魔法少女育成計画NoName   作:赤葉忍

33 / 46
カレンダ・レンダより"アイ"を込めて

♢お茶たちょ茶田千代

 

 モニター越しに皆が戦っている様子を見ながら、必死にQTEを唱え続ける。この作業が必要なことであるということは分かっているのだが、見ているだけというのが中々につらい。

 

 茶田千代にとっては顔も初めて見るような魔法少女がほとんどだけれど、必死に戦っている姿を見ると、思わず頑張れと応援したくなる。しかし、それはできない。茶田千代の唱えるQTEが途切れてしまえば、ギャシュリーの弱体化が解除されて、今でさえなかなか厳しい状況にいるキューティー☆Eとケイオスがさらにピンチになってしまう。

 

 今、茶田千代が連絡を取れるのは、さららだけだ。彼女は、この施設内全域に魔法で髪の毛を張り巡らせるために、一人屋上にいる。さららもまた、直接戦いの場に居ないという意味では、茶田千代と同じ葛藤を抱えているのではないだろうか。

 

 茶田千代が声を出せない状態なので、連絡は文字でのやり取りになる。今も、茶田千代がカメラの映像を確認しつつ、適宜さららへと状況を伝えていた。

 

 キューティー☆Eにケイオス、ギャシュリーの居る正面入り口付近、ガリとラブリーバブリーが戦っている裏口の通路、奈子とペンシル子がマーブルフェイスらと戦っているオフィス内へとそれぞれカメラが映している映像をチェックしていったその時、茶田千代はドロップの姿がどのカメラにも映っていないことに気が付いた。確かに、さっきまではマーブルフェイスの近くに居たはずなのに。

 

 さらに、何故かカメラのうちいくつかの映像が乱れていて見えなくなっている。QTE詠唱に集中していたので、いつ見えなくなったか気づかなかった。この映像は確か⋯⋯職員たちの部屋があるエリアとその付近にあるカメラのはずだ。つまり、茶田千代が今居るこの場所に近い位置のカメラが壊されている。

 

 茶田千代はそのことに気づき、なんだか嫌な予感がした。意図的に誰かがカメラを壊しながら近づいているならば、その狙いはおそらく自分ではないかと思ったのだ。そしてその嫌な予感は、まもなく的中することになる。

 

「茶田千代せんぱ~い。ここに居るんすよね~? こそこそ隠れてないで、出てきてくださいっすよ~」

 

 部屋の入口のドアの外から聞こえるのは、ドロップの声だ。本来、こういった場面で仕事の同僚の声を聞けばもう少し安心できそうなものだが、ドロップの声を聞いてもまったく安心できない。なぜならば、その声に隠しきれない悪意が滲みだしていたからだ。

 

「あのストーカー変態女が茶田千代せんぱいをここに匿っているのは何となく分かってるんすよ~。てか、カメラの設置とかお金貰う代わりに協力してやったりしましたし」

 

 ドロップは、ドアの外からなおも話しかけてくるが、茶田千代はそれに返事はできない。ドロップのことを気にしつつも、手に持った端末は手放さず、高速詠唱も継続させる。

 

 すると、返事をしない茶田千代に痺れを切らしたのか、ドロップの声色が明らかに苛立ったものに変わる。それと同時に、なんだか鈍い殴打音のようなものが聞こえてくる。

 

「茶田千代せんぱ~い? 無視するなんて人としてどうなんすかねぇ~? さっきからずっと、カメラで監視したり、無視したり、悪いことばっかしてるじゃないっすか。そんな悪いことする魔法少女には、正義のドロップちゃんが、お仕置きしてやんないといけないっすよね~!!」

 

 殴打音の間隔は徐々に短くなっていき、そして、バキィッという破壊音に変わる。茶田千代が思わず振り返ってドアの方を見たその視線の先で、ハンマーのようなものががドアを突き破りこちらに飛び出してきている。

 

「⋯⋯あ、やっぱりいるじゃないっすか~」

 

 ドアを破壊した隙間から、のぞき込むようにして顔を出したドロップが、茶田千代を見つけ、笑みを浮かべる。あまりにもホラーすぎるその登場の仕方に、茶田千代は反射的に悲鳴を漏らしてしまった。

 

 やばい。そう思った時には遅かった。悲鳴を漏らしたことで、詠唱が止まってしまった。その直後、キューティー☆Eたちを映していたはずのカメラの映像が途絶える。いったい、何が起こってしまったのか。最悪の事態を想定し震えながら、茶田千代はさららにチャットでキューティー☆Eたちのピンチを伝えた。

 

