♢ガリ
通信教育でかじっただけの魔法少女式杖道だが、知識があるだけでもだいぶ違う。こういった長物を振り回して武器にするには、ある程度の技量が必要不可欠だ。身体を添わせるようにして杖を振り回し、ラブリーバブリーに対しその先端を突き付ける。
しかし、ラブリーバブリーはその突きの一撃をスポンジで軽々と受け止めてしまう。あのスポンジは厄介だ。魔法が直接攻撃向きではないガリの攻撃手段は基本的に物理攻撃になるわけだが、ラブリーバブリーはスポンジでほとんどの物理攻撃を受け止めてしまう。
ならばと、ガリは自分のトッピング魔法を発動させる。対象はラブリーバブリーの目元。そこにレモンをトッピングし、目つぶしをすると同時に杖を突き出す。
「そういう小細工は、私には通用しませんよ~?」
しかし、既にいろいろと吹っ切れてしまっているラブリーバブリーは、目つぶし程度ではひるまない。冷静にスポンジの壁を生成し、ガリの攻撃を受け止める。それどころか、その衝撃をそのままカウンターで放ってくる。スポンジの面積が広いことも相まって、かわしきれない。衝撃派をもろに食らって吹き飛ぶガリを、ラブリーバブリーがさらに攻め立てる。
スポンジを拳大にちぎり、ラブリーバブリーはそれをガリ目掛け投げつける。とっさに杖を回してスポンジを打ち返そうとするも、スポンジはむにゅっと形を変えるだけで、跳ね返らない。嫌な予感がしたガリはとっさに後方に身を翻す。その直後、ボンっと膨れ上がったスポンジが、先ほどまでガリが立っていた場所を埋め尽くした。
あのままあそこに立っていれば、スポンジに吹き飛ばされてかなりのダメージを食らっていただろう。やはり、この魔法少女、かなり強い。
「⋯⋯ソイエがあんたの相手を引き受けた理由、今さら分かったわ。うちは結構相性最悪やなぁ」
「ふふふ、降参しますか~? でも、許しませんよぉ? 諦めて私にやられてください~」
「はっ、ほざけ!! 誰が諦めるかいな。奈子とペンシル子がうちのこと待ってるんや!!」
やりづらい相手であることは間違いない。でも、決して勝てない相手ではない。ガリの”奥の手”さえ決まれば、勝利するビジョンは見えている。
そして、ガリは決して奥の手を温存するタイプではない。好きなおかずは最初に食べる派、なんだって早く決めるにこしたことはない。
ラブリーバブリーと戦い始めた時から、既に奥の手の発動準備は進めている。あとは、気づかれないように準備を進めながら、奥の手が整うまでやられないよう気を付けるだけだ。
「トッピング、“納豆”!!」
ラブリーバブリーの足元に納豆をトッピングし、ラブリーバブリーが転倒するのを狙ってみる。しかし、ガリの魔法で出した納豆は、ラブリーバブリーが即座に床をスポンジに変えたことで、スポンジの中に吸い込まれていってしまう。
「納豆を床にばらまくなんて悪い子ですね~。掃除する私の身にもなってください~」
「はっ! そういえばあんた清掃員なんやってな。キューティーの姐御から話は聞いとるで」
「⋯⋯っ! キューティーちゃん、今あなたたちと一緒にいるのね」
キューティー☆Eの名前を出したところ、ラブリーバブリーは一瞬動揺を見せたものの、その隙をついて一撃を入れられるほど甘くはなかった。杖の攻撃はあっけなく防がれてしまう。ならばと、ガリは杖を握ったままぐるりと手をひねる。
杖をひねったことで、ギミックが発動、形状が変化する。ガシャンと音を立て、杖は三等分に分かたれ、その間を鎖がつなぐ。俗にいう三節棍の形に変化した杖で、スポンジの壁をぐるりと迂回するように、殴打を決める。
確実にラブリーバブリーの肉体にヒットした。しかし、手ごたえは薄い。スポンジのような弾力。ラブリーバブリーの巨大な胸の肉のバリアに阻まれ、芯まで衝撃が伝わっていない。相方のクラムゼリーと同様、いやそれ以上に胸がないガリからしてみれば、何とも腹立たしい光景だ。
「クソがよぉ!! あんたのそのでかい胸、もぎ取ってやろかぁ!?」
