその手で囚われのドロップちゃんを救い出してほしいっす~!!」

 

 感激で打ち震えるラブリーバブリーの心に水を差すようなやかましい声が、背後から聞こえてくる。この魔法少女は、変態なくせに妙に馴れ馴れしいところが癪に障る。心なしか、マーブルフェイスがドロップに対する扱いも他よりかなり雑に感じられる。

 

「⋯⋯お前は、私が手を貸さなくても何とかできるでしょう。甘えないでください」

 

 この時も、マーブルフェイスの対応はかなり雑なものだった。しかし、その投げかけた言葉は、ドロップの実力を認めているともとれるものであった。

 

「うう、酷いっす⋯⋯。ドロップちゃん、こんなにか弱い魔法少女なのに。悲しくて涙が、涙が出るっすよ~」

 

 えーんえーんとわざとらしく泣き声を上げるドロップ。その涙はポトリと胸元に落ち、涙の跡が星の形に輝き始める。

 

 そして、胸元に星が3つ光った直後、ドロップはぴたりと泣くのをやめ、そしておもむろに自分を縛る青色の糸を引きちぎって脱出してみせた。先ほどまでの泣き顔はどこへやら、へらへらと軽薄な笑みを浮かべるドロップは、ラブリーバブリーの前で小躍りしてみせる。

 

「あっれれ~? こんなドロップちゃんでも脱出できたこの糸、自分で脱出できなかったくせに粋がってる魔法少女がこんなところにいるっすね~。ぷぷぷ~、笑えてくるっす」

 

「⋯⋯私は、あなたよりも先生のお役に立てる自信がありますからぁ。それに、どうせ魔法で何かしたんでしょ~?」

 

「ぴんぽーん! ドロップちゃんの魔法は『涙の数だけ強くなれるよ』っすからね~。涙をパワーに変換して、強くなれるんすよぉ。魔法少女が自分の魔法を使うのは当たり前。それにケチをつけるのはお門違いって奴っす。それに~、ドロップちゃんだって、きちんとお役に立てるっすからね」

 

 そう言うと、ドロップはひょいひょいと壊れたデスクの上を飛び跳ね、すれ違いざまにまだ拘束されている魔法少女たちをからかいながら、施設の奥の方、職員たちの部屋があるエリアに向かおうとしていた。

 

「なんでそっちに向かってるんですかぁ? 今さら、お部屋に忘れ物でもしたんですかぁ?」

 

「いやー、天才ドロップちゃんは閃いちゃったんすよね。この突然の襲撃、タイミングばっちり合わせないとうまくいかないっすよ。だから絶対、誰かドロップちゃん達のことを監視している悪人がいると思うんすよね。その悪人に、ドロップちゃんは心当たりがあるから、懲らしめにいこうと思うんす。それじゃあ、お達者で~!! あとでみんなで正義の祝杯をあげるっすよ~!!」

 

 そう言い残し、ドロップは去っていく。ドロップが言う悪人が誰なのか、ラブリーバブリーには見当がつかない。しかし、あんな魔法少女のたわ言など、どうでもいい。ラブリーバブリーは、尊敬する先生の指示に従うだけだ。

 

「やっと行きましたか⋯⋯。あれを見ていると疲れるんですよね。ああ、そうだ。お前は裏口に向かいなさい。たぶん、そこから突入してくる魔法少女たちがこちらへ向かってくるはずです。相手するのは非常に面倒なので、死んでも止めてきなさい」

 

「はい! かしこまりましたぁ~~!!」

 

 マーブルフェイスの勅命を受け、歓喜に震えながら、ラブリーバブリーは裏口へと向かう。そして、その余韻も冷めきれぬうちに、既に突入を終えていた三人の魔法少女たちと通路で正面から鉢合わせた。

 

「ここから先には、行かせませんよ~?」

 

 ラブリーバブリーは、大きなスポンジを壁のように立てて、道を塞ぐように三人の魔法少女の前に立つ。しかし、目の前の魔法少女三人は走る足を止めようとしない。

 

「こいつかぁ! ちぃとばかし厄介やな。奈子、ペンシル子、お前たちは先に行け!! こいつはうちがここで食い止める。すぐ追いつくから、それまで死ぬんやないで!!」

 

「分かった! でも、スポンジの壁が邪魔だね。どうしようか?」

 

「あたしに任せて! 消しゴムで消しちゃうよ!!」

 

 白い魔法少女が、大きな消しゴムを肩に抱えて先頭で走ってくる。会話を聞く限り、あの消しゴムがこの白い魔法少女の魔法なのだろう。ならば、近寄らせるわけにはいかない。

 

 とっさに足元をスポンジに変え、その弾力を利用して一気に白い魔法少女の眼前に迫り、拳を振りぬく。しかし、その拳は白い魔法少女の顔に当たる前に、関西弁の魔法少女が伸ばしてきた杖によって阻まれた。

 

「どうや、この昔通信教育で習った魔法少女式杖(マジカルステッキ)道! ほぼほぼ我流やけれど、あんたを止めるくらいならわけないで!!」

 

 その関西弁の魔法少女に杖で押さえつけられている間に、残りの二人は消しゴムでスポンジの壁の一部を消して、先へと進んでしまう。なんていうことだ。死んでも止めてくれと先生に言われていたのに。

 

「あなた、邪魔しないでくださいよ!! 先生に失望されてしまうじゃないですか!!」

 

「お前なぁ、いい加減目ぇ覚ましたらどうや? あんたが先生と慕ってるあれ、うちらの長とちゃうで? 真っ赤な偽物や」

 

「な、何を根拠にそんなことを⋯⋯」

 

「お、動揺したな? てことは、もう気づいてるんやろ。ソイエは、うちらの長は、自分のことを絶対に“ああああ”とは呼ばん。それに、名前で呼べって毎回訂正してくる頑固もんや」

 

「うるさい!!」

 

 本当は、ラブリーバブリーも気づいていた。ラブリーバブリーが尊敬する先生は、あんな冷たい目をしていなかった。有象無象に比べれば扱いやすいと言われた時も、本当は傷ついていた。その傷をごまかすように、過剰に甘えた態度を取っていた。

 

 だって、マーブルフェイスが偽物だと認めてしまえば、今ここにいる自分が馬鹿みたいだ。だから、認めない。認めたくない。

 

 あの魔法少女二人を逃がしてしまったのは、そんな心の迷いがあったからだ。普段なら、もう少し冷静に対応できたはず。ゴミを掃除するように、簡単に対処できたはずなのだ。

 

 そして、ラブリーバブリーの心の動揺を指摘してきたこの目の前の魔法少女。許せない。八つ当たりなことは十分承知な上で、思いっきり戦らせてもらう。

 

「先生が偽物でも、もうどうでもいいんです。もう私は後には引けませんからぁ」

 

「哀れやなぁ。なら、ぶん殴って、洗脳と一緒にあんたのその心、叩き直してやるわ」

 

 にらみ合うラブリーバブリーとガリは、互いに自分の武器をぶつけ合う。それが、二人の一騎打ちの始まりのゴングとなった。

 

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