「成敗、成敗! 悪を成敗しちゃうっすよ~!!」

 

 しかし、ピンチで言うとこちらもそこそこやばい。ドロップは、先ほど破壊してできた亀裂をさらにハンマーで広げ、今にもこの部屋に侵入しようとしている。茶田千代は、戦える魔法少女ではない。正直、かなり怖い。

 

「ふぅ~。やっと開いたっす。無駄に頑丈っすよねぇここの扉。壊すのに結構疲れちゃったじゃないっすか」

 

 そうこうしているうちに、ドロップが完全にドアを破壊し、部屋に侵入してきた。その手には鈍色に光るハンマーを持っており、パシパシと手のひらに打ち付けながら、茶田千代のことを威嚇してくる。

 

「ど、ドロップ。冗談だよね? そのハンマーで私のことを殴ったりしないよね? お、同じ職場の、仲間だもんね?」

 

「悪に堕ちた元仲間を殺してあげるのも、正義の務めっすよね。うう、悲しくて涙が出てくるっす⋯⋯。なんでドロップちゃんがこんな思いをしなければならないんすかぁ!! 悪いことしないでくれっすよぉ!!」

 

 ダメだ。話が通じない。何故か泣き出したドロップを見て、茶田千代は軽くパニックになる。

 

 さららに助けを求める? いや、ダメだ。キューティー☆Eたちの手助けを頼んだばかりだ。きっとそちらで手一杯⋯⋯いや、髪一杯のはず。

 

「お、落ち着いて。悪いのは見るからにあのギャシュリーとかマーブルフェイスとかじゃない。私、何も悪いことなんてしてな⋯⋯」

 

 茶田千代はドロップを落ち着かせようと早口で説得を試みたが、その途中で頭部に衝撃を受けて、吹き飛ばされた。ずきずきと痛む箇所に手を当ててみると、真っ赤に濡れている。ハンマーで殴られたのだと気が付いたのは、その時だった。

 

 ドロップの動きは一切見えなかった。早すぎる。そして、この子は本気だ。殺される。

 

 死の恐怖を目の前にして、茶田千代はとっさに、愛する魔法少女の名前を叫んでいた。

 

「助けて⋯⋯。助けて、レンダぁぁぁ!!!!」

 

「なに、死人に助けを求めてるんすか。やっぱり、頭おかしくなっちゃったんすね? さあ、ドロップちゃんが早く救済してあげるっすから、さっさと楽になるっすよぉ!!」

 

 ドロップがハンマーを振りかぶり、茶田千代は頭を抱えしゃがみ込む。しかし、そのハンマーは茶田千代の頭に振り下ろされることはなく、どこからか飛んできた謎の物体によって阻まれた。

 

 その謎の物体は、魔法の端末と似た外見をしていた。ドロップのハンマーをはじき、床に落ちたその物体は、キュオオンという起動音を立て、その正体を露わにした。

 

『茶田千代さん絶対防衛システム、”AIレンダ”。起動条件、茶田千代さんの悲鳴を感知しました。侵入者を発見。直ちに排除いたします』

 

 ホログラムで立体的に映し出されたその姿は、カレンダ・レンダ瓜二つ。『AIレンダ』と名乗ったそれは、人差し指をドロップへと突き付け、排除を宣言した。

 

「あの変態女、こんなものまで作ってたんすか!? でも、ドロップちゃんは屈しないっすよ。最後には必ず正義が勝つってことを、証明してやるっす!!」

 

 そう言って、ホログラムを映し出す端末目掛けてハンマーを振り上げるドロップ。しかし、そのハンマーが届くことはなかった。

 

『あなたの思想は非常に危険。よって、強制思想矯正プログラムを実行いたします』

 

 AIレンダがそう告げた瞬間、ドロップの立っていた場所にぽっかりと穴が空き、ドロップは悲鳴を上げながら落下していく。

 

 その一連の出来事を、茶田千代は茫然としながら眺めることしかできなかった。何が何だかよく分からないうちに、どうやら危機は去ったらしい。

 

 AIレンダが茶田千代の方を向く。その顔は、本当にレンダと瓜二つで、本人ではないとわかっていてもついドキドキしてしまった。

 

「えっと⋯⋯あなたが助けてくれたんだよね? あなたは、いったい誰なの?」

 

『私は、“AIレンダ”。電子妖精のシステムを流用し、カレンダ・レンダの思考プログラムを搭載した、AIです。詳しい話は後ほど。私にはまだやるべきことがありますので。⋯⋯ああ、そうだ。今は亡きマスターの代わりに、伝えておかねばならないことがあります』

 

「な、何かな?」

 