「大きいのも肩がこって大変なんですよぉ? まあ、魔法少女の身体なら肩こりませんけれどぉ」
「クソがよぉぉぉぉ!!!!」
怒りに任せ、三節棍をぶん回すも、スポンジで受け止められる。このままでは千日手だ。いや、攻撃を当てる手段が普通にある分、ラブリーバブリーの方が優勢か。
自他ともに認めるせっかちな気質のガリは、もう奥の手を発動してしまおうかと一瞬迷う。しかし、その迷いを打ち消したのは、今は亡き相方の声だ。
『鳴かぬなら鳴くまで待とうポテトМ。ビックマックの鐘の声、堺雅人の響きあり』
「うちの脳内のクラム、絶好調やなぁ!! あんたがそう言うなら、待たせてもらうでぇ!!」
「急に何叫んでるんですかぁ? 頭おかしくなっちゃいました?」
長年相方をやっていると、脳内でエミュするのくらい容易いものだ。助言に従い、熱々のポテトをラブリーバブリーの口の中にトッピングしてやる。当然食べられるだけで終わってしまうが、別に問題ない。目的は、意識をそらし続けることだ。
「トッピング、”カキフライ(あたったやつ)”!!」
「ちょっと、地味に嫌なやつやめてくれませんかぁ? てか、なんでそんなもの出せるんですかぁ?」
「うちのトッピング魔法は一度口にしたものならなんだってトッピングできるからな!! あの時は変身してなかったから大変やったわホンマに!!」
「それは~、ご愁傷さまに、です~!!」
ラブリーバブリーの拳が、ガリの腹部にクリーンヒットする。おえっと思わずえづいてしまうほどに強烈だ。技術はあまり感じられないのに、妙に重みのある一撃である。やはり胸か。胸の重みなのか。
しかし、これでようやく準備は整った。あとは、特定の位置までラブリーバブリーを誘導するだけだ。
「そろそろ、倒れてください~!!」
ラブリーバブリーは、手元に置いた球体上のスポンジを、ぼこぼこにタコ殴りする。そして、その衝撃をため込んだスポンジを、ぽんとこちらへ放り投げた。
スポンジはガリの目前で膨張し、衝撃派と共にガリを押し出す。三節棍がぶっ壊れた。それに、物凄く痛い。が、ここでひるんでしまえばもうチャンスは来ない。根性で耐え忍び、前へと進む。
そして、ラブリーバブリーの身体に正面からそっと触れ、ガリは奥の手を放つ。
「トッピング⋯⋯“クラムゼリー”!!!」
ラブリーバブリーの身体に触れると同時に、ガリは叫ぶ。少し前から気づかれないように天井付近にトッピングしていた空飛ぶゼリー。それらを、一気にラブリーバブリー目掛け集合させる。
「ちょっと!? 何、このゼリーの塊!?」
ラブリーバブリーは慌てて逃げようとするも、もう遅い。ラブリーバブリーの全身にまとわりつくようにトッピングさせたゼリーは、集合して一つの大きなゼリーの塊となり、ラブリーバブリーを包み込む。そしてそのまま、宙にふよふよと浮かぶ大きなゼリーinラブリーバブリーの完成だ。
「⋯⋯クラム。あんたのゼリー、興味本位で食べといてホンマよかったわ。見た目に反してクソ不味かったけれどな」
ラブリーバブリーはゼリーの中から脱出しようと必死にもがくが、ゼリーはぷよぷよと揺れるだけで、破壊することができない。スポンジで吸収しようとしても、弾力があるゼリーは吸い込まれない。しかも、このゼリーは特に内側からの衝撃に強いのだ。そのことを、クラムゼリーと何度も遊びで戦っていたガリはよく知っている。
しばらくゼリーの中でもがいていたラブリーバブリーだったが、やがて酸素が足りなくなり、ゼリーの中で気を失ってしまった。それを確認したガリは、そばに落ちていたスポンジでそっとゼリーをふき取ってやる。
「⋯⋯あんた、強かったで。もし意識戻って洗脳解けたら、うちらの味方してくれや」
本人に聞こえているかは定かではないが、そう言い残し、ガリは足早に先へと進む。戦いはまだ終わっていない。この勝利をもたらしてくれた相方に感謝を捧げつつも、ガリの意識はこの先にいるマーブルフェイスへと向かっていた。