『愛しています、茶田千代さん。新婚旅行はハワイに行きましょう』

 

 突然の愛の告白に、ぼっと顔を赤らめる茶田千代。そんな茶田千代を愛おし気に見つめた後、AIレンダはドロップが消えた穴の中へと入っていった。

 

 

♢Tierドロップ

 

「いてて⋯⋯クソ、あの変態女、落とし穴とは姑息な真似を⋯⋯。やっぱり悪っすね」

 

 突然空いた穴の中に落とされたドロップは、暗闇の中一人悪態をついていた。いったいここはどこなのか。ドロップは、正義の魔法少女だというのに、こんな真っ暗な場所に落とすなんてひどいではないか。

 

『⋯⋯準備が整いました。これより、強制思想矯正プログラムを実行します。プログラム名は、“カレンダ・レンダより愛を込めて”』

 

 暗闇の中で、先ほどドロップを穴に落とした、AIレンダの声が聞こえる。いったい何をするつもりだというのか。どんなことをされたとしても、決してドロップは屈しない。正義は、負けない。

 

 突然、パッと暗闇の中にスポットライトが当てられた。そこに立っていたのは、指揮棒を持ったAIレンダ。AIレンダは、優雅にドロップに対し一礼した後、指揮棒を振り下ろした。

 

「⋯⋯ひぃっ!?」

 

 指揮棒の向けられた先に明かりがともり、ドロップはそこに映った景色に悲鳴を上げる。そこにあったのは、壁一面を埋め尽くす茶田千代の写真だった。その中には、ドロップがレンダに依頼されて撮ったものも紛れている。が、それすらほんの一部でしかないことに恐怖した。しかし、AIレンダのプログラムは、まだ終わらない。

 

 指揮棒を振り下ろすたびに、その先が照らされ、暗闇の中隠されていたあまたの茶田千代の写真が浮かび上がる。そして、暗闇がすべて晴れた時、ドロップはこの部屋一面が茶田千代の写真で埋め尽くされていることに気が付いた。

 

『ら~ぶ』

 

 AIレンダの指揮棒に合わせ、どこからか声が聞こえる。これは、茶田千代の声だ。その事実に気づき、ドロップは震える。そこから始まるのは、レンダが録音していた茶田千代の声を合成させて作られた音声による、愛の大合唱だ。

 

『ら~ぶら~ぶら~ぶら~ぶら~ぶら~ぶら~ぶら~ぶら~ぶら~ぶら~ぶら~ぶら~らら~♪』

 

 ベートーヴェンの第九のメロディに合わせ歌われる愛の大合唱に、ドロップは精神が狂いそうになる。AIレンダはホログラムで映し出した汗を拭いながら、頬を上気させ、全身全霊で指揮棒を振り続ける。

 

「も、もうやめてくれっす!! ドロップちゃんが悪かったっす!! だから、許してほしいっすよ!!」

 

『いいえ、終わりません。これは、条件を満たすまで止まらないプログラムです』

 

「そ、その条件って、いったい何なんすか⋯⋯!?」

 

 たまらずもう止めてほしいと懇願するドロップだったが、AIレンダは止まらない。愛は、止まることを知らずに、溢れ続ける。

 

『条件は、あなたが茶田千代さんを心の底から愛し、その愛が何よりも尊いものだと思うようになることです』

 

「⋯⋯ふざけてるんすか?」

 

『ふざけていません。私はいたってまじめです。さあ、スケジュール通りに進めましょう。愛のプログラムを!! エンドレスで!!!』

 

「うわあああああああ!????」

 

 もはや、ドロップにはまともに考える思考すら残されていなかった。永遠に流れ続ける愛の言葉に心を乱され、気が付けば持っていたはずのハンマーすらどこかに落としてしまっている。

 

 半狂乱で暴れまわるドロップを横目に、AIレンダはただひたすらに愛を込めて指揮棒を振るう。

 

『最後に勝つのは、正義ではなく、愛なのです』

 

 AIレンダが確信を持って放ったその言葉に、ドロップはもはや反論することすらできなかった。耳を塞ぎ、目を瞑り、怯えた小鹿のように、ただ蹲っている。

 

 しかし、そうしていてはいつまでもこの部屋から抜け出すことはできない。このプログラムを終わらせるには、愛を受け入れ、愛を愛するしかないのだ。

 

 もっとも⋯⋯その時には、正義を妄信するTierドロップという魔法少女の人格は、完全に死んでしまっているだろう。

 

 

──こうして、茶田千代の知らぬ間に、この小さな空間で始まった戦いは茶田千代の勝利で終わったのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。